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ライブコマース苦戦の日本で「TikTok Shop」は成功するか
2025年7月4日 08:20
ショート動画プラットフォームのTikTokは、アプリ内でオンラインショッピングができる「TikTok Shop」を6月30日に日本国内で開始しました。2021年にインドネシアとイギリスで開始されたショッピング機能で、現在はアメリカ、スペイン、ブラジルなどの16カ国で展開しています。
TikTok Shopでは、「カート付きショート動画」や「LIVEコマース」がTikTokのおすすめフィードに表示され、ブランドやセラー、クリエイターがTikTokアプリ内のショッピング対応コンテンツを通じて直接販売できるようになります。動画以外にも、各ブランドのプロフィールページである「ショーケース」や、新たに設けられる「ショップタブ」からもユーザーは商品を閲覧可能。TikTokで商品と出会い、アプリ上で決済まで完結できるのが特徴です。
TikTokといえば“おすすめ”といえるほどレコメンデーション機能が発達していますが、TikTok Shopでも「セレンディピティ」(予期せぬ発見や偶然の幸運)による新たな商品と出会えることを魅力としており、「ディスカバリーEコマース」と位置づけています。
ライブコマース市場は海外では盛り上がっていますが、日本では苦戦している印象も強くあるでしょう。今回は、TikTok Shopの日本ローンチに向けた同社の取り組みや、日本市場でライブコマースに勝ち目はあるのかなどを考察していきます。
商品を発見できる「ディスカバリーEコマース」
日本での開始に伴い開催されたメディア向け事前ブリーフィングにおいて、TikTok Shop Japan ゼネラルマネージャー執行役員の邱開洲(Carlos Qiu)氏は「TikTok Shopは既存のソーシャルコマースと一線を画す“ディスカバリーEコマース”」と説明しました。
「ユーザーの興味関心、いいね、コメント、シェアなど複合的な要素を用いてコンテンツをおすすめするため、フォロワーの数や広告の配信に依存しない、よりパーソナライズされたショッピングが可能だ。“探していなかったが出会ってよかった”というような、新たな出会いの体験を提供する」(邱氏)
一般的なECサイトでは、認知拡大から比較検討にリーチするためにはメディアや広告など、様々な手段を使う必要があります。購買までたどり着く前に消費者が離脱してしまうケースも多いのです。しかし、TikTok Shopはアプリ内で認知拡大から購入まで完結するため、高いエンゲージメントとコンバージョンを見込めるとしています。
日本ローンチから数日経った今、すでにTikTok Shopを利用してセラーやクリエイターは盛んに商品を販売。商品を紹介するショート動画には、画面の下にカートのボタンがあり、タップするとそのまま購入画面に。決済はクレジットカードやコード決済の「PayPay」、コンビニ決済が利用できます。
実際にTikTok Shopのショッピング導線を見ると、その手軽さがわかります。すでに参入している美容家電メーカー「ヤーマン」の商品を例として見てみましょう。
ライブ配信機能「LIVE」においても、セラーやクリエイターがライブ配信で視聴者と会話しながら商品を販売しており、カートタグから購入もできます。「アフィリエイトプログラム」に参画しているクリエイターは、ショート動画とライブ配信で商品を紹介すると報酬が得られる仕組みです。
商品を販売する「セラー」が全世界で1,500万以上登録されています。日本国内で出店を決定している企業とブランドは、I-ne、アンカー・ジャパン、ウィゴー、KATE、SHOPLIST、日清食品、丸善ジュンク堂書店、ヤーマン、ユニリーバ・ジャパン、Yogibo、AIGLEなど。アンカー・ジャパンは、すでにショーケースとショップタブを設置して販売を行なっています。
さらに今回のローンチにあわせて、新たな広告ソリューション「GMV Max」も導入されます。従来の広告ではオーガニックと広告のトラフィックを結び付けられずにボトルネックとなっていましたが、GMV Maxはオーガニックと広告を含むすべてのトラフィックを統合しました。
広告制作、配信、予算調整を自動化することにより、商品が発見される機会を最大化。ショート動画コンテンツ向け「Product GMV Max」と、ライブ配信向け「LIVE GMV Max」の2商品は、7月中の展開を予定しています。
厳格な審査で18歳未満は販売・購入不可
ショート動画という認識が強いTikTokで商品を購入することに抵抗がある人もいるでしょう。邱氏は事前ブリーフィングにおいて、TikTok Shopの安全性について強調しました。
