鈴木淳也のPay Attention

第20回

ヤフーとLINEの経営統合が日本の決済市場にもたらす効果

既報の通り、総合ポータル「Yahoo! Japan」を展開するZホールディングス(ZHD)とLINEが経営統合に向けて最終調整に入ったと、日本経済新聞など複数のメディアが11月13日夜に報じている。同件について「当社が発表したものではない」(ソフトバンク広報)「LINE社から発表したものではなく、決定した事実はない」(LINE広報)と両社は否定しているものの、オンラインサービスを取り巻く状況は日本国内に留まらず、競争を通じて世界規模で大きな変革期に差し掛かっている。こうした状況を踏まえ、両社の提携、そして合併話が急速に進んだ可能性は否定できない。

ヤフーとLINEが経営統合と報道。「決定した事実はない」

日経新聞の報道によれば、ZHDの45%の株式を握るソフトバンクとLINEの73%の株式を握る韓国NAVERが50%ずつの出資比率で新会社を設立し、その子会社としてYahoo!ならびにLINEの株式100%を保有するZHDがぶら下がる形となる。現状でLINEのユーザー数は約8,000万人、Yahoo!は5,000万人で、双方合わせて1億人規模の巨大サービス企業が誕生する。両社は競合する分野も多数あるものの、互いに合わせることで個々の分野で業界最大規模に達するものも多く、業界再編につながると考えられている。

もし両社の合併が実現した場合、何が起こるのか。主に決済分野を中心に少し分析したい。

Zホールディングス 川邊健太郎社長
LINE 出澤剛社長

意外に難しい両社のビジネスモデル統合

こと決済サービスの面でいえば、両社の合併効果は比較的大きいとみられる。QRコードを使った決済サービスでは比較的早い時期での参入を達成したLINE Payだが、近年は加盟店の積極的な拡大よりも機能面での拡充を進めている。

もともと100万カ所導入を目標にしていたLINE Payは2018年末にこれを達成、以後はメルペイやNTTドコモと締結したMobile Payment Alliance(MoPA)に代表されるように、業界他社との横連携での拡大を目指す方向にシフトしたようだ。また2019年早期まではライバルだったPayPay対抗のため各種還元キャンペーンを仕掛けてきたが、こちらも以前に比べると落ち着いている。

最近は業界内アライアンス中心で加盟店開拓を進めていたLINE Pay。写真はLINE Conference 2019でのMoPAの紹介の模様

同社が近年決済分野で力を入れているのは、「ユーザー間の送金」「ミニプログラムを活用したアプリエコシステムの取り込み」「台湾、タイ、インドネシアなど海外拠点でのユーザー獲得とインバウンドを含むクロスボーダー決済」といったものだ。筆者のうがった見方ではあるが、機能面やユーザー数で先行の優位性があるうちに、純粋な体力勝負に巻き込まれないよう「スーパーアプリ」としての性格を強めようとしていたのではないか。

対するPayPayはソフトバンクという強力な資本をバックに大規模な営業活動を通じて急速に加盟店網を構築しており、LINE Payにユーザー数で接近しつつあるほか、こと地方や中小規模店舗でのキャッシュレス対応面で上回っている。当初の100億円キャンペーンのような派手なプロモーションは減っているものの、10月初旬時点で加盟店数が150万、ユーザー数が1,500万人で決済回数を順調に伸ばしている。また、これまでPayPayでは対応していなかった送金機能をスタートしたり、将来的にミニプログラムなどへの対応を含む「スーパーアプリ」への道筋を明確にしており、機能面でLINE Payと遜色ないものを目指している。

構図としては、機能面で先行するLINE PayをPayPayが追いかける形になっていたが、仮にYahoo! JapanとLINEが経営統合し、決済サービスについても何らかの対応が行なわれた場合、その姿はどのようなものになるのか。ユーザー規模の拡大や加盟店開拓の効率化、今後の新システムへの開発リソースの集中を考えれば2つのサービスの統合が望ましいが、仮に両者の統合が行なわれるとしても、その移行にはある程度の期間を要すると筆者は考える。

PayPayではサービスインの前段階から中国Alipayとの提携を前面に打ち出していた

例えば国外の決済サービス事業者との提携だけを見ても、中国Alipayと韓国KakaoPayで連合するPayPayと、中国WeChat Payと韓国NAVER Payで連合するLINE Payという形で綺麗に分かれており、この提携がどのように引き継がれるのかが気になる。

また大きいところでは、日本国内の加盟店が店頭に静的QRコードを掲示して利用者がスマートフォンアプリで読み取って決済を行なう「MPM」方式の場合、LINE Payでは前出MoPAや、NTTドコモが紹介して話題となった「クラウドペイ」、そして同社が12月から参加を予定している「JPQR」などの仕組みに参加する一方で、PayPayは基本的に独自の加盟店開拓を目指しており、この折り合いを今後どうつけていくのかが課題となる。

仮にLINE PayのユーザーにPayPayの静的QRコードの加盟店網を開放したとしても、逆のケースでは手数料率などの問題もあってPayPay側のメリットが薄い。ユーザーベースで勝るLINE Pay側に寄せていくのか、あるいは加盟店開拓のベースで広大なネットワークを築きつつあるPayPay側に寄せていくのか、判断が難しいところだが、そもそも将来的には手数料ビジネスを行なう予定だったLINE Payと、(手数料を徴収すると加盟店が離れる危険性が高いため)手数料以外のビジネスモデルを模索していたPayPayでは相性が悪い部分があり、なかなかに悩ましい。

「スーパーアプリ」の時代

ビジネスモデルの違いと諸外国の事業者との提携を踏まえたサービス統合では課題の多い両社だが、サービス最大の要である「アプリ」については、ともに「スーパーアプリ」の方向を目指していることもあり、開発リソースの集中がもたらす効果は大きいとみられる。前出のミニプログラムの提供に加え、LINEのもつ企業や小売店の「LINE公式アカウント」とチャット機能は、PayPayが描いていた戦略を補完することができる。

PayPayでは手数料引き上げてのビジネスモデル構築が難しいため、ユーザーがインストールしているPayPayアプリを接点として、小売店や企業らがユーザーに接触したり、さまざまなマーケティング上のキャンペーンを展開できるツールやサービスを販売することで事業化を目指している。小売店向けアプリとして「PayPay for Business」が今年2019年8月に提供開始されたが、現在はユーザーがアプリに表示させたQRコードを読み取って支払いする「CPM」方式の決済と売上管理の機能しかない。

おそらく、将来的にこのアプリを通じて各種の営業ツール群が提供されると考えられるが、その過程で「ユーザー向けPayPayへのチャット機能」「このチャット機能を使っての店舗公式アカウントからの接触やサポート」「プッシュ配信」「Yahoo!の広告ネットワークを使ったマーケティング機能」「CRMによる顧客管理機能」といったものを順次付与されていくと考える。広告配信ネットワークを除けば、これらツールの機能の多くはすでにLINE上で実装が行なわれており、これを取り込むことでPayPayのビジネスモデル実現のためのコストや手間が大幅に短縮される。

日本ではまだ馴染みが薄い印象だが、例えば米国ではFacebook MessengerやSMSなど、チャットのインターフェイスを使ったサポートやマーケティングは広く実施されている。

Appleも「Apple Pay」の利用強化にあたり、iMessengerのインターフェイスを使った小売店など企業のビジネスチャット導入を支援しており、音声電話と並んで顧客対話における重要なルートとなっている。あるいは、このチャットインターフェイスを通じてアプリの機能そのものを提供する事例もある。テキスト文字だけでなく、画像やボタンなどを交えた対話形式の“リッチ”な仕組みで簡易アプリを実装しようとする試みは「RCS(Rich Communication Service)」という形で標準化が進められており、日本では「+メッセージ」の名称で大手3携帯キャリアから提供が行なわれている。一部の定番アプリを除いてユーザーがあまりスマートフォンアプリを利用しなくなるなか、このチャットインターフェイスは新たなアプリストアのプラットフォームとして考えられている。

いまだ効果的なソリューションは登場しないものの、世界の携帯キャリアが取り組んでいる「RCS(Rich Communication Service)」。MWC Los Angeles 2019のセミナーにて

もともと、アプリ内アプリと呼べるミニプログラムの仕組みが中国でAlipayやWeChat Payを通じて利用が広まった理由に、「中小や新参事業者がユーザーに新規にスマホアプリを導入させるのはハードルが高いため、ほとんどのユーザーが利用しているメジャーアプリに相乗りする」という背景がある。

スーパーアプリとは、これ自体が一種のプラットフォームとして機能する仕組みであり、ミニプログラムを通じて多くの事業者が決済機能を含むスーパーアプリに実装された機能を利用できるものだ。ゆえに、LINEや、ソフトバンク傘下のYahoo!がPayPayアプリを通じてスーパーアプリを目指していたのも、来たるべき「日常使いされる1つの究極アプリ」が中心になる時代を見据えた動きだ。その両社が統合に向かうことで、この分野の日本での勝者が見えつつあるというのが現状だ。

中国の深センにある街の小さな食堂でも、AlipayやWeChat Payを使った最新のデジタルサービスが導入されている
テーブルにあるQRコードをAlipayまたはWeChat Payで読み込むとミニプログラムが起動する
ミニプログラムではメニューが参照でき、カウンターに行かずともテーブルでのオーダーから支払いまでが行なえる

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)