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赤字拡大の「バルミューダ」 55万円のランタンで起死回生なるか

デザイン家電のバルミューダが、大きな転機を迎えている。

2025年度第3四半期累計(2025年1月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比22.3%減の67億6,600万円、営業利益は前年同期の2億3,800万円の赤字がさらに悪化し、8億4,200万円の赤字。経常利益は同2億2,900万円の赤字から悪化し、8億5,300万円の赤字。そして、当期純利益は同2億3,100万円の赤字から、8億5,500万円の赤字に拡大した。

バルミューダの寺尾玄社長は、「2025年度のバルミューダは非常に苦しい時間帯を過ごしている」と前置きし、「日米を中心に、売上高の大きな未達が発生している。期初計画では第3四半期までは赤字を想定していたが、この赤字幅がさらに拡大した。生活家電事業の効率の悪化が真因である。本社部門のリストラや、一部商品の販売終了などを実施するタイミングであると判断した」と述べた。

バルミューダの寺尾玄社長
2025年度第3四半期決算概要

国内は消費マインド低迷、米国はトランプ関税という逆風

寺尾社長は、第3四半期累計での業績悪化の要因を、市場ごとに自己分析する。

ひとつめは、主力となる国内市場である。

国内では、物価上昇による消費マインドの低迷が長期化し、流通在庫が増加傾向にあったという。

そこで、価格下落の要因になる流通在庫を適正化することを目的に、2025年9月から出荷を大幅に抑制した。

「日本の流通構造は複雑であり、流通在庫の適正化を行なわないと、安売りをする販売店への転売が進み、価格が落ち、他の販売店もそれに追従する事態が発生する。一部商品では、8月、9月には、こうした価格の乱れが起きていた。これを放置すると、ブランド価値の毀損につながる。販売施策や広告施策の効果がなくなり、事業効率が悪くなる。ブランド価値は絶対に毀損したくない。その点では、踏みとどまることができたと考えている」と、この施策には一定の成果があったことを自己評価する。

もうひとつは、米国市場での取り組みだ。

バルミューダでは、米国市場を、2025年における「戦略的販売地域」と位置づけ、これまでに2億4,700万円の戦略投資を行なってきた。このなかには積極的な広告投資が含まれており、米国市場での成長が、バルミューダの2025年度における業績拡大の軸になるはずだった。

だが、第2四半期半ばから、米国関税政策が大きな影響を及ぼし、米国市場における原価が上昇し、想定した価格設定での販売ができなくなったことや、量販店などの物量を確保できるルートの構築など、販路戦略の設計および実施が困難になったことが影響。計画変更を余儀なくされ、売上高は想定を大きく下回ることになった。

MoonKettle、Teppanyaki、Toaster Proの3製品を投入したことで、米国における第3四半期累計の売上高は4億1,800万円となり、前年同期比実績を1,700万円上回り、地域別売上高では、唯一、プラスとなったエリアだったが、「米国ではアクセルを踏み、大きく伸ばす予定だった」(寺尾社長)という水準に比べると、まったく満足できる内容ではない。

「米国関税に対しては認識が甘かった部分はあった。20~30%のアップがあっても耐えられると判断し、第2四半期の途中までは計画通りで推移していた。だが、50%や100%の関税が乗ってくることは予想できなかった。そこでブレーキを踏んだ。原価の上昇により、量販店ルートで販売すると赤字が出るほどの状況に陥ってしまった。販売店との交渉をはじめていたが、それらをすべて停止した」と振り返る。

しかし、米国でビジネスができる地盤を整えることはできたとも語る。「再来年の前半までには、米国への投資を回収したい」と意気込む。

なお、韓国では、前年同期には新製品展開があった反動があり、前年割れとなったものの、期初計画を上回る実績になっているという。

生活家電の再構築

バルミューダは、厳しい状況からの脱却に向けて、抜本的な改革に取り組む計画を打ち出した。

ひとつめは、「生活家電カテゴリーの収益構造の再構築」である。

寺尾社長は、生活家電カテゴリーの状況を次のように説明する。

「2020年の為替レートは1ドル107円であったが、2024年は1ドル152円と大きく円安方向に振れた。2025年も1ドル148円で推移している。これにより、バルミューダの売上総利益率は大幅に悪化し、2020年には43.3%だったものが、2023年には26.9%にまで落ち込んだ。2023年からは様々な企業努力により、改善が進んでいるが、2025年でも33.3%であり、2020年比で10ポイントも低いままである。そこで、為替影響を受けない地域での販売を強く推進するという狙いから、2025年は米国市場において、アクセルを強く踏んできた。だが、米国関税の影響で、急ブレーキを踏まざるを得ない状況になった。踏んだアクセル分の実りは得られなかった」

さらに、日本市場では、先に触れたように、物価上昇に伴う消費マインドの低迷が長期化している。

寺尾社長は、「国内家電市場が、想定していたよりも、はるかに悪い。前年並みで推移すると考えていたが、ここまで経済に元気がなくなることは考えていなかった」としながら、「とくに、プレミアム家電のカテゴリーが厳しいと判断している。商品がヒットし、アーリーアダプターからマス層へと需要が広がるなかで、マス層の投資マインドが落ちている。最もいい商品を購入するよりも、リアルな生活を見据えた商品を購入することが優先されている。バルミューダのようなポジションの企業は厳しい状況にある」と、自らの立ち位置を説明する。

こうした要因を背景にした生活家電カテゴリーの事業効率の悪化に対応するため、バルミューダでは、原価低減や固定費圧縮などのコスト構造の改善に乗り出すとともに、商品別および地域別の販売戦略の見直しに着手することを発表した。

寺尾社長は、「複数商品の終売を予定しており、2026年に実行する。販売を終了した商品の残材処理や、作りかけていた商品の販売停止など、商品の整理整頓を行なう。また、原価低減は再三やってきたが、さらにやっていくことになる。これまでは、商品のバリエーションを増やし、販売地域を拡大する戦略だったが、収益性の高い商品、収益性の高い地域を中心とし、事業体質の改善を図る」とした。

バルミューダでは、生産終了見込みとなった製品や部材などの評価減などで、5億6,000万円を特別損失として計上した。

これに伴い、2025年度通期(2025年1月~9月)の業績見通しを下方修正している。
売上高は前回公表値から27億円減額となる前年比21.4%減の98億円、営業利益は9億5,000万円減額し、9億3,000万円の赤字、経常利益は9億5,000万円減額し、9億4,000万円の赤字、当期純利益は15億1,000万円減額の15億円の赤字とした。期初計画では、売上高ではわずかに前年実績を上回り、利益面では黒字の維持を目指していたが、売上高では大幅な前年割れ、利益も大幅な赤字を計上する見通しとなった。

なお、下方修正の要因には、複数の新商品の発売時期がずれ込んだことも影響したという。完成度を高めるために時間がかかったことが要因だ。また、期初想定よりも、円安が進行したことで、仕入れコストが上昇したことも下方修正の理由のなかに含めている。

また、バルミューダでは、人員の適正化に乗り出す考えも示した。

2022年度第4四半期には、社員数は168人にまで拡大していたが、携帯電話事業の終息に伴い、人員を削減した経緯があり、2025年度第3四半期時点の社員数は102人となっている。

寺尾社長は、「人員を含めて、すべての領域において、軽量化を図る。2025年前半は採用を増やしてきたが、第3四半期の業績を受けて、絞るところは再び絞らなくてはならない。とくに、生活家電カテゴリーでは、物流やモノづくりを含めて、さらなる軽量化が必要である。しかし、絞り過ぎると2026年の施策の手が打てなくなるということも考える必要がある」としている。

55万円のランタンで超富裕層を狙う

厳しい状況が続くものの、バルミューダは、「攻め」の一手にも余念がない。このあたりがバルミューダらしいところである。

2つめの変革として、同社が取り組むのが、新たな顧客層や市場を創出する新たなカテゴリーの確立である。

ここでは、超富裕層へのアプローチを開始する。

バルミューダでは、アップルの元CDO(最高デザイン責任者)であるジョニー・アイブ氏が率いるクリエイティブコレクティブ集団「LoveFrom」と共同開発したポータブルLEDランタン「Sailing Lantern」を発表している。

