トピック

マイナ保険証の過去・現在・未来

従来の保険証代わりにマイナンバーカードを使うマイナ保険証の本格展開が始まる

従来の健康保険証を廃止して、いわゆるマイナ保険証への一本化が始まる。12月2日に既存の健康保険証の新規発行は終了し、既存保険証は最長でも1年後に廃止される。その後は、基本的に国はマイナ保険証をベースにしていきたい考えだ。

基本的なマイナ保険証の情報については以下の記事を参照していただくとして、マイナ保険証はなぜ生まれ、どんなメリットがあるのか。マイナ保険証の過去と現在、そして未来を追った。

日本の健康保険制度をおさらい

まずは基本知識として日本の医療保険制度をおさらいしたい。日本の医療保険制度は、いわゆる皆保険制度として国民全員が医療を受けられる制度を目指して構築されている。基盤となったのは1938年(昭和13年)の国民健康保険法で、一貫して一部負担金を患者が支払う方式を継続してきた。1951年には一部負担金の窓口徴収が制度化され、1958年に一部負担金割合が最高で5割と制定された。最終的に一部負担金が最大5割から3割に引き下げられたのは1968年のことだった。

この一部負担が存在することや医療機関を自由に選べる点が日本の特徴とされる。保険加入者=被保険者(この場合は国民)全体で財源をまかなう社会保険方式だが、収支が均衡しないため、公費の投入もされている。

2022年度の国民医療費は約46.7兆円で、医療費全体に占める患者負担の割合は11.6%で5兆4,400億円。それに対して公費は17.7兆円で37.9%、保険料は23.4兆円で50%を占める。

国の医療費の割合。厚生労働省の資料から作成
日本の医療制度の特徴。数字は2021年度のもの

そうした医療保険制度だが、通常は就労状態に応じて加入する保険制度が異なっている。

企業などが運営する健康保険組合には、その企業の社員(とその家族)が加入する。正式には「組合管掌健康保険」と呼ばれる制度で、単独で組合を運営できるような大手企業が中心となる制度だ。

日本の医療制度では、被保険者、保険者、医療機関、国・自治体といった関係者がそれぞれ制度を支えている。保険者は主に5種類に分けられる

それに対して中小企業などが参加するのが旧政府管掌健康保険、現在の全国健康保険協会(協会けんぽ)だ。元々は国が運営していたが、運営母体の社会保険庁で頻発した不祥事の発覚やいわゆる消えた年金問題なども手伝って社保庁が解体され、新たに設立された協会けんぽに2008年10月に事業が移管された。

この問題は以前の記事でも紹介しているとおり、政権交代にも関わる大きな問題となり、マイナンバー制度にも繋がっていくことになる(詳細は後述)。いずれにしても中小企業の従業員とその家族などは協会けんぽに加入する形になった。

自営業者など、上記の仕組みに入らない就業者は、国民健康保険がカバーする。これは市区町村が担当し、自営業者以外には年金生活者や非正規雇用者なども含まれる。さらに公務員とその家族が加入する共済組合がある。

協会けんぽ設立の頃は、医療制度の改革が大きく動いていた時期でもあった。小泉内閣の時代に決まった「医療制度改革大綱」(2005年12月)を踏まえ、新たな高齢者医療制度が創設されたのもこのタイミングだ。ここで後期高齢者(75歳以上)を対象とした後期高齢者医療制度も決まっている(2008年4月から)。

この後期高齢者医療制度は従来の国民健康保険から独立した制度となっており、各都道府県の全市区町村が加盟する「後期高齢者医療広域連合」が運営する。

健康保険制度を運営するこれらの団体が「保険者」となり、制度の根幹となる。国民健康保険は全国の市区町村数となるので1,741、協会けんぽは単独、健康保険組合は1,379、共済組合は85、後期高齢者医療制度は各都道府県に1つなので47、合計3,252という数の保険者が存在する(いずれも2024年現在)。

医療制度の概要図。患者(被保険者)は保険者に加入して保険料を収めて、自己負担を除く医療費は保険者が支払っている

保険者は加入する人(被保険者)を登録、管理し、保険料の徴収、逆に保険給付などを行なう。普段の健康診断など、予防に関わる取り組みも担当している。国民皆保険のため、制度上はすべての国民がいずれかの健康保険に加入していることになる。

就業者向けの社会保険の場合、基本的には働いている人(とその家族)が被保険者となるため、入社日が資格取得日、転職や退職の翌日が資格喪失日となる。75歳になった段階(誕生日)に自動的に喪失する(後期高齢者医療制度に加入する)。

原則として、社会保険に加入していない人(もしくは未加入期間)の受け皿が国民健康保険・後期高齢者医療制度という位置づけだ。

各保険者は、基本的に保険料収入で運営される。例えば協会けんぽは収入全体の約89%が保険料、約11%が国からの補助金となっている。支出は保険の給付が64%、高齢者医療への拠出金が33%となっている(2023年)。

協会けんぽの収支。医療給付は6割弱にとどまり、3割以上が高齢者医療への拠出金となっている

国民健康保険の場合は、保険料収入は全体の約25%、国庫支出金が約34%、前期高齢者交付金が約36%などとなっている。支出は保険給付が約81%、後期高齢者支援金が約14%など(2022年)。

国民健康保険の収支(2022年)。厚労省の資料から作成

これに対して後期高齢者医療広域連合の場合、収入は保険料が約9%、保険基盤安定負担金が約2%、国庫支出金が約33%、都道府県支出金と市町村負担金が約8%ずつ、そして後期高齢者交付金(いわゆる現役世代の負担)が約40%となっている。支出は99%が医療給付(2022年)。

後期高齢者医療広域連合の収支(2022年)。厚労省の資料から作成

現状は医療保険制度における財政問題が課題となっている。2023年の医療費は概算で47.3兆円。対前年比で2.9%の増加している中、特に高齢者医療に関わる現役世代の負担増が限界に来ている、という見方もある。

企業の健康保険組合で作る健康保険組合連合会(健保連)は、2023年度決算が1,367億円の赤字になる見込みとしており、1,379組合全体のうち5割を超える726の組合が赤字になった。保険料収入は増加したものの新型コロナなどの流行による保険給付の増加、高齢者拠出金の増加、特に団塊世代が75歳に到達して後期高齢者支援金が9.6%(1,884億円)増加したことが影響した。

こうした保険費用の増大を抑えるためにも、医療の効率化は喫緊の課題となっている。日本の健康保険制度はこうした現状である、というのがベースの情報だ。

保険診療で重要なレセプト

保険者は、被保険者の氏名、生年月日、性別、住所という基本4情報に加えて、被保険者番号や保険の資格情報、特定健診の情報などを管理している。

日本の健康保険制度は年金制度とも密接に関わっている。法人の事業所(5人以上の常勤雇用者がいる個人事業所も含む、一部除く)は厚生年金保険と健康保険の加入が法律で義務付けられている。

そのため、事業主は従業員を雇用した場合は即座(5日以内)に情報を提出する必要がある。例えば協会けんぽ加入事業者の提出先は日本年金機構。同機構は健康保険と年金の届出をセットで受け付けていて、従業員(被保険者)は事業者に自身の情報を提出し、事業者が年金機構にまとめて提出する。その情報は協会けんぽと共有される形になる。協会けんぽ(保険者)でマイナンバーとの紐付けが行なわれ、マイナンバーとの連携が行なえるようになる。

保険者の仕事のメインは保険給付となる。被保険者が医療機関にかかる際に健康保険証を提出すると、その被保険者情報が記録され、被保険者情報と診療情報が審査支払機関に提出され、診療報酬が請求される。この提出する請求書をレセプト(診療報酬明細書)と呼ぶ(例えば東京都国民健康保険団体連合会のサイトから確認できる)。

医療機関では、患者の診療や薬の提供時に医療費を患者から徴収する。保険診療に当てはまる場合、自己負担は3割(現役世代の場合)。残る7割は、健康保険からの診療報酬でまかなわれる。

医療機関は通常、レセプトを1カ月分まとめて審査支払機関に提出する。審査支払機関はその内容を点検したうえで、それぞれの保険者にデータを送付する。保険者でも点検が済んだら、必要な診療報酬を審査支払機関に支払う。審査支払機関はそれを各医療機関に支払う、という形になる。

日本の医療保険の仕組み。日本医師会のサイトから引用

例えば1月に診療を行なったレセプトはまとめて2月初旬(~10日まで)に提出され、月末(~25日)までに審査が行なわれて保険者に請求される。保険者の支払いは18日または20日で、医療機関には20日または21日に届く、といったスケジュールとなる。

