西田宗千佳のイマトミライ

第338回

グーグルとアドビが示すAIエージェント時代の競争 AIが維持するブランドと巨大投資

アドビのデジタルマーケティング事業向けイベントである「Adobe Summit 2026」

4月19日から25日まで、筆者は米ラスベガスを取材で訪れていた。アドビのデジタルマーケティング事業向けイベントである「Adobe Summit 2026」と、Googleのクラウドインフラ部門であるGoogle Cloudのイベントである「Google Cloud Next 2026」を取材するためだ。

Googleのクラウドインフラ部門であるGoogle Cloudのイベントである「Google Cloud Next 2026」

どちらのイベントも、もう長く取材し続けている。「企業向けが中心」という共通項はあるが、業態も顧客層も異なり、それぞれ取材していくと色々と勉強になる。

他方、昨年・今年と、キーワードには強い共通性がある。いわゆる「AIエージェント」への取り組みだ。

個人向けから企業向けまで、いまやITに関わるあらゆる企業がAIエージェントを軸に回っている。もはや「いつかくる概念」ではなく、当たり前のように使い始める存在に近づいている。クラウドインフラやサービスを提供する企業にとっては喫緊の課題であり、すでに必須の要素でもある。

一方で、定義にはどこかふんわりとしたところがあり、いまだピンと来ていない人もいそうだ。

今回は2つのイベント取材から、「AIエージェント前提時代とはなにか」を改めて考えてみたい。

TikTokの寿命は10秒。爆速でコンテンツが陳腐化 人の管理への疑問

まずシンプルな話として、AIエージェントの本質とはどんなものなのだろうか?

次の写真は、Adobe Summitの基調講演で示されたものだ。

人間の作業から「AIエージェントとの協業」の時代へ

これまで我々は、多くの仕事を1つ1つこなしていた。複数同時に作業するにしても、我々の腕は1セットしかないので、細かく分けつつ順番に作業をしていくしかない。

しかしAIエージェントとともに働く時代になると、作業は文字通りの「パラレル」になる。人間が自然言語などで命令を与え、多くのAIエージェントが自律的に作業を行ない、結果としてより多くの作業をこなせるようになる。

ただそのためにはより多くのAI推論を行なう環境が必要になるし、それぞれの仕事をするAIエージェントの開発も必要になる。

逆に言えば、世の中はそれを必要としているからこそ、多くの人が多数のジョブをコントロールして目的を達成する仕組みが必要になっている……ということである。

我々の働き方は改善が必要であり、負担を軽減する必要もある。人を減らすために使われるのでは、と危惧する声もあるが、少なくとも関係者が表向きに話す理由は違う。

例えば次のような情報もある。

アドビ調べによる「コンテンツ流路によるコンテンツ寿命の半減期」。TikTokのビデオはなんと10秒でリーチの半分に到達

このデータは、アドビが調べた「コンテンツ流路によるコンテンツ寿命の半減期」である。半減期というのは、1つのコンテンツに対する全ての反応のうち、半分が発生するまでの時間のことを指している。

YouTubeの動画では10日弱かかるが、Xのポストでは49分、TikTokに至っては10「秒」しかかからない。メディア特性が違うということもあるが、要はそれだけ、世の中のコンテンツや話題の消費が加速しているという、1つのデータでもある。

アドビのような立場としては、マーケティングコンテンツへの需要が高まっているという主張でであると同時に、「すべてを人間が管理できるのか?」という疑問につながってくることになる。

ブランド価値をAIが維持する時代に

そこで今回アピールされたのは、「ブランド価値の維持に対して、どれだけAIが助けになるのか」ということだ。

AIで量産する、という話はこれまでも出てきたが、結果として広告マテリアルの質が落ちては意味がない。ここまではAI自体の追加学習などで制御する、という話が多かった。それはそれで有用だと思うが、問題は管理だ。担当者が目視でブランド・アイデンティティの維持をチェックするのは、簡単な話ではない。ここでの失敗は、広告どころかブランド価値への毀損につながる。

一般的な手法としては、社内でブランド価値に関するガイドライン文書が作られ、関係者の間で共有されるパターンだろう。現在はその文書をAIも読み、コンテンツ生成のルールとして使うようになった。

ただ、製品の変化やプロモーションの変化により、ブランドガイドラインは常に変わる。

そこで今回アドビが提示したのは、AIエージェントがブランド価値を学習、自律的に管理を行なう「Adobe Brand Intelligence」というサービスだ。

AIエージェントがブランド・ガイドラインに応じ、デザインだけでなく、コピーの適切さやコンプライアンスへの準拠なども確認する。さらに、生成コンテンツの組み立てについて、内容をAIが考えて、適切なアセットの利用や構図なども指示する。

Adobe GenStudioを使い、チャンネルごとに適切なコンテンツを生成

Adobe Brand IntelligenceではAIがチームの作業をチェックし、人間によるレビュー時のコメントや承認動作といった、人間の判断から、リアルタイムにブランドの文脈を学習し続ける。

そのため、ブランド・ガイドラインはAIと共に刷新し続けられ、企業の中で生きた指針となる。人はブランドに対する判断とクリエイティブな作業に集中する……というのが理想的な形だ。

さらに今後、マーケティング展開の「予測」も行なう。マーケティング上必要となるペルソナ(商品やサービスを利用する架空の顧客モデル)を設定し、その顧客をターゲットとした場合の反応やキャンペーン効果の予測も行なう。

