トピック

“微アル”の狙いとは? アサヒビール「ビアリー」「ハイボリー」で新しいお酒文化

アサヒビールから、“微アルコール”ハイボール「アサヒ ハイボリー」が9月28日に発売されます。“微アルコール”ビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」に続く新商品ですが、そもそも“微アルコール”とは何なのか、そして誰のためのものなのか。アルコール市場で広がりつつある微アル(アルコールが微かに含まれていることを表す新しいカテゴリーの名称)について、アサヒビールにお話を伺いました。

今年の夏もなんだかんだで家飲みの日々でした。緊急事態宣言下では飲食店の酒類提供はありませんし、感染の可能性を考えたら自宅で飲むしかありません。

そんなやむなく家飲み派の皆さん、ここのところ“微アル”という言葉を聞いたことありませんか。なんでもここ数年、若い世代を中心に低アルコールドリンクが好まれているそうで、たしかにアルコール度数3%前後の商品のバリエーションが増えています。そんな中で登場した、さらに度数が低い0.5%の“微アル”について、アサヒビール 新価値創造推進部 次長 津田真里さんにいろいろ聞いてみました。

アサヒビール 新価値創造推進部 次長 津田真里さん(ハイボリー TVCM発表会より)

20〜30代の半数以上は「飲まない」という事実

微アルの企画は、どのような背景から生まれたものなのでしょうか。

「世界的なトレンドとして、グローバル市場でアルコール全体が伸び悩んでいる一方で、ロー・ノンアルコール市場が成長しています。欧米では低アルコールドリンクのバリエーションが豊富で、微アル商品も数多く販売されていますし、消費者は、気分やシーンで味はもちろんアルコール度数も選んでいて、お酒をあえて飲まない『ソバーキュリアス』と呼ばれる人たちも増えています。当社もこれまでの『飲める人にたくさん飲んでいただくビジネス』から『飲めない、飲まない人へアプローチするビジネス』に注力していく必要があると考えました」

同社の調査によれば、20〜30代のいわゆるミレニアル世代の半数以上がお酒を飲まない(飲めない・あえて飲まない)とのこと。20〜60代でも半数が飲まないという調査結果で、その数なんと約4,000万人。毎日ゴクゴク飲むわたくしにとっては意外な数字ですが、その総数はアサヒビールの視点からすれば、日々たくさん飲む人たち以上に「飲まない市場」は大きいというわけです。「ビアリー」を3月に発売した理由が少しずつわかってきました。

「もっと一般的な話をすると『とりあえずビール!』という文化がありますね。人によっては『ビールを飲みたくない……』と思っているかもしれません。または1杯目はビールに付き合い、2杯目からノンアルコールドリンクにすると飲み会が変な空気になるなんてこともあります。そのような風潮をビールメーカー自らが変えていかなければならない、と思っています」

確かに、「とりあえずビール」文化は飲みたくない人にとっては苦痛ですし、半数以上がお酒を飲まないという世代にとっては、従来の飲酒文化はなじまない気がします。

「世界的な話に戻せば、WHOが有害な飲酒を少なくとも10%削減する目標を設定したり、SDGsの健康分野でも目標のひとつに設定されるなど、アルコールを取り巻く環境は厳しいといえるでしょう。だからこそ、飲む人も飲まない人も体質や気分、シーンに合わせて適切なアルコール度数のお酒やノンアルコールドリンクを選べる時代が求められています。このような健康的な飲酒シーンを当社では『スマートドリンキング(スマドリ)』として提案しています」

この「スマートドリンキング」を推進すべく、4月にコーポレート・コミュニケーション部を立ち上げ、全社員がスマドリの理念を語れるように、社内から改革を進めているそうです。

スマドリ時代第1弾「ビアリー」のうまさの秘密

世界的にロー・ノンアルコールドリンクが求められている現在、アサヒビールの掲げるスマートドリンキングな商品第1弾の「ビアリー」は、果たしておいしいのでしょうか。結論としては、おいしいです。これまでやむなくノンアルコールビールを飲む機会が何度かありましたが、正直言いまして……やっぱりビールな感じを求めるには物足りなさがありました。しかし、ビアリーにはその違和感がなく、アルコール分0.5%でもしっかりした飲みごたえ。飲み口はほぼビールです。

「ノンアルコールビールは、大まかにいうと『ビール味の素』に炭酸を加えたドリンクです。この『ビール味』を決定するフレーバーの調合技術により、ノンアルコールビールもかなりビールに近いおいしさになっています。一方、ビアリーは『ビールからアルコールを抜く』のがポイントで、そこがノンアルコールビールとは根本的に異なります。『ビール風の味』を追求するのがノンアルコールビールなら、ビアリーは、まずはビールをつくり、そこからアルコールを抜く。元々がビールだからこそ、その深い味わいを感じていただけるのだと思います」

ビアリーはビール味ソフトドリンクにあらず。あくまでもビールの系譜を継ぐものなのです。ノンアルとはまた違う、微アルカテゴリーを担うビアリーの本気さを感じられます。ここで疑問なのが「アルコールを抜く」ということ。どういった製法なのでしょうか。

