石野純也のモバイル通信SE

第20回

KDDIとソフトバンク“予備回線サービス”は、本当に同一番号で実現できるのか

2月2日に、KDDIとソフトバンクの2社が、お互いの回線をバックアップに使う新サービスを発表した。3月下旬以降に開始する予定だが、料金などの詳細は別途案内される

KDDIとソフトバンクは、お互いの回線をバックアップに使う“予備回線サービス”を3月下旬以降導入する。既報のとおり、各社の決算説明会で料金は「数百円程度」ということが明らかになった。災害や通信障害に備えた保険のような位置づけで、KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはKDDIの回線を卸でそのまま借り、自社のユーザーに提供する。

予備回線サービスの電話番号はどうなる?

いざというときに便利そうなサービスだが、新しい回線を契約するため、電話番号は普段使っているものとは別になる。データ通信をするぶんにはいいが、電話として使うにはやや使い勝手が悪い。発信時に相手の端末に知らない番号が表示されてしまうだけでなく、相手が予備回線の番号を知らなければ、そもそも電話がかかってこなくなってしまうからだ。

ソフトバンクの宮川潤一代表取締役 社長執行役員 兼 CEOも、「本当に災害が起こったとき、かける側の電話がぜんぜん知らない電話番号だと取ってもらえないのではないかと危惧している」と語っている。同氏は対案としてApple WatchでiPhoneと同一電話番号が使えるサービスを挙げ、(2つの回線を同一番号で発着信は)「テクノロジー的には不可能ではない」と語った。「現場との打ち合わせ前に暴走してしまった」というため、あくまで“構想”だが、実現できれば利便性は高そうだ。

ソフトバンクの宮川CEOは、2つの回線を同一番号で発着信できるようにしたいと発言。その実現度を考えてみた(写真は22年11月の決算説明会のもの)

同一電話番号実現の課題(その1)

ただ、不可能ではないとしても、実現には主に2つの大きなハードルがありそうだ。

1つが電話番号制度、もう1つが端末や運用の課題だ。前者に関しては、卸という提供形態でそのままやろうとすると、現行の電話番号制度を改正する必要も出てくる。KDDIに割り当てられた電話番号を、ソフトバンクが利用することになってしまうからだ。

電話番号は、それぞれのキャリアが設備や品質などの基準を満たしてうえで割り当てられている。最終的には自らで提供するサービスになるとはいえ、他社にその電話番号を使わせるようなサービスは想定されていない。

現状では、基地局などの設備を持つ各キャリアごとに電話番号が割り当てられている。他社がそれを利用するのは、想定の範囲外

制度の改正というと話が大きくなってしまうが、KDDIがソフトバンクの、ソフトバンクがKDDIのMVNOになり、自らが主体となってサービスを提供する道もある。タイミングを同じくして、1月20日には情報通信行政・郵政行政審議会からの答申が出され、「電気通信事業法施行規則等の一部改正」を行なうことが決まった。

改正の主な趣旨は、MVNOに電話番号を割り当てるというもの。基地局などの設備を持っていない事業者に、携帯電話番号の割り当てを拡大するのが狙いだ。

この制度を利用し、お互いにネットワークを借りつつ、加入者管理は個々のキャリアが行なえば、Apple Watchなどに提供しているサービスを援用することができそうだ。ただ、この場合でも、コアネットワークや加入者管理装置と呼ばれるHSS/HLRを切り分けておかなければ通信障害の際に共倒れになってしまう。保険的に低コストで提供する予備回線サービスで使うには、コストが高くなりすぎるおそれがある。時間もかかるため、それなら別途協議されている事業者間ローミングを待てばいい。

MVNOにも、電話番号を割り当てられるようになる。これを活用し、お互いがMVNOになり合えば、少なくとも電話番号の管理は各キャリア内で完結する形になる

デュアルSIMにおける課題

2つ目のハードルが、技術的な課題だ。

予備回線は、デュアルSIMでサービスを使うことが前提。大元の回線と予備回線がデュアルスタンバイになっている場合、同一電話番号での着信が有効だと、電話がかかってくるたびに2回線同時に着信してしまう。電話番号がバラバラでも、ごくごくまれに同時着信することはあるが、確率は非常に低い。では、実際、同時に電話がかかってくるとどうなるのか。

auとpovo2.0のデュアルSIM状態にしたiPhone 14 Proに、2台の端末から電話をかけてみたが、やはりどちらか一方は圏外や電源が入っていないときと同じアナウンスが流れてしまう。先に主回線側が着信すればいいが、電波の事情で予備回線で受けてしまった際には問題が起こる。

電話アプリの仕様上、着信履歴をタップすると、そのままかかってきた方の回線で折り返すことになるからだ。細かな料金体系が発表されていないため、何とも言えないところだが、主回線は音声通話定額に入っているにも関わらず、それが適用されないおそれもありそうだ。

デュアルSIM化したiPhoneに、別々の電話から発信してみたが、片方は圏外や電源が切れているときと同じアナウンスが流れてしまった
上記の電話は副回線側が着信したが、その着信履歴をタップすると、そのまま副回線で発信されてしまった。今の端末の仕様で予備回線を同一電話番号にしてしまうと、音声定額が非適用になるなど、トラブルが起こりそうだ

Apple WatchでiPhoneと同一の電話番号を使えるサービスは、端末が分かれているからこそ、成り立っている。1台で同じ電話番号の2回線を扱うのとは、同列視できないと言えるだろう。非常時以外は予備回線をオフにしておく手はあるが、ユーザーの運用に委ねられてしまう。宮川氏は「暴走してしまった」と語っているが、やはり実現するためのハードルは非常に高い。

予備回線サービスへの準備を

では、予備回線サービスを使う際にはどうすればいいのか。やはりよくやり取りする相手には、あらかじめもう1つの電話番号を伝えておいた方がいいだろう。相手の電話帳にその番号が登録されていさえすれば、予備回線から発信しても誰からかかってきたのかを判別できる。災害や通信障害の際には、不明な電話番号からかかってきた電話を取るよう、習慣づけておくことも必要になりそうだ。

詐欺被害やうっとおしい営業電話などを防ぐため、知らない電話番号からかかってきた電話を取らないようにしている人もいる。また、知らない電話番号からかかってきた電話を取らないようにしている人もいるため、発信する側は留守電話にその旨を吹き込んだり、SMSで事前に電話することを伝えてもいい。転ばぬ先の杖として役に立つサービスなだけに、電話まで利用することを考えている人は、あらかじめ準備をしておくといいだろう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya