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カシオ初の機械式腕時計 誕生の背景 カギはブランドとの“共鳴”
2025年6月17日 08:30
カシオ計算機は、腕時計ブランド「EDIFICE」(エディフィス)の新作として、機械式ムーブメントを搭載する「EFK-100」シリーズ5機種を7月11日に発売する。
カシオが「機械式ムーブメント」を搭載する腕時計を発売するのはこれが初めて。そこで、機械式ムーブメントの採用に至った背景や新製品のコンセプトについて、カシオの開発担当者に話を聞いた。
対応していただいたのは、カシオ計算機 羽村技術センター 時計BU 商品企画部 第二企画室 室長の小島直氏。
クオーツ式でスタートしたカシオ
腕時計は1970年代まで、ゼンマイを動力源として歯車やテンプ(調速機構)を動かす、純粋なアナログ機構のみで構成される「機械式ムーブメント」で動くものだった。1969年、電池と水晶振動子、針を動かすモーターからなり、高い精度を誇る「クオーツ式ムーブメント」の腕時計がセイコーから発売され、その基本の特許技術が公開されたことで市場は大きく変化。世界中のメーカーがクオーツ式腕時計の市場に参入し、70~80年代にかけてコストも大幅に下がったことで、腕時計の普及が大きく進んだ。
その後、機械式ムーブメントを搭載する腕時計の多くは高級品としての道を歩んだが、現在も安価に製造されるムーブメントや製品は一定数存在している。電池や電子回路を用いず、純粋なアナログ機構だけで駆動する姿に魅力を見出す人も多い。
カシオ初の腕時計は、1974年に発売された「カシオトロン QW02」。クオーツ式ムーブメントを搭載した液晶デジタル表示の腕時計で、デジタルウォッチとして世界初のオートカレンダー機能を搭載したことも特徴だった。以来50年以上にわたり、クオーツ式ムーブメントの腕時計のみを手掛けてきたカシオが初めて、今回のEDIFICE「EFK-100」シリーズで機械式ムーブメントを採用する。
機械式とモータースポーツの“共鳴”
EDIFICEで機械式ムーブメントを採用する理由は、ブランドの世界観とマッチしている、という点が大きいという。
「カシオ計算機は、“ユーザー視点での価値”を重要視しています。EDIFICEでどういう価値を提供できるのかという点でも、モータースポーツというテーマを基本に、カーボン素材を用いたり、サスペンションをモチーフにしたり、Bluetooth対応で先進的な機能を提供したりしてきました。
そうした中、腕時計の内部がメカニカルで、歯車や針が動く様子は、“クルマに通じるもの”が表現できると考えました。EDIFICEのターゲット層や、モータースポーツをテーマにしているブランドの世界観とも共感するものだと思います」。
機械式ムーブメントの中でも規則的に反復運動を繰り返すテンプは、調速機構として精度を司る最重要パーツでもあることから、脈動する人間の心臓になぞらえられることもある。一方、モータースポーツにおいて今なお重要な位置を占めるエンジン(内燃機関)もまた、心臓の鼓動になぞらえて、人が感動をおぼえる原初的な要因になっているとする考えがある。EDIFICEがとらえたのは、機械式ムーブメントとクルマのエンジンのどちらもが、人と“鼓動”で共鳴している部分というわけだ。
機械式ムーブメントはカシオとして初めて扱う形となるほか、自社開発や自社製造ではないため、協力メーカーから情報提供などのサポートを受け、技術的な知見を蓄積していったという。
「社内で議論があったのは事実」というように、企画メンバーだけでなく会社にとっても機械式ムーブメントの採用は挑戦だが、「ブランドとマッチしていることや、“価値を届けられる”という点で、行こうとなりました」と、ゴーサインが出た背景も語られている。
機械式をEDIFICEラインナップのひとつに
今回発売される「EFK-100」シリーズは5機種で、外装やダイヤル素材の違いで49,500円~74,800円のバリエーションになっているものの、機械式ムーブメントの仕様は共通。5万円を切る価格帯は、機械式腕時計としては比較的安価、あるいはスタートラインと位置付けることができる。これは、国内だけでなくグローバル市場も意識したものになっているという。
「海外展開でメインになるのは、例えば欧州なら300ユーロ以下の価格帯です。メタル・アナログという仕様ですし、機械式でも競合は多く、価格帯は意識した部分です。EDIFICEは欧州やASEANが昔から好調なエリアです。現地の情報も加味しながら開発しています」。
50年以上もクオーツ式一筋だったカシオ。機械式ムーブメントの採用がこの製品限り終わってしまう可能性はあるのだろうか?
「これで終わりではないですよ。EDIFICEのターゲット層に、機械式が響くユーザーがいると思っていますし、しっかりと訴求していきたい。ポテンシャルは未知数ですが、機械式をEDIFICEのひとつのラインナップとして広げていきたいですね」。
ムーブメントの高性能化や、クロノグラフ(ストップウォッチ機能)搭載といった高機能化については「反応や評価を見ながら考えていきたいです」と、含みが持たされている格好だ。
一方、EDIFICE以外にも機械式ムーブメントを拡大していく方向については、「ブランドに必要かどうかも含めて考えていますし、現時点ではまだEDIFICEしか考えていません。まずはEDIFICEで広げられるかどうかです」と、ひとまず否定されている。
もっとも、今回の製品は、機械式ムーブメントの採用を大々的に打ち出しているわけではなく、これはカシオのスタンスを表しているポイントともいえる。
「機械式で購入してもらうというよりも、EDIFICEの世界観や、EDIFICE初のフォージドカーボンの採用といった点でも選んでもらいたいですね。カーボン加工のノウハウは強みでもありますし。時計好き、クルマ好きに親和性は高いと思いますから、そこはしっかりとアピールしていきたいです」。