トピック

アマゾンの自動運転車「Zoox」に乗ってきた

Amazon傘下の自動運転タクシー「Zoox」

12月第一週、筆者は米・ラスベガスにいた。Amazonのウェブサービス部門である「Amazon Web Services(AWS)」の年次イベント「re:invent 2025」を取材するためだ。

ラスベガスにはもう1つ「Amazonがらみ」のものがあった。

それが、Amazon傘下で自動運転タクシーを提供する「Zoox」だ。

現在ラスベガスでテスト運行中

完全な「自動運転タクシー専用車」で提供されるZooxは、現在、ラスベガスとサンフランシスコでテスト運行されている。

実際にサービスを使ってみたので、その様子をお伝えしよう。

テストはラスベガスとサンフランシスコで行なわれており、今後アメリカ国内で拡大予定

自動車じゃなくて「ロボタクシー」

前出のように、ZooxはAmazon傘下の子会社だ。事業領域的には、KindleやEchoなどと同じくハードウェア部門の下にあり、責任者も同じく、パノス・パネイ氏だ。

自動運転の開発環境や、タクシー事業としてのバックエンドはAWSで、Amazonのリソースをフルに活かした存在なのは間違いない。

Zooxは同社の自動運転タクシーを「自動車ではない」と主張している。要は「ロボタクシー」であって、電気自動車(EV)をタクシーにしたわけではない……という話だ。

自動車でなくロボタクシー、という話は、外観を見ると強く感じる。

比較のために。Waymoの自動運転タクシー
こちらがZoox。専用開発の「ロボタクシー」

上の写真は、Alphabet傘下のWaymoのもので、その下の写真がZooxだ。大柄なEVにさらに大きなセンサーを搭載しているWaymoに対し、コンパクトでかわいい専用車であるZooxは、確かに「ロボ」っぽい。

四角いボディの上下にはセンサーが見えるが、一般的な自動運転タクシーに比べると目立たない。

なにより大きいのは「運転席がない」こと。自動運転のみで運行されるので、そもそも運転席が不要だ。四角くコンパクトな形状であるのも、運転席・助手席・後方座席という伝統的な自動車の構造を採っていないからでもある。

運行範囲は限定的 「ボックス席」で運転席のない体験

Zooxを呼ぶには、ライドシェアや他の自動運転タクシーと同じくスマホアプリを使う。

現状、Zooxアプリは日本国内向けのアプリストアでは公開されていないので、アメリカ向けストアからインストールしている。もし、アメリカに旅行してZooxを使ってみようと考えている方は、AppStoreやGoogle Play Storeのアメリカ向けアカウントを用意して利用していただきたい。

アプリの使い方自体は難しくない。Zooxを呼ぶ場所の近くに行ってアプリを開き、行き先を選択する。

ただし、現状Zooxについては、ラスベガスの好きな場所に行けるわけではない。ラスベガス中心部のいくつかの場所に乗り降り場所が固定されていて、その中からしか選べない。そのためか、利用料金は無料。ただし、支払い用クレジットカード自体は登録する必要があった。

Zoox乗車用アプリ。使い方はライドシェアアプリとほぼ同じ。

今回はショッピングモール(ファッションショー・モール)と少し離れたホテル(Luxor)の間を移動してみた。乗車時間は十数分なので、ごく短い体験ではある。

乗降位置をアプリから指定するには、乗れる場所の徒歩圏内に移動する必要がある。これは、乗車位置が限られている現状の仕様だろう。

乗車位置から指定すると、Zooxがこちらに移動してくる。今回は「乗車まで20分」と、かなり長い時間が提示された。ニーズに対してまだ車両数が少なかったり、人のいる場所と車両位置のアンマッチが起きたりしているのかな、という印象だ。

ただ、Zoox自体はそこそこたくさん走っているようだ。乗車位置には数分おきにZooxがやってきて客を乗せていた。

「電車に乗る」ような感覚 “慣れ”るまでのちょっとしたトラブル

そうこうしているうちにZooxが到着。外にあるボタンを押すとドアが開き、乗車開始だ。ドアが中央から左右に開くこともあって、タクシーに乗るというよりは「電車に乗る」ような感覚に囚われた。

Zooxが到着。ボタンを押してドアを開けて乗車

既に述べたように、Zooxには運転席はない。2席×2席のボックスシートが中にあって、完全に「箱」が走っているようだ。左右のドアはバスと同じように大きなガラスになっていて、周囲の風景がよく見える。一度に乗車できる人数は4人。車内は完全にこの4人の「占有空間」となり、目的地へ向かう。

車内の様子。運転席がないので、広々としている。
サンルーフで開放的
天井には監視用のカメラがある
車内の様子を動画で

中は広々としていて、足元も楽。机などは用意されていないが、席の中央には、Qi対応の無線充電台と、USB Type-Cの2つ付いた充電器がある。いかにも専用設計で、けっこうおしゃれだ。

ドリンクホルダーとQiの無線充電台が
USB Type-Cの充電コネクタも用意されている

壁にはタッチ式のディスプレイがあり、音楽やエアコンの調整ができるようになっている。乗車時や降車時も、ここをタッチして指示する。

操作用タッチパネル。音楽やエアコンの操作もできる
天井やドアにはエマージェンシー用ボタンもある

とはいえ、複雑な要素はない。

他社の場合、センサーが周囲をどう捉えているかを示し、周囲の車や風景が認識されている様を見せるディスプレイがあるものだ。

比較用に。Waymoには周囲の認識を表示するディスプレイがあるが、Zooxにはない

だが、Zooxにはない。

ディスプレイを配置する場所がない、という事情もあるだろうが、「いかにも自動運転です」という象徴のような表示は不要、という主張かもしれない。

自動運転の様子は特に変わったところはない。信号にも車の流れにも問題なく対応し、駐車中の車も、歩行中の人も避けていく。特定のシーンでトラブルが起きることはあるのかも知れないが、少なくとも今回そのタイミングはなかった。

ふと後ろを見ると、他のZooxが走っているのが見えた。あるタイミングでは2台同時に見えたほどだ。おそらく、経路が現状限定されている関係で、同じルートを走るZooxが多かったのではないだろうか。

後ろを見たら別のZooxが走っていた

トラブルらしいトラブルは、降りる時に起きた。

目的地に着いて降りると、別の客が既に待っていた。彼らもZooxに乗るのを楽しみにしていたようで、我々が降りるとすぐに乗車した。

到着したら画面をタップして降りる

と、ここで問題が。

彼らが「すぐに」乗車してしまったので、こちらが「いつまでも降車していない」という扱いになってしまったのだ。

そのため、彼らはなかなか出発できなかった。

スマホアプリの方は通信に遅延があったためか、降車処理が出てくるのにもかなり時間がかかった。

もう一度彼らにZooxから出てもらい、降車処理をし、再度乗車処理をしてもらって、ようやくZooxは再度出発して行った。

トラブルも解決されて次の目的地へ

人が運転するタクシーならこのようなことは起きないが、無人でソフトとアプリで判断される場合、トラブルは起きるわけだ。

この辺の処理はWaymoの方がこなれていたように思う。Zooxはまだまだ工夫の余地を残しているようだ。

「自動運転前提」の車はこうなってく

Zooxはあくまでテスト中だ。すでに営業運行しているWaymoよりも手前の段階であり、その事情が見えてくる部分は多々あった。

だが、体験の新鮮さという意味で、Zooxの方が上だと感じる。それは、「運転手がいない」という前提で作られた「自分たちだけの空間」が移動する、という感覚がより強いためだと思う。私的な移動空間としては申し分ない。

将来的な自動運転タクシーはおそらく、今の「EVにセンサーをつけた自動運転タクシー」ではなく、Zooxのような「ロボタクシー」になっていくのだろう。同じような予測はWaymoやトヨタも示している。

2018年1月のCESで発表された時のトヨタ「e-Palette」
今年9月に発売された「e-Palette」もボックス的なデザインに

Zooxはいきなり専用車両から始めることで、ロボタクシーの未来を示しているのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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