今回アドビは、デジタルマーケティング全体を統括するツール群を「Adobe CX Enterprise」と名称変更した。ブランド認知を高める要素はその中の一部に過ぎないのだが、人間がAIエージェントとともに働くものとして、わかりやすい存在だ。

アドビは、デジタルマーケティング全体を統括するツール群を「Adobe CX Enterprise」に名称変更

投資は4年で6倍 競合はもはや「大手クラウドだけではない」

Google Cloudは、まさにAIエージェントを支える存在だ。

同社のトーマス・クリアンCEOは、「1年前、私たちはこの同じステージに立ち、AIの新しい未来を約束しました。今日、その未来は世界がこれまで見たことのない規模で現実のものとなろうとしています」と話す。

Google Cloudのトーマス・クリアンCEO

業界全体でAIへの投資規模が拡大しているが、Googleも例外ではない。

Googleのスンダー・ピチャイCEOは、基調講演にビデオメッセージの形で登壇し、設備投資額の変化について次のように語った。

「2022年の設備投資額は310億ドル。それが今年は、1,750億ドルから1,850億ドルに増加すると計画している。わずか4年の間に、約6倍になった」

今年Googleは、1750億ドルから1850億ドルの技術投資を行なう計画

AIバブル的な意味で増えた、というイメージも持たれそうだが、筆者が受けた印象は異なる。ビジネスとしてAIエージェント向けのニーズが拡大し、その状況に合わせているための投資を本格化した……という感じだろう。

Google自身も、AIを使って差別化を進めている。ピチャイCEOは「現在、Googleで新しく作られるソフトの75%がAIで作られ、人間の監査ののちに導入されている」と話す。半年前に比べても50%増加しているといい、当面この勢いは止まりそうにない。

Googleのスンダー・ピチャイCEOは、Googleでは新ソフトの75%がAIによるコーディングになったと説明

グーグル・クラウド・ジャパンの三上智子日本代表は、会場で日本報道陣との取材に応え、次のように話している。

グーグル・クラウド・ジャパンの三上智子日本代表

「ハイパースケーラー(大規模なインフラを持つ大手。一般には、AWS・マイクロソフト・Google Cloudのこと)同士の戦い、と言われることがありますが、もうそういう段階ではありません。AIによって競争自体がグッと大きくなり、枠自体が変わってしまったように思います」

従来、ITを支えるクラウドインフラと言えば大手3社の競争と言われてきた。世界中に巨大なインフラを持ち、投資とグローバルなサポートで鎬を削ってきた……といってもいい。

だが、ここからの競争がAIエージェントを軸にしたものになっていくなら、OpenAIなども競合になり得るし、新興のライバルはどんどん増える。

Google Cloud自体も、Claudeを擁するAnthropicと提携、追加投資も決めている。強い新興企業とパートナーシップを組みつつ、本気で「AIエージェント時代に向けたインフラを準備してきた」と言える。

プロセッサーだけではインフラはできない

Google Cloudの強みは、インフラ・プロセッサー・ソフトウェアとトータルでソリューションを持っていることだ。今年も独自のAI処理プロセッサーの「TPU」の世代を更新し、「TPU 8」シリーズを搭載している。

今年もTPUは進化。推論用の「TPU 8i」と、学習用の「TPU 8t」を発表

同社はこれまでもTPUを使ったインフラを活用しており、データセンターの中で活用し続けている。

Google Cloudでプロダクトマネジメント担当ディレクターを務めるLeo Leung氏は、「ハードウェアを作るだけでなく、ソフトウェアやエコシステムを成熟させ、顧客が使いやすい形で提供できるかが真の差別化になる」と話す。

Google Cloudでプロダクトマネジメント担当ディレクターを務めるLeo Leung氏

「例えばTPUは、複数世代をインフラ内で利用している。TPU v5やv6も用途に合わせて使い分けて、投資効率を上げている。Kubernetes(GKE)などを使ったオーケストレーション層が重要な役割を果たしている。第一希望のチップが利用できない場合にも、スポット利用するインスタンスやGPUなど、別世代や別種類のチップへと自動的にワークロードを振り分ける柔軟な運用が可能になっている。古い世代のチップであっても依然として高い需要と稼働率を維持している」

また、Google CloudはTPUだけでなく、NVIDIAの最新GPU群や、CPUを中心としたインフラも持っている。

「CPU、GPU、TPUの適材適所での組み合わせは必須だ。TPUは効率が良いが、GPUはエコシステムが成熟していて、グラフィックスなどのTPUにはできない処理に優れている。顧客はワークロードに応じてこれらを使い分けており、例えばトレーニングはTPUで行ない、推論は利用可能なリージョンが多いGPUで行なう……といった運用事例もある。特に最近は、フィジカルAIやAIエージェントなど、多彩なワークロードが増えてきた。だからこそ、CPU・GPU・TPUの3種類を最適に組み合わせることが、結果的に顧客にとって最もコスト効率の良い方法になっている」

こうしたインフラへの技術投資は、もちろんGoogle Cloudだけが行なっているわけではない。他の企業も、先端を競うところはどこでもやっているのだろう。

だが、AI自体での競争が加速している今、単にGPUを調達しても差別化は難しい。コストの問題も大きくなり、個々の企業の研究をベースとした「独自の投資戦略」が大切になる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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