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国内最強連合の誕生。ヤフー×LINEのシナジーとスーパーアプリ

ヤフーとLINEの経営統合が正式発表された。売上高の単純合計で約1.2兆円となる日本を代表するネット企業同士の統合するというインパクトは大きいが、まだ「経営統合する方針が決まった」という段階で、わからないことが多い。統合後の姿が見えてくるのは、2020年10月の経営統合完了後となりそうだ。

ヤフー親会社のZホールディングス(ZHD)とLINEによる記者会見や質疑応答からは、両社の狙いが一致する部分、異なる部分なども見えてきた。経営統合の狙いや戦略についてまとめた。

ヤフー×LINE経営統合は「グローバルテックジャイアントへの危機感」

なぜ統合? →GAFA対抗「第3極」の実現

まず、基本的な疑問。「どうして統合するのか? 」

その答えのひとつめは、GoogleやApple、Amazon、アリババなどの「グローバルテックジャイアント」への対抗だ。日本では圧倒的な存在感を有するヤフーとLINEの両社をもってしても、世界規模では遠く及ばない。両社の統合が完了したとしても、それらの一桁違う人員、投資規模だ。

それは以下のスライドからも一目瞭然だ。

LINEの出澤社長は、「この産業は人材、資本、データすべてが集まる。勝者が総取りする構図。強いところはもっと強くなる。(ZHDとLINEの)2社が一緒になっても、時価総額、利益、研究開発費は桁違いの差がある。これは、国力や文化の多様性に影響を及ぼす。その危機感を共有している」とした。

もうひとつは「日本の課題解決」。ZHD川邊社長は「テクノロジーで解決できる課題が日本には残されている。労働人口が減少するなか、ITを活用しきれていない」とし、その一例として「ヤフー防災」アプリに自治体のLINEアカウントを統合するといったアイデアを紹介。「日本に住む人に最高のユーザー体験。日本にフォーカスしたAIテックカンパニーを目指す」という。

海外展開については、「統合完了しないと具体的に話せないが、国内で支持を得るサービスを、アジアや世界に届けるのがLINEの基本戦略」(LINE出澤社長)とする。

両社の経営統合により、社員は約2万人、研究開発費は年間1,000億円規模となる。研究開発費は、AIに集中投資。全サービスの基盤として強化し、コミュニケーションやコマース、Fintech、広告などに展開。「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やBAT(Baidu、アリババ、テンセント)とは違う第三極を目指す」(川邊社長)という。

経営統合後のサービスは? シナジー強化と一部集約

経営統合後のヤフーとLINEのサービスはどうなるか?

詳細は、統合完了後まではわからない。ただし、国内最大のメディアサービス(ヤフー)と最大のコミュニケーションサービス(LINE)を組み合わせることで、広告、EC、Fintechなど、シナジーが見込まれる領域は強化されるはずだ。

両社の事業アセット(Zホールディングスのアナリスト説明会資料から)

ネット広告市場では、両社をあわせるとシェア3割となり、Yahoo! JAPANセールスプロモーションによる実店舗への購買誘導と、LINE公式アカウントの組み合わせによる集客・マーケティング活動の強化などが見込まれる。

ネット広告ではシェア3割に。LINE公式アカウントの活用

大きなシナジー効果を見込んでいるのはECだ。ヤフーは、ヤフーショッピング、PayPayモール、PayPayフリマ、ヤフオク!、アスクルなどのサービスを持つ一方で、LINEのEC規模は大きくない。LINEを使ったEC送客などでEC取扱高の拡大を狙う。メッセンジャーを持たないヤフーにとって、LINEという日本最大のコミュニケーションツールを持つ影響は大きい。

ECで大きなシナジーを見込む

また、Fintech事業においても基盤拡大による事業強化を目指す。ただしLINE Bankはまだ設立準備中など、事業化されていないものもある。具体的なシナジーは今後の統合交渉のなかで検討されていくと思われる。

Fintech事業の取り組み

一方、すでに大きな投資が行なわれているスマートフォン決済のPayPayとLINE Payはどうか?

答えは、「統合会社のスタート(2020年10月予定)まで現状維持」だ。それまでに大きな変更が行なわれる可能性は薄い。

ZHDの川邊社長は、「統合後からの検討事項だが、キャッシュレス化は進んでいるとはいえ、まだキャッシュ7割。残りの3割のキャッシュレスもほとんどクレジットカードで、次いでSuica、WAONなど。コード決済はまだ3~5%。この分野はスーパーアプリがパスポートになる。だからまだ切磋琢磨(競争)して伸ばし、取扱高を伸ばす段階」とコメントしており、当面はPayPay、LINE Payのそれぞれが個別に事業展開する。ただし、統合が近づくにつれ、投資やユーザー獲得施策などの変化は出てくるだろう。

なお、両社発表資料(経営統合に関する基本合意書の締結について)のP26には、ZHDとLINEのグループ間で重複するプロダクトとして、「決済、ニュースなどの統合や棲み分け」と記されている。PayPayとLINE Pay、Yahoo!ニュースとLINEニュースの棲み分けが検討課題になっていることは、秘密ではない。

統合後のプロダクト選定方法も決められており、統合会社には、取締役会の下部組織として「プロダクト委員会」を設置。新会社で展開するサービスやプロダクトについての意思決定を行なう。

プロダクト委員会の委員は、LINEの慎ジュンホCWO、出澤剛社長、舛田淳CSMO、黄仁埈取締役、朴イビンCTOと、ZHDの川邊健太郎社長、小澤隆生取締役 専務執行役員、宮澤弦常務執行役員、坂上亮介CFO、藤門千明CTO。両社5名ずつ代表が参加し、LINE CWOの慎ジュンホ氏がChief Product Officer(CPO)に就任。意見が割れた場合は慎CPOが決定する。

いずれにしろ、具体的なサービスの統合、継続、取捨選択などは、統合会社発足後となり、それまでは「お互い切磋琢磨していく」(出澤社長)とのこと

スーパーアプリ対応の温度感に違い? 国内最強のネット企業連合

この統合の大きな目標と言えるのが、ヤフー/ソフトバンクがいうところの「スーパーアプリ」だ。スーパーアプリは、「定番アプリ」を軸に、生活サービスやタクシーやEC、決済などのアプリを同じUI上に組み込み、使いやすくするものだ。詳しくは、西田宗千佳氏による記事で紹介している。

「スーパーアプリ」とはなにか。ヤフーとLINE経営統合の狙い

ヤフー/ZHDでは、「PayPay」をスーパアプリに育てる構想を、ここ数カ月アピールし、実際に送金やECなどに対応。さらに金融サービスや交通系サービスなどを強化していく方針だ。

PayPayのスーパーアプリ構想

一方、日本で毎日使われる「定番アプリ」の代表格が「LINE」。メッセージ以外に様々な機能をもつ「LINE」はもとより「スーパーアプリ」だということもできる。LINEの出澤社長も「古くは『スマートポータル』、いまは『LIFE on LINE』と、いまでいう『スーパーアップ』に取り組んできた」とし、すべてをLINE上で完結するという構想は以前からの方針と語っている。

ヤフー/ZHDの川邊社長は、GAFA対抗の主軸として、「LINEをスーパーアプリ化し、多くのサービスを揃えて、ユーザー体験を共通化する」と強調。また、「ヤフー防災」アプリに自治体のLINEアカウントを統合するなど、ヤフーのサービスに、強いユーザー接点をもつLINEを組み合わせることで、ヤフー/ZHDのサービスをより便利かつ高度化できるという考えを強調した。ヤフー側からみたLINE統合の価値はわかりやすく、「ヤフー/ZHDサービスのスーパーアプリ化に必要なピースこそLINE」という点は、会見でも何度も示された。

一方、LINE出澤社長は、統合後の具体的なサービスイメージには言及せず、「スーパーアプリ」という表現もしていない。「スーパーアップ的な」とは語ったが、LINE上で全てを実現する「LIFE on LINE」の戦略に大きな変更はなく、AI開発投資などをアピールしていた。

出澤社長が二度にわたり言及したのが、新サービスの創出への意欲。「LINEとライブドアの経営統合のときは、『LINE』という強いサービスができたことが、融合に役立った。組織的な手当だけでなく、新しいサービスこそシナジーを倍加させる。そういう新しい価値や成果にこだわっていく」とした。

両社をスーパーアプリ軸で見ていくと、どうしても強力なユーザー接点が欲しかったヤフー、ユーザー接点を活かすための開発基盤や投資体力が必要だったLINEと、両社の異なる思いがあるように見える。いずれにしろこの経営統合を両社が必要としていることは会見からも伺えた。

月間利用者数6,743万人のヤフー、月間8,200万人が利用するLINE。国内最強のネット事業者連合の実現に向けて動き出した。その全貌がわかるのはもう少し先になりそうだが、日本のインターネットの大きな変化となる。また、多くの産業のデジタル化にも影響を与えていくだろう。