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缶チューハイは「甘くない」が主流? 「氷結無糖」大ヒットの理由

2001年にキリンビールが発売した缶チューハイ「氷結」ブランドは、2008年に発売した「氷結ストロング」や「氷結ZERO」などさまざまな派生シリーズを生み出してきましたが、その中でも現在大ヒットしているのが2020年に発売した「氷結無糖」シリーズです。

糖類・甘味料を一切使用せず仕上げた氷結無糖シリーズは、2024年に過去最高の販売数量を更新。過去20年間に発売した同社のRTD(Ready to Drink……栓を開けてそのまま飲めるアルコール飲料)ブランド内において、最速で13億本を突破しています(2020年10月発売~2024年12月31日時点、350ml換算)。

RTD市場全体においても、商品名に「無糖」を冠した商品の構成比は、氷結無糖が発売された2020年は4%なのに対し、2024年は6倍となる24%まで拡大しています。

RTD市場全体においても、商品名に「無糖」を冠した商品の構成比は、氷結無糖が発売された2020年は4%なのに対し、2024年は6倍となる24%まで拡大(出典:キリン「無糖チューハイ大全」)

現在、氷結無糖は同社RTDブランドの中で売上No.1のシリーズとなっており、甘さがあるスタンダードな氷結よりも売上が高くなっています。

なぜ「無糖」市場は拡大したのか、そして「氷結無糖」が同社RTDブランドでトップになったのか、キリンビール マーケティング部 カテゴリー戦略担当の大澤和晃氏に聞きました。

キリンビール マーケティング部 カテゴリー戦略担当の大澤和晃氏

なぜ今まで「甘くない」がなかったのか

2020年9月の「氷結無糖」登場時は、「レモン Alc.7%」と「レモン Alc.4%」の2種類でスタート。現在はグレープフルーツやシークヮーサー、ウメなど、フレーバーを拡大しています。

近年はチューハイなどで「甘くない」ことを全面に押し出した製品も増えましたが、2020年以前は「無糖」をウリにした缶チューハイはあまりなかったのでしょうか。

「他社でも『甘くない』ことを訴求する商品はありましたし、氷結でも『氷結サワーレモン』などで『糖質50%オフで甘くない』といった打ち出し方はありました。フレーバーの一つとして甘くない商品も存在していたのですが、消費者にとっては分かりづらい状況だったかもしれません。一方で、飲料では「無糖」の商品の売れ行きが好調で、「無糖」自体の認知度は高まっており、市場機会はありました。お酒カテゴリーの中で、ある程度大きな投資をしてブランディングを強化したのは氷結無糖が最初ではないかと思います」(大澤氏)

現在の「氷結無糖」ラインナップ。価格はオープンで、実売価格は約140円/本

現在は商品名に「無糖」を冠した商品が増えており、氷結無糖もキリンのRTDブランド内で最速でとなる13億本を突破し、ユーザーから高く評価されています。氷結無糖の開発経緯について、大澤氏は以下のように話します。

「2001年の氷結発売時のチューハイブーム、その後のストロングチューハイブームを経て、徐々にお客様の生活の中に缶チューハイなどのRTDが入り込み始めました。食事に合わせる甘くないチューハイが欲しいというニーズは高まっていましたが、そのような場合にはハイボール系やストロング系を飲むといった選択がされていたようです。

相次ぐ新商品の発売によりRTD市場が成熟化していく中で、お客様の中で甘くないチューハイの期待が非常に大きくなり、そこで氷結無糖の開発に至りました。チューハイ市場が成熟してきたことで、お客様の潜在的なニーズがより明確に表れたという気がします」

RTDを飲まない層の分析をしたところ、3つの大きな障壁が見えてきたそうです。それが、「甘い」「食事に合わせにくい」「人工的」の3つ。

ここを解決することがさらにRTD市場が広がるためのキーポイントだと同社は考え、「それを真ん中から解決する商品が氷結無糖だった」と大澤氏は話します。

RTD市場推移

また、氷結無糖の発売を開始したのが、2020年10月と家飲み需要が高まっていた時期だったことや、酒税法改正のタイミングだったこともヒットの要因にあると大澤氏は振り返ります。