「脱アルコール製法として、独自の低温蒸留技術を採用しました。アルコールは水より沸点が低いので蒸留によって取り出すことができますが、急速に加熱するとビールのおいしさのもととなる香気成分が飛んでしまいます。そうならないよう、蒸留温度を低温にしてゆっくりじっくり蒸留することで、ビールの香気成分をなるべく失わないようにアルコールを抜いています」

大切なのは、ビールの香り。低温蒸留技術を駆使しても、多少は香気成分が飛んでしまうため、アルコールを抜く前のビールは「濃い目」に調整されているそう。

味わいとしてはコクを重視していて、スーパードライとは真逆の方向性。微アルであっても満足感を得られるよう、深い味わいを求めたそうです。狙いとしては「“微アルにしてはうまいね”ではなく“すごくうまいけど微アルなんだね“と言われる」(津田さん)商品です。従来のビール党が驚くような味わいが、ビアリーの魅力といえるでしょう。

ちなみにビアリー購買層の約23%が20〜30代だそう。半数以上がお酒を飲まないというミレニアル世代も、そのおいしさに気づいているようです。

「ビアリー 香るクラフト」に「ハイボリー」。微アル続々登場

6月には微アル第2弾の「ビアリー 香るクラフト」も登場しました。こちらはフルーティーさを感じられる逸品。爽やかかつ複雑な香りは、先発ビアリーとはまた一味違うおいしさがあります。

そして、さらに第3弾も9月28日に登場。ビールテイストではなく微アルのハイボールです。その名もアルコール分0.5%の「ハイボリー」とアルコール分3%の「ハイボリー 3%」。

「微アルカテゴリーの拡充に、人気のハイボールを投入するのは自然というか王道かもしれません。食事とともにハイボールを楽しむのは今や当たり前ですし、微アルのハイボールならランチにも合わせられます。既存のハイボール缶はアルコール度数が5〜9%のものが多く、ハイボールは好きだけれど、アルコール度数は低めで、といったニーズに応える商品がありませんでした」

ハイボリーを実際に飲んでみると、微アルなのにしっかりとした飲みごたえがあることに驚きです。スモーキー感がハンパありません。本格的な香りに、微アルでありながら酔いそうな雰囲気さえ感じます。

「ウイスキーの魅力はスモーキーな香りにあると思っています。ニッカウヰスキーのブレンダーが厳選した稀少なヘビーピートモルト原酒をキーモルトに用い、0.5%と3%の度数に合わせて最適な比率でブレンドしています」

津田さんはビアリーとハイボリーに共通する考え方として「お酒を飲む人が認めるクオリティ」を挙げています。微アルドリンクは、飲めない人、飲まない人も一緒に楽しめる、すなわち、“飲む人”の心をつかむ味でなければ定着しないという考え方です。ビアリーの「脱アルコール製法」や、ハイボリーのスコッチウイスキーを感じさせる「スモーキーフレーバー」は、飲む人も飲まない人も満足させるおいしさになっているのです。

アルコール3.5%以下を全商品の20%に拡大して選ぶ楽しさを

微アルとはいえ、お酒を飲む人であっても味わいに満足できれば求めるようになります。事実、「ビールを買う人は『ビアリー』も一緒に買うことが多い」というアサヒビールの調査結果が出ています。つまり日常的な飲酒習慣がある人でも「翌日に影響しない」「家事をしながらでも飲める」「今日はちょっとだけ飲みたい」といったそれぞれのシーン、ニーズがあることがわかりました。

「世界的な風潮、ミレニアル世代の嗜好といった微アル需要があると同時に、お酒を嗜む人であっても、シーンや体調、健康意識によって、微アルを選ぶようになってきているのだと思います。その意識はコロナ禍により、自分のペースでお酒を楽しむようになったことが一因かもしれません。飲む人も、飲めない人も、飲まない人も楽しめるスマートドリンキングをさらに推し進めるため、当社では2025年までにアルコール度数3.5%以下の商品およびノンアルコール商品を全商品の20%にまで拡充します」

例えば飲食店でビールやウイスキー、ワインに日本酒などがそれぞれの銘柄で選べるように、好みに応じたアルコール度数のお酒を注文できるのが、スマートドリンキング。コロナ禍という逆境ではありますが、すでに全国5,000の飲食店が缶ビアリーを導入しているだけでなく、瓶ビアリー(小瓶)も9月14日に登場するなど、外食シーンにおいても微アルを積極的に推し進めていく姿勢をアサヒビールは明らかにしています。

「社内から微アル改革を」というお話がありましたが、アサヒビールの社員は当然お酒好きが多く、実は最初は微アルの企画に対してピンと来ないという意見も多かったそう。それでもスマートドリンキングを掲げて社内から意識を変えていき、実際にできた商品により「スマドリ、いいじゃないか」となったといいます。常日頃からお酒と真剣に向き合っている人たちを変えるところから始まった微アルが、日本のこれまでのアルコール文化を変えて、誰もが自分らしく飲んで楽しい社会を目指す、その牽引役となりそうです。