鈴木淳也のPay Attention
第271回
8ピンから6ピンへ カードの金属端子にみる最新の国内独自クレカ事情
2026年3月24日 08:40
先日、CNET Japanに「『FeliCa一体型のクレカ』が消えつつある理由--iD、QUICPay、そしてSuicaも?」という記事を寄稿させていただいたが、この取材過程で小耳に挟んだ話に「最近になり、“接触部分”の小さい“タッチ”も可能なEMV単体カードの値段がすごく下がってきている」というのがあった。
FeliCaの機能を組み込んだ国際ブランドのクレジットカードの選択肢が年々減りつつあるというテーマでの取材だったが、これと同時並行で「EMV(EMVCo準拠の国際ブランド)の(FeliCa機能を持たない)カードが“タッチ決済”可能ながら、非常に競争力のある値段でカード会社への売り込み攻勢をかけている」という構図が浮かび上がってきた。
この「“接触部分”の小さいEMV単体カード」だが、その特徴はIC付きクレジットカードの露出している金属端子の面積が日本国内で見かける従来型のカードに比べて小さい点にある。
冒頭で紹介したメタルカードがそのサンプルだが、端子の数にして「6つ(6ピン)」であり、日本国内でよく見かけるカードの端子数が「8つ(8ピン)」であることを考えると、面積にして2~3割程度小さくなっていることが分かる。
日本国内でこのタイプのカードを採用した事例としてはメルペイの「メルカード」が知られているが、特に新興のフィンテック企業などで好んで採用される傾向があるようだ。
価格面もさることながらデザイン的な自由度が高く、「物理カード到着後にアプリからアクティベート」といった機能の実現まで、採用側のニーズに合致した部分が大きかったのだと思う。
今回は、この「“接触部分”の小さいEMV単体カード」で日本への本格進出を始めた仏IDEMIA(アイデミア)に、最近の日本国内でのカード事業の状況について話を聞いた。前回から3年ぶりとなるアイデミアジャパン代表取締役の根津伸欣氏へのインタビューとなるが、このトレンドをどう見ているのか。
「日本の決済トレンドがいい流れにきている」
前回のインタビューでは、2022年6月に認定を取得して稼働がスタートした川崎の発行センターの話をしていた。IDEMIA(旧Oberthur)は、Thales(旧Gemalto)、G+D(Giesecke+Devrient)などのライバル企業と並んで“スマートカード”の世界でトップに位置するベンダーの1社だが、日本に“発行”拠点を持っていなかったため、国内で高いシェアを持つ大日本印刷(DNP)や凸版印刷といった企業と競合面で不利な状況にあった。
しかし、川崎に発行センターを設置したことで券面印刷からカードへのデータの書き込みまでを国内で完結できるようになり、カードそのものは価格競争面で有利なグローバル単位での一括調達を行なうため、依頼から発行までのリードタイム短縮と価格競争での優位性を両立させることが可能になった。
根津氏によれば、世界で年間に発行されるカードの枚数は30数億枚ほどで、日本国内では5,000~6,000万枚くらいだと認識しているという。世界でもトップシェアを誇るIDEMIAの調達量を考えれば、これが競争上優位となるのは想像に難くない。
またコロナ禍以降はスマートカードの世界でも半導体不足が大きな問題となり、日本国内でもSuicaなど交通系ICカードの新規入手が難しくなったことが記憶に新しい。IDEMIAの場合、自社IPのICチップを持っており、競合他社と比べてもこうした事態においてカードの安定供給が可能という点で有利だ。
このほか、近年日本でも利用が急速に進んでいる国際ブランドのカードでの“タッチ決済”は、先行する欧米での実績から多くの知見を備えており、加えて高級カードでの採用が増えているメタルカードは日本国内で唯一自社製造できる拠点を持っているため、デザイン上の差別化も可能だという。
これだけを見るとグローバル準拠の話が中心のように思えるが、日本の“顧客”は品質に非常にシビアなため「『傷一つあってもいけない』という極めて高い品質基準に対応するため、海外拠点では行なわないような多重のチェックポイントを設け対応している」(根津氏)というように、一定以上の要求品質を満たしたうえでグローバル基準を持ち込んでいる点に特徴がある。
加えて、日本国内のカードではJIS規格により磁気ストライプが裏面(JIS1/ISO)のみならず、“表面”にも磁気情報が印刷されている(JIS2)。これはカードを読み取る機器によってカード表裏のいずれかが読み取られるかが決まるという両面磁気構造が必要なためだが、表面については磁気が印刷されていることを隠蔽する処理が求められ、こうしたコスト増加要因になる日本独自の仕様にもきちんと対応したうえでコスト面での優位性を保てていると同氏は述べている。
そんなIDEMIAが川崎の発行センター稼働から3年半を経てどのように日本の決済トレンドが変化したと見ているか、根津氏は「まだ地方との温度差があるものの、コロナ禍を終えて非接触が一般的に受け入れられ、街を見れば普通に非接触で支払っている姿が見られるようになった。いい流れがきている」という。
FeliCa機能を搭載した“コンボカード”は減ってきているものの、それを補うかのように国際ブランドの“タッチ決済”が普及してきており、グローバル基準として知見を持つ同社が優位な環境ができつつあるということだ。以前のインタビューでは「FeliCa対応についてはもう少し先を見ていきたい」とコメントしていた同氏だが、現状のFeliCa対応における考えは「10年先を見て、投資に見合うだけの需要がFeliCaにあるか。そこを判断しなければならない」(根津氏)ということで、今のところIDEMIAとしてFeliCaを扱う計画はないというスタンスだ。
8ピンから6ピンへと向かうクレカ
IDカード(スマートカード)は、国際標準規格として「ISO/IEC 7816-2」でその仕様が定められている。ここでは接点となる金属端子(コンタクトプレート)の“ピン”の仕様が明記されており、その役割とともに“8つ”のピンが記されている。それにもかかわらず、IDEMIAによれば“6ピン”が実質的なグローバルスタンダードの仕様であり、“8ピン”は実質的に日本独自仕様と呼べる状況にあるという。
実際、筆者が持つ海外発行カードはすべて6ピン仕様だし、検索等で出てくる海外発行カードはすべて6ピンのものだ。
ISOの仕様として8ピンが記載されているにもかかわらず、なぜ実質的に6ピンが標準仕様となり、広く利用されているのか? その理由はコストと2000年以降のトレンドの変化にある。
まず、8ピンから6ピンになることでコンタクトプレートの面積が減少する。コンタクトプレート表面は“さび”を防ぐために金などの貴金属でメッキ処理が行なわれており、2~3割の面積減少でも大きなコスト削減になる。加えて、カード全体に占める端子やICチップの面積も減少するため、折り曲げによる故障に耐性ができる。
もう1つ重要なのは“タッチ決済”の世界的な普及だ。2010年代に入り、欧州や豪州などで“タッチ決済”が急速に普及を始めたが、非接触通信のためのアンテナ領域の確保において、コンタクトプレートの面積減少は設計上プラスになる。
加えて、非接触対応ながら面積的な余裕ができたことで、さまざまな券面デザインのカードが登場することになる。近年、ユニークなデザインのカードが多数登場してきているが、こうしたトレンドの変化の恩恵を受けたものもある。
おそらく一番の理由は前述のコスト効果と非接触対応にあると思われるが、IDEMIAのグローバル規模の調達力と合わせると、これが競争上優位に働くのは想像に難くない。
「8ピンから6ピンに減らして、残りの2ピンはどこに行ったの?」と疑問を抱く方がいるかもしれない。下図は入手した資料から図版を起こしたものだが、6ピンのカードで“削られている”のは「C4」と「C8」の部分。両者は未使用のピンであり、その扱いもあくまで「任意」となっている。それを考えれば、日本国内でも8ピンではなく6ピンのカードを採用しても問題なさそうだが、実際には現状でも多くのカードが8ピンのものであり、特に銀行や系列のカード会社などを中心に移行にあまり乗り気ではないのが実態だ。
理由として、磁気カードの規格を定めたJIS2と合わせ、全国銀行協会などが標準のカード形式として8ピンのものを定めており、保守的な考え方から6ピンの採用を避ける傾向があるようだ。
もともと「C4」「C8」は未使用でオプション的な扱いのため、これを利用して独自の金融サービスなどを提供する計画が銀行などにはあったといわれている。一方で、8ピンを前提にしたカードに対し、ATMなどの読み取り機では“それを前提に”機器が設計されたこともあり、6ピンのカードが挿入された場合に正常に動作する保証がない。そのため、保守的思考から6ピンの採用を意図的に避ける……という流れになっているようだ。
だが、アイデミアジャパンでHead of Payment Services Japanの若松敬一郎氏は次のようにコメントしている。
「いわゆるペイメントのトランザクションにおいて8ピンでなければいけないというケースはないと認識しており、まったく問題ないと考えている。ただしATMでの現金の引き出しはまた別に考えており、われわれも対応中だが、おそらくそこも6ピンで問題ないという見解は得ている」(若松氏)
実際、問題ないという認識ではあるものの、ATM利用のケースを想定して100%の回答ができず、最終的に6ピンを採用するかはカード会社側の判断に委ねられるという状態だ。
実際、6ピンのカードを持った海外からの旅行者が日本に到着してセブン銀行やゆうちょ銀行のATMでキャッシングを問題なく行なえている現状を見る限り、少なくとも最新型を含むほとんどのATMでは問題なく動作する。一方で、地方の小さな金融機関など、例えば30年クラスの年季の入ったATMが現役で動作している可能性がゼロではなく、そこが最後の砦として判断の足かせになっているようだ。コスト面で優位にせよ、それならば多少原価が上昇しても現状はまだ8ピンを選ぶというケースが出てくる。
ただ根津氏と若松氏ともに、最近では6ピンに対する理解も深まりつつあり、そのメリットをもってカード会社に選ばれるケースも増えてきており、実際にその点を積極的にアピールしたいとも述べている。
FeliCaのコンボカード需要が減少し、国際ブランドのカードにおいてもスマートフォンを使ったモバイル決済の利用が増えるなか、グローバルスタンダードを標榜した安価なカードが日本で増加しつつあるというのが、現在決済分野で起きている最新トレンドだ。







