西田宗千佳のイマトミライ

第56回

Photoshop CameraとXperia 1 IIで考える「カメラアプリの価値」

Photoshop Camera

6月11日、アドビはスマホ向けアプリ「Photoshop Camera」の正式版を発表した。公開開始からは10日ほどが経過したが、アプリをインストールした、という人も増えてきたのではないだろうか。

Photoshop Cameraが正式版に。おすすめ“レンズ”で鮮やかな写真に

6月18日にはNTTドコモから、ソニーモバイル製スマホ「Xperia 1 II」が発売。それに合わせて、カメラアプリ「Photography Pro」を利用可能にするアップデートも行なわれた。同日中には、製品としては一足先に発売されていた、KDDI版の「Xperia 1 II」向けのアップデートも行なわれた。

ドコモ版「Xperia 1 II」にPhotography Proを追加

Xperia 1 II

今回は両者を使いつつ少し街を歩きながら、「カメラアプリの価値」を考えてみた。

なお今回、Photoshop Cameraのテストには「iPhone 11 Pro Max」を、Photography Proのテストには「KDDI版Xperia 1 II」を使っている。本当はXperia 1 IIで両方ともテストしたかったのだが、現状ではPhotoshop Cameraがインストールできなかったため、機材を分けている。そのため厳密な画質評価などはしていないのでご了承いただきたい。

Adobe Senseiが背景や印象を自動変更する「Photoshop Camera」

Photoshop Cameraの価値は、以下の2つの写真を見ればすぐに理解できる。同じ風景を撮っても、そこで空や被写体内の立体構造などをAIである「Adobe Sensei」の力で解析し、自動で簡単に派手な加工をしてくれるのだ。

その効果は、以下の画像を見ればわかる。あえて「同じ場所で普通に撮った写真」と「Photoshop Cameraで加工した写真」を並べている。

五反田で撮影。さわやかな青空がすっかりファンタジックで怪しい風景に
渋谷で撮影。非常に渋谷らしい風景だと思うが、パッと一発でリリカルな雰囲気に

撮影した写真には「レンズ」と呼ばれる効果を付けられる。レンズはかなり高度なもので、種類も豊富だ。この種の加工は「撮影するときに適応して、後からは変更できない」場合が多いのだが、Photoshop Cameraの場合、撮影後に自由に変更もできる。また、レンズの加工で追加されるオブジェクトを拡大縮小したりといった微調整もできるし、レンズによっては静止画としての加工ではなく「動画としての加工」も可能なものがある。

撮影中の様子。レンズのエフェクトは自動的に適応されるが、撮影後の写真で変更することも可能
レンズを適応後、表示される「月」を最大限に大きくしてみた。こういう細かな調整もできる
空を星が流れる風景に入れ替え、動画にすることも

この種のことを風景だけでなく顔やモノにも適応できるわけで、応用範囲はとても広い。無料アプリなので使い始めるハードルは低いので、まず、使ってみることをお勧めする。

「α」「RX」をXperiaの中に持ち込んだ「Photography Pro」

それに比べると、Xperia 1 IIの「Photography Pro」は非常にシンプルなソフトだ。シンプルというのは、操作が簡単とか、ソフトの構造が簡単とか、そういう意味ではない。狙いと目的がこれ以上ないくらいはっきりしており、誰向けのソフトかが分かりやすい、という意味だ。

Xperia 1 IIの「Photography Pro」

スマホ用カメラソフトのトレンドは、「簡単に素早く撮影するためにオート化し、設定を表に出さない」形だ。iOSのカメラがその典型だが、Androidの場合にも、多くのカメラがシンプルなUIを目指している。Xperia 1 IIも例外ではない。標準のカメラアプリはごくシンプルなものになっている。シャッターを切れば多くの人が満足する写真が撮れる、ということが、スマホのカメラに求められているものだからだ。

だが、それでは満足しない人もいる。自分でカメラの設定を変え、自分の意図にあった撮影をしたい、という人々だ。もちろんカメラアプリにも設定変更の機能はあるが、それらは意外と使いづらい。呼び出しがめんどくさいし、「カメラ」ではなく「スマホアプリの事情」に合わせて作ってあるからだ。

というわけで作られたのがPhotography Proだ。スマホの文脈でなく「カメラ」の文脈でアプリを作り、カメラの各種設定をカメラで使われる言葉・機能に合わせて整理し、細かく設定変更できるようにしている。

ただ、そうした「カメラアプリ」は以前からある。Photography Proのポイントは、操作画面やボタンなどのデザイン、用語を全て、ソニー製カメラである「αシリーズ」「RXシリーズ」のものに合わせたことだ。だから、それらのカメラを使っている人には、比較的理解しやすい。