レセプトの請求から支払いまでの流れ。厚労省の資料

審査で不備が発見された場合や、そもそも医療行為が適したものだったか、請求内容が適切か、といった点でも問題があった場合、レセプトは医療機関に戻されて修正が求められる。「返戻(へんれい)」と呼ばれ、医療機関は修正などをしたうえで再請求することになるので、支払いはさらに1カ月以上遅れてしまう。

こうしたレセプトの審査を行なう審査支払機関は、協会けんぽや健康保険組合などをカバーする社会保険診療報酬支払基金(支払基金)と、国民健康保険や広域連合をカバーする国民健康保険中央会(国保中央会)に分けられる。

このレセプトの提出は、長く紙での請求となっていたが、不便で非効率的なため、電子化が進められた。電子化では、光ディスクなどを使った請求もあったが、結局物理的な郵送が必要のため、現在はオンライン請求が基本となっている。

2006年度から電子媒体またはオンラインでの請求が可能になり、2008年4月からは段階的にオンライン請求に限定されるようになった。2011年4月からは、原則すべてのレセプトがオンライン請求となった。

それから10年以上が経過しているが、実はいまだにレセプトのオンライン請求割合は100%になっていない。2023年1月の段階で医療機関の7割がオンライン請求だったが、27%が電子媒体の郵送を利用。さらに3.4%が紙レセプトを使っていた。

レセプトのオンライン請求割合。機関数で7割、レセプト件数の割合で言えば86%がオンライン化しているが、いまだに光ディスク、手書きの医療機関も存在する。また、特に歯科で光ディスクが多い。厚労省の資料

この残る30%を原則オンライン請求に移行するのが厚労省の目標で、このオンライン請求のためには当然、医療機関でオンライン用の回線を導入する必要があり、レセプトを処理するコンピュータ(レセプトコンピュータ=レセコン)を導入することになる。

厚生労働省は2023年、「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ」として、オンライン資格確認を導入済みのすべての医療機関が2024年9月末までにオンライン請求に移行することを求めた。

これに対してオンライン資格確認は原則義務化したことで、多くの医療機関・薬局が回線を導入しており、そのままオンライン請求への移行ができる、というのが厚労省の目論見だろう。これによって、レセプト請求の効率化を促進したい考えだ。

なお、2024年9月29日の段階では全国22万2,365施設の医療機関・薬局のうち、21万312施設でオンライン資格確認システムが稼働した。6,761施設(3%)は高齢などを理由に紙レセプトでの請求が認められており、残る21万5,604施設のうち、延期がやむを得ないという事情を届け出たのは2,542施設。つまり4%ほどがオンライン資格確認非対応だが、おおむねオンライン資格確認には対応していることになる。

健康保険証のICカード化への道のりとオンライン資格確認の登場

このオンライン資格確認がマイナ保険証の鍵となる。

国は以前から医療制度の効率化、今で言うDX化を目的としてさまざまな施策を検討してきた。少子高齢化による医療費が増大する中、医療の効率化が国の大きな課題となっているからだ。

対策の一環として1995年から熊本県八代市で始まった「医療保険カードの導入実験」がある。八代市では約86,000枚の接触型ICカードが配布されていて、健診情報などもカードに収録されたほか、資格情報の確認も可能になっていた。ただし、この実験では資格情報のネガ情報(利用禁止情報)を電子媒体で送付するオフライン方式だったようだ。

日本の医療情報システムの歴史。ある程度一般化してきたが、さらなる進化が求められている。政府の第1回標準的医療情報システムに関する検討会における資料
八代市の被保険者システムの概要。主に資格を確認するためのシステム

こうした流れの中、2001年2月に「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令」が交付された。これは、それまで1世帯に1枚だった健康保険証を「一人1枚のカード」(個人カード化)にするというもの。

この時点で、「高機能カード(ICカード等)を採用するかどうかは、保険者の任意」との厚労省の通知が出されている。当時、住基カードは存在していたものの、ICカードはまだ普及していない頃。ようやくICカード型のSuicaやEdy(当時)が出た頃で、ICカード自体がまだコスト高。特に当時の政府管掌健康保険(保険者は社会保険庁)は、財政悪化などを理由にICカード化を見送ったようだ。

