鈴木淳也のPay Attention

第272回

セルフレジの万引き不正対策最前線 日米の最新ソリューション

2026年初頭に連邦破産法11条(Chapter 11)を申請したSaks Fifth Avenueのニューヨーク基幹店

全米小売協会(NRF:National Retail Federation)が2025年10月に発表した「The Impact of Retail Theft & Violence 2025」というレポートによれば、米国において2023年から2024年にかけて万引き(Shoplifting)を含む商品の窃盗被害(Merchandise Theft)は19%の増加を見せており、別のデータによればセルフレジ導入による従業員削減などのコスト対策を上回る勢いで被害額が増加しているほどだという。

AI導入で進んだ不正対策はどうなった?

過去には「小売事業者に対する組織的犯罪(ORC:Organized Retail Crime)」の増加による大量の窃盗被害が大きな問題となっており、街をゴーストタウン状態にしてしまうほどの事態を呼び起こしたことを記事でも紹介した。

セルフレジ導入の流れは避けられないが、そのなかでいかに工夫して対策するのかという議論が進められてきた。AI導入によるスキャン時の不正行為検知などはその一例だが、それだけでは犯罪は防げない、あるいは抑制しにくいというのが分かってきたのが現在地だといえる。

セルフレジは顧客が自ら商品の“スキャン”を行なう性格上、未会計の商品の持ち出しを可能にしてしまう抜け穴がいくつかある。

シンプルなものとしてはスキャンした“フリ”をして商品を別のバッグに移してしまうスキャン飛ばしがあり、日本では「もやしパス」と呼ばれる高額商品の代わりに安価な商品のバーコードをスキャンさせて会計を偽るやり方のほか、シールそのものを貼り替えてしまう行為など、さまざまだ。

もちろん、うっかりミスというケースもあるため、すべてが意図的な犯罪に結びつくわけではないが、監視カメラ等が設置されているなか、店員の目をすり抜けて犯罪行為に手を染めるケースは後を絶たない。

これを検知するのが最新のAI技術だ。ここ数年は画像解析AIの大幅な進化もあり、POSメーカーを中心にさまざまな製品が市場投入され、米国等ではすでにWalmartなど大手チェーンをはじめ複数の小売店舗が導入しており、稼働を開始している状態だ。

セルフレジが利用者の挙動を監視し、上記の不正行為に当てはまると判断した場合はセルフレジを監視する店員の端末にアラートが表示される仕組みで、不正行為を経ての商品の持ち出しを事前にストップするという流れ。ただし、ここで難しいのが「機械が不正を検知したとして、それをどう犯罪防止に結びつけるのか」という店舗オペレーションの部分。誤検知の問題のみならず、実際にアラートが上がったとして店員がどう顧客のセルフ会計に介在するのかが難しい。

商品をスキャンしている段階では“犯罪“ではないため、不正行為の立証が難しい。

かといって個々の問題に店員が対処できるほど人員に余裕はなく、いざ不正行為があっても警察対応が難しい。

また“逆ギレ”というパターンもあり、先ほどのNRFのレポートでは2024年に78%の小売事業者が「万引き犯の暴力性や攻撃性が増している」と回答している。

そのため、何か問題があって一般店員にこれら行為の制止権限を与えていない店舗が大多数で、ブランド品など一部高額商品を扱う特殊なケースにおいて専門員を配置して対処に向かわせるといった、コスト高でやや消極的な方策を採らざるを得ないのが現状だ。

2026年1月に米ニューヨーク市内で開催されたNRF Retail's Big ShowにおけるFujitsu FrontechのAIレジの例

万引きやセルフレジ不正の対策は長期追跡型に

記事冒頭写真のSaks Fifth Avenueは米国を代表する高級百貨店チェーンだが、説明にもあるように今年初頭に連邦破産法11条(Chapter 11)を申請して事業再生フェイズに入った。

こうなった最大の原因は、競合にあたるNeiman Marcus Groupの約26億ドルという買収負債が高金利時代において重石となりキャッシュフローを圧迫したことだが、もともとSaks自体財務的にそこまで余裕がある状況ではなく、その遠因となっていたのがコロナ禍前後に顕著になったオンラインへのシフトを含む人流の変化と、今回のテーマである犯罪対策費用の数々だ。

もともと高級店は単価の高い商品が多いため攻撃のターゲットにされやすい宿命があり、結果としてその費用負担も大きいということのようだ。

こうした経緯もあり、小売店舗でも先進的なケースでは犯罪行為のパターンを分析しつつ、“比較的長期”でその行動や個人を追いかけるという方向にシフトしつつある。

よく紹介されるのがディスカウントチェーンの米Targetだが、同社では独自の「Target Forensic Lab」という専門部隊を抱えており、各種法的機関と連携しつつ、独自の犯罪分析や個人追跡を行なっている。また不正解析のシンプル化による精度向上と人流のスピードアップを兼ねてセルフレジでのスキャン数を最大10アイテムまでに限定したExpress Self-Checkoutの導入や、セルフレジでのAI追跡システムであるTruScanの採用など、効率化と不正対策の両立を目指している。

だがTargetで最も特徴的なのは「長期での犯罪の追跡」だ。

前述のように、店を出るまでは「商品の窃盗被害(Merchandise Theft)」として扱うのは難しく、仮にここで止めたとしても重犯罪にはならず警察での検挙には至らない。市や州によっても異なるが、重犯罪として扱う閾値まで金額が達していない可能性があるからだ。

一部高級店を除いて店舗側でもそのための人員を配置しておらず、そもそも店員に権限を与えていない。その代わり、セルフレジや店内の防犯カメラでデータを解析して犯罪の証拠となる情報を蓄積し続け、この情報が一定の閾値に達したタイミングで実際に拘束や警察等による検挙といった強硬手段に移行する。興味深いもので、この手の犯罪は必ずといっていいほど再犯するケースが多く、特に一度成功して味を占めた人間は再び同じ行為に手を染める。

結果として、こうした「2回目以降の再来店」が店舗にとっての狙い目となるわけだ。

米ニューヨークのタイムズスクエアにあるTargetの店舗

日本での製品やサービス例を紹介

セルフレジを中心とした商品の窃盗被害への対策は米国を中心に海外の方が日本よりも進んでいるといわれる。

理由は日本に比べて米国での犯罪被害率が大幅に高いことに加え、日本国内では食料品の万引きが中心なのに対し、米国では犯罪ビジネス(ORC)に近い金銭を目的とした大規模な窃盗が被害金額を大幅に引き上げているという点にある。

一方で近年でも日本の小売店がPoC(実証実験)導入するケースが増えており、2026年以降は本格導入に向けた動きが見られるかもしれない。

今回、2月に開催された「スーパーマーケット・トレードショー(SMTS)2026」と3月の「リテールテック」で展示されていた最新ソリューションをいくつか紹介しておく。

まずはSMTSの東芝テックブースで展示されていた「後方チェックシステム」だ。

従来型のセルフレジでは前述の不正対策をはじめ、アルコールなどの年齢制限商品販売における確認や券面ベースの商品券等、店員が逐次該当のレジに出向いて処理を行なうといった形で効率が悪かったが、このシステムではセルフレジが設置されたエリアの出口付近に集中型のチェックアウトゲートがあり、ここでセルフレジが会計時に出力したレシートのバーコードを読ませることで一括対応するという仕組み。

つまり、不正が検知されようが年齢確認商品が会計時に含まれていようが、いったん会計を通過させてしまい、出口でセルフレジに蓄積した情報に紐付いたレシートを読み取ることで一度に対応するというもの。

もし不正をした可能性があるという“フラグ”が立っていた場合、レシートと商品を突合すれば不正スキャンがあるか分かる。シンプルだが効率的で非常に面白いアイデアだ。

SMTS 2026で展示されていた東芝テックの「後方チェックシステム」

SMTSでもう1つ興味深かったのは寺岡精工の「Shop&Goはかりカート」だ。

同社は“肉のパック”といった重量が価格に反映されるパック商品の不正スキャンを防止する「はかりセルフ」の展示を行なっていたが、もともと“はかり”メーカーだっただけあり、重量センサーを組み合わせた非常にユニークなサービスを持っている。

「Shop&Goはかりカート」は同社のスマートカートソリューションである「Shop&Go」に重量センサーを組み合わせた不正検知システムで、スキャンされた商品がカートに投入された際、あらかじめ記録されている重量データと商品の実際の重量を比較して不正が行なわれていないかを検知する。

寺岡精工の「Shop&Goはかりカート」

もっとも、重量が比較的一定の範囲に収まるパッケージ商品の場合はいいが、果物や野菜等の重量が一定しない商品もスーパーには陳列されている。同社によれば、こうした重量の“ゆらぎ”はカートを利用するたびにデータとして蓄積され自動学習し、将来的により正確な不正検知が可能になるという。

カートに重量センサーが搭載されており、スキャンされた商品がカートに投入されたタイミングで店舗側がバックエンドで持っている重量データと比較し、きちんと当該の商品がスキャンされたかをチェックする

続いてはリテールテックの日本NCRコマースのブースで展示されていた不正防止ソリューション。NCR(NCR Voyix)は小売向けソリューションでは長い歴史を持つメーカーだが、本国米国ではすでに何年も前からセルフレジでの不正防止システムの提供を開始しており、日本でもPoCレベルでの導入が進みつつある。

基本的にはセルフレジ上部のAIカメラを使って行動を解析、必要に応じてアラートを出すというものだ。冒頭でも触れた典型的な不正パターンの学習はすでに済んでおり、日本の顧客に向けてチューニングを行なっている最中だといえる。

日本NCRコマースの不正防止ソリューション。AIカメラで行動を追跡する
未スキャンのもの等、必要に応じて操作画面に警告を出せる
例えばこうした6缶入りの包装商品で、缶1つ分のバーコードしかスキャンしなかったといった“ミスマッチ”を画像解析で警告する

リテールテックでもAIカメラを使ったセルフレジでの不正防止ソリューションは複数社が展示しており、東芝テックでもSMTSに引き続き展示が行なわれていた。いくつか特徴があるが、新型のセルフレジでは標準で関連機能が組み込まれて出荷されたり、写真にあるようにスキャン履歴を画像解析だけでなくレシート型のジャーナルで事後確認できたりと、比較的こなれた印象がある。

実際、公表はできないもののすでに複数社での導入検証が進んでいるとのことで、近い将来にも実際にお目にかかるケースが見られるかもしれない。

リテールテックでの東芝テックのフルセルフ不正検知システムの展示
スキャン履歴はこのようなレシート型のジャーナルでも確認できる

セルフレジ自体の不正検知システムの展示が日本国内でも増えてきたのが分かるが、最も注目したいのは、やはり東芝テックに展示されていた「AI-app人物検索」だ。

Safie(セーフィー)が提供するソリューションで、通常時からセキュリティカメラ等を通じて収集した画像のうち、頻繁にフレームインする人物を“ハイライト”する機能があり、こうしてピックアップされた人物に後から“マーカー”を入れておくことができる。

セキュリティカメラ等の映像や実際の店内の利用(不正)状況から、怪しいと判断した人物に“マーカー”を入れることで、再来店時にアラートを流せるという仕組みだ。

先ほどのTargetの例にある「長期追跡」で重要なものであり、特に「この手の犯罪は再犯しやすい」という特性を突いたサービスといえる。以前に紹介したAWLのソリューションもこの点に注目したもので、Safieの場合すでに280社以上の導入事例があるという。

SafieのAI画像解析による人物追跡ソリューション。ハイライトされた人物をマークする機能がある
Gloryのブースでも同様のソリューションが展示されていたが、こちらもやはりSafieの技術をベースにしているという

まとめとしては、セルフレジの不正利用対策等、こうした犯罪の蓄積による被害にはピンポイント対策のみならず、複数の対策を組み合わせて再犯を防止し、できるだけ被害額を抑え込んでいくことが必要だ。

海外ではすでに導入企業で実績が出始めているほか、日本国内でも導入企業が増えることで知見の横展開が可能となり、今後2~3年ほどで不正対策におけるトレンドががらりと変わることになるかもしれない。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)