Photography Proの撮影操作画面。各ボタンのデザインや名称、画面表示などを「αシリーズ」「RXシリーズ」に合わせてある

実際には、こうしたアプリを作るのは意外と面倒だ。スマホのカメラと一般的なデジタルカメラは構造が違う。スマホは複数のセンサーを使った「多眼」になってきているが、デジカメは「1眼」が基本。異なる光学系の中でどうやって絵を作るのか、というプロセスには当然違いがある。Photography Proでは違いを吸収した上で、露出や色の出方などを「デジカメの常識で調整」できるようにしている。また、オートフォーカスや連写なども、標準カメラから強化されている。

ISO感度を変えて撮ってみた写真。LEDを使った看板の「モアレ」の違いなどに注目

Xperia 1 IIのPhotography Proの仕組みに迫る

「スマホの中にカメラメーカーとしてのノウハウを入れる」というのは、ソニーモバイルが毎回のように言っていたことだった。だが、その姿を標準カメラアプリだけで表現できていたかというと、正直疑問なところがある。フルオートなら、ソフト開発力に長けたアップルやGoogleの方が画質面で有利、と思えるシーンは多かった。

だが、Photography Proのようなアプローチなら話は別だ。UIを真似ることは同じメーカーでないとやりづらい。それに加え、内部開発までとなると、一体の開発が有利であることは間違いない。Xperia 1 IIの購入者全員が使うわけでも、望むわけでもないアプリだが、「Xperia 1 IIに期待されるもの」を持ったアプリだ。

真逆の存在に見えて似ている“根っこ”

という風に見ていくと、多くの人の想像通り、Photoshop CameraとPhotography Proは真逆の要素を持っている。

だが、最終的に目指すところが大きく違うのか、というと、そうでもないと思うのだ。

実のところ、「レンズ」という概念を使って写真や映像に加工を加える=盛る的な発想は、スマホアプリには多いものだ。「レンズ」という言葉は「SnapChat」が先行して使っているもので、そちらで定着している。自分でレンズを開発できるという点も、SnapChatが先行している。

「レンズ」はアプリ内から追加できて、自作して公開する方法も用意されている。この辺は、先行する「SnapChat」にも似ている

アドビがPhotoshop Cameraを開発したのは、PCに馴染みがなく、Photoshopをはじめとした「アドビブランドのクリエイティブアプリ」を知らない層に訴求するためだ。入り口としてPhotoshopとは似ていない、Snapchatのフォロワーのような部分があるのは、 そういう背景に基づく。

Photography Proとの大きな違いとして、Photography Proは「撮影した写真はそのままフルサイズでスマホの中に記録される」のに対し、Photoshop Cameraはまず独自のアプリ内フォトライブラリに蓄積され、そこから「目的の画角で書き出す」形になっている、という点がある。これは、アプリの目的が「SNSやメッセージでのシェア」なのか、「単体の写真としての蓄積」なのかという、目線の違いに起因する。

一方で、「じゃあPhotoshop CameraとPhotography Proは根本的に違うのか」と言われると、「実はそうでもない」と答えたくなる部分もある。それは、結果的には「スマホしか使ったことのない人に、広い写真の世界へ足を踏み出してもらうきっかけ」と言う部分があるからだ。

Photoshop Cameraは「盛る」機能ばかりが目立つが、実際にはそれだけではない。撮影した写真の色調補正など、PhotoshopやLightroomが得意とする「写真の画質調整」に関する機能がちゃんと用意されている。操作こそシンプルだが、機能は十分高度だ。スマホで使える写真加工アプリとして、かなり万能性が高い。

Photoshop Cameraの画質調整機能。画面ではわかりづらいが、ここで指を左右に動かすだけで、各調整項目の「効き具合」を変えられる

Photography Proは、スマホしか知らないけれど「将来的には一眼カメラを使ってみたい」人には、格好の練習機材となるだろう。まあ、5G対応のXperia 1 II自体が高価で若者向きか、と言うと疑問はあるが。

カメラの世界は魅力的で奥深い。スマホカメラは本格的なカメラの下位にあるものではなく、すでに別の存在になりつつある。それゆえに、Photoshop Cameraのようなアプリが必要になっている。そして同様に、ゲートウェイとしてPhotography Proのようなアプリも必要なのだ。

この両方が並存していることが、スマホカメラの特徴であり、企業が考える「カメラとスマホカメラの関係」を象徴するものでもあるのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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