同じ2001年には「ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業」が募集され、愛知県豊田市が「豊田市ICカード利用実証実験コンソーシアム」としてICカード化した健康保険証の実証実験を行なっている。国保、トヨタ自動車健康保険組合などで約13万6,000枚が発行され、医療機関、薬局の261機関が参加した。

豊田市ICカード利用実証実験コンソーシアムの実験。やはり資格確認と情報転記が目的となっていた

オンラインで資格を審査して保険資格の誤りを発見できる、といった機能も盛り込まれており、実験では資格の誤りを未然に防ぐことができた、とされている。ただ、ここでもやはりICカードが最新式カードで調達は高額すぎて難しいとの結論に達していた。

こうした流れの中に2001年12月に策定された「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」もあり、医療分野のIT化を求める政策が打ち出され、特に電子カルテや電子レセプトを推進しようと国の取り組みが始まっていた。

このグランドデザインに記載されていたのが「個人・資格認証システム」だ。まずは「医師等の資格確認を電子的に行うシステム」とされていたが、同様に「被保険者証をICカード化し、医療施設を受診した際にオンラインで被保険者の資格を確認したり、住所・氏名などの個人情報をカルテ、レセプトへ自動的に転記をしたりすることへの応用が検討されている」とされた。

個人認証のためにPKI(Public Key Infrastructure/公開鍵基盤)を使うことも考慮に入っており、当時は医療向けに「医療公開鍵インフラストラクチャ」が必要であるとしていた。

2003年のe-Japan重点計画-2003では、「患者本人の意志とセキュリティに十分配慮しつつ、必要に応じて患者医療情報を医療・保健機関間で連携できるようにするため、2005年までに、保健医療分野における認証基盤を開発・整備」とされた。同時に、「レセプト電算化の普及促進・オンライン請求の開始」も求められた。

e-Japan重点計画-2003における医療関連の政策とスケジュール

これは2004年のe-Japan重点計画-2004にも引き継がれ、2006年のIT新改革戦略でも「レセプトの完全オンライン化」、電子カルテの普及促進を2011年度までに実現することを目指すとされた。ちなみに同じIT新改革戦略では、「世界一便利で効率的な電子行政」も目指しており、「公的個人認証に対応した電子申請システム」や「公共分野において、ICカードによる安全で迅速かつ確実なサービスの提供を推進」といった、今のマイナンバーカードに通じる方針も示されていた。

2005年には医療保険被保険者資格確認検討会がスタート。この時点でも個人カード化自体が進んでおらず、さらにICカード化したのは健康保険組合のわずか4組合だけだった。QRコードを採用した組合も40組合あったようだ。いずれにしてもICカード化をするか、もしくはそれを使わない場合の方策をどうするか、さらに「資格確認システム」の実証も含めた協議が行なわれた。

最終的に2006年9月、同検討会の取りまとめが公表された。この頃の最大の目的はレセプトの返戻における「資格誤り」を無くすことだ。まず医療機関が健康保険証から被保険者情報を入力する際の誤りをなくすために保険証にQRコードを記載して自動転記すること、オンラインで資格を確認することという2点の解決を目指した。

医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめで示された保険証記載内容の自動転記の仕組み
同じく、こちらは資格のオンライン照会について。この2つで大幅に返戻を減らすことを狙った。画像下にあるとおり、国がICカードを導入すればそれを利用する方針だった

ただし、前述のIT新改革戦略において、ICカードを活用するという国としての大きな方向性が示され、その検討が始まることとなっていた時期でもある。そうした国の発行するICカードを利用し、保険証に必要な機能を盛り込むことも検討されていた。当時はまずQRコードを活用する方針が示され、その後に資格情報のオンライン照会のシステム構築を目指す方針だったようだ。

2007年5月には厚労省の「医療・介護の質向上・効率化プログラム」があり、ICカードタイプの「健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討」が盛り込まれた。

ところが2007年は消えた年金問題が勃発し、社会保険庁の解体へと続く混乱が続いていたさなか。こうした問題に対処すべく政府は2007年7月に新たな年金記録管理システムの一環として年金手帳、健康保険証、介護保険証が一体化した「社会保障カード(仮称)」の検討を行なう。

