鈴木淳也のPay Attention

第258回

「ファミマカード」一新で描く、ファミマのデジタル戦略

10月1日から新規入会キャンペーンがスタートしたファミマカード。最大で5%の割引がある

既報の通り、ファミマTカードが9月1日にリニューアルされ、「ファミマカード」として生まれ変わった。

最大の特徴は、これまで決済店舗に応じて“Tポイント”が0.5-2%の範囲で付与されていたのが、新カードでは1~5%の幅で“決済金額が割引される”ようになった点で、昨今はポイントプログラムで経済圏に囲い込むクレジットカードが多いなか、“目に見えるお得”を前面に出したところが興味深い。

2007年に登場したファミマTカードだが、2019年11月にはファミリーマート自身がdポイントと楽天ポイントの受け入れを開始し、3つのマルチポイント制になった。2024年4月にはTポイントがVポイントへとリニューアルされ、運営主体もTポイントを運営していたカルチュアコンビニエンスクラブ(CCC)から、ポイントマーケティング会社のCCCMK、そして26年4月にはVポイントを推進する三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)傘下のVポイントマーケティングになるなど、さまざまな変革を経ており、時代に即した形に変化している。

加えて、カード自体も“今どき”を反映して券面にカード番号や名前などを印刷しないシンプルなデザインへと変更され、まったく新しいものとなった。

ファミマTカードがファミマカードへとリニューアル
新旧カードの特典の違い
新カードのデザイン。自然光や蛍光灯の下では表面の反射が激しく、写真撮影時に文字が浮き出るようにするのに苦労した

ポイント付与ではなく「請求時割引」の狙い

リニューアルの経緯についてファミリーマート金融事業本部金融事業部部長の寺田晴彦氏は次のように説明している。

寺田氏:2007年発行開始から現在に至っていますが、市場環境もだいぶ変わり、その中で「ファミペイ」アプリを立ち上げ、ポイント対応もdポイントと楽天ポイントのマルチにしました。結果、ポイントの使われ方も分散してVポイントが下降傾向にあったこともあり、市場に出ている約300万枚のカードをもう一度活性化する意味合いも込めて、仕様そのものを見直しました。結果、ファミペイとの連携時に請求額を最大5%割引し、請求のタイミングで還元するというやり方に変えました。

もともと(ファミマ(T)カードを発行している)ポケットカードのP-oneカードにあった“どこで使っても1%還元”という仕組みをファミリーマート向けにカスタマイズし、“ファミリーマートで使っていただくクレジットカードの中では一番お得”を目指して商品設計しました。

ファミペイ連携すると5%で、未連携で3%というのは、ファミペイもダウンロード数が約2,700万まできており、多くのお客様に使っていただいています。このファミペイとの親和性をより高めるためにワンボタン連携を実現しつつ、連携によって還元の魅力をより高めていきたいという考えです。(ファミリーマートではない)JCB加盟店でも1%還元ですが、従来のファミマTカードでは0.5%だったわけですから、すごく魅力のあるカードになっているのではないかと思います。

ファミリーマート金融事業本部金融事業部部長の寺田晴彦氏

気になる部分はいくつかあるが、まずはポイント還元から請求額割引へと変更された経緯だ。

ポイントプログラムがマルチ対応になったため、特定ポイントへの還元はカードの商品性の魅力を高めるには弱いというのも分かる。またプラスチックカードである以上、ファミマTカードのようにブランドごとのカードを用意する必要があるかもしれない。このあたりについて寺田氏は次のように述べている。

寺田氏:マルチにした一番の理由は集客を高めることです。3つともポイントを持っているお客様もいらっしゃいますが、例えば楽天ポイントはECサイトでお買い物をされたときのポイントをたくさん保有されている方がいらっしゃいますので、ファミリーマートでそのポイントを使ってお買い物をしていただきたい。

dポイントも同様に携帯料金の支払いでdポイントが付与されますから、それを小額決済で使う場としてのコンビニエンスストアは使い勝手がよいなど、ユーザー層の幅を広げていきます。マルチ対応にしたことでVポイントが相対的に下がったという話はありますが、以前は3つのポイントを持っていてもファミリーマートではTポイントしか使えなかったので、『Tポイントを提示していたが本音では他社ポイントを出したかった……』という方もいらっしゃいました。それが単純にスイッチしたのだと捉えています。

