文具知新
資料もノートも、使う人の心もキレイに整う蛍光ペン「キレーナ」
2025年4月22日 08:20
大人になったら勉強しなくていいんだ! 定期テストも宿題もないんだ! 早く大人になりたいな〜と、そう思っていた時代が私にもありました。しかし実際には業務に必要な資格取得であったり、日々進化する技術や最新情報へのキャッチアップであったりと、むしろ学生時代よりも真剣に勉強しなければならない場面が少なくありません。
学ぶことは大変ですが、良い文房具があれば負担も軽くなります。なかでも蛍光ペンは勉強シーンで登場する機会の多いアイテムだけに、こだわって選びたいものです。この連載でも、蛍光ペンのヘビーユーザーが抱える不満を解消するアイテムとして、過去に蛍光“ペン”ならぬ蛍光“鉛筆”の「ネオンピツ」を紹介しました。
今回取り上げる「キレーナ」(132円)は、上記の記事が公開された後、24年10月にパイロットから発売された最新アイテムです。すでに各所で様々な賞を受賞するなど、注目度も高いのでご存じの方も多いかもしれません。
パイロットといえば万年筆や、フリクション等のボールペンのイメージが強いかと思います。蛍光ペンに関してはどちらかというと後発の立場ですが、むしろ後発であることをプラスにとらえ、従来の蛍光ペンに対してユーザーが抱える不満を徹底的に研究して練り上げられたのがキレーナなのです。
では、キレーナは何がそんなに“キレイな”のか。その数ある進化ポイントをひとつずつ見ていきましょう。
そもそも、蛍光ペンは操作が難しい筆記具
最初は何といってもこれ。とにかく、線がまっすぐ引けるのです。そのすごさを理解していただくために、まずいわゆる普通の蛍光ペンを思い浮かべてみてください。ペン先がナナメにカットされたチップが付いていますが、このナナメ部分がくせものです。なぜなら、このカットされたラインと紙面をピッタリ合わせた状態でペンを動かさないと、キレイに線を引けないから。
ボールペンやシャープペンシル、サインペンなどの我々がよく使う筆記具は、ある程度の角度・筆圧のブレは許容してくれます。しかし、蛍光ペンの場合は、そのペンが要求する一定の角度で、しかもチップの先端全体がちょうどよく紙と接する一定の筆圧を維持しながら動かさなければなりません。筆記時のペンをXYZの座標に置いてみると、XとZの値を一定に保ったまま、Y軸方向にまっすぐ移動するようにコントロールする必要がある、ということです。
器用な人であれば無意識のうちに適応してこなしているかもしれませんが、不器用な人にとってはいかに難しいことか、お分かりいただけますでしょうか。チップの片側が浮いたりよれたりして、筆記線がブレブレになってしまうのも無理のないことです。とにかく、ボールペン等の筆記具と比べてコントロールしなければいけない軸が多く、要求する動作の精度が高い。それが蛍光ペンなのです。
まっすぐ引けてキレイ
キレーナが画期的なのは、ペン先のチップの両端にしっかりしたプラスチック素材の「キチントガイド」をつけたこと。そして、チップを従来の蛍光ペンよりも薄くてペラペラの素材で作り、あえてしなるようにしたことです。チップはガイドよりもほんの少しだけ長くなっています。紙にペン先を当てるとチップがしなってガイドの高さで止まりますから、チップは常に一定の角度と筆圧で紙にあたることになります。
例えるなら、パティシエがスポンジケーキの土台にクリームをヘラでスーッと伸ばすような職人技の部分を、キレーナが代わりにやってくれるということ。先ほどの軸の話でいえば、X軸とZ軸を書く人が気にしなくても良いので、Y軸のコントロールに集中できる、ということです。慣れるとフリーハンドでもかなりまっすぐな線を引けます。これは正直、めちゃくちゃ気持ちがいい。自分の器用さレベルが高まったかのような錯覚を味わえます。
教科書や参考書のたわんだ紙面でもキレイ
特にその効果を実感しやすいのは、筆記する紙が曲面になっている時です。開いた教科書や参考書が中心の綴じ部に向かってたわんだような状態になっていること、ありますよね。平らな紙であれば一定であるはずのZ軸までが常に変化しているので、普通の蛍光ペンであればXYZ軸の全てを書く人がコントロールしなければいけないという、まさに無理ゲー状態です。
この場合であっても、キレーナはX軸とZ軸の調整をキチントガイドが一手に引き受けてくれるので、平らな紙とほとんど変わらない感覚で線を引くことができるのです。
すぐ乾くからキレイ
もうひとつの大きな特徴は、キレーナのために新たに開発された速乾インクです。ツルツルした紙質の教科書や参考書はインクが乾きにくく、蛍光ペンを引いたところに手や指が当たって汚れてしまった! ページをめくったら反対側についてしまった! なんてことも日常茶飯事です。
キレーナは、コピー用紙なら1秒で乾く速乾インクを搭載しているので、周囲を汚すことなく、書き終わったままのキレイな状態をキープできます。
紙の裏側までキレイ
ちなみに、速乾インクはどのようにして速乾性を実現しているかご存じでしょうか? 速乾性を高めるには大きくふたつの方向性があり、ひとつはインクそのものの乾きやすさ(乾燥性)を高めること。もうひとつは、染み込みやすさ(浸透性)を高めて、インクを紙の内部に素早く引き込むことで表面を乾かす方法です。