Sailing Lantern

Sailing Lanternは、1,000台の数量限定で、価格は55万円。2026年3月から販売を開始する予定だ。

「先日、モナコで、ジョニー・アイブ氏とともに、ローンチイベントを行なった。これまでバルミューダがまったく接触ができていなかった超富裕層とコネクトすることができた。新たな販路の構築が始められそうだ。基本的には受注生産で対応する見込みであり、安定した収益源のひとつになる」とする。だが、「当初は今年中に販売を開始する予定であったが、デザインや仕上げ、設計において、想定以上に時間がかかったため、2026年にずれ込んだ」とも語った。

一方で、2025年10月からは、採算性の改善に貢献する製品として、単機能電子レンジの「The Range S」を発売。2025年11月には、日本および韓国市場向けに、タンクレス構造の加湿器である「Rain」を発売する。

BALMUDA The Range S KRN01JPのブラックモデル

さらに、事業効率を改善するための新たな戦略的商品群を、2024年から開発をスタートしており、これらの商品は、2026年初頭に市場投入できるという。

「新規事業や新規顧客を創出するための戦略的商品群の開発をすすめてきた。技術陣は、2026年の発売に向けて取り組んでいるところだ」とする。どんな商品が登場するのかが注目される。

また、中国での生産体制の一部を、タイ生産に移行する準備を進めており、それが整いつつあることも示した。「米国向けのトースターの生産から開始する予定で準備を進めてきた。だが、これが鉄鋼関税にひっかかり、タイから米国に出荷しても関税率は180%となる。そのため、現時点では生産発注を行なっていない段階にある」と語った。ここにも米国関税影響が出ている。

クリエイターと経営者は両立するのか

寺尾社長は、決算説明会のなかで、「Innovation with Humanity」という言葉を紹介した。「これは、バルミューダが最も得意とする部分であり、差別化の原点である」と位置づける。

その一方で、「業績悪化のすべての責任は私にある」としながら、次のように語った。

「バルミューダの事業フェーズは、まだアーリーステージだと考えている。バルミューダの利益基盤は、芸術性や創造性にあり、効率性では稼ぎ出すことができていない。これが、バルミューダの弱いところである。効率性は、一定の量がないと生まれてこないため、この数年は、量をつくるための努力をしてきた」としながら、「しかし、バルミューダは、成長路線から、踊り場の状況に入っている。これも私の経営判断による結果だ。そこには、クリエイターとして選択したことが原因になっているところがある。私が、経営者として、しっかりと経営ができているのかというと、疑問符がある。いまだに、クリエイターとして仕事に携わっている部分があり、その勘所をもとに商品をつくり、当たりも作れば、外れも作っている。しかし、自分が持つクリエイティビティが、バルミューダという会社を生み出しており、数々の成功も、数々の失敗も生み出してきた。経営体制を含めて、今後、どのような形が最適なのかを、社内で検討が進んでいる。ただ、モノづくりは、私が先頭に立って、やっていくべきところだと考えている」とする。

寺尾社長自らが、クリエイターと経営者という二刀流の悩みを吐露した。

だが、経営者の視点では、こう語る。

「いまは苦しい時間帯だが、2026年度には黒字化ができる」とし、「足元は苦しくても、悲観的な印象は持っていない。運転資金に対する不安もない。むしろ、戦略的商品のアイデアがパワフルであり、相当期待ができることから、2026年以降の事業展開が楽しみである。生活家電カテゴリーは、絶対に赤字を出さない計画を組んでいる。事業の再構築により、事業効率を高めるととともに、戦略的に考えてきた商品群の投入によって、黒字を作る。再び成長軌道に乗せていきたい」と前を向く。

寺尾社長が、経営者とクリエイターをどう両立するのか。そこでもバルミューダは、ひとつの転機を迎えているのかもしれない。

大河原 克行

35年以上に渡り、ITおよびエレクトロニクス産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ウェブ媒体やビジネス誌などで活躍中。PC WatchやクラウドWatch(以上、インプレス)、ASCII.jp (角川アスキー総合研究所)、マイナビニュース(マイナビ)、ITmedia PC USERなどで連載記事を執筆。著書に、「イラストでわかる最新IT用語集 厳選50」(日経BP社)、「究め極めた省・小・精が未来を拓く エプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)など