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スマートグラスにカメラは要らない? 「スマホの次」を目指すEvenワンCEOに聞く

Even RealitiesのEven G2

急速にスマートグラス市場が立ち上がり始めている。その中でも「ディスプレイ付き」として大きな存在感を見せているのが、中国・Even Realitiesの「Even G2」だ。

同社は中国・美団(Meituan)およびテンセント主導による資金調達を完了、投資総額10億ドル(約1,620億円)を突破したと発表、未公開企業として投資総額10億ドルを達成した、いわゆるユニコーン企業となった。

同社のウィル・ワンCEOに単独インタビューし、投資の狙いと今後の市場および製品の方向性について聞いた。

Even Realitiesのウィル・ワンCEO。(写真は2026年1月撮影のもの)

Even Realitiesのスマートグラスとはなにか

インタビューに入る前に、Even Realitiesの製品がどんなものかを解説しておこう。現行製品は、昨年末に日本でも販売開始した「Even G2」。現在は視力補正なしのものなら、家電量販店でも購入できる。

Even G2実機。右奥に写っているのは、操作用の「Even R1」(別売)

同社製品の特徴は、グリーンのマイクロLEDを使った「ディスプレイ」にこだわっている点にある。目の前に緑色の文字で情報が表示されるのだが、スマートフォンアプリと連携している。スマホの通知表示はもちろん、相手の言葉をAIで翻訳したり、事前に用意した文章をプロンプターとして表示したりできる。

メガネのヒンジ部には小型のプロジェクターを内蔵
目の前にはグリーンの文字が、自分だけに見える形で表示される

最近は「Terminalモード」を搭載し、CodexやClaude Codeなどと連動し、「話しながら自分だけが画面を見て、AIとともにソフト開発などを行なう」ことも可能になった。

一方で他社のスマートグラスと異なるのは、カメラやスピーカーは搭載していないことだ。バッテリー動作時間をできるだけ長くすること、プライバシーなどの懸念を持たれないようにすることが目的だ。

Metaなどの他社はカメラを搭載した製品を作っているが、あえてそこからは距離をとっているわけだ。

価格は10万円弱と高価だが、完成度とこだわりから、日本でもファンが増えている。筆者も日常的に利用している製品だ。

Even G2

中国大手から資金調達 すでに事業は黒字化

といったところで、インタビュー本編に入っていきたい。まず聞いたのは、今回の資金調達の目的などだ。

――まず、今回の資金調達について教えてください。ついにユニコーン企業に到達しました。

ワンCEO(以下敬称略):今年の初めに最終ラウンドの資金調達を開始しました。

今回のラウンドは、中国のデリバリーサービス大手である美団(Meituan)と騰訊(テンセント)が主導しました。美団創業者の王(Wang)氏は私たちの製品に非常に興味を持ち、パーソナルコンピューティングプラットフォームがスマートフォンからスマートグラスへと移行するというビジョンに深く共感してくれました。彼のアプローチとは親和性も高く、彼が展開するフードデリバリーやレストラン予約といった日常的なローカルサービスと、将来的なシナジーが見込めると考えています。スマートグラスが主流になるにつれて、グラス上のエージェントがこれらのサービスと連携し、ユーザーにより良い体験を提供できるようになります。

Even Realitiesのウィル・ワンCEO

テンセントなどの既存の投資家も追加投資を行ない、今回のラウンドでプレマネー10億ドル(ユニコーン)の評価額に達しました。資金調達自体は年初に完了していましたが、書類手続きに時間がかかり、今の発表になったんです。

この資金により、サプライチェーンの上流に投資し、重要なコンポーネントの自社設計・製造を強化できます。

昨年から広州のレンズ工場を稼働させていますが、自社でレンズを製造しているスマートグラス企業は世界で私たちだけです。

今回の資金で、生産能力だけでなく製造ノウハウにも投資し、最先端の設備を導入してレンズと光学部品の品質を最高レベルに引き上げます。

また、グローバルな人材の獲得にもつながります。

最高のチームを作ることが私の目標です。ユニコーンステータスと十分な資金があれば、優秀なグローバル人材を引きつけられます。

なお、現行製品の「Even G2」は非常によく売れています。特に日本では好調ですね。結果としてキャッシュフローが改善し、会社はすでに黒字化しています。

Even G2

――G2のビジネス状況について教えてください。日本での売上は好調とのことですが、他の国はどうですか?