Vポイント単体では比率は減っているように見えますが、全体からいえばマルチ対応によりバランスが取れたのだと判断しています。

寺田氏によれば、他社のポイントプログラムと連携したカードも検討していたものの、そうなるとポイントと一蓮托生になるという課題もある。ポイントを活用しなくても魅力あるカードになれるのではないかと、あえてポイントを切り離したというのが今回のリニューアルの経緯だ。

もう1つの気になる部分はリニューアルのタイミングだ。マルチ対応は2019年だったわけで、仮にコロナ禍で計画がいったん凍結されたという事情があったとしても、やや時間がかかっているという印象を受けなくもない。

寺田氏:大きいのはキャッシュレス決済の進展です。経済産業省が出しているデータでもキャッシュレス決済比率が40%を超えていますし、ファミリーマート自身もほぼ政府の発表の数字と同様の水準にあります。私どもとしては国際ブランドを冠した一般的なクレジットカードを使っていただくよりは、より魅力の高い“ハウスカード”を使っていただく方が還元の恩恵を出しやすくなります。キャッシュレス決済では手数料の支払いがありますが、これは外部に支払うよりも(伊藤忠商事の)グループ会社であるポケットカードに払った方がメリットがあります。

加えて、還元の魅力を訴えるなかでファミペイとの連携を高め、双方の利用を促すという狙いもあります。ファミペイのアプリには決済機能もありますが、決済機能まで使われている方と、その手前のいわゆる買い物アプリとして使っている方がいらっしゃいます。

私どもとしては決済/電子マネー機能をより使っていただきたいので、それらが魅力的に見える商品設計にしています。一方でクレジットカードの方を好むお客様もいらっしゃいますので、他社のクレジットカードを使うのであればファミマカードを……ということでリニューアルを実施し、ファミマカードへ誘導してきたいと考えています。

以前にもSNSなどで話題になったが、手数料の支払いを避けるために現金やファミペイを使ってほしいというポスターを本部が作成し、一部ファミリーマート加盟店がそれらを掲示していた。現在ではこれに加えてファミマカードを絡めたバージョンも存在するようで、同社として還元の魅力をアピールしつつ“ハウスカード”へと誘導していきたいという考えのようだ。

ファミリーマート店舗で見かけたファミマカードの勧誘ポスター

また(ファミペイ連携で)ファミリーマート店舗での常時5%割引という還元率の高さは競合と比べ際立っている。この還元率の設定についてポケットカード営業本部営業第一部長の小川岳生氏は次のように説明する。

小川氏:還元率でいえば、他社のナンバーレスカードでは、コンビニのようなよく使われるお店で高還元をすでにやっていますので、われわれは後発となります。今までと同水準の2%では勝負できないということで、区切りとしてある程度インパクトのある“5%”という数字を出すことが、まず考えとしてありました。さらにファミリーマート以外でも1%還元となっています。他社の高還元率のケースだと特定加盟店以外では0.5%に設定されています。ですので、1%と5%を組み合わせることでそれなりの競争力を持たせられるではないのかと。

もう1つ、P-oneカードでの実績ですが、他のカードに比べて利用単価が高い傾向があります。やはり、どこでも常時1%還元というのは大きく、それが実際の利用につながっているというのが私の考えです。

ポケットカード営業本部営業第一部長の小川岳生氏

ファミマのデジタル戦略を支える「ファミペイ」

寺田氏が触れているように、ファミリーマートの基本戦略としては中心に「ファミペイ」があり、ファミマカードはどちらかといえばファミペイで取りこぼしていた層に訴求することが狙いにある。ファミマカード単体でのお得感を打ち出しつつも、「ファミペイ連携で5%割引」のような形式になっているのは、やはりファミペイへと誘導しつつ、その魅力を高めることにある。

とはいえ、ターゲットによって商材を使い分ける必要があり、今回はまずリニューアルされたファミマカードで他社カード利用層へ訴求しつつ、特に強化対象セグメントとして若年層を狙っていくと両氏は述べる。