議論は2009年まで続くが、2008年には「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会 これまでの議論の整理」が公表された。個人を識別、認証するために「制度共通の統一的な番号」「カードの識別子」を用いる方式が検討され、さらにオンラインの認証では公開鍵暗号の仕組みを用いた認証を用いることも提唱された。

社会保障カード(仮称)の基本的な構想。おおむね現在のマイナンバーカードに近い

ただ、結果としてこの社会保障カードは2009年の政権交代で頓挫する。その後、民主党政権下での「税・社会保障共通の番号の導入」に関する議論が始まり、自公政権下での民主党を含めた三党合意でマイナンバー制度へと繋がっていく。これ以降は現在に続く仕組みの検討が続けられた。

前掲のレポートにもあるとおり、2014年5月に政府が公表したIT総合戦略本部新戦略推進専門調査会マイナンバー等分科会の中間とりまとめでは、「社会保障分野で全国民が保有する健康保険証(中略)について、個人番号カードへの一元化を図るため、券面表示、機能搭載の方法や発行・失効手続き、資格確認の方法やデータベースの連携等について具体的に検討を進め、実現に向けたロードマップを作成する」とされた。

2014年6月には、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部において安倍晋三首相(当時)が「健康保険証などのカード類を個人番号カードに一元化し、カード一枚で身近なサービスを受けられる「ワンカード化」」と発言。2015年1月には「成長戦略進化のための今後の検討方針」において「医療保険のオンライン資格確認のできるだけ早期の導入を目指し、検討を進める」とされた。

こうして、現在のマイナ保険証への道筋が示された。このマイナ保険証は、当初の計画を踏襲しながら20年以上にわたる国の検討がようやく結実した形で、保険証の個人番号カード(マイナンバーカード)への統合も10年来の施策がようやく実現することになる。

マイナ保険証=当人認証+オンライン資格確認

2018年5月の第112回社会保障審議会医療保険部会では、医療保険者などが利用する中間サーバーのクラウド移行やオンライン資格確認などの開発を行なう方針が出されて、6月の「未来投資戦略 2018」でも「医療保険の被保険者番号を個人単位化し、マイナンバー制度のインフラを活用して、転職・退職等により加入する保険者が変わっても個人単位で資格情報などのデータを一元管理することで、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認」の本格運用を平成32年度に開始する」と明記された。

ここに記載されているとおり、「マイナンバーカードの健康保険証利用(=マイナ保険証)」とは「オンライン資格確認」とおおむね同じ意味を持つ。正確に言えば、「マイナンバーカードによる当人認証機能を前提としたオンライン資格確認」がマイナ保険証だ。

マイナンバーカードの券面には顔写真と基本4情報、マイナンバーが記載されているだけで、健康保険証に必要な情報は記載されていない。ICチップ内にも健康保険証の情報は保存されていないため、単独では保険証として利用できない。

ここでオンライン資格確認が活用される。これは保険証の資格情報をサーバー側に保管し、医療機関がアクセスすることで最新の資格情報を取得するという仕組みだ。被保険者の情報をデータで受信できるため転記ミスもなくレセプト請求が可能になる。

前述の通り、国は20年以上、オンライン資格確認の実現に向けて方策を練ってきた。それぐらい、医療行政において資格確認が問題になっていたということでもある。

例えば2005年8月の「保険証認証に関する実証的研究」では、2002年度のレセプト全体は5億9,066万8,078件で、資格関係の誤りは428万3,643件(0.7%)だったと報告。この誤りによって医療機関に635億円、保険団体に457億円、計1,092億円の経済的損失が発生している、と試算した。

この時点で医療機関と保険者の間に「保険証認証センター」を設置し、保険者のデータベースから資格を確認するという仕組みが検討されていた。

社会保障カード(仮称)を検討していた2009年には、「医療保険資格の確認業務及び諸外国の動向についての調査結果の概要」として、資格確認の導入効果が年間約120億円に上ると試算されていた。この際の資料では、資格関連の誤りの30~40%程度を「全面的に解消」できるとした。

医療保険資格の確認業務及び諸外国の動向についての調査結果の概要」における社会保障カード導入効果。とにかく資格確認が問題となっている

前述の「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」では、資格過誤のレセプト返戻の解消に向けた取り組みとして、保険証のQRコードを読み込んでレセプトに転記する方法が提案された(ICカードが導入されればそちらに切り替える)。これによってレセプトの返戻件数を、「年間約900万件のうちの4割程度を解消できる」とした。

