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「スマホ新法」にアップル以外はどう対応するのか? グーグルら4社の見解

スマホソフトウェア競争促進法(スマホ新法)の年末施行に向け、準備が進められている。

6月13日、同法に対するパブリックコメントの受付が終了しているが、アップルが提出したパブリックコメントについては本誌でも記事にしている。

では、他の事業者はどうなのだろうか?

本件について、オープンデジタルビジネスコンソーシアムの黒田岳士代表理事を取材した。

オープンデジタルビジネスコンソーシアムの黒田岳士代表理事

同団体は、クアルコムジャパン合同会社・グーグル合同会社・Facebook Japan合同会社・Garmin Internationalが参加する業界団体だ。

スマホ新法には、4社を代表する立場としてパブリックコメントを提出しており、その内容も入手することができた。

アップルの主張は多く報道されているが、他社の主張はあまり見えてこない。アップルのシェアが高く、規制対象事業者として目立ちやすい立場ではあるが、Googleも規制対象事業者である。

彼らがどういう意見を持っていて、どのように対応しようとしているのだろうか。

オープンデジタルビジネスコンソーシアムとはなにか

まず、オープンデジタルビジネスコンソーシアム(ODBC)の位置付けについて解説していこう。

同団体は今年の5月14日に設立されたものだ。

黒田氏は元々行政側の出身。経済産業省や内閣府、消費者庁を経て、現在は一般社団法人 グローバル政策研究機構の代表理事を務めている。景品表示法の課徴金担当を務めた経験を持ち、この種の法執行への知見は豊富だ。

そうした経験から、ODBC代表理事に指名されたという。

ODBCの主な設立目的は以下の4つである。

ODBCの主な設立目的
  • 信頼性で安全性の高いデジタルサービスの実現
  • イノベーションの促進
  • 公平な競争環境の構築
  • 相互運用性の促進

僚誌AV Watchでは、団体設立会見のレポートも掲載している。

前出のように、参加団体は海外大手4社となっている。そのためどうしても、「アップルのカウンターパート」のように見えてしまう。

そう尋ねると黒田氏は「理念自体は、業種を問わない」と、対アップルという見方を否定し、「特定の考え方を排除するものではないし、規模の小さな企業も含め、参加企業を増やしていきたい。アップルにも参加してほしい」と説明する。

現時点でも、一般社団法人 モバイル・コンテンツ・フォーラムと連携し、前出の目的に沿った活動を行なうとする。

実際のところ、大手4社が揃ったことで「対アップル」というイメージは拭いがたい、と筆者も感じる。小さい企業にとっては、どちらに与するのか見られているようで、なかなか旗色を示しづらいところはありそうだ。

「乱用」を危惧

では、具体的にどのような要求を挙げているのか? 今回、ODBCが提出したパブリックコメントを入手した。パブリックコメント提出からは時間が経過しているが、「公開していなかったのは作業上の問題」(黒田氏)だという。現在は以下のリンクで公開されている。

パブリックコメントを公正取引委員会へ提出いたしました(ODBC)

黒田氏は今回の法案について、「行政府の経験がある人間として見ると、きめ細かく作られた大作・力作」と評価する。

その上で、会員である4社の意見をとりまとめた上で、パブリックコメントを提出している。

それぞれの意見に対する疑問について、黒田氏は直接の回答を避けた。それぞれの企業を代表し、最大の範囲でまとめたものであり、それ自体を特定の1社(例えばアップル)の意見と比較して検討することに意味が薄いから、と筆者は解釈している。意見を検討するのはあくまで行政側だ。

その中で、本質的な話として次のように話す。

「一言で言えば『乱用しないでほしい』ということ。ガイドラインの運用はそこに尽きる」

資料は以下からダウンロード可能になっている。個々については色々な意見があろうかと思う。気になる方は、提出されたパブリックコメントをお読みいただきたい。

筆者が気になったのが以下の項目だ。

安全性と相互理解の両立

提案:「安全・安心の確保」は一律の正当化理由とはせず、技術的代替手段がある場合は義務化すべき

筆者コメント:「安全・安心の確保」をビジネス上の防壁とされないように、ということかと思うが、おそらく問題は「技術的代替手段のメリットとそれにかかるコストとリスク」のバランスだろう。「多少落ちたとしても最終的には消費者にプラス」という判断が下される可能性はある。一方で、これだけ消費者が「ネット上での悪意ある攻撃」に晒されている状況で、「多少手を緩める」ことの悪影響は懸念すべき、と考える