近年、クレジットカード各社は若年層狙いの施策を次々と打ち出しているが、銀行口座も含め学生や社会人が最初に触れた金融サービスがそのまま生涯のメインの取引手段として活用される可能性が高いというのがその理由だ。

もともと、初代のファミマTカードを始めてから20年近くが経過しており、当時のメイン利用者はリタイアに近い年齢に達しつつある。その意味で、リニューアルを機に年齢層を一気に引き下げたいというわけだ。ファミリーマートはコンビニエンスストアという生活に身近な拠点を足場にしつつ、その接点の多さでこのターゲット層に近付こうとしている。

興味深いのはリニューアルされたファミマカードが決済時の還元手法を“割引”で行ない、それをセールスポイントとしてアピールしている一方で、各種キャンペーンの還元はすべてファミペイで受け取るファミマポイント経由となっている点だ。

その場合、基本的にはファミペイを通してポイントを利用する形となり、クーポンなどを含むお得関連の情報をファミペイでチェックする。クレジットカードを好む利用者をファミマカードでターゲットにしつつも、やはりファミペイが顧客接点の軸になっていることがうかがえる。

実際、これだけキャッシュレス決済比率が上がってもクレジットカードを極力使わないという利用者は一定数存在するわけで、その意味ではファミペイの方がターゲット層が広い。ただし、前述のようにファミペイを電子マネーの決済手段として利用する層はアプリの2,700万ダウンロードの中でもマジョリティではなく、この決済機能の積極活用を促していきたいというのがファミリーマートの考えだ。

その施策の1つといえるのが2024年にスタートした「ファミマメンバーズクラブ」で、ファミペイを通じての決済や来店回数に応じてランキングが用意され、より多くの特典を得られるようになる。

今年10月1日から実施されているファミマカードの入会キャンペーン。還元はファミマポイントで行なわれる
ファミマメンバーズクラブのランキング

「チャージ」という課題 呉越同舟のATM新戦略へ

このようにファミリーマートのデジタル戦略の中心として、そして電子マネーでの決済手段として同社にプッシュされるファミペイだが、翌月払いを選択しなかった場合の残高チャージ手段としては、「店頭のレジ」「銀行口座登録」「JCBカード(含むファミマカード)」の3通りが存在する。ただ、PayPayなどの競合の決済サービスがセブン銀行ATMなどのチャージ手段を持っているのに対し、現金チャージの手段がやや限られているのが難点だ。

理由の1つとして伝えられているのがファミリーマート店内に共通化された銀行ATMが存在しない点で、セブン銀行ATMなどに比べて機能面やサービス面で不利とされる。ファミリーマートは現在、全店舗の7割近くにイーネットのATMが設置され、約3割がゆうちょ銀行ATM、残りが各地方やエリアに設置される地元金融機関のATMとなっている。

イーネットは複数の銀行が出資している共同ATM運行会社で、基本的には各銀行の出張所に近い。セブン銀行ATMなどと違い、イーネット自身は銀行業務を行なわず、あくまでATMの保守管理を担っている。先日、ファミリーマートの親会社である伊藤忠商事がセブン銀行との資本業務提携を発表しており、全国のファミリーマート1万6,400店舗にセブン銀行ATMを導入する計画を明らかにしている。

両社に確認したところ、時期は未定ながら既存のATMをセブン銀行ATMへと置き換え、運用はセブン銀行ATMとなるものの、ATMの本体デザインなどをファミリーマートに準拠したものにする計画だという。

もともと、伊藤忠商事は近年急速拡大する金融サービスのデジタル化で、ファミリーマートの店舗ATMを通じたサービス提供の幅が限られていることを問題視しているといわれる。一方のセブン銀行はもともとの親会社だったセブン-イレブン・ジャパンがコンビニエンスストア本業への集中を理由に資本関係の見直しに着手したのを機に、売上増加の契機となるATM設置場所の拡大に向けた提携先を模索していた段階でのマッチングもあり、話が急速に進んだという背景がある。

この流れがファミペイの戦略にどうインパクトを与えるのかは不明だが、戦略の幅が広がるのは間違いなく、今回のファミマカードの話と合わせて数年先の展開を考察してみるのも面白いかと思う。

セブン銀行ATM
イーネット本社が入居する日本橋安田スカイゲートビル

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)