乾燥性だけで速乾を実現するのは限界があるため、速乾インクと呼ばれるものの多くは浸透性が高くなっています。そうすると、引き込まれたインクが紙の裏まで達し、裏抜けを起こしてしまうことがあるのです。片面印刷の資料やプリントなら気になりませんが、教科書やノート、手帳等は紙の両面を使うので、少々困ったことになってしまいます。
キレーナは、裏抜けを起こさないようにしつつ速乾性を高めるため、乾燥性と浸透性のバランスを高いレベルで調整するのに多くの時間をかけたそうです。
さらに、独自のペン先形状がここでもひと役かっています。インクは、筆圧が強くかかったり、ペンと紙が接する時間が長くなったりする書き始めや書き終わりに溜まりやすいもの。インクが多く溜まるということは、その分裏抜けのリスクも高まると言うことです。キレーナの場合は筆圧が常に一定に保たれているため、インク溜まりがほとんどできず、結果としてさらに裏抜けしにくくなる、というわけ。
特に、書き終わりの美しさは圧巻です。ペンを持ち上げると、しなっていたチップが戻ろうとしてサッ……とはらうような動きになるのです。これが、書道の達人のような見事な“はらい”で。キレーナを使う機会があれば、ぜひ書き終わりにも目を凝らしてみてください。
にじまないからキレイ
インクのすごさをもうひとつ。キレーナは、ボールペン等で書いた文字や印刷の上から引いてもにじみにくいように調整されています。特に、インクジェットプリンターで出力した資料でのにじみにくさにその効果を実感できます。
苦労してまとめたノートにマーカーを引いたらにじんで汚くなってしまった……となったらモチベーションもダダ下がりですから、これは嬉しいですよね。もちろん、ノートがキレイということは気分が良いだけでなく、読みやすさにもつながりますので、勉強の効率もアップします。
カラバリがキレイ
キレーナのカラーバリエーションは、定番の蛍光5色に加え、ふんわり淡い色合いのペールトーン5色の、計10色が用意されています。しっかりクッキリ目立たせたい時も、目がチカチカしないペンが欲しい時も、選択肢があるのはありがたいと感じます。
10色の中からどれを選んでも、クリーンでキレイな発色を楽しめます。また、ペールトーンにはグレーもあるので、完了したタスクをリストから消すといった「目立たせない」用途のために蛍光ペンを使いたい、という人のニーズもカバーしてくれます。
定規を使ってもキレイ
蛍光ペンをどうしてもまっすぐ引きたい時、従来なら定規を使っていたと思います。でも、蛍光ペンと定規の相性はハッキリ言って最悪です。インクが定規と紙の間に染み込んでしまったり、定規そのものに色がついて汚れてしまったり。そんな苦労が絶えませんでした。
キレーナはフリーハンドでもかなりまっすぐ引けますので、そもそも定規の出番が少なくなります。どうしても定規を使いたいという時でも、インクのついたチップが直接触れることはありませんから、定規はキレイな状態のままです。ただし、狙った位置に線を引くにはキチントガイドの幅を考慮してペン先を定規に当てなければならないため、少し慣れは必要です。
持ち方もキレイ
また、ペンの軸にもひと工夫が。筆記時に指が当たるところが色付きの別パーツでガイドになっています。ここに親指と中指をそえるように持てば、ペン先がちょうどいい向きになるという仕掛けです。
これも、ペンを組み立てる際にガイドとペン先の向きが合うよう、センサーでひとつずつ向きをチェックしながらパーツをはめ込んでいるんだとか。何も考えずに手に取るだけで、持ち方までキレイになるとは、まさにキレーナおそるべし、といったところです。
ストレスフリーで心もキレイ
ここまで徹底して蛍光ペンを使う上でのストレスを排除すると、最終的にはどうなるか。蛍光ペンに感じていたイライラがスーッと消えて、心までおだやかでキレイになる、というわけです。
冗談ではなく、ペン軸にもハッキリと刻まれたキャッチフレーズ「キチント トトノウ」にはそこまでの想いが込められているんだそう。まさに言葉に恥じない整いっぷりで、ノートも教科書も定規も、さらには使う人まで“キレイ”にしてくれる最強の蛍光ペン、それがキレーナなのです。
無理やり弱点を挙げるとすれば、キチントガイドがしっかり機能していることの裏返しとして、ペン先を90度回転させて細い線を引くという、アンダーライン的な用途には不向きだということでしょうか。パイロットもその辺りを意識してか、反対側は細字のマーカーになっているので、アンダーラインの時はこちらを使ってね、ということでしょう。
と、ちょっと細かいことも言いましたが、一般的な使い方をするのであれば、キレーナが現役最強クラスの蛍光ペンであることは間違いありません。資格の勉強やリスキリングに、資料のチェックや手帳へのマーキングに、機会があればぜひ手に取ってみてください。
なお、ペンはやっぱりノック式がいいとか、使い終わりが目に見えるのがいい、細字をメインに使いたいという方には、以前紹介したネオンピツを。私も、用途によって使い分けています。