公序良俗による公証制度の除外

提案:公序良俗をアプリ審査理由に含めないよう明記。審査の範囲を技術的観点に限定

筆者コメント:これは妥当だし重要な指摘と考える。「公序良俗」は大切だが、その判断は国や文化によって異なる。一律が良いわけではない。

OS機能の相互運用性(9機能)

提案:相互運用性対象機能として9機能を明示、設計段階からの対応(interoperability by design)を求める

筆者コメント:この部分については、短期的な対応を求めるのではなく、OSを改変していく中での対応を長い視点で求める……というのが現実的と考える。

無償提供と知財の制限

意見7:相互運用性情報は原則「無償かつ制約なし」であるべき

提案:有償提供の場合、指定事業者が価格や根拠を開示し、立証責任を負うべき

筆者コメント:「無償かつ制約なし」というのは、小さな企業の利用などを想定した部分があるだろうが、企業側の論理としては非現実的な部分がある。ルールのもとに「使途と範囲と課金根拠を明示」するのが望ましいのではないか。

クラウド上のデータもデータポータビリティの対象とすべき

意見13:データ移転費用は原則無償。有償時は厳格な証明義務
提案:端末+クラウドの両方を対象に明記、地域間での差別的価格を監視すべき

筆者コメント:これは重要なことだ。コスト的に「無償」は難しく、必要な範囲を明示しての有償対応が現実的ではないか。

「恐怖表現」の禁止

提案:表示は事実に基づいた中立的表現に限定するよう明記

筆者コメント:「この先はセキュリティが担保されません」的な表示かと思う。理解はできるが、その文言での萎縮効果はいかほどなのか。「ここから先は別のサービスである」的な表記は必須なので、「恐怖表現」の定義に対する枠組みが必須だ。

報復的措置の禁止

提案:報復的行為の具体例を明記し、「いかなる形式も許容しない」姿勢を明確にする

筆者コメント:これは賛成だ。ただし水掛け論にならないよう、「報復的措置の定義」が求められる。

法だけで決められない以上「ガイドライン」をどこに引くのか

スマホ新法は消費者のためか否か?

もちろん本質的には、短期的にも長期的にも、消費者が選択に制約を受けないことが望ましい。その中では、現状はルールを定めると利便性が落ちることでも、将来的な課題への懸念から、ルールを定めておくのが望ましいこともある。

ただ、結局は企業同士のぶつかり合いだ。

価値判断は企業同士で変わるし、「そこでこだわったとして、最終的な消費者へのメリットは薄いのでは」という部分もある。

前掲のODBCによるパブリックコメントには、筆者なりの解釈も追記させていただいているが、その判断基準は「バランスをどこに持ってくるのか」という話に尽きる。

例えば「機能の利用対価」については、それこそ使う側は「無償・無制限」が望ましいだろうが、普通に考えるとバランスがいいとは思えない。企業がコストをかけて作ったものは、相応の対価を支払って使われるべきものだし、法の定める目的から逸脱した利用が可能であることは望ましくない。使途の明確化とコストの算出基準、双方での透明性が必要になるだろう。

以前筆者は、アップルが提出したパブリックコメントについて以下のような記事を書いた。

アップルの懸念は「意図を明確に」ということに尽きる。それはバランスの中で許容しうるはずだ。

他社から見た場合も、そして行政から見た場合も、意図を明確にすることはノーではなかろう。ただし、「警告が出るので手順がいくつか増える」ことや、「全く同じ機能を提供しづらい」ことをどう許容するかは意見が分かれる。

さらには、OSの機能が変わると扱いも変わる。

すべてを法律に書くのは現実的でないからこそ、ガイドラインが必要になる。

パブリックコメントの募集を経てどのような判断がなされるのか、そして、それが「消費者としてどう受け入れられるのか」を注視しておく必要がある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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