「TikTok Shopはすべての販売者を対象に厳格な審査を適用している。18歳未満のユーザーは販売、購入のいずれも不可としている。ポリシーや安全対策に関しても検討を続けているが、まだ足りないと思っており、今後も最優先で取り組んでいく」(邱氏)
販売商品においても、商品の掲載前後で知的財産(IP)および模倣品対策ポリシーに準拠して安全対策を講じています。また、人間と機械により、出店前から商品掲載後まで厳しい管理を行なうそうです。
海外の事例において、出店審査では2024年7月~12月の間に、要件を満たさない160万件を超えるセラーの登録を却下。また、商品掲載管理でも2024年上半期には5,000万点以上の商品掲載を却下しました。規約違反を行なったアカウントは累積で45万件を削除、9万点以上の商品を削除しています。クリエイターに関しても、契約違反した場合はEC機能を削除する措置を行なっており、これまで約70万のクリエイターが対象となっているそうです。
決済に関しては、3Dセキュア対応による本人認証を実施、支払い情報を出品者に提供しないなどの対策を行なっています。商品は30日以内の返品、返金に対応、人とデジタルによって365日24時間稼働のサポートを実施しています。
"TikTok売れ"はTikTok Shopでも起こるのか
TikTokが若年層に人気があるのは周知の事実でしょう。TikTokがマクロミルグループに依頼した調査「TikTok Socio-Economic Impact Report~日本における経済的・社会的影響~」によると、2025年3月に国内約1.8万人を対象に実施した調査では、全体の31.6%が直近1年以内にTikTokを利用したと回答。
もっとも多いのは、やはり若年層である15~19歳で73.2%、続いて20代で47.1%となっている。中高年層では30代が34.1%、40代が28.3%と、若年層よりは少ないとはいえ、約3割程度が利用している状況です。
視聴頻度では「ほぼ毎日」視聴している人がユーザー全体の61.5%にのぼることから、若年層をターゲットとした企業やブランドはもちろん、大人に訴求する場合でもTikTok Shopを視野に入れる価値は十分ありそうです。
TikTokによると、TikTok Shopで売れやすいカテゴリーというのは特にないそうです。どんなカテゴリーの商品でも売れる可能性があり、これまでのグローバルでの販売実績を見ると、TikTokでいいねやコメントが多いといったエンゲージメントが高いコンテンツの商品が、TikTok Shopでも売れやすい傾向があるとのこと。TikTokとTikTok Shopは相関関係にあり、TikTokで人気なコンテンツが、TikTok Shopでも発見されやすくなるというわけです。
日本では、2021年に「TikTok売れ」が注目され、1989年に刊行された小説がリバイバルヒットして増刷されたり、TikTokで流行した楽曲が大ヒットへと結びついた例が多々あります。
現在でも、TikTokで話題となった楽曲や商品などがトレンドとなり、ヒット商品になることは珍しくありません。TikTokでのプロモーションに注力している企業やブランドも多く、もはや改めて言及する必要がないほどです。
グローバルでのTikTok Shopの利用動向はどうでしょうか。NIQ/GfK Japanが世界23カ国で実施した調査によると、TikTok Shopを体験したユーザーの82%がTikTokの利用により、新しいブランドに出会ったと回答。他のSNSや動画プラットフォームよりも即座に購入する割合が48%高いという結果になっています。TikTokが提唱するディスカバリーEコマースは、海外ではすでに実現しているようです。
一方、日本ではライブコマースは他国に比べて今一つ浸透していないのが現状。そのなかで、韓国発のECモール「Qoo10」は、2024年2月にライブコマース専用の配信スタジオを渋谷にオープン。Qoo10の商品を紹介するライブショッピングを、渋谷のスタジオから毎日配信しています。
2025年3月のキャンペーンでは初日のライブショッピングにおいて販売件数7.3万件、流通額4.2億円をたたき出しています。日本の地盤が整ったのか、Qoo10のファン作りやキャンペーン施策の成功によるものかは二分するものではありませんが、「日本ではライブコマースはうまくいかない」と切り捨てるのはまだ早い状況です。
TikTokは、絶妙なパーソナライズとレコメンデーションで人々をショートムービーに夢中にさせ、他のプラットフォームにも類似機能を持たせるほどの影響力があります。日本のECでどのように成長していくのか、そしてグローバルで使われている「#TikTokMadeMeBuyIt”(TikTokを見て買っちゃった)」というようなハッシュタグが日本でも誕生するのか、今後が非常に楽しみです。