西田宗千佳のイマトミライ

第26回

iモードと3G終了とスマホ設定サポート。変わりゆく“ケータイ”

10月29日、NTTドコモは、3G通信方式の「FOMA」と、フィーチャーフォン向けの通信サービスである「iモード」を、2026年3月31日に終了する、と発表した。

ドコモ、「FOMA」「iモード」を2026年3月末に終了

iモードは2G時代である1999年2月に、3GであるFOMAは2001年10月にサービスを開始し、すでに20年近く使われている。2026年には5Gが普及している予定で、元々「2020年代半ばには終了」と予告されていたものだが、今回改めて終了時期が明示されたことになる。

「iモードとケータイ」が日本にもたらしたもの

いうまでもなく、iモードと、その主なインフラであった3Gは偉大なサービスだ。iモードがなにをもたらしたのか、という点についてはいろんな観点があるだろうが、筆者は「PCより先に常時接続的な世界観を人々に浸透させたこと」だと思っている。

この話、過去のPCでのインターネット利用を知らないと、なんのことか分からないだろう。

1990年代、家庭におけるインターネット接続は「ダイヤルアップ」の時代だった。モデムを介してインターネットサービス・プロバイダー(ISP)に接続し、そこからインターネットへと出ていた。ダイヤルアップ時代の話とその後のブロードバンド時代を比較すると「速度」の話に注目されがちだが、筆者は別の観点が大きかったと考えている。

それは、「ネットを使う時には“まず接続”しないといけなかった」ということだ。なにか調べ物があっても、欲しいものがあってもすぐにその情報を見られるわけではない。まず接続してから使うので、強いモチベーションがある時にしかネットにつながない人が多かった。「テレホーダイ」が始まる23時以前は電話代が高かったので、それまでつながない、という人もいたはずだ。

今思えば、このことはネットのカジュアルな利用を強くスポイルしていた。いつでもどこでもメールをチェックし、ネットを見ていたのはごく一部の人だけだ。「便利だが、自宅では夜にちょっと使うもの」というのが、日本のインターネットだったのだ。

だが、iモードはそれを変えた。携帯電話があればいつでもすぐにネットが見れて、メールの確認もできたからだ。携帯電話だからどこでも使える、という点はもちろんある。それ以上に、携帯電話ネットワークであるからこそ、ダイヤルアップのような「つなぐ」という作業がなかった。利用時間ではなく使ったデータ=パケット量で課金されたのも大きい。

ダイヤルアップ時代、さらにはその前のパソコン通信の時代には「接続時間課金」なので、読んでいる時でもつながっていればお金を取られたが、パケット課金はそうではなかった。

アメリカのように電話料金が基本的に「固定制」でなかった日本の場合には、いつでも素早くネットの利便性を使う、という姿は、ブロードバンドの前に、iモードに代表される携帯電話系サービスで実現されていた……といっても過言ではない。

携帯電話事業者の手を離れていく「端末」事業

もちろん、いまとなっては懐かしい姿だ。

iモードのようなサービスを実現するには、携帯電話ネットワーク上で、端末からサービス内容、通信トラフィックの状況までをある程度ちゃんとコントロールする必要がある。パケット通信料金が今よりも高く、速度も遅かったが、それ以上に「携帯電話事業者がコントロールする範囲」がずっと大きかったのだ。

だからフィーチャーフォンは「携帯電話事業者」がイニシアチブをとって商品企画が行なわれ、端末メーカーは携帯電話事業者に納入する形を採っていた。端末の進化はサービスの進化でもあり、両者を分けるのは(まだ)難しかった。

当時もSIMロック解除の議論はあったが、正直、あまり意味があるとは思えなかった。サービスとの紐付けが強い性質である以上、SIMロックをはずして他社にもっていっても価値が出づらかったからだ。

しかし、3Gから4Gに移行するタイミングで登場したスマートフォンは違った。インターネット上のサービスを利用するものになり、携帯電話事業者が「回線と紐付いたサービスと端末」を作る意味は薄れる。結果的に今は、SIMロック解除にも、SIMロックフリーの端末にも大きな意味がある。海外企業が作った端末が販売される比率が増えたのも、コスト的にも技術的にも、圧倒的な数を調達して開発する海外企業の方が有利になっていったからである。

iPhoneが登場したころ、携帯電話事業者はそうした「インターネット型の携帯電話」への移行をもう少しゆるやかに進めるつもりだった。だが、結果的にiPhoneとそれに続くスマートフォンが、携帯電話の事業モデルを変えてしまった。

「無償初期設定サポート範囲」明確化の裏にあるのはなにか

実はiモードの終了がアナウンスされた同日に、iモード時代と4G・5G時代の違いに関わる、もうひとつのアナウンスが行なわれていた。それが以下の発表だ。

ドコモショップの初期設定サポートが全国どこでも同じに

「サポートの発表のどこにそんなことが?」

そう疑問に思うかもしれない。注目してほしいのは、「ドコモショップで初期設定を無料で行なう範囲」が明示されたことだ。

これまで初期設定の店頭サポートについては、どのような範囲を無料で行なうかが、店によって異なっていた。だが今回、無料で行う提供条件が定められた。基本は、「ドコモショップ店頭で機種を購入し、初期設定のサポートを望むユーザーに」行なう、という点だ。

無料サポートと有料サポートの範囲が明示された

家電量販店などで買った端末を店舗に持ち込んで初期設定サポートを依頼することは「有料」となる。NTTドコモのオンラインストアで買った顧客も同様だ。

現在のスマートフォンは色々な販路がある。分離プランになったため、今後その方向性は拡大するだろう。色々な販路で携帯電話が売られ、それを携帯電話事業者のネットワークに接続して使うのは、4G/5G時代の端末においてはあたりまえのことになった。

こんなことはiモード時代にはなかった。前述のように、「携帯電話端末は携帯電話事業者が商品企画したもの」で「携帯電話事業者のネットワークとサービスに合わせて開発されていた」からだ。どこで売られたものであろうと、ドコモの端末はドコモの端末だったのだ。

だから、サポートもシンプルであったとはいえる。今はできることも自由度も増えたが、確かに、詳しくない人には設定が難しく感じられるだろう。

サポートの有償範囲が広がり、店舗との紐付けが強くなっていくことで「安心して使いやすいこと」を求める人と、自分でなんでもやってしまう人を分け、コストの最適化を図る時代だ。

これもまた変化の一部である。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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