西田宗千佳のイマトミライ

第337回

ソフトバンク「Natural AI Phone」 実機から見る可能性と“強すぎる”競合

ソフトバンクが発売する「Natural AI Phone」

4月17日、ソフトバンクは、AIエージェントでの利用を全面に押し出した「Natural AI Phone」を発表した。4月24日発売で、価格は93,600円。他社からの乗り換え(MNP)で購入補助プログラム「新トクするサポート+」を使い、25カ月目に返却した場合、実質負担価格は24円。つまり、月1円で入手できる。

この製品の特徴は、アプリをタップするのでなく、プロンプトでの指示を中心とした「AIエージェント」でスマホを利用する、という点だ。

米Brain Technologiesが開発した「Natural AI」を搭載。同OSを搭載した製品としては世界で最初の発売地域となり、少なくとも1年間、日本国内ではソフトバンクの独占販売となる。

「スマホもAIで変わる」と言われて久しい。一方で、AIの価値だけでスマホの買い換えに至る例もまだ少ない。

そんな中、全面にAIを押し出してきたNatural AI Phoneは、どんな意味を持つのだろうか。

今回はこの点を考察してみよう。

AIをOSの軸に ハードウェアは一般的なものだが……

すでに述べたように、Natural AI Phoneは、OSとして「Natural AI」を搭載している。といっても、ベースはAndroid。今回の製品の場合、Android 15をカスタムしたものである。

Natural AI Phone。カラーはホワイトとブラックがある

そのため、ハードウェアはAndroidスマホそのもの。AI用のボタンが搭載されているのが特徴ではあるが、最近増えてきた構造ともいえる。

実際動かしてみると、ホーム画面(ランチャー)が2つあるような構造になっている。1つは通常のAndroidスマホそのものであり、もう一つは、AIへの文字入力などを中心とした「FocusSpace」というものになっている。

一見普通のAndroidスマホ
AIを中心に使う「FocusSpace」を軸に使うのがメイン

AIをメインに、というのは「FocusSpace」を介した使い方のことであり、一般的なAndroidスマホと同じ使い方もできる、と考えていいだろう。

ただし、普通にAndroidスマホとして使うなら、正直あまり魅力を感じない。デザインは簡素な上に「どこかでみた」感が強く、所有欲を感じさせない。SoCも今となってはかなり見劣りするスペックであり、快適というわけではない。

噂ではあるスマホとの中身の類似が指摘されているが、製造請負事業者が使う基本設計が同じで、デザインが異なる……ということなのだろう。この業界では時々起こることだ。

AIエージェントで「目的志向」かつ「アプリでない」使い方を

そこでなにが差別化点になるのか、というと、「Natural AI」がもたらす「Generative(生成型) Interface」、ということになるだろう。

ではその正体はなにか、といえば、要は「AIとの対話によっても目的を達成していく」という、目的志向のユーザーインターフェース、ということになる。

米Brain TechnologiesのCEOであるジェリー・ユー氏は、目的志向であるNatural AIのコンセプトについて、次のように説明している。

ユー氏(以下敬称略):今は複数のアプリを使い分けることで目的を果たしています。レストランを予約して食べにいく、という行為では5つのアプリを使い分けている。しかし我々は、目的をAIにたずねることで目的を達成します。

米Brain TechnologiesのCEOであるジェリー・ユー氏は、「1つのことをするのに5つのアプリを使い分けている」と現状の課題を説明

具体的には次のようなイメージだ。

例えば、ラスベガスへ旅行に行きたいとする。

現状は、

  • ネット検索する
  • アプリ(もしくはウェブ)でフライトチケットやホテルを予約する
  • 天気アプリで現地の気候を確認する
  • 移動中の情報はメールやメッセージングアプリで確認

といった感じではないだろうか。

それがNatural AI Phoneでは、理想的には以下のような流れに変わる。

  • FocusSpaceに「ラスベガスに旅行に行く」と書き込む
  • AIが情報と自分のスケジュールなどを検索し、まとめてくれる

と、非常にシンプルになる。

Natural AI Phoneの利用例。チャットをしつつAIがGmailなどにもアクセス、必要なことをまとめ直す

また、気になる情報をウェブなどで見ている時には、「AI」ボタンを押すことでその内容をAIに送って覚えておいてもらい、概要解説やAI連携に活用できるようにもなっている。

ウェブを見ている最中にAIボタンを押すと、ページの内容の要約や説明が出てくる

要は、スマホの中で行なうことをAIが覚え、さらにその情報を加味しつつ、利用者が今やりたいこと・スマホにやってほしいことなどをAIにお願いするのが「目的志向のインターフェース」、ということになる。

実際のところ、挙動としてはChatGPTやGeminiなどのチャットAIサービスで行なうことに近い。ではどこが違うのか? ユー氏はインタビュー取材の中でこうも説明した。

ユー:スマホ上ではすでに、多くのAIチャットアプリが利用されています。しかしそれらは、アプリにAIが組み込まれた形。いわば「アプリのサイロ化(AIがアプリで分断されている状態)」です。

私たちは逆の発想をすべきだと考えました。すなわち「AIの中にすべてのアプリを取り込む」というアプローチです。

これを実現するには、現在のAndroidやiOSのように、それらのOS上で動くAIアシスタントを提供するのではなく、OSのカーネル側やフレームワーク層にAIを組み込むことが必須。そのためには、多くの部分に根本的な見直しが必要になります。

米Brain Technologiesのジェリー・ユーCEO

すなわち、アプリやサービスと連携するものの、AIチャットサービスの中で各種要素に接続するのではなく、OSに「チャットからアプリやサービスに連携する要素」を付け加え、連携することを目指しているわけだ。

