石野純也のモバイル通信SE

第23回

通信回線も“バックアップ”の時代に。KDDIとソフトバンク「副回線」始まる

KDDIとソフトバンクは、3月27日に「副回線サービス」を発表した。KDDIは3月29日から、ソフトバンクは4月12日から提供を開始する。

障害や災害で通信がつながりづらくなったとき、“生きている”もう1社の回線に接続し、通信が途絶えないようにするのがこのサービスの目的だ。'22年7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、バックアップ回線の必要性が再認識され、KDDIとソフトバンクの両社で協議を進めてきた。このサービスは、その成果だ。

KDDIは、3月29日から副回線サービスを開始する
ソフトバンクの副回線サービスは、4月12日のスタート

細かく異なる両社のサービス内容

KDDIの料金やサービススペックは、個人と法人で微妙に異なっている。前者は、月額料金が429円。通信速度は300Kbpsに制限され、データ通信は500MBまで利用できる。500MB超過後は、速度が128Kbpsに制限される。これに対し、法人向けは料金が550円とやや高い一方で、データ容量は1GBに増量されている。通信速度も1Mbpsと速い。速度超過後は、個人向けと同様、128Kbpsに制限がかかる。

どちらも、通話料は30秒22円。SMSは1通あたり3.3円で、受信は無料だ。法人向けの方が、よりスペックが高いのは、「ビデオ会議などを使えるようにするため」(KDDI広報部)だという。細かな点では、個人向けが物理SIMとeSIMを選択できるのに対し、法人向けはeSIMオンリーになっている。法人は一括で契約する回線数が多いため、SIMカードの管理が煩雑になるのを避けるためだという。

KDDIの個人向けの料金は500MBで429円。通信速度は300Kbpsに制限される
法人向けは550円とやや高めだが、容量が1GBと多く、速度も1Mbpsまで出る

ソフトバンクが提供する副回線サービスも、料金やサービスペックなどの内容はほぼ同じだ。こちらは、KDDIの回線を副回線として使用する。ただし、ソフトバンクが提供するのはeSIMのみで物理SIMは提供されない。KDDIは電話かオンラインでの申し込みが前提になるが、ソフトバンクはショップで申し込みを行なう必要があるなど、提供方法には細かな違いもある。また、KDDIはauとUQ mobileのユーザーが対象だが、ソフトバンクはワイモバイルには提供しない。

ソフトバンクも金額やサービススペックは同じ。ただし、提供形態がKDDIとはやや異なる

両社の副回線サービスは、お互いに回線を卸しあう形で提供されるため、電話番号は通常利用しているものとは別になる。デュアルSIM端末に入れ、常時有効化しておいてもいいが、SIMカードとして提供されるため、いざというときだけ差し替えることも可能だ。また、基本的には通信障害や災害時のものという位置づけだが、特に利用シーンに縛りはないため、電波状況がよくないときに、もう一方の回線に切り替えて使うこともできる。

緊急時ローミングとは「別」。誰もが“備えられる”環境に

総務省では現在、緊急時ローミングの実現に向け、技術的な検討が進んでいるが、副回線サービスはこれとは別の位置づけで、キャリア同士が主体的に提供するサービスになる。お互いにコストがかかり、緊急時以外にも利用できてしまうため、料金がかかる。その意味で、あくまで、お金を払ってでもいざというときに備えたいユーザー向けのサービスと言えるだろう。

本人確認書類を提出し、新規でもう1回線契約するのとは異なり、あくまでオプションという位置づけになるため、ワンストップでの提供になる。KDDIのユーザーはKDDI、ソフトバンクのユーザーはソフトバンクで契約を済ませればよく、簡易的な申し込みだけで利用できるようになるのはメリットだ。気軽に申し込める保険のようなサービスというわけだ。

ただ、MVNOやオンライン専用プランまで視野に入れると、副回線サービスより安価に維持できる回線はほかにもある。例えばオプテージの運営するmineoは、通信速度を32Kbpsに絞った「マイそく スーパーライト」を月額250円で提供している。32Kbpsだと実際にはほとんどの通信ができないが、利用する場合のみ、24時間速度制限を解除するオプションも1回あたり198円で用意されている。

マイそく スーパーライトは、通常、速度が32Kbpsに制限されるが料金は250円と安い

mineoは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクのトリプルキャリア回線のため、自分が普段使っているキャリア“ではない”回線を選べば、副回線サービスのようなバックアップとして活用できる。ビジネスチャンスとして捉えているぶん、マイそくの方がよりユーザーの利用実態に即したサービスとして仕上げられていると評価できる。副回線を持っておくなら、こうしたMVNOを選択するのも手だ。

また、KDDI以外のユーザーは、基本料が0円のpovo2.0を契約する手もある。ソフトバンクユーザーの場合、契約の手間さえいとわなければ、あえて副回線サービスを申し込む必要性は薄くなる。

ソフトバンクユーザーなら、povo2.0を契約する手もある

それでも、各キャリアのショップで契約やサポートができれば、MVNOの情報まで追えない人や、MVNOとの契約を難しいと感じている人にとって、いい選択肢にはなる。リテラシーの高くないユーザーが、バックアップ回線の存在自体を知る機会になりうるからだ。逆に言えば、オンラインでこの情報にたどり着くことができ、自ら申し込めるユーザーがmineoやpovo2.0などの情報を知らないとは考えにくい。この点では、ショップでの申し込みを前提にしたソフトバンクの方が、ユーザーの利用実態に即していると言えそうだ。

対するKDDIは、先に述べたとおり、当初は電話かオンラインでの申し込みに限定される。「ショップでも手続き方法の案内はする」(KDDI広報)というが、積極的に周知していくかは未知数だ。あくまで、ユーザーが主体的に行動を起こさなければならないのが、同社の副回線サービスの課題と言える。KDDIの広報部によると、サービスインを急いだ結果、まずは電話やオンラインでの取り扱いから始まったといい、「ショップでの取り扱いは検討している」状況だ。

一方で、サービスの特性を考えると、やはりリアルなショップでの扱いは“マスト”と言ってもいいだろう。また、現時点ではドコモがサービスの提供を表明しておらず、KDDIやソフトバンクでドコモ回線は選択できない。ドコモも2社と協議していることを明かしているが、通信障害や災害はいつ起こるか分からないだけに、早期の対応に期待したい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya