ニュース
コンビニの品出しはロボットに? KDDI×韓国RLWRLDが挑む「フィジカルAI」
2026年9月25日 09:00
韓国発のフィジカルAI企業・RLWRLD(リアルワールド)とKDDIは共同で、「フィジカルAI勉強会」を開催し、経済産業省およびNEDOが実施する国内の生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」に採択されたプロジェクト「小売物流業等の現場業務を代替するロボット基盤モデルの研究開発」の概要や、両社による取り組みのロードマップなどを解説した。RLWRLDが独自開発しているロボット基盤モデル「RLDX-1」を使ったピッキングデモも紹介された。
器用なロボットのためのAIモデル開発を行なう「RLWRLD」
RLWRLDが5月に公開した「RLDX-1」は、視覚や言語のほか、力・触覚・作業記憶を統合処理するロボット基盤モデル。視覚と言語だけでなく、トルクや触覚、動作の履歴を扱うことで、ロボットの操作能力を高め、複雑な作業を実行できるロボットの実現を目指している。同社はこの設計思想を「Dexterity-First」と呼んでいる。
技術的には接触を伴う操作のための物理センシング、複数フレームの観測と動作モジュールを利用して時間的な変化を捉えられる動作認識、過去情報を利用できる長期メモリ、そして認知・物理情報・アクションのストリームを共同の注意機構で結びつける「Multi-Stream Action Transformer(MSAT)」を特徴としている。
「RLDX-1」は、ベンチマーク8種において、NVIDIAのGR00TやPhysical
Intelligence社のπ0(パイゼロ)など、既存の最高性能モデルを上回る結果を記録した。
国内ではKDDIのほか、ANAホールディングス、三井化学、島津製作所などと実証実験を行なっているとされている。RLWRLD日本代表のHoon Lee氏は自社の日本オフィス内での物流現場を想定した実験の様子や、実際のホテル内での清掃データを収集している様子を紹介した。
KDDIとRLWRLDの協力
KDDIは、RLWRLDに出資する企業の一社。産業現場でのデータ収集とモデル学習、小売領域における作業自動化などをテーマとした実証が進められている。KDDIが進める「小売物流業等の現場業務を代替するロボット基盤モデルの研究開発」事業は9月9日、経済産業省とNEDOの「GENIAC」事業の一つに採択された。
具体的にはKDDI本社内の「ローソン S KDDI高輪本社店」を中心に、バックヤードから売り場までの店舗業務を対象として、作業者目線の行動・操作データ、いわゆるエゴセントリックデータを収集。ロボットの制御実証と基盤モデルの開発を進める。
RLWRLDの「RLDX-1」はこの事業におけるベースモデルの一つ。対象となるのは袋菓子のような柔らかい商品や、形状が複雑な商品のピッキング、隣の商品を倒さずに棚へ補充する作業など。単純な搬送や定型的なピッキングだけでなく、商品の形状や配置が変化する現場での器用な操作が課題となる。
なお、開発したロボット基盤モデルを使って、特定のハードウエアに縛られることなく実証予定とされているが、リリースにはハードウェア協力企業としてアンディ・ルービン氏が2025年に日本で立ち上げたヒューマノイド企業「Genki Robotics」の名前があがっている。KDDIは中期経営戦略で「AI労働力」の社会実装を掲げている。
「エゴセントリックデータ」を活用
説明会ではKDDI オープンイノベーション推進本部OIビジネス開発部1G コアスタッフ 貞光雅徳氏と、リアルワールド日本代表取締役 Hoon Lee(李勲)氏によるパネルディスカッション形式の対談(モデレーター:Plug and Play Japanの野口雄大氏)と、ぶら下がり取材も行なわれた。
KDDIがRLWRLDへの出資を公表したのは、2025年4月15日。貞光氏らは以前から次の破壊的イノベーションとして「フィジカルAI」の可能性に着目して企業を探索していたが、当時は日本国内には目ぼしい企業がなかったという。一方韓国RLWRLDについては、大学での研究を背景とした技術力と、コンサルティング出身者によるビジネス開発能力を併せ持つスタートアップとして評価し、出資に至ったと紹介した。
