小寺信良のくらしDX

第38回

MacBook Neo登場で激変 アップルの1780円サブスク「Creator Studio」の意味

1月から「Apple Creator Studio」の提供がスタートした

今年1月、Appleは新しいサブスクサービス「Apple Creator Studio」を開始した。これまで買い切りで単品販売されていたものや新規に加わったものなど、1つの契約で合わせて10個のアプリが使える。

1カ月の無料トライアル期間があり、それを過ぎると月額1,780円または年額17,800円で使える。学生は月額480円または年額4,800円だ。ファミリー共有で最大5人と共有できるなど、かなり良心的な価格設定である。

ただこのサブスクに含まれるアプリは、どれもそれほどメジャーというわけではない。「Final Cut Pro」「Logic Pro」「Pixelmator Pro」「Motion」「Compressor」「MainStage」と「Keynote」「Pages」「Numbers」「フリーボード」の10個のアプリがあるが、ユーザーがそこそこ多いと思われるのは、「Logic Pro」と「Keynote」ぐらいだろうか。

Apple Creator Studioは発表された当初から、Appleの狙いがよくわからないとされてきた。競合アプリに比べると知名度が低く、とてもかなわないのではないかという指摘が多かった。

だがこれらが全て、3月中旬より発売が開始された「MacBook Neo」で動くとしたらどうだろう? MacBook NeoはiPhone用の「A18 Pro」チップを採用し、99,800円という低価格でスタートしたMacBookの新シリーズである。メモリーが8GBしかないことから、ヘヴィな利用には向かないと評価されているマシンだ。

今回は実際にMacBook NeoでApple Creator Studioのアプリを動かしてみながら、この2つの関係を改めて評価してみたい。

MacBook Neo

Apple Creator Studioの構成 Adobe対抗ではない?

まずはApple Creator Studioの中身を確認してみよう。アプリはいくつかのジャンルに分けられる。

映像制作系としては、「Final Cut Pro」、「Motion」、「Compressor」がある。Final Cut Proは現在バージョン12となるが、バージョン7以前はテレビ業界にかなり浸透した。だがバージョンXになった時に大幅にコンシューマ向けに改変され、プロユーザーがいっぺんに離れてシェアを大幅に落とすこととなった。

それ以降、現状に合わせたアップデートが細々と行なわれてきただけで、業界をリードするとは言えないツールである。ただ現在はターゲットをネットのインフルエンサーなどへ移し、操作がやさしいUIにまあまあ高度なことができるツールへと変貌している。

Motionはエフェクト専門ツールで、Adobeで言えばAfter Effectsに相当する。テンプレートが豊富なので、自分でゼロから作るというより、選んでいくタイプだ。

Compressorは動画エンコードをバッチ処理できるツールで、Final Cut Proと連動している。Final Cut Proからも単品でも出力はできるが、1つの動画から複数のフォーマットへいっぺんにエンコードできるので便利だ。

これらのツールは、以前はFinal Cut Studioとしてワンパッケージ販売されていたが、2011年にFinal Cut Pro Xが発表された時に、単品売りとなった。

実際に筆者が購入したMacBook NeoでFinal Cut Proを動かしてみたが、4K/Log撮影した動画クリップを、SDRにカラーグレーディングしながら編集するのになんの支障もなかった。マルチレイヤーでトラックを重ねていくとそれなりに重くなるが、シングルトラックでトランジションやエフェクト、テロップ入れなどしてもちゃんとリアルタイムで動作する。

MacBook Neo上でFinal Cut Proは問題なく動作する

iPhoneで撮影したHD/SDRの動画を編集するのは、造作もない。一般的な編集であれば、問題なく動くだろう。MacBook Neoに搭載されているA18 Proは、2024年に発売のiPhone 16 Pro/Pro Maxに搭載されたもので、当時iPhoneで4K動画編集は問題なくできた。macOSになっても、パフォーマンスはそれほど変わらないようだ。

音楽関係のツールとしては、「Logic Pro」と「MainStage」がある。Logic Proは、音楽制作全般を行なうDAWツールとして人気がある。市場で一番メジャーなのは「Pro Tools」だが、Logic Proは2位グループの一角を担うポジションだ。

MainStageは知らない人も多いと思うが、元々は2007年に販売されたLogic Studioにバンドルされていた音源ツールである。MIDI鍵盤をMacに繋ぐことで、ソフト音源シンセサイザーとして機能する。2013年に単品売りとなったが、Logic Proと音源やエフェクトを共有できるのがポイントである。

