文具知新

進化系つけペン「hocoro」でボトルインクの日常使いが捗る

万年筆のインクといえば黒やブルーブラックが定番で、カラーインクは赤や青くらいしかなかった、なんて時代はもはや遠い過去の話。今や全国各地のご当地インク、様々な文具ショップが工夫を凝らして作るオリジナルインク、季節限定インクや、自分好みに作れるカスタマイズインクなどなど、この世の森羅万象でインクになっていない色はないのでは? と思うほどの多彩ぶりです。

立ち寄った先で好みの色に出会うと、つい手が伸びて買ってしまうのですが、問題はインクが増えるペースに対して消費が全く追いつかないこと。万年筆に入れてしまうとその分を使い切るまでにかなり時間がかかりますし、別のインクに替える際には内部をしっかり洗浄して乾かして、と手間がかかることを考えると、どうしても使うまでの心理的なハードルが高くなります。

そんなこともあって、近ごろ注目を集めているのがつけペンです。なんといっても、水でサッと洗い流して水分を拭き取るだけで、気軽にインクを使い分けられるのが最大のメリット。もちろんガラスペンでも良いのですが、やはりガラス製品の取り扱いには緊張感が伴います。その点、つけペンはペン立てにガサッと放り込んだり、ペンケースで持ち運んだりできる取りまわしやすさが魅力です。

つけペンには使いたくなる魅力がたくさん!

一定年齢以上であれば、昔マンガを描くのに使っていた! という方もいるかもしれません。でも、当時の印象として書き心地は決して良いとは言えないものでした。ところが、最近のつけペンはすごいんです。なかでも今回は、進化系つけペンの先駆けであるセーラー万年筆の「hocoro」(細字:1,485円など)をご紹介します。

「万年筆ペン先」のつけペン「hocoro」

hocoroの最大の特徴は、なんといっても「万年筆ペン先」であること。私が勝手に「進化系」と呼んでいる所以でもありますが、実際に万年筆で使用されているペン芯から金属のペン先だけを取り出してつけペン化しているのです。よく見れば、「細字」と「中字」のペン先には、万年筆と同じペンポイントもついています。

万年筆と同じペン先が採用されている

ペンポイントとは、ペン先についている玉のような部分です。摩耗に強い合金製で耐久性を高めるとともに、紙への当たりを滑らかにする役割もあり、万年筆の書き心地の良さを支える重要なパーツのひとつです。そのため、従来のつけペンと比較すると書き心地の違いは明らか。万年筆メーカーであるセーラー万年筆だからこそ作れるつけペンなのです。

進化系といっても、使い方は従来のつけペンと変わりません。ペン先をハート穴が隠れる程度までボトルインクに直接ひたし、余分なインクがあればボトルのフチで落とします。あとは普通に書くだけ。インクが足りなくなれば、都度ボトルにひたして補充します。使い終わったら水でインクを洗い流し、ティッシュや柔らかい布で水分を拭き取ればお手入れ完了です。

ペン先が収納できるので、ペン立てやペンケースにも

またhocoroは、ペン先をひっくり返して軸の中に収納できるのも特徴です。普通のつけペンの場合、ペン立てなどに入れると尖った先端が気になりますが、ペン先を収納した状態であればペン立てにざっくりと放り込んでも自分の手や周りのペンを傷つける心配がありません。

ペン先はひっくり返してペン軸の中に収納できる

ペンケースに入れることもできるため、文具仲間とインクの交換会をしたり、素敵な風景を見ながらスケッチを楽しんだりと、外出先にも気軽に持ち運ぶことができます。

書く楽しみが広がるペン先のバリエーション

ペン先の種類も豊富です。細字、中字のほかに、カリグラフィー(1.0mm幅、2.0mm幅)、筆文字、ブラッシュがラインアップされており、イラストやアート作品の制作にもぴったりです。なお、ペンポイントがついているのは細字、中字のみです。

書くことが楽しくなるペン先のバリエーション

私が特に気に入っているのは、筆文字のペン先です。先端がくねっとした独特の形状になっており、紙に当てる角度によって線幅が変わるので、立てて細くすれば日記など普段の筆記に、寝かせて太くすれば宛名書きなどにと、ひとつで幅広いシーンに活躍します。太くするとインクの濃淡も出やすくなりますので、その色の変化を眺めるのも楽しみのひとつです。

筆文字のペン先はひとつで細くも太くも書ける

リザーバーパーツは迷ったら買い!

そんな便利で楽しいつけペンですが、弱点はガラスペンと比較し一度に保持できるインクの量が少ないこと。特にカリグラフィーなどインクを多く使うペン先はすぐにインク切れを起こすので、頻繁にボトルにひたす必要があり、ちょっと面倒です。

そこで、ぜひペン先と合わせて使いたいオプションがhocoro専用のリザーバーパーツ(220円)です。こちらは万年筆のペン芯の機能を簡略化したもので、ペン先とリザーバーのスキマにインクを保持できるため、一度のインク補充で書ける量が格段にアップします。目安として、私が使っているB6サイズの日記帳であれば、1回ペン先をひたすだけで1ページ以上は継ぎ足しなしで書けるほどです。

ペン先の裏の黒っぽく見えるものがリザーバーパーツ

ただし、リザーバーパーツはめ込み式で一度取りつけると外せない点には注意が必要です。といっても、あって損することはまずないと思いますので、特に太めのペン先を使用する際はリザーバーもセットでそろえることを強くおすすめします。

リザーバーパーツがあれば、太めのペン先(カリグラフィー 1.0mm)でも1回インクをつけただけでこれくらい書ける

つけペンをもっと気軽に使うためのアイデア

商品からは少し離れますが、ここで私がつけペンを日常の筆記具として使用する上で、なるべく手間を減らすために取り入れているアイデアについても紹介したいと思います。

インクにペンをひたすとき、口径の大きいボトルだと特に不都合はないのですが、小さいボトルだとちょっと大変です。ペン軸がボトルのフチに接触して汚れてしまったり、どこまでインクに浸かっているのかわかりにくかったりします。

口の細いボトルだとペン軸が汚れてしまう

そんな時に便利なのが、ドロッパーボトル。眼科で目薬などを処方される時に出てくる点眼容器のようなボトルです。一般的なお店ではなかなか見かけませんが、ネット通販では5個セットや10個セットで手頃に購入することが可能で、このボトルにスポイト(こちらは100円ショップでも手に入る)などでインクを移し替えて使用します。

使う分だけドロッパーボトルに移し替える

つけペンを使う時には、ペンを裏返して、ペン先とリザーバーの間にインクの雫を吸い込ませるようにします。こうすると、手や周囲を汚さず簡単にインクを補充できるのです。ガラス製のインクボトルより取り回しも気軽ですので、よく使うインクを移し替えておけば「書こう」と思い立った時にすぐ書けます。

ペン先へ簡単にインクを補充できる

注意点としては、どうしてもボトルに色がついてしまうので、基本的にひとつのドロッパーボトルはひとつのインク専用にする必要があること。また、インクを一度につけ過ぎると垂れるので、出す分量をよく見ながら加減することでしょうか。

ドロッパーボトルに移し替えるほどでもない、さらに使用頻度の低いインクには、容量0.1ccという超ミニサイズの計量スプーンを使っています。こちらも、ネット通販での購入が可能です。使い方はシンプルにインクをボトルから直接すくい、ドロッパーボトルの時と同じようにペン先にインクを垂らして補充するイメージです。

0.1ccの計量スプーン
口の細いボトルからもインクをすくえる

どちらの方法も、実はスポイトを使えば同じことができるのですが、個人的にはスポイトは洗った後になかなか内部が乾かないことがストレスで、日常的に使うとなるとややハードルの高さを感じてしまうのです。ドロッパーボトルなら使うたびに洗わなくて済みますし、計量スプーンはペン先と一緒に洗って拭けばすぐ乾きます。ほんのちょっとのことですが、ちょっとハードルを下げることで私がつけペンを手に取る頻度は格段に上がりましたので、今回あわせて紹介した次第です。

インクはナマモノ! 新鮮なうちにどんどん使おう

hocoroのおかげで、買ったはいいものの引き出しの中にしまいっぱなしになっていたインクを使う楽しみが増えました。インクは食料品などと違って明確な消費期限があるわけではありませんが、一般的には3年ほどを目安に使い切ることが推奨されています。

せっかく気に入って購入したインクも、使わないうちにダメになってしまっては元も子もありません。どんどん使うためにも、つけペンを日常の筆記用具のひとつとして取り入れてみるのはいかがでしょうか。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。