お金の教室
第7回
利上げで何が変わる? 住宅ローン・銀行預金・資産運用
2026年7月10日 08:20
いよいよ、日銀が政策金利を1.00%へ引き上げました。政策金利が1.00%に達するのは、1995年以来、実に31年ぶりの高水準です。長く超低金利が続いてきた日本が、いよいよ1%の「金利のある世界」へと移行しつつあります。
本記事では、今回の利上げが住宅ローン・預金・資本市場にどのような影響を与えるのか、そして私たちはどう対応すべきかを、わかりやすく解説していきます。
金融政策決定会合とは
金融政策決定会合は、ひとことで言えば「お金の価値を安定させるための会議」です。日本銀行が年8回開催する、金融政策の意思決定の場で、開催時期はあらかじめ決まっています。
その目的は「物価の安定」です。たとえば1万円札の価値が、翌日には5,000円になったり、逆に2万円になったりしては、私たちの生活は成り立ちません。円の価値が急に動かないように調整していくことが、金融政策の大切な役割です。
この会議で決められるもののなかでも、とくに重要なのが「政策金利」です。政策金利は世の中のあらゆる金利のベースになるため、非常に大切な数字です。正式には「無担保コール翌日物金利」と呼ばれ、銀行どうしが1日だけお金を貸し借りするときの金利を指します。これが住宅ローンや預金など、世の中のさまざまな金利の出発点になります。
「物価の安定」が目的だと述べましたが、日銀が目指すのは物価上昇率0%ではなく「2%」です。これは日銀が中長期的に目指す物価上昇率の目標です。
物価が毎年下がっていくデフレになると、「値段が下がるのなら、今は買わずに待とう」と消費が先送りされ、景気が悪化していきます。これがデフレスパイラルです。一方で、緩やかなインフレのもとでは需要が高まり、経済が安定的に成長していきます。だからこそ0%ではなく、+2%が目標とされているのです。
では、実際の物価はどう推移してきたのでしょうか。
消費者物価指数(CPI)の生鮮食品を除いた総合の前年比を見ると、コロナ禍からの回復途上だった2021年は▲0.2%とマイナスでしたが、2022年は+2.3%、2023年は+3.0%、2024年は+2.6%、2025年は+3.1%と推移しています。2022年以降、コアCPIは4年連続で2%の目標を上回って推移しており、物価上昇が定着しています。段階的な利上げは、こうした経済環境のなかで、すでに想定されていたものでした。
今回の決定内容
今回、日銀は政策金利を現行の0.75%から0.25%引き上げ、1.00%としました。
前述のとおり、1.00%という水準は1995年以来、31年ぶりの高さです。また、前回の利上げが2025年12月だったため、4会合ぶりの引き上げとなります。多くの方にとって、1.00%という金利は「初めて経験する金利水準」ではないでしょうか。長く続いた超低金利の時代から、日本は「金利のある世界」へと移行しつつあります。
ここで、政策金利の推移も振り返っておきましょう。
長くマイナス金利が続いていましたが、2024年3月にマイナス金利が解除され、その後2024年7月、2025年1月、2025年12月、そして今回(2026年6月)と、段階的に利上げが行なわれてきました。
では、なぜ今、利上げに踏み切ったのでしょうか。
背景にあるのは、原油高によるインフレ加速リスクです。中東情勢の緊迫化を受けてエネルギー価格が上昇し、それが物価全体へと波及していく。このインフレが想定以上に加速するリスクを抑えるために、金利を適正な水準へと調整しておく————それが今回の利上げの狙いです。
ただし、これは景気を冷やすための「引き締め」ではありません。今の金利水準はまだ低く、金融環境は依然として緩和的です。あくまでも、金利を本来あるべき正常な水準へ戻していく「正常化」の流れの一環だと捉えるのが適切でしょう。
今回の決定は、7対1の賛成多数で決まりました。1人は「景気の下振れリスクの方が大きい」として据え置きを主張しましたが、残る7人は、今が引き上げの適正なタイミングだと判断したかたちです。
また、当日に行なわれた内田副総裁の会見では、「経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げていく」との趣旨の発言があり、状況次第ではさらなる利上げの可能性があることが示唆されました。
家計・資産への3つの影響
今回の利上げは、私たちの家計・資産にどのような影響を与えるのでしょうか。住宅ローン・預金・資本市場の3つに分けて見ていきます。
ポイントを先に整理すると、住宅ローン(変動金利)は返済額が増える可能性があり「注意」、預金は受け取る利息が増えるため「プラス」、資本市場は3つの市場が動くため「冷静に」見ること、です。
影響(1) 住宅ローン(変動金利)
まず注意が必要なのは、変動金利で住宅ローンを借りている方です。返済額がどれくらい増えるのか、具体的に試算してみましょう。
たとえば、残債3,000万円・残り返済期間30年で、変動金利が1.0%から1.25%へ0.25%上がった場合、毎月の返済額は96,491円から99,974円へと、月々3,483円増えます。年間では約41,796円の増加となり、負担は決して小さくありません(元利均等返済・ボーナス返済なしでの試算)。
ただし、影響はすぐに表れるわけではありません。適用金利への反映は数カ月遅れることが多く、今回のケースでは2026年10月頃からと見込まれます。「今日すぐ返済額が増える」わけではないので、まずはご自身の借入残高と適用金利を確認し、シミュレーションしておくとよいでしょう。なお、固定金利型で借りている方は、今回の決定による直接の影響はありません。
影響(2) 預金(家計にプラス)
これまでは「預けても増えない時代」が長く続いてきましたが、その風向きが変わってきました。
三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクは、普通預金金利を0.3%から0.4%へ引き上げると発表しています。金利が上がれば、預けている方が受け取る利息も増えるため、家計にとってはプラスの変化です。
ポイントは、金利の引き上げ幅には銀行ごとにバラつきがあること。一般に、メガバンクよりもネット銀行のほうが、利上げが早く、金利水準も高い傾向があります。同じお金を預けるなら、金利が高いところのほうがお得です。この機会に、預金口座の金利を見直してみてはいかがでしょうか。
影響(3) 資本市場(株式・債券・為替)
3つ目は資本市場です。株式・債券・為替の3つの市場について、冷静に見ていきましょう。
株式市場においては、利上げは短期的には株価の下落圧力になります。企業の借入コストが増えて利益が圧迫されること、そして将来利益の割引率が上昇することが理由です。
株価は、企業が将来稼ぐ利益を金利で割り引いて現在の価値に換算したものです。割引率にあたる金利が上がると、将来利益の現在価値が目減りし、株価は下がりやすくなります。ただし、今回の利上げはすでに市場に織り込まれており、発表のあった6月16日の日経平均株価は、むしろ小幅に上昇しました。金利の正常化はネガティブな面だけではなく、経済が正常に機能するために必要なプロセスでもあり、長期的には前向きに捉えてよいでしょう。
債券市場については、国債の利回りは上昇します。たとえば10年国債の利回りは、これから先10年分の政策金利の平均値のようなものだと言われます。利上げが行なわれれば将来の平均値も上がるため、利回りの上昇につながります。
個人が買える個人向け国債には「固定3」「固定5」「変動10」の3種類があり、満期はそれぞれ3年・5年・10年です。とくに満期の短い「固定3」は、政策金利の変更を受けて金利が上がりやすくなります。
為替市場についてドル円を例にとると、その変動要因の一つが日米の短期金利差です。日本の利上げで日米の金利差が縮小すると、相対的に円の魅力が増し、円高に振れやすくなります。
いずれの市場も、今回の利上げはある程度織り込まれていたため、大きな反応はありませんでした。ただ、利上げが資本市場にこうした影響を与えうることは、知っておいて損はないでしょう。
私たちはどう対応すべきか
最後に、私たちはどう対応すべきかを、立場別に整理します。
住宅ローンがある方は、まずは残高と適用金利を確認し、金利が上がった場合の返済額を試算しておきましょう。「変動から固定へ借り換えればよいのでは」と考える方もいますが、固定金利は変動金利よりも先に上がっていく性質があり、すでに2~3%台に達しているため、借り換えは難しいのが実情です。借り換えを考えるよりも、将来の返済額の増加に備えて、預金を増やしておくのが現実的でしょう。
預金がある方は、金利上昇は家計にとって追い風です。まずは普通預金・定期預金の金利が、自分の銀行でどう変わるのかを確認しましょう。そのうえで、ネット銀行など有利な金利を提供する金融機関と比較し、預け替えを検討するのも一つの選択肢です。ただし、預金金利はインフレ率には追いつかず、預金はインフレに負けてしまうという点は忘れないでください。
投資は、インフレからお金の価値を守る有効な手段です。投資をしている方にとって、株式市場では短期的に下落する局面も当然ありますが、それを乗り切る鍵は、長期・積立・分散の投資を続けることです。何より大切なのは「続けること」。短期の値動きに一喜一憂せず、長期の視点で、じっくりとお金を育てていきましょう。
金利のある時代こそ、正しい知識を武器に、一つひとつ冷静に対応していきましょう。