「発売当時の社会的背景も、氷結無糖の好調に寄与したと考えています。2020年10月には酒税法改正で新ジャンル(第三のビール)の税率が上がったことで、新ジャンルを飲んでいたビールユーザーが、新ジャンルの代わりのものを探していたというのもあります。コロナ禍なので家飲みや家での食事シーンが大事になったことで、いろいろなお酒を試すようになり、その時の選択肢の一つとして出たのでヒットしたのではないかと思っています」

種類市場推移。2020年10月の酒税法改正で新ジャンル(第三のビール)の税率が上がったことも、RTDの拡大につながっているという

爆発的ではなく「ジワ売れ」

2020年の氷結無糖発売時、最初から爆発的に売れたわけではないと大澤氏は振り返ります。

「氷結無糖の売れ方として面白いのは、発売時に爆発的に売れたというより、時間が経つにつれてだんだんと売上が伸びていったところです。おそらく「無糖」からの連想として、『味が薄いのではないか』、『果実の味が楽しめないのではないか』、『無糖だからアルコール感がきついのではないか』といったイメージも持たれたことが原因と考えています。しかし、実際に飲んだ方からの反応はとても良く、どんどん評判が広がっていって伸び続けたような売れ方でした。普通のチューハイと比べても、リピート率がとても高いですね」

2020年10月発売時のパッケージ

実際にリピートしている人からは、「どんな食事にも合う」「毎日飲める」といった声があるようです。

「氷結無糖シリーズはすっきりとした飲みやすさが特徴で、すべてが良いバランスで整っていることが評価されていると考えています。食事にも合わせやすいですし、一本で飲んでもおいしい。食事の内容や飲むシーンに合わせるといった小難しいことを考えずに、気軽に楽しむことができます。

いろいろな意味で生活になじみやすいというか、合わせやすいところがあるので、お客様に聞くといろいろなイメージを持たれています。氷結無糖をイメージするビジュアルを持ってきてくださいと言ったときに、空気や家族などの写真を持ってこられる方が多いんです。毎日あってほしいというか、一緒にいて苦じゃないというか、そんなイメージを持ってくれている方が多いです」(大澤氏)

最近は、飲食店でも氷結無糖レモンの取り扱いが増加。食事に合うという点から拡大が進み、「飲食店向けに業務用商材を卸しており、取扱い店舗数も増加中です。全国の飲食店で、年間約7,000万杯提供されています」と大澤氏は説明。

「甘くない」「食事に合わせやすい」といった点が受け入れられたという

アルコール度数ごとに果汁を調整

氷結無糖の人気の理由であるすっきりとした飲みやすさには、同社が味作りにこだわったことも大きく関係しています。どのような点にこだわって開発されたのでしょうか。

「日々の生活でお酒を楽しみたいという人に選んでいただけるよう、味作りとしては『1缶飲んだ後にまた飲みたくなるおいしさ』にかなりこだわって作っています。日常的に飲んでも飲みやすいし、飲み飽きないという味作りですね」(大澤氏)

また、氷結無糖は、フレーバーによって果汁の割合も細かく変更されています。「氷結無糖 レモン」では、アルコール度数4%が果汁2.7%、度数7%が果汁3.4%、度数9%が果汁2.3%と、果汁の割合が細かく違うのです。

「氷結無糖 レモン」はアルコール度数によって果汁の割合も異なります

果汁のパーセンテージを変えている狙いについて、大澤氏は以下のように解説。

「7%は食事に合わせることを意識しているので、いい意味でレモンが立ちすぎずに食事の邪魔をしない、むしろ食事の油っぽさを流してくれるようなキリッとしたレモン感を狙っています。お酒としての飲みごたえやアルコールの余韻は7%の方が強いので、トップにくるキリッとしたレモン感と、中盤、後半のお酒らしい余韻を感じられるのが7%のいいところです。4%はアルコール度数が低く気軽に楽しめる分、レモンのキュッと締まる酸味が感じられる果実感を高め、満足感が得られる味わいに仕上げています。