そしてAIとロボットを活用してコンビニ業務を効率化することを目的に、RLWRLDに対して現場の自動化を提案。2025年8月頃にはプライベートブランド商品を対象とした小規模な実証を開始した。経済産業省の「GENIAC」採択は、これらの実証を踏まえた取り組みとなる。
KDDIが「GENIAC」で取り組む内容は、小売・物流現場(コンビニエンスストア等)に向けたロボット基盤モデルの研究開発と、社会実装に向けたエコシステムの構築である。特に、「データ収集技術そのものの開発」や、店舗業務に特化したロボット基盤モデルの開発に取り組む。
具体的にはローソンの店舗内で、作業者がメガネ型カメラ等で撮影した一人称視点(エゴセントリック)映像データを収集する。そしてバックヤードでの準備や売り場への搬送、棚への陳列(ピック&プレイス)といった作業の自動化に向けた特化型モデルを開発することを目指す。また、ロボットのハンドを先行調達して手元動作の実証を進めるなど段階的な導入を進める予定だという。
3500時間のデータを「使えるデータ」に変換
リアルワールドは、今回のプロジェクトにおいて約3,500時間のデータ収集を予定している。計画では、店舗スタッフが装着する機器は基本的にカメラのみとし、手に専用グローブを装着する方式は想定していない。視覚情報から接触力を推定する「Vision-to-Force」技術を活用して、人間の映像をロボットの学習に利用できる品質へ変換する技術を組み合わせることで、3,500時間のデータ量で十分に最適化できると判断しているという。
エゴセントリック映像は、人間の視点から作業を記録できる一方、そのままではロボットの動作データとして品質が不足する場合がある。リアルワールドは、固定カメラと一人称カメラを組み合わせ、映像からロボットの動作に相当するデータへ変換する技術を開発しているとのことだった。
店舗業務を段階的にロボットへ
主な開発対象は、コンビニのバックヤードから店頭までの品出し。バックヤードでは、トラックで運ばれた商品を並べたり、店頭に運ぶために小さな箱へ詰めたりする。店頭では、商品を棚まで運び、所定の位置に並べる作業がある。「ピック&プレース」と呼ばれる作業だ。
KDDI側は、2030年までに、こうした人と接する必要がない付帯作業を中心にロボットでの実施を狙う。一方、レジ業務など、顧客との対話や接客を伴う仕事は、人が担うことを前提としている。人が本来取り組むべき接客に集中し、定型的な「ピック&プレース」作業をロボットに任せるという役割分担である。まずは環境変化の少ないバックヤードなどから始め、段階的に適用範囲を広げる考えだ。
技術開発だけでなく社内の事業化体制が必要
今回のディスカッションで特に強調されたのは、大企業内での事業部門の巻き込みだった。KDDIの貞光氏は「CVC(事業会社によるベンチャー投資)がスタートアップに出資するだけでは、事業化につながらない場合がある」と述べた。出資部門、研究開発部門、既存の事業部門、スタートアップが一体となってチームを構築することが重要になると語った。
KDDIでは、最初から全社横断の大規模な計画を作ったわけではなく、「小さな取り組み」を積み重ねることで、事業部門との信頼関係を築いていったという。その結果、事業部門側にもロボットやフィジカルAIを自社事業に活用する可能性への理解が生まれ、より大きなプロジェクトに取り組めるようになったと語った。
「フィジカルAI」は発展途上の技術なので、導入先を適切に選ぶことも課題の一つだ。研究開発部門に適した技術と、店舗運営部門に直接持ち込むべき技術は異なる。技術の特徴だけで提案するのではなく、どの部門のどの業務に適用し、どの程度の効率化を実現するのかを示すロードマップが必要になると指摘した。
両社は基盤モデル開発にとどまらず、その過程で得られたハードウェア、データ、モデル、運用ノウハウを外部にも展開し、日本のロボット産業の基盤拡大を目指している。フィジカルAIの事業化には、技術性能だけでなく、現場を持つ企業と開発企業、そして社内の複数部門が継続的に協力できる体制が不可欠となると強調した。









