西田宗千佳のイマトミライ

第287回

「これからのSwitch」を目指すNintendo Switch 2

Nintendo Switch 2は6月5日発売

Nintendo Switch 2の詳細が発表された。4月4日から予約抽選の申し込みも開始されたが、みなさんはどうだったろうか?

任天堂としては8年ぶりのプラットフォーム刷新であり、それだけ注目度も高い。

今回はその狙いとハードウエアの内容について、じっくりと考察してみたい。

Switch 2とは「次の時代のSwitch」

任天堂が「Switch 2」をビデオの形で公開したのは、今年1月20日のことだった。その後に書いた記事が以下になる。

詳しくは記事の方をお読みいただきたいが、方向性としては正しかった。

任天堂が狙っているのは、「この先の時代に合った次のSwitch」を作ることだ。

Switchの美点は「据え置き型としても携帯型としても使える」ことだ。結果として性能の上限はPlayStation 5のような据え置き型に比べ低くなる。しかし「さまざまな場所で遊べる」ことは、性能とは別の利点がある。特に若年層にはこの点が重要になる。

Switch 2はSwitchの「携帯型にもなる」点を引き継ぐ

Switch以前には、携帯型ゲーム機と据え置き型は別のものだったが、任天堂はその流れを1つにすることで大きなヒットを生み出した。

この十数年で、ゲーム市場は多様化した。スマホだけでもゲーム機だけでもない。また、ゲーム機・PCでどうゲームを遊ぶのか、遊んでいる様子をどうシェアして楽しむのか、といったことも拡大している。家庭用ゲーム機プラットフォームの競合も昔のような一強を目指す争いではなく、「それぞれの領域でいかに消費者の支持を得るか」「いかにゲームに注目し続けてもらうか」ということが重要になった。

だとするならば、Switchが作った市場をさらに長く維持するための新しいプラットフォームが求められることになる。

任天堂はゲーム機の性能にこだわっていない、と言われるがそれは違う。

それぞれの企業にそれぞれのこだわりがあり、任天堂がSwitch 2でこだわったのは「Switchの8年間を引き継ぎ、今後5年から8年の間に求められるものはなにか」ということなのだ。

それが結果として、「性能アップしたSwitch」に近い構造である、ということだろう。

現在のゲームはPCや据え置き型でも同時に発売される。だから、ユーザーインターフェースはテレビやPCに向いた大きさになりがちだ。だとすると、携帯型といえども「画面サイズは大きめ」であることが求められる。

同様に、eスポーツを含めたゲームでは「60Hz」を超えるフレームレートが定着して来ている。スマホでも120Hz対応のものが増えた。

だとすると、「8インチ近傍で1,920×1,080ドット、120Hz駆動」というディスプレイスペックが必要になるし、テレビに接続した時には、そこから解像度変換などを使うことも考慮し、最低でも4K/60Hzは出てほしい……ということになる。

スペック的にいえば、Switch 2の要件はそんなところだ。

これからのために性能アップもチャットも必要

性能をアップさせるのは、現行のSwitchが「他のプラットフォームで販売されているゲームに足並みを揃えるには、性能面でのリスクが大きくなりすぎた」ためだ。

ゲーム産業全体を見ると、特定のプラットフォームでのみ発売されるゲームは減っている。プラットフォーマーであっても、過去にライバルと呼ばれたプラットフォームでもゲームを出す方が収益的に有利な時代である。

だとすると、Switchで出るゲームの数を維持するには、「他社もゲームを出しやすい性能」を維持する必要が出てくる。

Switchに使われているSoCより消費電力が上がるのでバッテリー動作時間は短めになるし、SoC・メモリー・ストレージの性能が上がった分、コストはどうしても上がる。

だがそれでも、ゲーム自体が進化している以上、それに合わせたプラットフォームの進化が必要だったわけだ。

同時に重要なのが、コミュニケーションのための機能の向上だ。

Switchが登場した8年前は、ボイスチャットの利用はそこまで広がっていなかった。しかし現在は、オンラインプレイ中のボイスチャットは当たり前だ。Switchではスマホとの連動が必要だったが、もっとシンプルで誰でも使えるようにする必要があった。

そこで、Switch 2には「C」ボタンが用意され、「ゲームチャット」機能が搭載された。外付けのカメラがあれば、ゲームの画像と同時にビデオチャットも可能になっている。

チャット関連のための「C」ボタンを搭載
ゲームしながらビデオチャットする機能も搭載。背景切り抜き機能も

これもまた、今後のための基盤整備と言える。

こうした基盤整備にはNVIDIAとの協業が大きく作用している。

Switch 2でNVIDIAのSoCが使われることは、Switchとの互換性が維持された段階で自明ではあった。単純なソフトウエアによるエミュレーションではないとしても、結局のところ、負荷が低く例外の少ない「互換機能」を実現するには、同じ系列のGPUを採用していることが望ましいためだ。

ゲームの処理負荷を下げるための超解像機能(DLSS)やビデオチャットでの背景カットは、NVIDIAの技術を任天堂がSwitch 2用のOSに組み込んで実現しているものだ。NVIDIAはそうした話についてブログで情報公開もしている。

「Nintendo Switch 2」がNVIDIAのAIを活用したDLSSと4Kゲーミングでレベルアップ

NVIDIAはPC向けにコミュニケーション用ソフトを多数作っており、その技術がSwitch 2にも生かされている

NVIDIAはGPUに搭載したAI処理用のコアを使い、PCでさまざまな機能を実現してきた。そのソフトウエア資産は、Switch 2でも生かされていることになる。

課題の価格には「日本限定」で対応

前述のSwitchの成功をよりよく引き継ぐことが、Switch 2の狙いである。

Switchと互換性を持ち移行を容易にすることは、家庭にあるSwitchが、新型が登場しても「無意味」にはなりづらい……という意味もある。Switch 2を買い足しても、Switchは「ともに使える」ゲームとして活用できる。

ただ、最大のハードルは、間違いなく「価格」だ。

現在は半導体製造プロセスの進化(俗にいうシュリンク)によるコスト低下の幅が小さくなった。20年前とは違い、時間が経てばゲーム機が安くなる……という時代ではない。そのことは以前、以下の記事でも説明した。

Switchも8年の間に、大きな価格改定は行なわれていない。Switch 2は性能が上がったので、価格を下げるのはさらに難しい。

一方で、円安の影響はゲーム機の製造コストをさらに押し上げる。

Switchの成功は「他機種よりも入手しやすかった」ことと無関係ではない。特に、低年齢層に普及させるには価格は低いほど良い。

とはいうものの、ゲーム機を大幅な赤字で売るのは困難。それでビジネス維持をして最終的な収益を得られた企業はない。いつかの段階ではハードの販売による収益が必要になるし、今なら特にそうだろう。

Switch 2の「米ドルで449ドル(税別)」という価格は、Switchの299ドル(税別)に比べて高くなったが、ギリギリ許容範囲内というところだろう。

だが日本円になった場合、素直に円安の為替を反映すると7万円近くになってしまう。任天堂のビジネスターゲットに対しては、その価格は許容し難い。

そこで同社は「日本語・国内専用」のもののみ価格を49,980円(税込)と、安価に抑えた。

Switch 2は価格を抑えた「日本語・国内専用」版と、他国向けと仕様が同じである「多国語対応」版がある

実のところ、これもまたSwitchから引き継いだものだ。Switchも1ドル100円程度に抑えた換算になっていたので、そのまま継続したといっていい。

一方で、他国に比べて安価な水準だと、転売がさらに過熱してしまう。だからこそ「日本語・国内専用」を安価にし、他国と同じ仕様のものは6万9980円(税込)と高くなっている。

日本市場を重視するのは、携帯ゲーム機という特性が特に東アジアで支持されており、人口比・ゲーム市場サイズの割に「任天堂の製品が売れる」土壌があるから、と言える。

「Switchを引き継ぐ」特性から、価格をさらにあげることは難しくもある。「日本語・国内専用」版でも、Switch 2の価格は安くない。Switch 2最大の課題といってもいい。

Switch 2はゆっくりとSwitchを置きかえてゆくだろう。価格差を乗り越えるには、時間とソフトのヒットの両方が必要だ。その点は、発売からの継続的な施策から見えてくることになるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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