レモン果汁自体も全部同じものではなく、度数7%にはキリッとした味わいの果汁や、度数4%にはフレッシュなレモンの香りが感じられる果汁など、それぞれの商品にあった果汁を商品開発研究所の方で選定しています。お客様は甘くないだけじゃなくて、果実感も求めていることが見えていたので、そこのバランスをどう取るかが難しかったと聞いています。

しかも、糖類や人工甘味料を使用しない為、果汁の質にはこだわる必要がありました。7%ではアルコール感がどうしても出るので、そこを糖類を使わずにいいお酒の余韻を残すための味作りにかなり苦労したそうです」

RTD市場の拡大はストロング系から無糖へ

氷結無糖シリーズが出るまでは、RTD市場では(アルコール度数の高い)ストロング系が人気だった印象があります。氷結無糖とストロング系では、受け入れられ方にどのような違いがあるのでしょうか。

「ストロング系が流行った当時はデフレ真っ盛りで、コスパ良く酔いたいというニーズが強かった時期でした。当社も『氷結ストロング』が非常に売れており、様々なフレーバーを展開しておりましたが、一方で競合と同質化しやすいという課題もありました。」

その点で、氷結無糖は余計なものが入ってないシンプルさが、ブランド独自の強みとして形成されつつあります。お客様の中には、チューハイの「人工的」なイメージを忌避する方もいて、人工甘味料など人工的なものをなるべく体に入れたくないというニーズからすると、余計な甘さを加えず、果実の味が素直に感じられるので、氷結無糖はお客様への新提案だったのではないかと思います」(大澤氏)

また、2024年に厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を出したこともあり、度数の高い商品はお店のPOP(店頭広告)を作らないなど店頭での扱いも変わってきているようです。

ブランドイメージの源泉は氷結のレギュラー品

現在、氷結ブランドの売上は無糖シリーズが主流に。今後、無糖をメインに押し出していくのかについては、「氷結ブランド全体のイメージを作るのは、氷結のレギュラー品であることは変わらない」と大澤氏は話します。

「お店の棚を見ると、他社メーカーも含めて甘くないお酒の種類がかなり増えています。無糖のニーズが顕在化し、販売ボリュームとしても拡大している証拠なのだと考えます。ただ、『氷結』というとお客様が思い浮かべるのは、いわゆるブルー×シルバーの氷結のレギュラーシリーズなので、レギュラーシリーズを中心としたブランド全体のイメージアップは継続していくつもりです。

レギュラー品の氷結のイメージが良くなれば氷結無糖シリーズにも恩恵があり、逆に氷結無糖の販売好調が継続、周知されれば、『氷結って最近売れているらしいね』と言われるようになり、相乗効果が拡大します。そのために、レギュラーシリーズではブランド全体のイメージアップを実現し、無糖シリーズでは販売を加速させ、今売れているイメージを作る。この両輪で、氷結全体をさらに魅力化していきたいと思います」

氷結ブランドの棲み分け

チューハイといえば氷結、というイメージを作り上げた元祖をブラッシュアップしつつ、勢いのある氷結無糖もさらなる展開を予定しているようです。3月には、期間限定商品として「氷結無糖 グリーンアップル ALC.7%」が発売されました。

「今後も新しいフレーバーを計画しています。まだ無糖を飲んだことがないお客様もたくさんいるので、そういう人でも『これなら飲んでみたい!』と思えるフレーバー展開を考えています。ぜひ楽しみにしていてください」(大澤氏)

3月に発売した期間限定商品「氷結無糖 グリーンアップル ALC.7%」
安蔵 靖志