西田宗千佳のイマトミライ

第130回

「2022年のPCトレンド」を予測する

オミクロン株の感染拡大で見通しは悪くなっているものの、年を越せば、ラスベガスでは「CES 2022」が始まる。

CESといえば家電、というイメージがあるかもしれないが、PCについての話題が意外と多い。もちろん、開催前なのでどんな製品が出るかはわからないのだが、予想していることはある。また、デルのように、CESの前にコンセプトPCや未来に向けたプロジェクトを発表するところもある。

本連載年末最後の記事として、「2022年以降のPC」の話を少し考えてみたい。

Windows 11後のPC環境を予測する

2021年のPC業界にとっては、Windows 11が公開されたことが大きなトピックである。

ただ、そのことで劇的にPCシーンに変化があったか、というと、そうでもない。それは、Windows 11が新機能の追加よりも「今と今後のハードウェアに対応する基盤整備」に向けた改善、という意味合いが強いからだ。Windows 10がそうであったように、機能追加は随時アップデートの中で行なわれていく。例えば、大きなアピール点だった「Androidアプリの動作」はまだ実装されておらず、今後のアップデートで追加される。

当然ながら、「Windows 11向けのPC」というものも目立たず、あくまで「今の時代の普通のPC」という役割になっている。

では、2022年以降のPCはどうか?

ベースとしては劇的に変わるわけではない。プロセッサーの世代が先に進み、インテルが本格的にゲーマー向けGPUに参入することになるが、ある意味想定内の変化でもある。

同時に、特にこの2年で、インターナルGPU(CPU内蔵のGPU)の処理能力は大きく性能アップした。このことは、PC向けゲームのニーズ拡大が、世界的に大きな意味を持っていることを示している。熱心なゲームファンはゲーミングPCを選ぶだろうが、「ちょっとバトロワも遊びたい」「気になった時はPCでゲームもしたい」というニーズをカバーできるようになってきている。

また、AI処理の性能アップによって、内蔵ビデオカメラの画質アップや、音声のノイズ処理などを搭載した製品も増えている。ただ、PC用CPUのAIコアは、スマホのものほど活用が進んでいないのは事実だろう。それも、いかにAIコア搭載世代のプロセッサーを使ったPCの数が増えるかにかかっている。

アップルはARMベースへの移行を成功させ、2022年にも「Mシリーズ」プロセッサーの改善を続けるだろう。Qualcommは「Snapdragon 8cx Gen 3」を導入し、3年ぶりにPC向けプロセッサーの大幅なアップデートが行なわれ、性能もそれに伴った向上が見込める。

とはいえ、Windowsにおいては、ARMベースのプロセッサーの利用はまだ限定的であり、いきなりインテルやAMDを押し退けて主流になるのは難しい。ただ、消費電力が低くWANが搭載されていて、どこでも使えるPCが増えてくれることを個人的には望みたい。

Qualcomm、Windows 11用SoC「Snapdragon 8cx Gen 3」

これらは皆「継続的」な変化であり、劇的なものとはいえないかもしれない。ただし、PCの買い替えが進んでいく結果、全体でのパフォーマンスアップが全体に変化をもたらすだろう。それが市場自体を変化させていく。

今年どんな製品が出るかはわからないが、毎年CESでは、多くのPCメーカーが「2022年向けの最初の製品」を発表する。それらは劇的な変化のある製品ではないかもしれないが、2020年後半から続く変化が積み重なり、市場の変化をさらに後押しする存在になるだろう。

デルの「3コンセプト」から見る次世代のPC環境

とはいえ、なにかもう少し、面白い動きを知りたくある。

そのヒントになるかもしれないものを、すでにデルが発表している。といっても、どれもコンセプトの発表で、「それがCESで製品になって発表される」という話ではなかろう、と思う。

発表されたのは「Concept Flow」「Concept Pari」「Concept Stanza」という3つのコンセプトモデル。それらはみな面白く、「ハイブリッドワーク」が求められる、今のPCシーンのニーズを反映しているものだ。

Dell、Wi-Fi接続ドックやWebカメラ、デジタルノートなどコンセプトモデル

どのような使われ方を想定しているかは、デルが公開している3つのコンセプトを紹介するビデオを見るのが近道だ。

Seamless Work Experiences - Concept Flow, Concept Stanza and Concept Pari

「Concept Flow」はワイヤレスを最大限に活用するためのもの。有線でポートリプリケーターを使うのは面倒なので、Wi-Fi 6Eを使って各種周辺機器やスマートフォン、ディスプレイを接続する。本体を持ち歩き、机の近くに近づけば、そこにあるディスプレイやマウス、キーボードに自動接続して使えるようになる。自宅・オフィス・会議室など、それぞれの状況にあわせて最適な使い方ができるわけだ。

「Concept Flow」。Wi-Fi 6Eを使ってディスプレイや周辺機器、スマホをつなぎ、連携した形で使う

「Concept Pari」はウェブカメラの改善案。カメラを無線化した上でマグネットで取り外せる仕組みとし、つける位置を変えることでコミュニケーションしやすくする、という工夫だ。例えば、カメラの位置を「ディスプレイの相手の顔がある場所」の近くにすることで視線がずれることを防いだり、会議で見せたいものの近くにつけることで、モノを見せながら説明したりできる。

「Concept Pari」。1080pの無線ウェブカメラで、マグネットによってさまざまな場所に取り付けて使う

「Concept Stanza」は11インチのメモ専用デバイス。タブレットやPCでもよさそうに見えるが、カメラなどは搭載されておらず、よりシンプルなメモデバイスとして作られている。

「Concept Stanza」。メモに特化した11インチのタブレットデバイスだ

これらはどれも突飛な発想ではないが、それだけに「すぐ実際に動くものが作れる」のがポイントである。PCの価値を高めるために周辺機器を活用するのは基本だが、それが今の時代に合わせて進化しているが興味深い。

Windows 11の1つの本質は、周辺機器の進化を取り込んだOSに進化することでもある。ポートリプリケーターや外付けディスプレイの活用は、Windows 10からの大きな進化点である。それを考えると、デルがこうした点をアピールすることもよくわかるし、そうした進化がOSに取り込まれていくと、また面白い世界がやってきそうだ。

「Steam Deck」を軸に「ポータブルゲームPC」の波が来る……かも

最後にもう一つ、2022年に向けた興味深い変化を考えてみたい。

特に2021年は、「ポータブルゲームPC」が多数登場した年だった。特に中国系企業が積極的に取り組んでいる。もちろんまだニッチな存在ではあるが、それらが成立するようになったのも、前述のようにインテルやAMDのインターナルGPUの性能が上がったためだ。

そして、2022年2月には、Valveが「Steam Deck」を発売する。

「Steam Deck」、部品不足で出荷が2カ月遅延

携帯ゲーム機「Steam Deck」のパッケージ公開。日本語も

Steam Deckの公式ページ。日本語化されているので、日本での発売も「ある」と考えてよい

Steam DeckはPCベースのアーキテクチャではあるものの、Windowsは搭載していない(自分でインストールすることはできるそうだが)。

Windowsのライセンス料が不要であること、量産を前提にしていることなどから、価格は399ドルからと、WindowsベースのポータブルゲームPCより安い。2021年末発売の予定が、半導体不足から「2022年2月に欧米で発売」に伸びており、さらに日本での発売時期は未定ではあるものの、非常に興味深い商品だ。

価格差がかなりあるため、現在のポータブルゲームPCもそのままでは厳しい。おそらく、価格改定や新型の投入が考えられる。すでにその動きはあるし、CESでもそうした製品が発表されるかもしれない。

新AMD CPU搭載のAYA NEOポータブルゲーミングPC、12月28日発表か

日本国内の場合、こうした製品がいきなりメジャーなゲーム機のようなヒットになるのは難しいだろう。しかし、Steamを軸にしたPCゲームの市場拡大につながるのは間違いない。海外でのこうした動きが見えてくると、日本のゲーム市場・PC市場の変化につながる可能性はある、と筆者は考えている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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