トピック

ドラッグストアがホテル開業? 首都圏にも続々進出「コスモス」の狙い

ドラッグストアコスモス道頓堀店の看板

数年前に進出したばかりなのに、気が付けば近所に何軒も営業している。そんな「ドラッグストアコスモス」(以下:コスモス)を、最近は首都圏でもよく見るようになった。

激戦が続くドラッグストア業界では、21年に統合で発足した「マツキヨココカラカンパニー」が売上高1兆円に手をかけ、イオン傘下で1兆円企業となった「ウェルシア」に続く形で「ツルハ」もイオングループへ。1兆円企業同士が再編と競争を繰り広げている。

その中で、宮崎県延岡市で創業し、現在は福岡市博多区に本社を構えるコスモスは他社とのM&Aにも興味を示さず、24年に単独で年商1兆円を突破。「売り上げの6割が食料品(他社は3~4割程度)」「キャッシュレス未導入・基本は現金販売のみ」という独自のスタイルを貫く、業界の中ではちょっと異質な存在だ。

そんなコスモスが、突如として「ホテル業界への参入」を発表した。ドラッグストア各社が介護・宅配など医療にかかわる別業態を育てていく中、なぜコスモスは、まったく異業種の「ホテル参入」を決断したのか。決め手は「1階がドラッグストア、上階がホテル」という、独自のスタイルにあった。

「コスモス+ホテル」の恐るべき集客力

まず、ドラッグストアにホテルを併設するメリットは「買い物需要を期待できる」ことだろう。まずは、すでに「ホテル併設」によって、「インバウンド観光客の商品購入」というメリットにあずかっている、「ドラッグストアコスモス道頓堀店」の様子を見てみよう。

大阪・難波のド真ん中、半世紀にわたって松竹芸能の演芸場「角座」があった場所に、21年に建設された「クロードビル」の1階には「ドラッグストアコスモス道頓堀店」が入り、3階から12階までは180室の「ホテルフォルツァ大阪なんば道頓堀」(運営はエフ・ジェイ ホテルズ)が入居している。

道頓堀店があるクロードビル。1階はコスモス、上階はホテル

ビルがある道頓堀商店街のコスモスで買い物をしながら様子を眺めていると、面白い光景が見られた。どうやら、ホテルの宿泊客が、コスモスの商品をかなりの高頻度でまとめ買いしているようだ。

大阪・ミナミのド真ん中という抜群の好立地にあるこのホテルには、午後になるとインバウンド客がスーツケースをひいて、次々とホテルに入っていく。チェックインしたばかりの人々はラフな格好で道頓堀に出ていき、商店街でたこ焼きや牛串を食べて、「ひっかけ橋」(戎橋)あたりを散策して、大阪の街を楽しみ尽くし……最後に、コスモスで化粧品・ドラッグ・機能性食品など、日本製の商品をカゴ一杯に購入し、ホテルに戻っていく。近くで観察している限り、そんな様子が見て取れた。

道頓堀の周辺にはインバウンドに好まれる品揃えに特化した「ツルハ」「コクミン」などのドラッグストアが、1チェーンあたり数軒も林立しているが、ホテルに併設されているのは「コスモス」のみ。多量に購入した人々は荷物を抱えてすぐホテルに戻っており、「買ったものを持ちまわらなくてよい」からこそ、まとめ買いでコスモスを選ぶのだろう。

大阪難波・道頓堀エリアには他のドラッグストアも多い

目の前でこういった購買行動を観察していると、「ドラッグストア+ホテル」の相乗効果を、まざまざと見せつけられる。他社でも、インバウンド景気に沸く「ニセコビレッジ」に併設された「サツドラ」店舗がかなりの賑わいを見せており(季節限定営業)、こういった需要はあるのだろう。

インバウンド観光客は、なぜドラッグストアにハマるのか?

ここで、興味深いデータを見つけた。Paykeが訪日外国人向けアプリ「Payke」ユーザーに向けて25年3月に行なったアンケートから、インバウンド観光客の購買行動の様子を見てみよう(payke調べ)。

まず「日本旅行中にドラッグストアを利用した頻度」は、「週2~3回」が最も多く32.6%、つづいて「毎日」が32.6%。平均滞在日数が約9.3日(2024年・観光庁データ)のインバウンド観光客は、街角でドラッグストアを見かけると、高確率で立ち寄っていることになる。

続いて「ドラッグストアで主に購入する商品」は、「医薬品」が29.6%、「化粧品・スキンケア商品」は27.3%、「健康食品・ビタミン」が24.5%と続く。

インバウンド観光客のドラッグストア来店頻度(payke調べ)
インバウンド観光客の購入商品(payke調べ)

特に医薬品は、大正製薬「パブロン」などがコロナ禍の際に中国で「神薬」として重宝された(コロナには直接効かないが、風邪の症状は緩和する)こともあり、「日本の一般薬は安くて効く」「日本に行けばドラッグストアですぐ購入できる」という認識からか、いまも多量購入が目立つという。一部報道では「中国に持ち帰ったあと、とんでもない価格で転売されている」との情報もあったが、真偽は定かではない。

そして、インバウンド観光客は同時に「化粧品・スキンケア商品」も、多量に購入する。数万円の高級化粧品は各社の路面店・百貨店で購入される場合が多いが、ドラッグストアは、数百円~数千円で購入できる「プチプラ」(プチプライス。安価な化粧品)が人気だ。

プチプラ化粧品。まとめ買いも多い

メーカーで見ても、お手頃な薬用商品が多い「DHC」、中華圏ではインフルエンサーとして知名度が高い指原莉乃さんがCMキャラクターを務める「常盤薬品」(なめらか本舗・ノエビア系列)などが多い。特に、数百円で長らく使用できるクリーム・ハンドクリームなどは、各チェーンとも売れ筋として「人気ランキング」(中国語で「人气排名」)に記載されている。

ただ、まだ首都圏・関西圏の都心に店舗が少ないコスモスは、インバウンド観光客の口コミでも名前があがらない。実際に、先に述べたpaykeのアンケートでも、圧倒的な人気を誇る「マツモトキヨシ」「ダイコク」の陰に隠れて、中国語・韓国語・英語圏ともに知名度ランキングにまったくあがってこないほどの存在感だ。

インバウンド観光客のドラッグストア知名度調査。コスモスはまったく名前が挙がっていない(payke調べ)

他社に比べて遅ればせながら、ようやく大阪・道頓堀店を展開したことで、SNSや口コミでも徐々に名前があがるようになっている。他社にない「ドラッグストア+ホテル」業態を作っていくことで、コスモスが他社に後れを取っている「都心・好立地店舗」への出店ノウハウを築き上げつつ、ドラッグストア・ホテルで双方の利益を取っていくことができるだろう。

なお、このビルを開発した「合同会社クロード」はコスモスのグループ会社であり、コスモスの創業者・宇野正晃氏(コスモス薬品・会長)が取締役を務めている。株主総会の資料を見る限り「クロード」は年2億円強の賃料を得ており、この「ドラッグストア+ホテル」をコスモスで内製化すれば、相応の利益を得ることもできそうだ。

創業の地・宮崎で「ドラッグストア+ホテル」業態を育てる

これまでの発表を見る限り、今回のホテル参入の目的は「大阪での成功に基づいて、コスモスが自前で『ドラッグストア+ホテル』業態を育てる」ことにあると推測される。

ホテル参入の1号店が構えられる宮崎市は、食(宮崎牛・マンゴー)や多言語化でインバウンド誘客に成功しているが、宿泊施設の不足や料金高騰で、「観光客に長期滞在してもらえない」といった悩みを抱えている。ここに宮崎県発祥(創業店は延岡市)のコスモスがホテルを出店することで、周囲との協力関係を築きながら「ドラッグストア+ホテル」業態を育てることができるだろう。

JR宮崎駅。ホテル用地はここからほど近い

さらにコスモスは、ドラッグストア出店用地として博多駅・筑紫口などに用地を先行取得しており、これらの持ち物件もホテル出店に活用できるはずだ。また都心だけでなく、公共工事を担う建設業者向けのホテル不足に悩む地方でも、「平屋建ての既存店をビルに改装」といったかたちで、路面店を「ドラッグストア+ホテル」に改装できるだろう。

宮崎での1号店が成功すれば、自前での「ドラッグストア+ホテル」多店舗化も、夢ではないだろう。

「コスモスはホテル業未経験」 それ以外にも課題が

ただコスモスは、地域の安売り王・ディスカウンターとして、医薬品より食品で売り上げを確保してきた。それゆえに、他社に比べて「都心・一等地での店舗展開」「化粧品・医薬品のインバウンド向け販売」といった経験がドラッグストア他社より薄く、いまの道頓堀店以上の「都心・一等地」向けの展開は、無理があるかもしれない。

もちろんコスモスは宿泊業未経験であり、そういった不安も拭えない。自前で“コスモスのホテル”ブランドを立ち上げるのか、どこかのホテルチェーンと組んでノウハウを吸収する道を選ぶのか……。

実際には、「開業まで2年ほどかかる」という発表以外、何も公表されていない。まだ見ぬ「ドラッグストアが作ったホテル」の成否を、注意深く見守りたい。

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。