文具知新
なぜカッターの刃を折らないのか? 安全・安心のオルファ「ポケットポキ」
2025年8月20日 08:20
この世には、2種類の人間がいます。それはカッターナイフの刃を日常的に「折る人」と「折らない人」です。もしあなたが「折る人」ならば、この記事の大半はご存知の内容かもしれません。「折らない人」ならば、ぜひ今日から「折る人」になっていただきたいです。なぜカッターナイフの刃は折った方が良いのか? から、「刃が怖い」から折りたくても折れない人にオススメしたいアイテムまで、まとめてご紹介します。
カッターナイフの刃が折れるようになったワケ
そもそも、カッターナイフに折りスジとしての溝がついているのはなぜでしょうか。ことの起こりは、戦後まもなくの日本にさかのぼります。当時、紙を切る刃物として良く使われていたのは、カミソリの刃でした。
しかしむき出しの刃を持って作業するのは言うまでもなく危険ですし、紙を切るときは刃の先端のごくわずかな部分しか使いません。4つのカドが切れなくなったら残りの部分が無事でも捨てるほかなく、無駄も多かったのです。
その解決策を考えたのが、岡田良男さんです。当時、印刷会社に勤めていた弟から「もっと良いナイフはないものか」と相談を受けたことがきっかけでした。発想のヒントになったのは、「ガラスの破片」と「板チョコレート」です。
岡田さんは、路上の靴職人が靴底を削る刃物としてガラスの破片を使っていることを知っていました。切れ味が悪くなったら石でガラスを割り、新しい刃を作っていたのです。刃が鈍くなったら、新しい刃が出てくるようにすればいい。しかし、金属の刃はガラスほど簡単には割れません。
そこで思い出したのが、戦後アメリカ軍の兵隊が口にしていたチョコレートです。板チョコのように、あらかじめ折るためのスジを入れておけば、簡単に割って新しい刃を出すことができるのではないか? とひらめきました。
試行錯誤の末、1956年には試作品が完成。その後、実用新案(現在の特許)を取得し、大手メーカーに製造を依頼します。ところが、当時の常識にはない画期的なアイデアだっただけに、「刃物が折れちゃダメでしょ」とまったく相手にしてもらえません。紆余曲折を経て、やむなく自己資金での製造を開始しました。
1967年にはオルファ株式会社の前身となる岡田工業株式会社を設立。商品名「オルファ」もこの時に誕生しました。以来、オルファに代表される「折る刃式」がカッターナイフの標準仕様となっていったのです。
折れるのに折らない大人のなんと多いことか
それなのに、現代の我々ときたらどうでしょう。岡田さんがあんなに一生懸命に考えて苦労して作ってくれたのに、ちゃんとカッターナイフの刃を折って使っているでしょうか?
残念ながら、周りを見渡してみると「買ってから一度も折ったことがない」という人も少なくないのが現状です。封筒の糊や粘着テープの汚れがべったりついているのに無理やり使い続けている人、身に覚えがありませんか? そんな方はお願いですから今すぐ、刃を折ってください。
といいつつ、折らない、折りたくないという人の「だって怖いから嫌だ」という言い分も分からなくはないのです。カッターナイフのお尻には、たいてい刃を折るためのパーツが付いていますが、あれって何となく心許ないですよね。
ペンチなどの工具が手元にない時に使うことを想定した簡易的なものなので、そもそも持ちにくいし力が入れづらい。パキッと折った瞬間に刃がどこかに飛んでいってしまいそうで怖い。飛んでいった先が自分の顔だったら? あるいは、周りにいる人にケガをさせてしまったら? そう考えると、折る勇気が出ないのも仕方のないことかもしれません。
また、「折った後の刃をどうしたらいいんだ問題」もあると思います。さすがにそのまま捨てるわけにはいきませんので粘着テープや紙で包みますが、それでも何となく不安は残ります。また、不燃ゴミや金属ゴミはどこの自治体でも回収日が少ないのが常です。次の回収日まで保管しておくのも面倒ですし、いざ回収日がきても出し忘れること幾星霜。そうこうしているうちに家の中で行方不明になって、「そこいらに落ちているのをうっかり踏んづけて痛い思いをするのでは?」とハラハラする未来が見えるようです。
専用の「刃折器」があればポキッとするのも怖くない!
その不安、まったくもってごもっとも。刃を折るのが怖いのは、もはや人類の本能といっていいでしょう。そしてそんな当たり前のことに、折る刃式の開祖であるオルファが気づいていないはずはありません。実はオルファの製品ラインアップには、カッターナイフの刃を折るための専用器具、その名も「刃折器」がずらりと並んでいるのです。
各種ある刃折器の中でも、一般のご家庭にぴったりなのが「ポケットポキ」(オープン価格/市場価格:200円前後)です。大きさは手のひらに乗るくらいで、平たい円筒形をしています。
側面には黒いシャッターがあり、これをスライドして開けるとカッターナイフの刃にぴったり合う切れ込みが現れます。
ここに刃を差し込んでポキッとすれば、折れた先端は容器の中に落ちるので安全安心、という仕掛け。カッターナイフのお尻についている簡易的な刃折器よりも持ちやすく力もコントロールしやすいので、面白いようにポキポキ折れます。
廃棄するときはシャッターが開かないようにテープなどでとめて、自治体のルールに従って不燃ゴミや金属ゴミとしてそのまま出すだけ。オルファの刃折器の中では最も簡素なタイプですが、家庭用であれば必要十分。家族全員で使ったとしても、そうそう満杯になることはありません。一家にひとつ、備えておくことをおすすめします。
正しいメンテナンスは安全にもつながる
特に夏は、お子様の自由工作などでカッターナイフの使用が増える季節です。使用時に安全を見守るのと同時に、ぜひ道具の正しいメンテナンスについても教える機会にしていただきたいと思います。
カッターナイフの刃を折った直後は切れ味がアップするので怖いと感じることもあるかもしれません。でも実は、刃物はよく切れる方がむしろ安全なのです。
切れにくい刃物を無理に使うと、余計な力が入ったり、使うときの姿勢が乱れたりしがちです。そうすると、意図しない方向に刃先がぶれる、予想以上に勢いがついてしまうなど、ヒヤリとする場面につながりやすくなります。良く切れる刃物であれば、最小限の力で思い通りに動かすことができるので、かえって制御しやすく、想定外の「あ!」が起きにくくなるのです。
最後に、カッターナイフの刃はどれくらいの頻度で折れば良いのか。一概には言えませんが、工作などでまとまった作業をするなら、一息つくごとに折るぐらいでも折りすぎということはありません。とにかく、少しでも切れ味が悪くなったと感じたら、その瞬間に折るのが正解です。
どうでしょう。今までカッターナイフの刃を折ったことがない人は、今すぐ折りたくなったのではありませんか? なっていなかったとしても、今すぐ折ってください。生まれ変わった刃の切れ味のすばらしさに、間違いなく感動するはずです。
カッターナイフの刃は消耗品。それも、意外と鮮度が落ちやすい消耗品です。そのために折れるように工夫されているのです。だからこそ、全ての人が「折る人」になれますように。そう「祈る人」は私です。