資格のオンライン照会については、QRコード読み取りで照会(ICカードが導入されれば切り替え)して、資格の失効などを確認することで、同じく「年間約900万件のうち5割(自動転記化とあわせると9割)程度を解消」との試算となっていた。

検討会で示された「オンラインによる医療保険資格の確認方法のイメージ」。現在のオンライン資格確認とおおむね同じ方向性となっている

以上のように少なくともこの当時、保険証から手作業で転記する際の入力ミスと資格過誤によるレセプトの返戻が非常に多いという問題意識があったようだ。資料によれば実際の病院(日立総合病院)では転記ミスが36%、資格過誤が61%だった。他にも西伊豆健育会病院で返戻の5割が資格過誤と記載ミスだったとされている(2018年度)。

静岡市立静岡病院では、レセプト返戻によって請求が滞っている保留レセプトが2019年で16億円だったが、レセプト返戻率が0.98ポイント減少したことで6億円となって10億円改善。返戻率を下げることで医療機関のキャッシュフローが大きく改善するため、医療機関としても返戻率を下げる取り組みは重要になっていることが伺えた。

ちなみに審査支払機関におけるレセプトの受付件数は、支払基金では2007年4月に6,899万6,328件となっており、返戻件数は25万2,669件で返戻率0.37%。受付件数は伸び続け、2024年7月には受付1億1,356万1,222件で返戻は48万110件、返戻率は0.42%。この20年近く返戻率として大きな変化はない(コロナ禍を除く)。

国保中央会では2019年4月で受付件数5,717万3,030件、返戻件数は16万442件で返戻率0.28%。2024年7月は5,473万7,094件、返戻件数は19万4,784件で返戻率は0.36%。5年間通してだとおおむね横ばい(コロナ禍を除く)。

支払基金における返戻の推移。返戻件数も縦棒グラフとして記載されているが、あまりに数が少ないのでほとんどグラフでは見えない。ただ、それでも件数としては多く、医療機関で共通した課題だ
こちらは国保中央会の返戻の推移。傾向としては変わらない。コロナ禍は特殊事情だったため、その前後で急増と急減という状況になっているが、トータルの「返戻率」では横ばいのようだ

なお、支払基金によれば、新型コロナウイルス感染症患者の治療で費用の一部を公費負担していたが、負担の対象とならない費用が請求されていたレセプトを返戻していた。2022年には第6波から第8波の流行でレセプト請求が増加した結果、返戻率が高くなったという。2023年5月以降は、新型コロナウイルスが5類感染症に移行して公費負担対象が縮小。レセプト請求が減って返戻率も下がった、ということらしい。

医療DXへの第一歩となるマイナ保険証

いずれにしてもこうした資格過誤や転記ミスといった問題の解消に加え、医療現場のDX化に向けた一歩としてマイナ保険証制度がスタートした。あくまで「第一歩」であることは重要なポイントだ。

そのマイナ保険証制度の根幹であるオンライン資格確認は、2019年4月に調達が始まり、最終的に本格運用が開始されたのは2021年10月20日だった。

オンライン資格確認は、保険者が保有する保険証資格情報、特定健診情報、診療・薬剤情報などを、審査支払機関が保有する中間サーバーに登録して、患者の保険資格を確認するという仕組みだ。

オンライン資格確認の仕組み。マイナンバーカードの読み取りか健康保険証の手入力で資格を確認する

マイナ保険証の場合、マイナンバーカードを医療機関や薬局のリーダーに置いて顔認証または暗証番号4ケタを入力することで本人確認をして情報を受信する。健康保険証の場合は、受付に提示すると事務員が記載された記号番号などを手入力またはOCRスキャナで取り込んで同様に情報を受信する。

マイナンバーカードであれば顔認証または4ケタの暗証番号、もしくは健康保険証の情報を入力して資格情報を取得する

そもそも、人間が手入力した場合にミスが多いというのは、レセプトの転記ミスの多さ、マイナ保険証での誤紐付け問題からも分かるとおり。健康保険証の手入力ではそうしたミスも発生しやすく、結果としてマイナ保険証の導入に繋がった。

オンライン資格確認は、基本的にはマイナンバーカードを使って自動的にアクセスできる仕組みが想定されている。健康保険証には偽造やなりすましを防ぐ機能はなく、他人(特に家族)の健康保険証を使ってしまう例は多い(2020年7~9月では資格過誤の5%が本人・家族の誤りだった)。その場合も他人の情報が取得できてしまう可能性があり、安全性が低い。

資格過誤などの返戻を減らしたい医療機関と、医療費の効率化を図りたい国にとっては、最低でもICカード化は必須だった。20年の検討の末、それがマイナンバーカードに行きついたというのが現状だ。

マイナ保険証のトラブルはオンライン資格確認のトラブル

そうしてスタートしたマイナ保険証だが、当初発生したトラブルとして紐付け誤りがあった。これは正確に言えば「健康保険証情報をオンライン資格確認に登録する際の紐付け誤り」だ。

マイナ保険証では、オンライン資格確認にアクセスすることで資格を確認するが、このデータは保険者が登録している。保険者は、被保険者から提出された情報を転記しているが、これがまずDX化されておらず、「手書きで提出されたデータを手入力(またはOCR)で転記する」作業が発生している。

保険者のオンライン資格確認への登録の運用フロー。被保険者から提出された情報を保険者がシステムへ登録する。以前はマイナンバーが提出されていない例もあったし、保険者が以前から保有している情報が住民基本台帳と一致していない場合もあって誤紐付けの温床となっていた。「オンライン資格確認等システムに関する運用等に係る検討結果について(令和3年4月版)」

「手書き」や「手入力」は一定の登録ミスが発生する。基本4情報のすべてを書かなかったり間違えて提出していたり、手書きを読み違えて登録したり、マイナンバーが提出されなかったり、様々な事情で正確なデータが入力されていないことがある。そもそも被用者保険は基本的に転職・転居などがなければ有効期限がなく、厳密な本人確認もないため「昔の誤った情報が登録されたまま」という可能性もある。例えば「運転免許証と健康保険証で人名の漢字が異なる(異体字の違い)」という例もありうるのだ。

手動でやる限りこれは常につきまとう問題だ。結果として健康保険証情報とオンライン資格確認で別人が紐付けられた事例が発生。同姓同名で生年月日や性別が同じ(住所が異なる)場合に同一人物扱いされた例などがあったようだ。

オンライン資格確認のデータ誤りの確認作業の結果。住民基本台帳との突合によってほとんどの問題は解消されたとみられる。現在、健康保険組合の被保険者などには「資格情報のお知らせ」が送付されており、自身の登録が誤っていないか確認できるようになっている

健康保険の資格情報とオンライン資格情報の紐付け誤りであるため、マイナ保険証だけでなく従来の健康保険証を使っても同様に問題が発生する。2021年10月から2022年11月までの間に判明した誤紐付けの数は7,279件、同時期に他人の情報が閲覧された数は約6億回のオンライン資格確認件数のうちで5件だけだった。さらにその後2024年7月末までに紐付け誤りは539件発見され、そのうち16件で薬剤情報などが閲覧された。

今後は、就職、転職、退職など、保険者が変わる際に提出した情報の登録遅れや登録ミスをいかに減らせるかが課題だ。基本的には「マイナンバーを誤らずに提出して誤らずに登録」されれば、誤紐付け自体は発生しない。本来は「マイナンバーカードを使ってデジタルデータとして提出する」ことで誤りの発生は防止できる。

登録タイミングについては、事業者から保険者へは5日以内の提出が求められ、保険者は5日以内にオンライン資格確認に登録することが求められているが、これを確実にすることで、オンライン資格確認での資格喪失のエラー発生を減らすことができる。とはいえ、仮に「転職初日に病院に行く」と登録が間に合わず、オンライン資格確認ではエラーが出ることはあるだろう。

この時、新しい健康保険証はまだ発行されていないだろうことから、仮に古い健康保険証を使ってオンライン資格確認を使わない場合、病院の受付では素通しになって保険診療を受けられるが、病院側には資格誤りでレセプトが返戻される、ということになる。

