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デンソーが大規模野菜工場 自動車技術で「食」をDX

デンソーは、自動車業界で培った技術を活かした「食」分野への取り組みについて記者会見を開催。中・大規模野菜工場や、物流の改革、QRコードを使った産地証明の取り組みなどについて語られた。

現在、日本の農業の労働人口は減少し続け、平均年齢も68歳と高い。生産、物流、消費の各課題に対してソリューションを提供し、フードバリューチェーン全体の課題を解決することで食の安心・安定供給に貢献することを目指す取り組み。

機械工場と「施設園芸」の親和性

具体的には、生産段階としては、就農人口減少・食料供給不安定という課題に対して即導入可能な「ターンキーソリューション」を提供。人手不足や気候変動に対応した、高度に制御された農業ハウスを提供する。

農業にはさまざまな分野があるが、その中でも「施設園芸」という分野には、デンソーがこれまで得意としてきた機械工場と共通するものがあるとし、これに注力する。最先端の農業技術を持つというオランダのセルトンと資本連携し、合弁会社「デンソーアグリテックソリューションズ」も設立。グローバルを視野にいれた展開を計画している。

2019年から日本で運営する大規模施設園芸では、セルトンの大規模施設を導入し、その中でデンソーのロボットを運用して農作物の育成を行なっている。同年から静岡県では中規模施設園芸の取り組みも実施。規格が標準化されたハウスを導入して生産性を上げる取り組みで、従来のビニールハウスとは異なり大型のファンとミストを使った冷却システムを導入することで、天候に左右されにくいハウスを実現。最大5度C程度温度を下げることが可能という。

なお、日本における中規模農場とは2,000m2程度、大規模農場とは10,000m2程度の農地を想定している。

また、農場のスマート化にも取り組み、多くの人が就業しやすい環境を作ることで人材確保と地域の発展にも貢献していく。

小型冷凍庫やQRコードで流通・消費改革

流通段階としては、ドライバー不足や物流の多様化という課題に対し、社会変化に対応した柔軟な配送を提供。小型モバイル冷凍機「D-mobico」や自動搬送ロボットにより多様な荷物を柔軟に運搬可能にする。

D-mobicoはヤマト運輸と共同開発し、2021年から量産が開始されたもので、10kgという軽量化をしながら約20分で-20度C程度まで到達する能力を備える。AC電源に接続すれば利用可能で、従来はトラックが必要だった冷凍品の配送に、ミニバンや軽自動車、バイクなども活用可能になり、多様な配送ニーズへ対応する。

消費段階では、フードロス・食の安定性という課題に対し、食の需給最適化やトレーサビリティーを提供。QRコードやRFIDなどにより産地情報などの確認を可能とする。

現在は、流通形態が複雑なため全体の最適化が難しい。生産者はJAに納品し、JAから卸に商品が集中。卸からは各地の仲卸に、そこから小売に分配され、消費者が購入する。この構造では需給調整が困難で、特に小売は多様なニーズに対応するため商品を多めに仕入れる必要があり、その結果、卸に負担が集中。大量に仕入れた商品の売れ残りはフードロスの原因にもなる。

こうした課題に対し、農水省は「デジタル化・データ連携による効率的食品流通モデル構築事業」を推進。デンソーは、食流通DX推進協議会のメンバーとして参加している。この事業では、食の情報の一元化として、デジタル化・データ連携の実証実験を実施。生産地でQRコード化した産地情報を登録した商品は物流倉庫に送られ、在庫情報を登録。販売店とのタイムリーな需給調整を行なうことで、検品業務や受発注業務を効率化し、販売店が効率的な販売を行なえるようにして、フードロスを軽減する。

QRコードの情報は消費者も閲覧可能にすることで、情報の透明化も行なう。アサリの産地偽装で社会問題となった熊本県では、適正に出荷されているアサリにおいても風評被害が発生することから、同社がアサリ産地証明支援の実証実験を実施している。

アサリ漁場で水揚げ日や水揚げ量、漁協名などを登録すると、認定工場でアサリの選別・袋詰めと、QRコードの発行を実施。販売協力店で「認定アサリ」として販売し、消費者はQRコードを読み取ることで産地証明を確認できる仕組みを構築した。今後、熊本県以外でも認定証明の仕組みを展開していく予定。

デンソーでは、こうした取り組みにより、「キチンと作られた食を届け、消費者が評価」する、「正の循環」を目指すとし、食流通全体の活性化に貢献するとしている。