西田宗千佳のイマトミライ

第128回

ドンキが「チューナーなしテレビ」を売る背景。ネット配信の拡大

42V型AndroidTV機能搭載フルHDチューナーレススマートテレビ

12月7日、ドン・キホーテは、同社のオリジナルブランド「情熱価格」で、テレビチューナーを内蔵しない「チューナーレス スマートテレビ」を発表した。

ドンキ、チューナ非搭載の“ネット動画TV”約2万円から。Android TV採用

OSとしてはAndroid TVを採用、ネット配信を見ることに注力した製品であり、地上波などをそのまま受信して見ることはできない「テレビ」であることが注目され、Twitterでもトレンドになったりしていた。

この製品がどんな意味を持っているのか、今回は改めて考えてみよう。

放送を見ていなくても「テレビ」、個室向けの隙間に浸透

テレビ、という言葉には、基本的に3つの意味がある。

1つは、「放送」としてのテレビ。次に、放送を見る「機器」としてのテレビ。最初の定義は前者であり、次に「テレビジョン受像器」がテレビ(放送・番組)を見るものなので「テレビ」と呼ばれるようになった。「テレビを見る」といえば、放送で提供される番組を放送の受像器で見るわけで、両者が混ざっていてもさほど違和感はなかった。

そこに第三の意味が現れる。「家庭にある大きな画面の機械」という意味合いだ。

家庭用ビデオや家庭用ゲーム機が登場すると、テレビを使っているが放送は見ていない、という状況が広がっていく。だが、見ている機械はもちろん「テレビ」である。

ドン・キホーテが発売したのはもちろん、3番目の意味の「テレビ」だ。テレビが放送を見るだけのものではなくなって久しいわけで、そこまで違和感はないだろう。

日本の場合にも、2010年代後半以降、個人市場向けには「PC用ディスプレイ」の売れ行きが伸びていた。PCディスプレイ市場の主軸は法人向けであり、全体出荷数では微減・横ばいというところだったが、Amazonや家電量販店のPC関連売り場など、完全な個人市場向けの売り場では売れ行きが良かった。

以下は、電子情報技術産業協会(JEITA)が公開している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビの国内出荷台数を抜粋し、筆者がまとめたものだ。

オレンジは大型(37型以上。JEITAの統計基準変更により2018年以降は40型以上)を、ブルーは小型(29型以下)を示している。

JEITAが公開している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビの国内出荷台数を抜粋し、筆者がグラフ化。オレンジは主にリビング向け市場、ブルーは個室市場向けを指す

リビングにおけるテレビ=大型の製品は堅調であり、地デジ特需後の買い替え需要がやってきたこともあり、順調に数量が伸びてきて、ほぼ2011年以前の水準に戻りつつある。

一方、個室向けのテレビ=小型の製品は需要が落ち込んだままだ。これは地デジ移行後、1990年代には「一部屋に一台」まで拡大したテレビが再び「一家に一台」に戻っていった結果と言える。

ただ、「映像を大きな画面で見たい」ニーズがなくなっているわけではない。牽引役の1つはゲームだが、同時に、自室で自由に映像を見たい、というニーズも大きい。

また、小さなテレビは収益性が低くなって、大手メーカーが売りたがらなくなったこともある。価格優先で差別化しにくく、利益率が確保しにくいからだ。結果として、より安価なPC用ディスプレイにも注目が集まりやすくなる。

ドン・キホーテは比較的安価なテレビを多数売ってきたので、そうした状況ももちろん知っていただろう。だからこうした製品が出てくるのだ。

テレビでのネット動画視聴は「NHKより多い」量に

同時に、日本における「ネット配信」利用の拡大が背景にあるのは間違いない。

やはりコロナ禍以降、Netflixに代表される映像配信の利用者は増えている。2018年頃までは、新作が配信になってもなかなか話題にならなかったが、今はAmazon Prime VideoやNetflixが新作を配信すれば、一般的な芸能メディアやニュースでも報道され、Twitterのトレンドになるようになっている。

だが現実問題として、ドン・キホーテの「テレビ」が主軸にしているのは、こうした有料配信ではなかろう。

日本のネット配信の中心は間違いなく「YouTube」だ。

以前、TVS REGZAを取材した記事でも書いたのだが、同社の調べによると、同社製テレビの視聴データによると、ネット動画の視聴時間はトータルで「1日1時間半」を超えているという。しかも、視聴されているのは圧倒的にYouTubeで、それに続くのがAmazon Prime VideoやNetflix……という状況であるようだ。

今年のレグザは「大画面・Android・ネット動画」

1日1時間半、という数字は、同社によれば「NHK1局の視聴量を超える」という。その多くがYouTubeというのは、周囲でのYouTube視聴量の「肌感」とも乖離していない。

YouTubeは英国の独立系コンサルタント会社であるOxford Economicsに調査を依頼したレポートを公開しているが、その情報によれば、「2020年度のYouTubeの経済効果は、日本のGDPのうち2,390億円に相当する」としている。

YouTube、日本のGDP貢献は2390億円。動画配信からリアル送客に

この数字はテレビでの視聴だけのものではないが、それだけ大きなメディアに育っている証拠でもあり、当然、「YouTubeを見るためにテレビを使っている人」も増えている、ということだろう。

もう一つ、テレビでのネット動画視聴に関するデータを出しておこう。

サイバーエージェントが9月に発表した2021年通期決算の説明資料によると、同社の動画配信「ABEMA」の視聴者のうち、テレビでの視聴者が2年前の2倍である「14%」まで拡大している。

これはもちろん、ABEMAが見られるテレビが増えてきたからということなのだが、それは因果関係が逆だ。テレビでの視聴量が増えた理由は、彼らが積極的にテレビメーカーに売り込んだからである。定着の努力が実を結んだのであり、同時に、ABEMAの認知が浸透し、「テレビについているならそれで見る」という発想の人が増えた、ということでもある。

サイバーエージェント・2021年通期決算の説明資料(9月公開)より。AMEBAのテレビでの視聴量は2年間で2倍の「14%」に増え、映像配信のテレビ視聴が定着していることを感じさせる

「放送のないテレビ」はマスではないが、ニーズはある

一方で、放送を受信できないテレビがマス向けの存在か、というと、そうでもなかろう。

以下は、Netflixが毎回決算のたびに公開している、アメリカでの「プライムタイムに2人以上でテレビを見ている時に、なにがテレビに表示されているのか」を調査したものだ。アメリカのように、Netflixの世帯普及率が6割弱まできている配信先進国であっても、配信全体の支配率は3割というところ。意外と他のものも見ているわけだ。

Netflixが10月に公開した2021年第3四半期の決算説明資料より。アメリカでのプライムタイムテレビ視聴の場合、ネット配信が占める割合はまだ3割だ

日本とは環境が違うのでイコールでは結べないが、リビング向けならば「放送がまったく不要」と割り切れる人は少ないだろう。やはり個室向けであったり、一切「テレビ放送が受信できるもの」を持たずにNHKの受信料までカットしたい人など、ちょっと特殊なニーズかと思う。

ただ、前出のように個室に向くサイズのディスプレイを求めるニーズはあり、そこでは「放送はいらない」という話になるかもしれない。特に、NHKプラスやTVerのような存在もあるし、放送に近い番組を流しているABEMAもある。

だとすると、ドン・キホーテがニッチな路線をカバーしにいくのも理解できるというものだ。

個人的には、この種の製品はあまりおすすめしない。チューナーがないからではない。低価格なAndroid TVについては、長く使った時の動作の快適さに課題があるからだ。それならば、テレビやPC用ディスプレイに「Fire TV Stick」や「Chromecast with Google TV」のような、安価な映像配信対応機器を追加してもいい。配信側の機能や操作性が陳腐化しても、テレビ全体を買い替えるより安く済むからだ。

まあ、ドン・キホーテもその辺はよくわかっているだろう。おそらくは、PCディスプレイに追加機器を加えるより「ちょっとわかりやすい商品」として提示しているのだと思う。

そういう市場が成立しつつあるくらい、テレビにおいて「ネットの動画を見る」ことが当たり前になっている時代でもあるのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41