こちらもMacBook Neoで動かしてみたが、特に引っかかりなどもなく動作する。音楽制作の入門には最適だろう。

DAWとして根強い人気を持つ Logic Pro
ソフトシンセ音源が楽しめる MainStage

Pixelmator Proは、写真などの画像編集を行なうツールだ。その前身は2007年にリトアニアのソフトハウスPixelmator Teamがリリースした「Pixelmator」で、Adobe Photoshopの軽量版といった立ち位置でスタートした。

2017年にPixelmator Proとなったが、上位版というよりは、UIやエンジンなどが刷新された後継アプリである。できることはPhotoshopに近いが、UIが全く違うので、Photoshop経験者でも使い方を覚えるまではある程度時間がかかる。

Pixelmator Teamは2024年にAppleに買収され、その流れでPixelmator ProもApple Creator Studioに組み込まれた。これもMacBook Neoで問題なく動作することを確認した。

AIによるマスク処理などにも対応したPixelmator Pro

これらクリエイティブツールは、AdobeのCreative Cloud対抗と言われている。確かにAppleにはこれまでプロ向け画像編集ツールがなかったのは事実だが、それでもまだCreative Cloudに比べれば、「Illustrator」のようなベクターツールもないし、「InDesign」のようなDTPアプリもない。

ただCreative Cloudアプリは、どれか1つ使える単体プランでも、年間プランを月割りにして3,280円もする。全部が使えるProプランは年額を月割りにして9,080円だ。月額1,780円で使えるApple Creator Studioは、かなり割安に見える。

学生料金を比較しても、Creative Cloudが初年度のみ月額2,180円、2年以降は4,180円になる。だが、Apple Creator Studioなら学生は月額480円である。学生にとって、この差はかなり大きい。

評価が分かれる、オフィスツールバンドル

Apple Creator Studioは、名前どおりクリエイター向けツールのセットとしてはかなり低価格だ。一方で経済紙の論評のなかには、オフィスツールとクリエイター向けツールが同じプランに入っているのは無駄だという指摘もあった。いわゆる抱き合わせ販売のように見えたのだろう。

オフィス系ツールとしては、プレゼンツールのKeynote、表計算ソフトのNumbers、ワードプロセッサのPages、ホワイトボードツールのフリーボードの4つがある。クリエイティブワークをやらないビジネスマンにとっては、6割は無駄なソフトということになる。

確かに表計算ソフトはあんまりクリエイター向けとは言えないが、原稿を書いたり企画書のペライチを作るためにPagesもいるだろう。クリエイターでも案件仕事では、クライアントに対してプレゼンツールも必要だ。共同作業でのディスカッションやアイデア出しにホワイトボードアプリも使うだろう。一応クリエイティブに繋がっているとは言える。

つまりApple Creator Studioを、「Microsoft 365」対抗だと見るから、話がわからなくなるわけだ。

加えて指摘するなら、Adobe Creative Cloud Proと比べるのもまた違う。Creative Cloud Proは現役でプロとして仕事をする人が使うツールだ。一方Apple Creator Studioは、これからクリエイティブワークを学ぶ人や、ネット動画を生業としながらも、ずっとスマホで勝負するには限界を感じていた若手クリエイター向けのツールだ。

その中で、分かっているプロが「これで十分じゃん」と判断する人も出てくる。同じ仕事が低コストでできれば、利益率が上がる。筆者が2000年頃にフリーランスの映像編集者になったときも、コンシューマツールをうまく使って自宅をスタジオ化することで、独立を果たした。これはプロの知識があればあるほど、自信を持って使うことができる裏技だ。

正直Apple Creator Studioだけがポーンと世に出ても、評価されないのは当然だ。MacBook Neoが出て、その上で快適に動くことがわかったことで、話が全然違ってくる。

Apple Creator Studioの組み合わせは、初学者にはもっとも低価格で始められるセットとなる。クリエイティブ系の専門学校ならハイエンドツールは学校にあるので、自宅学習用に使うセットにもいいだろう。そうしてMacでの作業に慣れていけば、将来的にハイエンドなMacユーザーになる。

Appleはこの10年ほど、クリエイターツールはやめてないが新規開発はやってないみたいな、微妙なお荷物感があった。だが今年3月には動画編集プラグインのMotionVFXを買収するなど、積極的な展開を始めている。

かつてはDTP分野でMacが市場を席巻したこともあって、「クリエイターはMac」という風潮があった。Apple Creator Studio + MacBook Neoは、これをもう一度リスタートする可能性がある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。