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バスの「乗客置き去り」は防げるか フルフラット・XRなど最新バスを見てきた
2025年11月5日 09:00
路線バスに携わる各業界のトレンドがわかる「第11回 バステクin首都圏」が、東京都・海の森水上競技場で開催された。
最新のバス車両だけでなく、社会問題となっている「乗客置き去り」を防止する装置や、いま話題の「180度横になって倒せる」フルフラットタイプの寝台夜行バスの展示もあった。
街をふつうに走っているだけに見えるバスも、界隈では人手不足や過重労働などに悩まされている。ここにテクノロジーを導入すれば、どんな課題解決ができるのか? そんなヒントを見つけに、さっそく「バステク」に潜入してみよう。
今回の目玉は「フルフラット寝台バス」「XR観光バス」
高知駅前観光 フルフラット夜行バス
日本初の「フルフラット夜行バス」が、12月に本格運行を開始する。130~140度程度しか座席が倒れない普通の夜行バスと違って、180度まで倒して寝転がることができるのだ。
開発した高知駅前観光は高知県を拠点とする、比較的小さなバス会社だ。これまで高知~東京間の夜行バスを運行してきたものの、普通の座席では熟睡できないという声も多く、中国で実用化されていた寝台夜行バスをモデルに、長らく「寝台夜行バス」の開発を進めてきたという。
高知駅前観光では3月から半年間の試験運行を行ない、要望に応じた改善やUSB電源の設置などを行なったうえで、12月から愛称「FLATONーフラットン-」の導入と、本格運行を開始するという。
同社では、通常の夜行バスからこの「寝台夜行バス」に座席を積み替える形で、外販も考えている。いま首都圏ではホテル代が高騰しており、数千円内で済む「フルフラット夜行バス」が地域によっては導入が進むかもしれない。当日はブースを訪れる方も多く見られており、これからの各社の動向に要注目だ。
トヨタ紡織 XRバス
10月に閉幕した大阪・関西万博は、多くのインバウンド観光客が訪れた。初日は万博、2日目はUSJ、その次は? と組まれるプランのために、鉄道・バス・船などで多くの観光周遊の手段が、大阪で誕生した。そのなかから、今回のバステクに登場したのは、臨場感あふれる「XRバス」だ。
このバスは大阪市内の観光地を巡る周遊バスとして7月から運行され、10月29日の運行終了後に大阪~東京間を走り、海の森公園に到着したという。
バスの窓には、外の景色もスペシャルな映像も眺めることができるディスプレイが設置されている。いちばん前にはAIによって動くポリゴン造形の「DJ TEMPURA」がノリ良く喋り、車内のお客さんに話しかけるなど、こまめなサービスを展開する。
たまには大阪弁を教えてくれたり、さんざんトークしたあとに「まあ、知らんけど」で雑に締めることも。どうやらAIによって、引いてオトす大阪ノリを覚えているようだ。こうして、景色だけだと単調になりがちな車内を盛り上げ、かつ一人一人へのこまめな接客を実現している。また座席も重低音の響きを感じられるようになっており、ただ座っているだけでない、没入感たっぷりなツアーを体験できるバスといえるだろう。
終了後に関係者の方から聞いたところによると、「使用している車両はトヨタ・コースター」とのこと。中古車も多く、車体価格もお手頃なマイクロバスで、インバウンド観光客を楽しませて高単価をいただける……究めれば、なかなかの商機ではないだろうか。
「安全検知」「置き去り防止」補助システム
高齢化と、大型二種免許保有者の減少により、路線バス運転手は「2030年には最大36,000人が不足する」といわれるほど、深刻な人材不足に直面している。各社とも待遇向上などに取り組むのはもちろんのこと、「運転手の負担軽減・働きやすさアップ」にも目を向けようとしている。
バステクで展示されている最新技術で、労働環境を改善できるかもしれない。そんな展示を見ていこう。
東海理化/川崎鶴見臨港バス バス乗客安全システム
路線バスを運行されている方に話を聞くと、「お客さんがなかなか座ってくれない」「詰めてくれず、注意すると怒り出す」という方は一定数いて、業務中のストレスの原因となっているという。
東海理化・川崎鶴見臨港バス・名古屋大学などで共同開発した「バス乗客安全システム」では、車内数カ所のカメラを活用したAIでの検知により、「奥の席が開いています」「走行中は席を立たないでください」などのアナウンスがあるという。バステクでは海の森エリアでの試験走行もあり、適切な危険防止アナウンスをこまめに行なっていた。運転手のストレス軽減には繋がるだろう。
このシステムはすでに川崎鶴見臨港バス・西東京バスで実用化している。ただし担当者によると「1台150万円程度」という費用がネックになっており、「全国各社で採用していただくことで、コストの軽減と将来的な値下がりに期待したい」ということだ。
レゾナント・システムズなど 「乗客置き去り」防止システム
路線バスの運行終了後、運転手が車内にいる乗客を見落としてしまい、翌朝に発見されたり、深夜の営業所に「閉じ込められたので開けてほしい」と電話がかかってきたり……こういった事象が全国で頻発している。
こういった置き去りを防止するシステムを、全国十数社が販売している。今回は「レゾナント・システムズ」「東海理化」「矢崎エナジーシステム」などの各社が展示を行なっていた。
置き去り防止システムは、22年9月に静岡県牧之原市の幼稚園送迎バスで起きた事故をきっかけに、「降車時確認式」「自動検知式」のガイドラインが設けられている。センサーで検知する「自動検知式」の方が便利にも見えるが、実際には誤作動などで運転側の手を煩わせることもあり、運転終了後に流れるアナウンス後に確認作業を行い、終了後に完了のボタン操作を行なう「降車時確認式」の方が多く普及しているのが現状で、バステクでも「降車時確認式」の展示が多く見られた。
担当者の話によると、バス会社の方でも「センサーに頼ると運転手が注意しなくなるから」といった理由で「降車時確認式」を採用するケースも多いという。
エバスペヒャー/十勝バス 運転席用スポットクーラー搭載バス
エバスペヒャー ミクニ クライメット コントロール システムズは、北海道・十勝バスとの協業で設置した「運転席のスポットクーラー」を、十勝バスの車両ごと持ち込んで展示した。
バスの運転席は、客席から離れた前方にあるため、クーラーの冷気が届かない。かつ、バス会社によっては折り返し時間はクーラーを使わない場合もあるようで、真夏の暑さ対策はバス運転手の課題となっていた。
そこで導入されたのが、同社のスポットクーラーだ。担当者によれば「バスはバッテリーが強く、3サイクル〜4サイクルの運用でも電圧への影響は大きくない」「夏に35℃程度の高温が7日間ほど続いた帯広でも、問題なく稼働した」そうだ。
現在では「名鉄バスではモニターで4台を導入済み、今年新車時に20台の量産装着予定、来年以降も継続購入の意向が示されている」とのこと。1台あたり部品代が50万〜60万円程度。後付けの場合は工程費も同程度かかるため、総コストが嵩むそうだ。
ただ、さるメーカーの新車導入時にオプションで導入の話が進められているようで、今後の期待は持てそうだ。
なお、今回クーラーを取り付けた十勝バスの車両は、東急バスで新造ののち「じょうてつバス」「十勝バス」と渡り歩いた車両であり、全国のバス会社が集う会場では、見学者に「まだ現役なの?」「ウチは廃車になったけど、大切にしてるんだね」と、スポットクーラーとは別の意味で高い人気を誇っていたようだ。「バステク」はたまに、こういったことがあるから面白い。
「古いバスも大切に」「EVバス専用タイヤで走行性能アップ」
リピート 需要が急増している「リビルトミッション」
リピートが手掛けている「リビルトミッション」は、部品の経年劣化などで動かなくなったミッションを外して新しい部品に交換し、またバスに戻すサービスだ。いわば「部品の劣化や油・煤を一掃して、綺麗にしてお返し」といったところだ。
これまでトラックなどでは多く行なわれてきたものの、バスに関してはまだまだ各社で行なわれているわけではない。
ただ、今はバスの新車も高く、かつ納期も数カ月かかることが珍しくない。一方で、地方のバス会社は、ミッションの不調などで走れないバス車体を多く抱えており、「注文して待たされるならリビルトで既存車両を何とか」という動きが徐々に出てきているのだという。なお、リビルトで済ませるなら、経費も新車より圧倒的に安い。問い合わせが増加するのも、ある意味必然だろう。
「CVTミッション」方式の車両は部品在庫も少なく、なかなか苦労する局面も多いのだとか。それでも、古いバスが多い沖縄から問い合わせが来るなど、今後の需要を確信しているという。
トーヨータイヤ EVバス専用タイヤ
「アジア金型産業フォーラム」が2021年9月に明らかにした内容によると「EVバスの重量は平均で約240~460kgも重い」とのこと。バッテリーの大型化などで重量化が進んだ結果、タイヤにかかる負担は大きくなり、摩耗も激しくなる。
こういった事象に対して、TOYO TIRES(トーヨータイヤ)では、EVバス用のタイヤを独自開発したという。タイヤの「転がり抵抗」を軽減するために特殊な技法がとられているようで、パッと見た目でもブロックの大きさや、溝の付き方が違う。
EVバスのための「耐摩耗性」と「低燃費性」は性能としては相反しており、製造時にゴムの原材料を液体状で均一に混合するなどの、新しい製法が採用されているそうだ。その分、一般的なバス用タイヤよりはお値段が高めなのが、今後の課題なのだという。
バステクは、首都圏を中心に各地で開催されている。車両そのものから細部に至るまでさまざまな展示を行っているので、見かけたら足を運んでみると面白い発見がある。ただし、業界関係者以外は入場受付書類を書かなければいけないので、その点は要注意だ。
展示物はすでに、EV車両メインからシステムや運行補助がメインになりつつある。この先どうトレンドが変わっていくのか、バス業界に要注目だ。


















