石野純也のモバイル通信SE

第19回

楽天モバイルもホームルーター参入 “最安”と物足りなさの理由

楽天モバイルも参入。通信キャリアの「ホームルーター」

楽天モバイル初のホームルーター、Rakuten Turbo 5Gが発売された

楽天モバイルは、CPE(Customer Premises Equipment)と称されることもあるホームルーターの「Rakuten Turbo 5G」と、同製品で利用する料金プランの「Rakuten Turbo」を発表した。データ容量は、スマホ向けの料金プラン「UN-LIMIT VII」と同じ無制限だ。製品の価格は41,580円、毎月の通信費は4,840円かかる。

ただし、これはあくまで“素の価格”。最初の3年間は割引が適用され、月額料金は3,685円まで下がる。4,840円は、4年目以降の金額だ。ホームルーターのRakuten Turbo 5Gは、24回もしくは48回(楽天カードのみ)の割賦で購入でき、前者だと月額1,732円、後者だと月額866円が上乗せされる。

料金はデータ容量無制限で4,840円。3年間は割引が入り、3,685円

この割引の合計額は、端末価格とピッタリ一致する。割引期間と割賦の期間にズレがあるため分かりづらいが、3年利用する場合、端末は実質0円、通信費は4,840円と理解していいだろう。こうした仕組みは、他社とほぼ同じだ。ただし、他社の例を見ると、ホームルーターそのものに割引が入り、一括1円などの格安価格で販売されることがある。

通信に4Gや5Gを使ったホームルーターは、固定回線の代替として活用されてきた。他社に先駆けたのがソフトバンクで、同社の「SoftBank Air」は、固定回線契約者の中でかなり大きな比率だという。モバイル回線を使うため、固定回線とは異なり工事が不要ですぐに利用を始められるのがホームルーターの魅力。古いマンションで各戸まで光回線を引けない場合、通信速度が固定回線を上回るケースもある。

KDDIも傘下のUQコミュニケーションズが持つWiMAX 2+を活用しながらホームルーターを展開。ドコモは、グループ間競合に遠慮してホームルーターを展開してこなかったが、20年にNTTの完全子会社になり、社長に井伊基之氏が就任したのを契機に、「home 5G」を投入した。楽天モバイルのRakuten Turbo 5Gも、こうした流れに位置づけられるサービスだ。

ホームルーター市場には、大手3キャリアとも参入済み。写真はドコモのhome 5Gの第2世代となる「home 5G HR02」

最安Rakuten Turboの微妙なポジション

ただ、料金の安さを全面に打ち出してきたスマホ向けの料金プランとは異なり、Rakuten Turboは他社と比べると価格的なインパクトが少々弱い。割引前の正規料金では4社で最安であることは事実だが、次に安価なドコモのhome 5Gと比べると、その差はわずか110円しかない。使い放題で他社の半額以下を売りにしてきた楽天モバイルとしては、パンチ力に欠けている印象も受ける。

ホームルーターはドコモも4,950円と比較的安く、楽天モバイルの料金的な優位性が弱い

では、なぜこのような料金体系になっているのか。1つの基準として、同社の固定回線である「Rakuten光」を参考にした可能性がある。Rakuten光の料金は、集合住宅向けのマンションプランが4,180円、戸建て向けのファミリープランが5,280円。Rakuten Turboの4840円は、この中間に位置する。

実際、Rakuten Turboは固定回線の部門が担当しているといい、スマホ向けのUN-LIMIT VIIとは別建てで設計された可能性もある。他社を見ても、ホームルーターは固定回線部門が担当していることが多い。縦割りと言ってしまえばそれまでだが、ユーザーの利用シーンを考えると、固定回線に近いためで、制度的にもモバイル向けとは異なる規制が適用される。位置登録が必要なことや、端末割引の上限対象外になることは、その代表例と言えるだろう。

Rakuten光と料金は同水準だ

一方で、ユーザーから見ると、同じ楽天モバイルであることに変わりはない。同じ楽天モバイル回線を使ったRakuten Turboが。スマートフォン向けの料金プランであるUN-LIMIT VIIより高いのは、理解に苦しむところだろう。他社の場合、スマートフォン向けの料金よりもホームルーターの方が安価に設定されているので、なおさら不思議な価格帯に見える。

Rakuten Turboには、他社で当たり前になっているモバイル回線との「セット割」が存在しない。Rakuten光ですら、楽天モバイルとのセット契約で1年無料になる。固定回線はモバイルとセットで提供することで、ARPU(1利用者からの平均収入)の底上げや、解約抑止につながる。セット割を提供しているのは、そのためだ。こうした仕組みがないのも、Rakuten Turboの割高感につながっていることは否めない。

際立つUN-LIMIT VIIの割安さ

裏を返すと、スマートフォン向けのUN-LIMIT VIIが割安すぎる、とも言えるだろう。確かに、3,278円でデータ通信が使い放題になる回線は、ほかに存在しない。国内3キャリアはもちろん、諸外国の料金プランと比べてもそうだ。Rakuten光とのセット割が光回線側に適用されていることからも分かるように、これ以上モバイル側を割り引くのは難しいのかもしれない。

スマートフォン向けの料金は、本格サービス開始以降、一貫して無制限が3278円だった

黒字化を目指し、ARPUの向上が至上命題になっている楽天モバイルだが、本音を言えば、UN-LIMIT VIIの料金もRakuten Turboぐらいまでは上げたかったのではないか。無制限というこれ以上増やしようがないデータ容量に対し、低すぎる天井を作ってしまったことに楽天モバイル自身が縛られてしまっているような気がしてならない。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya