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KDDI、高速5Gエリアが関東でいきなり2.8倍 Sub6の取組をアピール

KDDIは、5G専用で高速な通信を実現する周波数帯の「Sub6」(KDDI保有は3.7GHz帯、4GHz帯)について、エリア拡大を5月末までに実行し、1月末と比較してエリアが関東地方で2.8倍、全国でも1.5倍に拡大したと発表した。Sub6エリアは通信速度も従来の5Gと比較して約3倍に向上、最大で300Mbpsを超える通信速度を実現し、高画質な動画の再生なども快適になったとしている。

「Sub6」とは、5G専用で整備された6GHz以下の周波数帯を指し、高速・大容量を実現するために“本命視”されている周波数帯。KDDIは、Sub6の基地局数が業界最多の3.9万局になるなど、数や高密度な展開を強化してきた。

Sub6は5Gで本命視されている周波数帯
Sub6の数の展開はすでに取り組んでいる

一方でこれまでは、既存の衛星通信事業者が受信で使う周波数帯(3.6~4.2GHz帯)とSub6の周波数帯との干渉抑止のため、地球局(通信衛星の電波を受信する地上側の設備)が設置されている東名阪を中心にSub6基地局の出力を制限し、アンテナ角度も適正値より下げて設定するなど、意図的にパワーを落とす対策をとっていた。これにより、比較的使いやすい周波数帯であるにもかかわらず、Sub6のエリアカバーや通信速度が本来のパフォーマンスではないという点は、通信キャリア共通の課題になっていた。

そこで2023年度末に、焦点となっていた地球局を移転するなどの策で衛星通信事業者の協力が得られることになり、干渉条件が緩和が決定。KDDIは2024年4~5月にかけてSub6基地局の出力アップとアンテナ最適化に取り組み、干渉対策が行なわれていた関東地方や東名阪を中心に、Sub6のエリアを大幅に拡大、速度も大きく向上する結果になった。

出力を本来のパワーに戻せるようになった
アンテナ角度も最適化を実施

なお、干渉条件の緩和の恩恵を受けられるのは、KDDIだけでなく他社も同様。ただし、KDDIはSub6の基地局数が他社よりも多く高密度なため、これまでは干渉抑止として多数の基地局で出力制限をしてきた形。そのため、干渉条件の緩和により本来の出力で運用すると、基地局数の多さも手伝い、エリア拡大や速度向上といったメリットが他社よりも顕著に表れるとしている。

既存衛星通信の干渉条件の緩和による、Sub6通信エリアの拡大・速度向上は、2月の説明会でも案内されていた。今回の発表は、実際にSub6基地局の出力を上げてエリア拡大や通信速度の向上を確認し、その結果を解説するものになった。

KDDIによれば、関東地方において、基地局の出力アップを実施したことで、1月末と比べてSub6エリアが2倍になった。2倍の拡大は予め予測・案内されていたが、さらにその後、アンテナ角度の最適化を実施したことで、Sub6のエリアは1月末と比べて2.8倍にまで拡大した。これは基地局数の増加ではなく、単純にパワーアップとアンテナ角度の最適化によるものとしている。

Sub6のカバーエリアは100mメッシュで公開されているが、関東地方は1月末で4.3万メッシュだったところが、6月初旬時点で12.2万メッシュにまで拡大している。

干渉条件の緩和は関東だけでなく東名阪を中心に全国で実施されており、例えば大阪、札幌、福岡、名古屋などでも、基地局の出力アップとアンテナ角度最適化により、Sub6エリアが顕著に拡大している。

通信速度も、Sub6エリアは300Mbpsを超える速度を実現。これは、4G用の周波数帯を5Gに転用する従来の5Gエリアが70~100Mbpsだったことから、約3倍の通信速度にまで向上した形になる。

5GのなかでもSub6エリアが拡大
速度も300Mbpsを超える

駅や商業地域でもSub6の展開が本格化する。アンテナの出力がアップしたことで、Sub6がカバーする鉄道駅は519駅から612駅に増加。商業地域も338スポットから363スポットに拡大した。

また、23区内の中心部では8~9割がSub6でもカバーされているなど、5Gの本命とされるSub6エリアは急速に拡大している。ユーザーレベルでも、動画をすぐに再生できる、レイテンシが低い環境でゲームを遊べるといったメリットが実現できているという。

鉄道駅や商業施設でもSub6エリアが拡大
速度向上のメリット
ゲームで重視されるレイテンシもライバルに比肩するところまで改善

KDDIが持つSub6の周波数帯は3.7GHz帯と4GHz帯(それぞれ100MHz幅)で、他社と比較して2つの周波数帯が近接しているのも特徴。2つの周波数帯を束ねて一緒に扱える通信装置が、比較的単純で小型になるのも大きなメリットで、国内初とする2周波数対応MMU(Massive MIMO Unit)を2024年度に始動させる予定。5Gの高度な利用や、さらなる超高速通信を実現する設備となる。6月14日の発表会では、サムスン電子製の「Dual Band Massive MIMO」対応の通信機材が公開された。

100MHz幅×2を最大限に活用していく
サムスン電子製の通信装置(右)

産業ニーズに応える高度インフラとして整備

KDDI 執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部長の前田大輔氏

KDDI 執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部長の前田大輔氏は、Sub6を積極的に拡大する背景について、5G専用の周波数帯でさまざまな新機能を提供する「5G SA」の本格普及が控えている点を挙げる。

「5G SAが普及するのは来年度以降の予測。産業のニーズに応えるものとして5Gが立ち上がる」(前田氏)とし、コンシューマーだけでなく法人や放送事業者向けなど、さまざまな展開を見込み、万全な体制になるよう準備を急いでいる段階。前田氏は「5Gは日本の社会基盤インフラ。引き続き磨き上げていく」と意気込みを語っている。

基地局「パワーアップ作業」をリアルタイムで披露

東京・芝公園のデモ会場

発表会の後、珍しいデモンストレーションとして、Sub6の基地局の出力を本来のパワーに戻す「パワーアップ作業」が公開された。

基地局を制御する作業は東京・多摩市のKDDI ネットワークセンターでリアルタイムに行なわれ、対象の基地局を指定、パワーアップのコマンドを実行すると、東京・芝公園のデモ会場にて即座に電波が強くなり、通信速度もアップするという様子が披露された。パワーアップ作業の前後では、下りの通信速度が72.6Mbpsから307Mbpsに向上していた。

東京タワーのふもとにあるビルにパワーアップ作業の対象になる基地局が設置されている(写真中央の2本のポールがアンテナ)
デモの概要
事前テストによる電波強度の変化。デモ会場は写真左上の芝生エリア
事前テストによる通信速度の変化
基地局パワーアップ作業前後の比較