ワン:現在、アメリカがトップで、日本が急速に成長して2位になっています。ヨーロッパも大きな基盤であり、これからフランス・スペイン・イタリアで急速に成長させ、年内にはドイツとイギリスにも注力する予定です。

また、中東のドバイ・アブダビ・カタールも強力な市場で、需要が高まっています。アジアではシンガポールや韓国でも強い需要があり、拡大を進めています。

――中国本土への市場拡大についてはどうお考えですか?膨大な需要があると思いますが。

ワン:中国本土への進出はもう少し待ちます。

中国の需要は他国をすべて合わせたよりも大きいかもしれませんが、進出はサービス、サプライチェーン、ブランドにとって新たな課題となります。中国市場に参入する前に、確実に準備を整え、この業界でのブランドのリードを確立したいと考えています。

大手と同じ「カメラ付き」には行かない 資金はディスプレイ開発に

――スマートグラス市場全体の現状と、カメラなしのディスプレイに特化した、御社のポジションについての考えを教えてください。

ワン:Google・サムスン・Metaなどの大手企業は、引き続きカメラ付きグラスに注力するでしょう。今後はアップルも参入する可能性があります。

Metaは大きな成功を収めています。AIの学習データを収集するためにカメラが不可欠だと考えているからです。

ただ、私たちは彼らと競争する必要はないと考えています。大手企業の製品は一般ユーザーやコンテンツクリエイター向けですが、私たちの製品は「生産性ツール」であり、ビジネスパーソン向けです。このブランドポジショニングの方が優れていると感じています。

スマートグラスにおいて、ディスプレイは最も重要で最も技術的に難しい部分です。

率直にいって、カメラやスピーカーの追加は難しくありませんが、ディスプレイの継続的な改良は困難です。

私たちはすでに5〜6年間、5世代にわたりディスプレイに投資・開発しており、アップルやGoogleが参入してきても、彼らの第1世代の製品が私たちのディスプレイ品質を超えることはないと考えています。

市場には当社のコピー商品も出ていますが、実際に試せば光学的ディスプレイの透明度や全体的なパフォーマンスの違いは明らかです。

度付きレンズによる視力矯正品質も含め、このカテゴリーでのリーダーシップを確立していきます。

競合は私たちと違い、自社工場や大規模なR&Dチームに投資していません。

外見を真似ることは簡単ですが、コアテクノロジーをコピーすることはできません。

今年、次世代製品の「Even G3」を発売する予定はありませんが、将来登場するG3が現在のG2よりもはるかに優れた体験になるよう強力に投資しています。

――今後の投資における最重要ポイントを教えてください。

ワン:機密情報もあるため詳細は言えませんが、最大の投資分野はやはり、「光学的ディスプレイのフルスタック」です。

ソフトウェア、ハードウェア、光学関連など、ディスプレイに関わるすべてに集中的に投資しています。3年後には、光学的ディスプレイの分野で世界ナンバーワンのリーダーになることを目指しています。

当面は完成度を高めるフェーズ ソフトにも積極投資

――製品ラインナップの展開についてはどうお考えですか? 複数のモデルを展開するのか、当面は1つのモデルに絞るのか。

ワン:将来的には間違いなく複数の製品ラインナップを持つことになります。スマートフォンのように、ベーシック・プロ・プロマックスといった展開になるでしょう。AppleのiPhoneも、初期には1つのモデルを販売していましたが、市場を広げる必要が出た段階でラインナップを増やしました。

次世代機に向けて重要なのは2点です。

1つ目は、ディスプレイや度付きレンズの光学品質の継続的な向上。2つ目は、インタラクションのシームレス化です。

G2で導入したリングは操作を簡単にしましたが、まだ改善の余地があり、他の操作方法も模索しています。初代iPhoneのように、おばあちゃんに渡しても直感的に操作できるレベルを目指しています。そのためにはハードウェアだけでなく、ソフトウェアやOS、インタラクションの定義の改善が非常に重要になります。

――そのソフトウェア面についてお聞きします。新しいハードウェアやAIモデルが登場する中、ソフトウェアの優位性をどう維持・向上させますか?

ワン:強力なフルスタックのソフトウェアチームを持つことが絶対条件です。AIエージェント開発、ファームウェア開発、バックエンド、フロントエンドなど、各層に専門家が必要です。

昨年から今年にかけて、ソフトウェアチームの人数を3〜4倍に増やしました。ハードウェアチームも1.5倍程度拡大したのですが、それより早いペースです。現在、R&D部門ではハードウェアエンジニアよりもソフトウェアエンジニアの方が多くなっています。

競合他社の中にはソフトウェア開発を外注しているところもありますが、私たちは人材確保に大規模な投資を行っています。

アプリ市場はAIで大きく変化

――プラットフォームとしての「EvenHub」の方向性について教えてください。従来のアプリストアモデルになるのか、独自のAIベースのモデルになるのでしょうか?

ワン:非常に良い質問です。

EvenHubは現在、300以上のアプリが公開されており、審査待ちや個人利用のものを含めると3,000以上のアプリが存在し、非常に活発なエコシステムに成長しています。

今後の方向性については継続して模索中ですが、従来のアプリストアモデルだけにはならないことは確かです。コーディングが簡単になり、将来的にはグラス上で5〜10分で自分用の体験を作れるようになるため、アプリケーションはより個別化されます。

ただし、移行期には従来のアプリストア的なインフラも必要なので、両方に対応できる将来を見据えたソリューションを考えています。OpenAIやAnthropicの取り組みからも学んでいます。

また、自社のキラーアプリへの投資も継続します。現在の最大のキラーアプリは、翻訳機能と統合された「会話アシスタント」と、継続的に賢くなっている「AI」です。

――今年導入された「ターミナルモード」はエンジニアに好評ですが、この技術の将来性についてどうお考えですか?

ワン:ターミナルモードは、シリコンバレーに出張した際にAIエンジニアたちとの会話から生まれました。

彼らは現在、音声でAIエージェントにコーディングを指示し、その作業が終わるのをデスクで待っています。スマートグラスを使えば、シースルーのディスプレイでターミナルを確認でき、マイクで音声指示ができるため、デスクから離れて現実世界に戻ることができます。現在はスマートフォンで切り替えるモードのような形ですが、今後はグラス上から簡単に起動できる本格的な機能にする予定です。

――これは個人的な要望でもあります。スクリーンショットを撮る簡単な方法は追加されますか? 現状ターミナルモードでは可能ですが、Even G2での体験を、もっと簡単に他の人々に伝えたいです。

ワン:その点はよく理解しています。スクリーンショットについては、今後すべての機能・場所で簡単に撮影・共有できるようにします。

通信の課題には新プロトコル対応 カラー化は急がず

――スマートグラスの課題は、人が多い場所でのBluetoothやWi-Fiの混雑による動作不良が起きることです。通信技術の問題をどう解決しようと考えていますか?

ワン:これも大きな課題です。

スマートグラスに4Gや5Gのセルラー通信を直接組み込む企業もありますが、消費電力を考えるとここ2〜3年は現実的ではありません。そのため、スマートフォンなどの外部デバイスへの接続に頼るのが最適です。

解決策として、まずはスマートグラス側のアンテナ設計を、ポケットにあるスマートフォンとの通信に特化して最適化することを考えています。

次に、消費電力と品質のトレードオフを最適化するハードウェア設計の改善です。

3つ目はソフトウェアと通信プロトコルの進化です。

現在はBluetoothに依存していますが、Huaweiの独自プロトコルのような、Bluetoothの10倍の速度で低消費電力な技術はすでに存在します。また、Bluetooth自体も進化しており、BLEを活用して高速化する新しいプロトコルも登場しています。

スマートグラス側の対応は容易なのですが、iPhoneなどスマートフォン側の対応を待つ必要があります。AIデバイスの増加に伴い、短距離通信技術は今後確実に進化するでしょう。

――ディスプレイ技術の開発において、カラー化の優先度はどの程度ですか?

ワン:カラー化への移行は不可避であり、確実に行なわれます。しかし、適切な時期が重要です。

カラー化によって重量が増加し消費電力が悪化した結果、基盤となる体験を損なってはいけません。新しいプロジェクターやウェーブガイドなど、ハードウェア全体の再構築が必要になりますが、基礎的な体験を損なわない形で実現すべく懸命に取り組んでいます。

いつ登場するかは断言できません。

同時に、全体の消費電力、パネルサイズ、輝度、解像度、フレームレートといった他の要素の向上も同じくらい重要であり、並行して進めています。

低価格路線には踏み込まず 「既存ユーザーへの割引」も

――製品の価格帯について。現在の500〜1,000ドルというプレミアム価格帯を維持するのか、低価格帯に広げるのか、戦略を教えてください。

ワン:500〜1,000ドルという価格帯は維持し、この領域の絶対的リーダーでありたいと考えています。

300〜500ドルに下げれば数は売れますが、利益率は下がります。会社が成長するにつれて少しずつ低価格帯にも展開するかもしれませんが、XiaomiやOPPOが参入するような極端な低価格帯には行きません。

私たちの目標は、誰も作っていない最高品質の革新的な製品を作ることです。そのための研究開発費とサプライチェーンへの投資を支えるためには、健全な利益率が必要です。

安価な製品を広く提供することを目的とするブランドもありますが、私たちのビジネスモデルは、最高の体験を提供し業界を変革することであり、そのためにはハイエンド市場を確保し続ける必要があります。

――既存ユーザーについてですが、新しいモデルが出るたびに「度付きレンズを購入するのは金銭的負担が大きい」との不満もあります。ユーザー支援などは考えていますか?

ワン:G3を導入する際には、2つのことを改善します。

1つ目は、G2のソフトウェアアップデートやサービスを継続的にサポートすることです。G1とG2ではハードウェア構成が違いすぎて難しかったのですが、G2とG3では互換性を持たせ、両方のサポートをはるかに容易にします。

2つ目は、G2ユーザーがG3に乗り換えるためのトレードイン(下取り)プログラムの導入です。

初期から支持してくれているファンを大切にしたいので、割引価格で提供するなどの仕組みを確実に検討します。G1からG2への移行時にもリングを無料で提供しましたが、ファンの皆様にはしっかり報いたいと考えています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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