西田宗千佳のイマトミライ

第257回

自動運転タクシー「Waymo」に乗って考えた自動運転の未来

サンフランシスコを走っている自動運転タクシー「Waymo」

先週の連載で書いたように、先々週はGoogleの「Made by Google」イベント取材のために、アメリカ西海岸を訪れていた。

それと同時に、Google取材後に追加取材していたのが、Googleの親会社・Alphabet傘下の「Waymo」である。

今回はWaymo担当者に話を聞きながら乗車体験ができたほか、自分だけでもアプリから呼んで乗ってみている。

Waymoがどんな感じのものなのか? 短時間で知りたい方は以下の動画をご覧いただきたい。

ただ、担当者取材や自分での体験を合わせ、いくつかより深いこともわかっている。そこから見えてくる「自動運転タクシーの今」を考えてみたい。

自動運転タクシー「Waymo One」

Waymoは現在、自動運転タクシー「Waymo One」を、アリゾナ州フェニックス・カリフォルニア州ロサンゼルス/サンフランシスコにて商業運用中。もうすぐテキサス州オースティンでもサービスを開始する。

Waymo Oneはアメリカの3カ所で運用中で、もうすぐ4カ所目がスタート

筆者が取材でひんぱんに訪れるカリフォルニア州が含まれているのは知っていたのだが、2021年からずっと「招待制」のサービスだったので、なかなか乗車機会に恵まれずにいた。ウェイトリストには登録済みだったのだが、自分の番が回ってこなかったのだ。

実は、2024年1月に「利用の招待」メールが届いて利用可能にはなっていた。

しかし今度は、ずっとロサンゼルスやサンフランシスコ市内にいく機会ができなかった。カリフォルニアも広い。Waymoは現状で、2つの都市とその周辺だけがサービスエリアなので、市内に行かないと乗れなかったのである。

今年6月、ハリウッドを取材で訪れたものの、その時はWaymoのことをすっかり忘れていた。帰国するちょっと前になってWaymoが走っているのを見かけ、「ああ、ここもサービスエリアか!」と気がついたものの、そのあとは乗る時間を作ることもできなかった。

6月にハリウッドで見かけたWaymo。この時は乗車取材をする時間をとれなかった

今回も、取材自体はサンフラシスコではなく、Google本社のあるマウンテンビュー。Waymoのサービス地域からは離れているので、「さて、どこで時間を捻出して乗車取材をすべきか……」と考えていたところ、Google経由でWaymoを取材する機会に恵まれた。単に乗るだけでなく、広報担当者にいろいろ話を聞くこともできて、ありがたい機会だったと思っている。

その取材が終わった現地夜のことだ。いきなり筆者の帰国延期が決まった。台風7号の直撃により、その日のフライトは全便欠航となったためだ。

いろいろあって、筆者の帰国は日本時間の18日になり、アメリカにさらに3日滞在することになってしまった。

というわけで、ホテルもサンフランシスコ市内に取り直し、知り合いにあったり大量の原稿と格闘したりして、帰国日を待つことになった。

その間に、自分でももう一度Waymoに乗り、いろいろとじっくり分析する機会が得られた。

ライドシェアにそっくり、でももっと気軽

本質的な構造として、自動運転タクシーはライドシェアに近い。スマホアプリで呼び、乗車し、目的地で降りる。決済もアプリ経由だ。

対応アプリをダウンロードして登録すると、サービス地域内で自動運転タクシーを呼べるようになる。現時点では高速道路には対応しておらず、空港など一部地域への乗り入れもできない。比較的短距離な「市内・街乗り用」である。

アプリの画面もライドシェアのものに似ている。自分がいる場所と目的地を指定してWaymoを呼ぶ。

Waymoを呼ぶ場合には、ライドシェアと同じように自分がいる場所と目的地を指定

ただライドシェアと違うのは、「乗車位置を指定する」ことだ。ライドシェアでは、空港など特別な地域を除けば、自由な場所を乗車位置として指定できる。しかしWaymoの場合には、自分のいる場所の周囲十数メートルの範囲で「乗車地点」が複数設定され、そこから乗車位置を選ぶ感じだ。実際に乗るときには、さらにそこから、安全性を考慮して少し停車位置がずれる。

乗車位置を指定。自分の周囲で止まれるスポットの候補から、自分が乗りたい場所を選ぶ

運転手は乗っていないので、ドアのロックはアプリのボタンから外す。自分が呼んだ車両でなければ、当然ロックは外れない。

画面内の「Unlock」ボタンでドアのロックを開ける

「そんな、間違わないでしょ」と思いそうだが、これがけっこう危ない。

サンフランシスコ市内では300台のWaymoが走っているそうだが、街中ではWaymoをかなりの頻度で見かける。Waymoが連なって走ってくることもあるし、観光地的な場所だと、Waymoがひっきりなしにやってくるくらいだ。だから、自分が乗るものをナンバーから見つけるのは重要なことでもある。

サンフランシスコ在住の人々はもうWaymoに慣れきっており、走っている様子を珍しいとも思っていない。そのくらい日常の乗り物として定着しているのだ。

さて、乗り込んだらまずはシートベルト。運転席以外のどのシートにも乗車可能だが、シートベルトをしないと警告が出て走り出さない。シートベルトをしたら、車内にあるディスプレイに表示される「Start Ride(乗車)」ボタンを押して、乗車スタートだ。

内部にある説明書。シートベルトなどの使い方が書いてある

運転中、画面には周囲の状況が表示されているのだが、タッチすると音楽やエアコンの操作もできるようになっている。ただ、それ以外のことはできないし、もちろん運転席から運転することもできない。そもそも「運転席には座らない」というルールになっている。

音楽を切り替えたり、エアコンの温度調節をしたりも可能

走り始めると、あまりに普通であることにびっくりする。

周囲にスピードを合わせて、ハンドルを細かく動かしながらスムーズに走る。

Waymoの車両。自動運転用のセンサーが多数ついている
運転中の車内。もちろん運転手はいないし、サービス提供者の「管理者」も乗っていない

画面を見ると、周囲の自動車や歩行者はもちろん、工事中の部分や障害物、信号などもちゃんと認識して走っているのがわかる。意外なほど遠くの車両まで認識していて、ちょっと驚かされるくらいだ。

運転中の画面。自動車の位置や歩行者(丸印)などが認識され、画面に表示されている
信号もちゃんと認識

運転が素晴らしく上手いかというと、そうでもないようには思える。駐車位置へ車を動かす際などは、何度か不自然にブレーキを踏むこともあった。優れたプロの運転手にはかなわないが、並のドライバーと同等かちょっと下手……くらいの感じだろうか。

それでも、街中を走る分には特に問題は感じない。変なところで停車してクラクションを鳴らされるわけでもなく、あくまで自然な形で街中を走る。そのうち、運転手がいないことは気にならなくなるほどだ。

降車する場所に来るとWaymoは自動的に止まる。シートベルトを外し、ドアを開けて降りる。降りて2分以内に自動車は走り出すので、忘れ物などがないようにご注意を。

難しいところは一切なく、ライドシェアの使い方を知っていればすぐに乗れる。料金は、十数分の移動で25ドルほど。一般的なライドシェアよりも数ドル高いくらいだ。

「他より安い乗り物」ではないが、乗っているのは完全に自分たちだけ。話しかけられることもないし、もちろん、運転も不要。プライベートであり気楽に目的地まで行ける、という意味では、十分に費用を払う価値がある。

21のセンサーを組み合わせて自律運転

乗車体験はシンプルだが、Waymo自体はシンプルではない。

ベースとなっているのはジャガーのバッテリーEVである「i-PACE」。そこに13台のカメラ・4台のLiDAR・6台のレーダーが搭載され、内部のプロセッサーを使ってそれらの情報をリアルタイム処理し、走行している。

もっとも目立つのは上部にあるLiDARだろう。360度・500メートル先までを認識していて、これによって、先にある車列などを認識している。

ルーフの上にあるLiDAR。これがメインのセンサー

自動運転そのものはWaymo車内のプロセッサーでリアルタイム処理されていて、基本的には自律動作している。当然そのためにはかなり高度な処理が必須であり、「規模は公開していないが、かなり電力を必要とするプロセッサーを使っている」(Waymo担当者)という。i-PACEは巨大なバッテリーを搭載していて電力に余裕があるので、大量のセンサーとその情報を処理することができる……というわけだ。

Waymo内には周辺の地図や交通標識といった情報が事前に組み込まれている。だが実際に走る場合には、リアルタイムに変化する状況を把握する必要が出てくる。

だから、遠くの状況をルーフ上のLiDARで把握し、前後左右近い距離を小さなLiDARとイメージセンサーで把握、組み合わせで走行に必要な情報を得て判断している、ということのようだ。

スマホアプリと連携しているので、Waymoの車体には通信モジュールが内蔵され、常に通信が行なわれている。ただ、自動運転自体に通信はほとんど使っていないという。

「通信と自動運転の関係は、管制官とパイロットのようなもの。どのエリアにどう運行すべきか、という話は通信で制御されているが、運転そのものはローカルかつ能動的に行なわれている」(Waymo担当者)

そう言われると確かにわかりやすい。自動運転自体は通信経由で行なうと「間に合わない」ものだが、大量の車両が街中にいるタクシーとしては、どのエリアにどのくらいのリクエストがあって、どこに配車すべきかを判断する必要が出てくる。街中で自動運転タクシーを効率的に運行するには、自動運転技術だけでなく「効率運行の管制制御」が重要で、Waymoはそこもやっている……という話が見えてくる。

安全性についてはどうだろうか? 人間による運転でも自動運転でも、100%の安全性を担保するのは難しい。Waymoも安全な運行を目指しており、安全であることが狙いであるのは間違いない。

「サンフランシスコを走れるということは大きな意味がある。霧があったり雨が降ったり、渋滞があったり人が割り込んできたりと、色々なシチュエーションがある。その中で運行できている、ということが重要」

Waymoの担当者はそう話す。これは確かにその通りだろう。自動運転を行なうにはかなり厳しい環境だ。雪や激しいスコールの中など、サンフランシスコで体験しづらい環境もあるのは事実で、それが、Waymoのサービス地域が限られている理由でもある。

とはいえ、サンフランシスコという大都会であれだけ安定した運行を、毎日あたりまえのように繰り返しているという事実は大きく、これが「街中での自動運転の先進例」であることに疑いはない。

新車両導入でコストはどうなるのか

残る疑念は「コスト」だ。i-PACEを使ったWaymoの車両は見るからに高価そうだ。

前出のように、現在のWaymoのサービス価格は少し高めに設定されている。とはいえ、ものすごく高価というわけではない。そもそも、空港への乗り入れや高速道路を使った経路など、比較的単価の高い長距離ドライブはサービスに含まれないので、タクシーやライドシェアよりも収益性は低い可能性がある。

収益性はどうかを担当者に聞くと、「確かに今の車両は、プロフィッタブルな状態ではない」と認める。

ただ、Waymoは現在、もっと安価で自動運転専用の車両を導入すべく準備を進めている。中国・Zeekr製の自動運転専用車両で、車内スペースもより広いものになるという。車両コストが下がり、運行範囲が広がると収益性の問題は変わっていく可能性は高い。

2021年に公開された第6世代車
8月19日に改めて、Zeekrと共同開発した第6世代車を公開

Waymoを海外でテストしたことがあるかどうか、Waymo側はコメントしていない。日本はサンフランシスコよりも天候条件が厳しい。その中で同じような自動運転ができるか、個人的には気になるところだ。

だが、収益をアップするには、アメリカ以外に展開する必要が出てくる時期もあるだろう。その前に、日本企業は独自のサービスを用意できるだろうか。

それともここでも、海外プラットフォーマーが世界的なビジネスになっていくのだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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