この種のことをするには、AIの側に「利用者がどのようなことに興味を持ったか」「過去にどのような要素を重視したのか」といった知見が必要になる。

処理はクラウドとデバイス内の両方で行なわれている。とはいえ、プロセッサーがそこまで強力なものではないから、大半の処理はクラウドで処理されることになる。通信は必須であり、5G対応のスマホに機能が載る、というのは実情に合っている。

ただ、現状のNatural AI Phoneが想定通り便利に動いているか、というと、筆者は「ノー」と答える。

ユー氏は「現状この製品は”Day 0”であり、ここから進化していく」と説明する。実際その通りだと思うし、現状ですべての価値を測るのは難しい。

現状、Natural AIが操作できるアプリは「Gmail」「Google マップ」「Google カレンダー」「YouTube」「LINE」「食べログ」「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」に限られている。

我々はもっと幅広いアプリを日常的に使っており、現状では、むしろ制約だと感じてしまう。今後対応アプリは拡大される予定ではあるのだが。

また、AIによる操作自体にはかなり「推論待ち」の時間が発生する。作業の指示だけをして結果が出るまで放置しておく、という使い方で対処はできるものの、従来型の「アプリを操作する」やり方の方が素早いところはある。

今回製品を作るにあたり、ソフトバンクはBrain Technologiesとかなりのやり取りを行なったようだ。その中では推論速度も課題の1つ。今回の製品で「ようやくこれなら使えるだろう」という範囲で推論が終了するようになったので製品化した……という事情もあるようだ。

強すぎる「スマホOS」「大手スマホ」メーカーという競合

Natural AI Phoneのアプローチは、AIエージェントを手がける企業であれば、どこも考えている方法論ではある。Brain Technologiesは「スマホ内で連携」「OSとのコンビネーション」という部分を特徴とし、他のAIサービス事業者との差別化を進めたということなのだろう。

ただ、ここでより大きな競合として考えられるのが「OSのプラットフォーマー」と「他の大手スマホメーカー」である。

Googleにしてもアップルにしても、スマホの中にAIを組み込んできている。サムスンのようなスマホ大手も同様だ。

ただ現状、それらは「翻訳」「要約」「電話」など、個々の機能へのインテグレーションが中心だ。それぞれはかなり便利な機能だが、一方で、「AIだけでスマホを買い換えたい」と思うような便利さを追求できてはいない。

より大きな価値があるAI機能によってスマホが便利になるという姿を見せないと、そろそろ厳しくはある。

実のところ、次にスマホOSのプラットフォーマーが狙うのは、AIエージェントによる価値の向上だ。アップルがSiriを改善するのも、GoogleがGeminiのアップデートを進めるのもこのためだ。

Natural AI Phoneのようなアプローチが成功するなら他社に先んじることができるわけだが、問題は、「より一般的なプラットフォーマーが変化をもたらすのであれば、新興のメーカーを選ぶ意味はあるのか」という点だ。

ユー氏は「アプリ市場を重視する既存のプラットフォーマーには、新しいことはできない」と言う。

それも一理あるが、問題は「構造が新しくても、消費者が支持するとは限らない」という点だ。今はアプリも使いつつ、AIにも頼る方が現実解として使いやすい。

5月にはGoogleの開発者会議である「Google I/O」があり、6月にはアップルの開発者会議である「WWDC」がある。大きな変化はこのタイミングで公開される、と考えるのが自然だ。

だとすれば、どうなるかは「少し待てばわかる」可能性が高く、今の段階で慌てる必要はない……という見方もできる。

「今日から使える」という価値をアーリーアダプターに

とはいうものの、この製品には大きなメリットもある。

それは一般的なAIエージェントと異なり、Natural AI Phoneには「処理した分のコストは消費者の側に発生しない」という点だ。

利用者の求める内容を処理するにはかなりの推論処理が必要になる。なにかを質問するのに比べると処理は多く、複雑なことをさせるほど、より多くの費用がかかってしまう。

だが現状、Natural AI Phoneを使うことによるAIのコストは請求されないので、いろいろな処理を考えて「任せる」形になっても、使う人の負担は通信費と端末の購入費だけで済む。他のスマホメーカー、スマホOSプラットフォーマーも同じことを目指すだろうが、Natural AI Phoneはそれに先んじている。

また、AIエージェントを設定するのも使い込むのも大変だ。

そう考えると、スマホという形で「コストまで含めてパッケージングされている」Natural AI Phoneは、この種のものを体験する上で、よりお手軽なものといえる。

前出のように、AIを軸としたスマホOSの進化も、発表こそあと数カ月で行なわれるだろう。だが一般の人の前に「使える製品」の形で現れるのは今年の夏から秋にかけてであり、半年近く時間がある。

ソフトバンク・コンシューマ事業統括プロダクト本部本部長の足立泰明氏は、この製品のターゲット層を「イノベーターとアーリーアダプターだ」と説明する。

ソフトバンク・コンシューマ事業統括プロダクト本部本部長の足立泰明氏

AIエージェントによる使い方の変化は伝えられ始めているが、それがどんなものになるかを予想できる人は少ない。実際に使えるところまで持っていける人も、現状では限られる。そこでこの製品を投入し、興味がある人に世界観を提供したい……というのが狙いだ。

この製品が大ヒットして大量に販売される、と考えるのは難しい。だが、このタイミングだからこそ存在価値がある製品であるのも事実。アップデートによってそうした印象が覆ることを期待したいとは思う。

ただ、「今年から来年にかけてのトレンド」を示す製品であることは間違いない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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