石野純也のモバイル通信SE

第84回

日本のケータイ市場で5倍の“急成長” モトローラ躍進の秘密

10月10日に販売がスタートするrazr 60。ドコモからはrazr 60d、ソフトバンクからはrazr 60sとして発売される

日本のケータイ市場でモトローラが“急成長”している。

モトローラ・モビリティ・ジャパンは10月1日に、フォルダブルスマホの最新モデル「razr 60」を発表し、10月10日に発売する。キャリアモデルも用意されており、ドコモ版は「razr 60d」、ソフトバンクは「razr 60s」という名称で展開する。

さらに、12月には上位版の「razr 60 ultra」も投入。こちらは、オープンマーケット版に加えて、KDDIが販売することが決まった。

チップセットのスペックがより高く、外側ディスプレイのサイズも大きなrazr 60 ultraは、auでの販売が決定した

台数ベースで前年比5倍以上 急成長の“秘密”

razr 60の発表時には、モトローラが日本市場で急速に拡大している状況がデータとともに紹介された。

モトローラ・モビリティ・ジャパンの代表取締役社長を務める北原秀文氏によると、モトローラ全体の「成長をけん引しているのがアジアで、特に日本は収益ベースで3倍以上の成長を遂げている」という。

モトローラ・モビリティ・ジャパンの北原社長は、同社の成長を日本がけん引していると話す

ここで示されたのが、収益ベースで前年同期比「+371%」、出荷台数で「+580%」にも上る、驚異の成長率だ。「+37.1%」や「+58%」の誤字ではない。それでも約1.4倍、約1.6倍と、スマホ市場の中では大きな伸びだが、+371%は別次元。前年度の第1四半期から、収益を4倍以上伸ばしている計算になる。ここまでの急成長は、前代未聞だ。

第1四半期の日本市場は、収益、納品台数、出荷台数で軒並み3ケタの成長率を示している

とは言え、モトローラのスマホがこの1年で爆買いされているようには見えない。確かに昨年はドコモでの取り扱いが18年ぶりに復活、ソフトバンクでも取り扱いの機種が広がるなど、販路は急速に拡大しているものの、それだけではここまでの急成長は難しい。そのカラクリは、注で記載されている「*FCNT含む」にある。

注には、「*FCNT含む」と記載されている

23年に経営破綻に陥ったFCNTはレノボグループに救済され、現在ではレノボ傘下の企業として新モデルを投入している。モトローラも同じレノボ傘下。この2社を合算した成長率が、上記の収益ベースで+317%という数値だ。FCNTがレノボの傘下に入ったのは、23年9月だが、新生FCNTとして新モデルを投入したのは24年8月。それまでは、新機種が投入されていなかった。

逆に、モトローラが示した25年の第1四半期には、FCNTの主力モデルである「arrows We2」がすでに販売されており、シェアも順調に回復し始めている。MM総研が5月に発表した24年度の「メーカー別スマートフォン出荷台数シェア」によると、FCNTは5位でシェアは6%弱。23年度では“圏外”になっていたが、レノボ傘下になり、新生FCNTとして復活を遂げた格好だ。

arrows We2が発売になったのは24年8月。そこからFCNTの出荷が急増したことを踏まえると、モトローラが示した第1四半期で+371%という数値の謎が解ける

つまり、FCNTが経営破綻から復活した直後で、出荷台数が限定的だった昨年の第1四半期と比較しているため、レノボグループとしてモトローラとFCNTを合算すると超急成長しているように見えるというわけだ。実際、北原氏も、「FCNTが非常に大きい」と認めている。ある種マジックのようにも思えるが、モトローラ自体が成長していないわけではない。

むしろ、「キャリアとのビジネスリレーションが数年でどんどん進み、結果として数字が伸びている」(北原氏)という。

実際、冒頭で述べたように、12月に発売されるrazr 60 ultraは、KDDIが採用。KDDIからモトローラのスマホが発売されるのは、実に13年ぶり。扱う機種は異なるが、ついに大手3キャリアが横並びで同社の端末を販売するようになった。

昨年のドコモに加え、auでの販売も決まり、取り扱いキャリアが急速に広がっている

「目黒蓮」効果で認知拡大 FCNTシナジーと今後の課題

また、24年に登場した「razr 50」から、タレントの目黒蓮さんをアンバサダーとして起用しており、以降、テレビCMなども積極的に展開している。結果として、7月に発売した「motorola edge 60 pro」のキャンペーンでは、同社に対する認知率が101%と約2倍に拡大。興味関心やブランドへの好意も同様の伸びを示したという。

昨年からブランドアンバサダーに目黒蓮さんを起用し、認知度が急上昇している

モトローラ・モビリティ・ジャパンのマーケティング部長を務める清水幹氏は、「狙っていた若年層だけでなく、もともとモトローラをご存じだった30代、40代、50代の方々の認知も同時に拡大できた」と語っており、その知名度が女性にも広がっていることを明かした。認知が拡大することで、「キャリアショップや家電量販店のSIMフリーコーナーへの送客率も上がってきている」という。

FCNTがグループ入りしたことで、モトローラの端末開発にもプラスの影響が出ている。北原氏は、「特にAIは共同で開発している」といい、日本へのローカライズはモトローラの本社とFCNTが一緒になって取り組んでいることを明かした。

実際、FCNTが発売した「arrows Alpha」に搭載されている「arrows AI」とモトローラの「moto ai」はユーザーインターフェイスに共通点があるほか、FCNT側でも、moto aiに採用された「とりまリスト」と同様の通知要約機能や、画像生成機能の搭載を予告している。

LINEなど、メッセンジャーアプリの通知を要約して伝える「とりまリスト」
音声を文字起こしして、その要約をまとめる「おまとメモ」にも対応。こうした機能のローカライズはFCNTも参画しているという

FCNT側がモトローラのリソースを使えるのはもちろん、こうしたローカライズを素早く進められるのは、モトローラが日本市場を攻略するうえでも有利に働く。まさにモトローラとFCNTのシナジー効果が出始めていると言えそうだ。

とは言え、グローバルでrazr 60シリーズが発表されたのは4月のこと。そこから日本への投入には、半年ほどの時間がかかっている。

FeliCaやn79(5Gの4.5GHz帯)への対応といったハードウェア対応に加えて、AIのローカライズも必要になってくるからだというものの、スマホは1年周期でモデルチェンジするジャンル。半年のタイムラグはさすがに遅いと言わざるをえない。FCNTとの共同開発体制を生かし、この期間をどう縮めていくかが今後の課題と言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya