石野純也のモバイル通信SE
第99回
ドコモのネットワークはなぜ遅かったのか 体制確立で反転への手応え
2026年5月27日 08:20
コロナ禍が明けた23年ごろからネットワーク品質の低下に苦しんでいるドコモだが、反転攻勢に向け、対策を強化している。
周波数の帯域幅が広いSub 6の基地局数を増加させるとともに、“面”で5Gを広げるため、700MHz帯の5Gエリアも拡大。さらに、5Gだけで通信を完結させる5G SA対応エリアも増やしており、5月27日からは、キャンペーンで無料にしていた5G SAオプションも正式に無料化した。
通信速度は着実に改善 “遅延”も減少
このネットワーク改善を率いているのが、ドコモ 執行役員 ネットワーク本部長を務める引馬章裕氏だ。引馬氏は、「まだまだ都心部や人が集まる場所では使いづらいことがあり、ご迷惑をおかけしているので真摯に対応しなければいけない」としながら、改善策が効果を発揮し始めていると語る。
例えば、主要都市中心部で100Mbpsを超えている箇所は、25年9月に223カ所だったのに対し、26年3月には243カ所に拡大。主要鉄道の動線でも、快適に利用できる時間が増えている。さらに、遅延の時間も「年間を通してしっかり下がっている」という。
強みや弱みの分析もより精密化した。例えば、ネットワークの容量は単純な基地局数ではなく、「セクター数(1つの基地局から何方向に向けて電波を出すか)やどれぐらいの周波数幅で吹いているかの掛け算で決まる」。他社の容量も推定した結果、「主要都府県では、A社(KDDIとみられる)よりも設備容量が少なく、しっかり設備を打っていかないとご満足いただける体感にならないと分析している」という。
4Gから転用した周波数帯が少なく、5Gの面展開が十分でないのもドコモの弱みだった。Sub 6のエリアが点在しているだけだと、「RAT(無線の世代)が切り替わり(通信に遅延が発生して)不満を感じる」。これを解決するため、「Sub 6と同時に700MHz帯もしっかり増やし、局数、設備容量ともに15%増えている」という。
周波数自体は4Gからの転用だが、700MHzの5G基地局として新設するものも多いという。引馬氏によると、「Sub 6のあるところに700MHz帯を新設して、セット展開を進めている」という。Sub 6の基地局新設は、「昨年度の下期から工事できる体制が整った」ため、スピードが上がっている。ここに、700MHz帯も加えることで、面展開も加速させていく方針だ。
必要だった「工事体制」
ここにきて、基地局設置やネットワーク改善のペースが上がっているのは、この工事体制の確立が大きいという。ネットワークへの不満が高まってから改善までに3年以上の時間がかかったのも、「一番は工事体制を整えることに時間がかかった」からだ。
これには、コロナ禍での需要の読み違えもあった。
「コロナもあり、トラフィックが下がってしまったことで、下がってしまったエリアでは基地局の優先順位を組み替えていた。コロナが終わると、過去と同じかそれ以上に都市部に人が集まるようになった。我々もモードチェンジ、ギアチェンジしようとしたが、労働需要などもあり、やりたいぶんだけのリソースを通建会社(通信建設会社)側で集めるのも苦労した。育成期間もあり、体制が整わなかったが、やっと昨年の下期からそれが整ってきた」
これまでは、基地局設置後のパラメーター調整などのチューニングに時間がかかっていたが、ここには、SON(Self-Organizing Network)を導入して、設定を自動化していく。SONは、「昨年11月から導入して、一部エリアで導入している」(同)といい、徐々に広げていく構えだ。単にチューニングを自動化できるだけでなく、時間帯に応じた細やかな設定も可能になるという。
「これまでは県単位ぐらいで、一気にパラメーターを変えたりチューニングしたりしていたが、SONが入るとそれが自動でできるようになる。また、混んでいる時間帯には混んでいる時間帯向けの、空き始めたら空いている時のチューニングもできるようになる。面的に期限を決めて人がやる改善を、ピンポイントでタイムリーに改善する世界に移行していきたい」
また、3月には3Gのサービスが終了したのに伴い、800MHz帯を5MHz幅増やし、4Gのキャパシティを増強した。これによって、都市部でも屋内などに浸透する電波の帯域が増え、通信がしやすくなった。同じく3Gで使っていた2GHzも、屋外では「docomo Starlink Direct」に、屋内では5GHz幅の増強に振り分け、「ビルの中の使いづらいところが改善している」という。
800MHz帯のフルLTE化は現在進行中。早々に転換できたのは、「設定変更だけでできるところ」(ネットワーク本部 エリアマネジメント部長 桂智一氏)に限定される。一部の基地局では、「カードの追加などのハードウェア対策が必要になる」が、7月までには「足元で必要な部分をやりきりたい」(桂氏)という。
過渡期の課題となる“遅延”への取り組み
もっとも、現在は改善の過渡期とも言える状況。新たに基地局を設置したり、パラメーターを変更したりすることで、これまでとは別の問題も起こっている。遅延が大きくなる場所があるのは、その一例だ。
実際、筆者もドコモ回線で遅延が大きすぎて、サービスの利用に支障をきたしたことがあった。速度は出ている一方で、細かいデータをレスポンスよく受信できないため、アプリによってはアイコンが読み込まれなかったり、画像が表示されるまでに時間がかかったりした。
スループットは出ているため、大きなファイルをダウンロードするような場合には速いのかもしれないが、細かくデータを読み込もうとすると、遅いように感じてしまう。アプリによっては遅延が大きすぎてタイムアウトすることもあり、人によっては“つながりづらい”と感じるかもしれない。引馬氏も、「過渡期であることは認識している」としながら、次のように話す。
「5Gの基地局を打っていて、700MHzの転用も進めているので、まだチューニングし切れていない部分があるという認識。そのような事象は経験しているので、何が原因かを特定していかなければならない」
執行役員 ネットワーク本部 無線アクセスデザイン部長の増田昌史氏も続ける。
「有線と無線、それぞれを最適化する必要がある。どこを通るのかで大きく(遅延が)変わる。無線も、再送がかかるとそれがとたんに遅延になる。今はNSA(Non-Standalone)なのでNR(5G)とLTE側の待ち合わせが発生する状況で、ここのチューニングも大事になる。ここにデータを取って分析しながらになる。これを改善すれば一気によくなるというより、積み重ねが大事になる」
先に挙げた、SONを浸透させていくことも、遅延の解消につながる可能性があるという。
「たくさん人がいる状況では(通信そのものではなく、接続などを制御する)制御チャネルを多めに用意するといったことができるようになる。そうすると、データ通信にリソースを割り当てられないのでスループットは落ちるが、混雑状況によってチャネルの使い方を動的に変えるのが効く。こういったことに取り組んで、改善していく」(増田氏)
もう1つは、700MHz帯のエリアを拡大した結果、そこにのみつながってしまうケースがあるということだ。この状況だと、帯域幅は4Gと変わっていないため、5Gになっても十分な速度が出ない。執行役員でネットワーク本部 ネットワーク部長を務める西島英記氏も、「いかに空いているときに700MHz帯につなげてSA通信させるかが重要になるが、やみくもにつなげて速度が出ないのは本末転倒」だと話す。
こうした問題が起きないよう、「Sub 6と700MHz帯の振り分けの制御も、より高度化していきたい」という。機能としてはすでに始まっているほか、「Sub 6自体のエリアがどんどん広がっていくことで、改善されていく」可能性もあるという。
ペースが上がり始めたドコモのネットワーク改善の取り組みだが、ネットワークは目に見えないだけに、ユーザーに実感してもらうまでには時間がかかる。プロモーションを強化するのはもちろん、5G SAのエリア化目標など、比較する際に分かりやすい指標も必要になってくるかもしれない。











