西田宗千佳のイマトミライ

第325回

ソニーテレビ事業分離の衝撃と必然 世界テレビビジネスの現在地

1月20日、ソニーは、テレビやホームオーディオなどの領域において中国・TCLと戦略提携に向けた協議・検討を進めることで基本合意した、と発表した。

両社はホームエンタテインメント機器に関する合弁会社を設立、2027年4月に事業開始を想定している。新会社の株式比率はTCLが51%・ソニーが49%となる予定で、主導権はTCLが持つことになる。

簡単にいえば、ソニーは単独でテレビ関連事業を進めることを諦めたということであり、TCLがソニーとBRAVIAのブランドを使ったテレビ事業をやっていく、ということでもある。

これは、世界のテレビビジネスの状況を考えるとある種必然でもある。

では、世界のテレビビジネスは、日本のテレビビジネスはどういう状況にあって、なぜ「中国企業に集約する」のが必然と言えるのだろうか? 今回はそこを解説してみよう。

ソニー・ブラビアの液晶テレビ「BRAVIA 9/K-65XR90」

20年で日本は「テレビ」という舞台から姿を消した

調査会社Trendforceの調べによると、2023年のテレビ世界シェアトップは韓国のサムスンだった。そのあとは、ハイセンス、TCLと中国企業が続き、LGが4位だ。

だが2010年には、サムスン、LGに続くのは、ソニー、パナソニック、シャープだった。この20年の間に日本のテレビメーカーは数量を追うのをやめ、その部分に中国系が一気に伸ばしてきた……と考えていい。

この25年でディスプレイパネルの生産から、テレビでは韓国・サムスンとLGが大きなシェアを持つようになっていた。以下の写真は今年のCESで撮影したものだが、サムスンは「テレビシェアトップ20周年」をアピールしていた。

CES会場で、サムスンは「20年間テレビシェア1位」をアピール

テレビがブラウン管だった時代、その生産は世界中に分散しており、日本も一定の地位を占めていた。

それが液晶・プラズマの時代になって生産が集約された。日本はその中でパネル製造に問題を抱えた。韓国勢に対して競争力を持てなかったことは、結果的にだが、今の「日本からテレビというビジネスがなくなる」ことの原因になっている。その総括がなされないまま今に至っていることは、大きな問題である。

生産性で中国に追い立てられる世界のテレビビジネス

それはともかくとして、結局韓国勢も、中国メーカーに追い立てられる状況にある。

テレビの単価が下がったから収益性が下がった、と言われることがあるが、それだけで理解するのは正しくない、と筆者は考えている。

正しくは、「テレビのバリエーションが拡大したことで、数と生産性の両方をカバーしている中国系の優位が強くなった」というべきだろうか。

今年のCESを見ても、テレビのトレンドは「100インチオーバー」になっている。これは、100インチを越える超巨大テレビがマスになっている……という話とは少し異なる。

CES会場には、100インチ以上の大型テレビが多数。付加価値はサイズで見せる時代になった

過去とは違い、100インチオーバーは数千ドル以内で買えるようになった。全員が買うモデルではないが、いわゆる「ハイエンドテレビ」の一角が、単に高画質なだけでなく「サイズが大きいもの」になっているのは間違いない。

ハイエンドなテレビは収益性が高いが、それと同時に、テレビ全体の認知度やブランド力を高めるために必要なものでもある。数が売れる50型から70型までだけを展開していても、世界的にいえばバリエーションが足りないということになる。

巨大なテレビを製造するのは、いまや難しいことではない。パネルを調達すればいいだけだ。だが、ちゃんと製品を流通させることとなると、話は別だ。在庫して流通する能力に加え、サイズごとに異なるボディを作れるだけの生産力が必要になるからだ。すなわち、大量に多数のバリエーションを流通できる規模が必要になるわけだ。

それができるのは、中国の家電メーカーになっている。白物からAV家電まで、世界中に家電を提供するのは中国メーカーの役割になり、そこにはアメリカ・ヨーロッパ・日本の姿はない。サムスンやLGも中国メーカーに追われる立場であり、立場としては厳しくなってきている。

大量に作って流通しないと収益が上がらないということになると、日本メーカーの体制で戦っていくのは難しくなる。

もう何年も前から、日本のテレビも中国メーカーとの連携なしに生産するのは難しくなっている。

トップシェアのTVS REGZAはハイセンス傘下であり、そのハイセンスがシェア3位になっている。TVS REGZAは日本に向けた画質や機能をウリにしているが、その背後にあるのはハイセンスの生産力と調達力だ。

パナソニックは2021年以降、低価格なテレビを中心にTCLへと生産委託をしている。ハイエンド機種はマレーシアなどの海外拠点で生産中だ。

シャープはフォックスコン・グループ傘下であり、テレビの多くも中国のフォックスコン傘下の工場で生産している。

ソニーは生産の一部を愛知県稲沢市にあるソニー稲沢テックで行なっているが、ディスプレイパネルは海外メーカーからの調達であり、最終組み立てが国内で行なわれているだけだ。今後はこれが、TCL傘下へと移管することになるだろう。

テレビ事業を日本だけで閉じるなら、日本国内で生産し続けること、海外で生産したものを持ってきて売ることも無理ではない。だが、一定のブランド名と生産数量を維持するのであれば、もはや有名無実となった「国内のテレビ事業」にこだわるのは無理がある。

そもそもテレビは、他のAV機器に比べ、ビジネス効率が悪いところがある。理由は、「放送」の仕組みが国によって異なるからだ。スマホならほとんどの部分を全世界共通で作れるが、テレビは放送受信を考えると、各国の事情に合わせた製造と品質保証が必要になってくる。

一方で、テレビという製品はもはや、放送を見るだけのものではない。映像配信を見たりゲームをしたりと、多様なニーズへの対応が必須だ。

こうした状況も、製品のコスト構造を悪化させ、大量に作る中国メーカーへの依存度を高くする原因となっている。

家電から離れるソニー テレビだけが切り離された必然

今後テレビはどうなるのか?

日本国内で年間450万台、全世界で2億台という安定した数量を持つ市場だが、「高付加価値なものを少量生産して売る」というビジネスモデルはもはや通用しない。

画質面で中国メーカーには課題がある、と言われてきたが、それも追いつくことは不可能ではない。

おそらくは、中国メーカーが作る安価なモデルが中心となりつつも、付加価値のあるパーツで作ったフラッグシップ・モデルを「同じ中国メーカーが作る」というモデルに収斂していく可能性が高い。

だとすると、世界に知名度があるソニーとしては、その価値がそれ以上小さいものになる前に「一定の影響力を持った形でテレビ事業を切り出す」のがベストな判断、ということになる。今回のタイミングは、それができるギリギリのところだったのではないか。

そして、合弁事業がスタートして5年・10年と経るうちに出資比率が低くなり、「ソニーのテレビ」はTCLに吸収されていく。

おそらくはそんな将来を描くことになるだろう。

これを残念、と思う気持ちはあるが、では、他の日本メーカーがソニーと同じ条件でTCLと組めるか……といえば難しいだろう。ブランドも残らずに吸収されるか、売却・合弁が成立しないか、ということだろう。

日本よりも前に、ヨーロッパの家電ブランドは消えた。ブランドだけが中国や中東の企業に切り売りされ、もはや名前しか残っていない。それよりはマシな状況だった……と言えるだろう。

むしろここから考えるべきは、産業として「中国の生産性に頼らないものはなにか」「中国に生産を委託しても、なお存在感を維持できる産業はなにか」ということのはずだ。

そしてそれは、日本だけでなく、あらゆる国が抱える課題である。その中で「大量に同じものを作って売るビジネス=家電から離れる」というのは、1つの選択肢ではある。

ソニーは今年、CESから撤退した。会場の外にある大きな広告も、TCLやハイセンスなどの中国企業のものばかり。サムスン・LGすら力を入れていない。

CESメイン会場の広告。かつてはソニーやサムスンが力を入れていたが、いまはハイセンスやTCLが中心だ

ソニーがCESに出展しないのは、もはや家電として展示するものに力を入れていないからだが、その結果として「テレビ事業からも離れる」と考えればわかりやすい。

一方で、オーディオやカメラはテレビほど中国メーカーの影響がなく、ソニーとして十分にビジネスをやっていける。

だから、ソニーはカメラやオーディオを残し、テレビを止めるのだ。

そして次に来るのはなんだろう? 普通に考えればスマートフォン、ということになるが……。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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