ただし、この資格喪失に関しては2021年9月以降、レセプトの振替・分割の制度が始まったため、審査支払機関において新資格に自動で振り替えるなどの措置が行なわれるようになった(新資格が判明した場合)。これは、審査支払機関においてレセプトから改めてオンライン資格確認を行ない、新資格の有無をチェックして自動で新資格に振替される。このため、窓口でオンライン資格確認をしなかったとしても、資格確認が行なわれるため、返戻の削減に繋がる。

支払基金によるレセプトの振替・分割機能のフロー図

ただ、結果として対象外で返戻される事例や、そもそも転記ミスなどもあり、トータルではオンライン資格確認の方が返戻率は下がるとみられる。オンライン資格確認は従来の保険証でも手入力などで確認できるが、転記ミスの観点からはマイナ保険証が推奨される。また、今後の医療DXに対する本人確認や同意の観点からもマイナ保険証の利用が適切だろう。

では、患者にとってマイナ保険証にどんなメリットがあるのか。

医療DXで自分の健康を自分で管理できる時代に

もともと、オンライン資格確認自体は、患者へのメリットを想定した仕組みではない。ただ、これを入口として、患者へのメリットにも繋げようというのが医療DXの方向性だ。

オンライン資格確認によって資格過誤や転記ミスを削減して医療事務の効率化を図りつつ、今後の医療DXによって患者のメリットにも繋げるというのが基本的な方針となる。現状でも、マイナ保険証を使うことでレセプトベースの診療情報や薬剤情報を共有できる。

国が目指す医療DXの形。これを実現するためにオンライン資格確認の拡張が検討されている。第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料

こうした医療情報は、患者の診療に役立つ情報だ。かかりつけ医がない日本の医療制度の場合、初めて受診するパターンや大病院で複数の医師にかかる例が頻繁にあり、そうした場合に一から診察を行なうよりも、過去の情報を踏まえた効率的な診察ができる可能性がある。

あくまでレセプトとして請求された情報を使っているので1カ月前の情報ではあるが、「数カ月間にわたる治療や薬剤の情報が1カ月前に急に変わった」というわけでもなければ、一定の推測はできるし、診療内容や投薬情報を正確に記憶している患者は多くはないので、「お薬手帳を忘れて、記憶違いがあってもある程度は推測できる」だけでも診療の役には立つ、と考えられる。

もちろん、1カ月遅れの情報が意味をなさない場合もあるが、これが真価を発揮するのは電子カルテや電子処方箋がもっと一般化してからだ。電子カルテや電子処方箋であれば、診療情報や薬剤情報がリアルタイムで共有できるようになる。

電子カルテではマイナ保険証よりも多くの情報が共有できるようになる。マイナンバーカードを使ってマイナポータルにアクセスすれば閲覧や共有することの同意を行なうこともできる

こうした詳細な医療データを共有するためには、本人確認が重要となる。世界的に健康保険証がICカード化されているのもこうした医療DXのためだし、本人確認を安全にすることは重要だ。他人の電子カルテや電子処方箋にアクセスすると医療ミスを招きかねないし、正確な診療ができなくなる。

これまで多数の資格過誤や本人以外の利用が行なわれた健康保険証では、個人情報の保護ができず、本人確認と適切な本人同意ができないため、このままでは医療DX化の取り組みができない、というのが政府の判断だ。

同意の仕組みを設けている点も重要だ。マイナ保険証での受付時に医療情報の共有に同意するかどうかの選択肢が表示される。この同意は24時間有効なため、翌日以降は改めて同意が必要になる。こうした同意取得の仕組みを設けているのはマイナ保険証の優位点だ(同意取得の方法などは議論の余地がある)。

マイナ保険証の課題と医療DXへの取り組み

課題はもちろんある。長年の検討ですでにIC化が否定された健康保険証は、医療DXという国の施策を踏まえると廃止せざるをえないのが現状だ。ただ、マイナンバーカードの取得が任意であるため、マイナ保険証の取得を強制はできない。それにも関わらず、国民皆保険で保険証は全員に行き渡らせる必要があるため、何らかの手当が必要になる。

結果として、従来の健康保険証と同じ体裁の資格確認書を発行することで、取得を強制せずに利用を拡大すべく舵を切った。マイナ保険証を使わない場合でもオンライン資格確認は使える。オンライン資格確認自体は強制となるため、転記ミスなどの返戻の問題は残るものの、一定のコスト削減効果はある。

同じく協会けんぽの資格情報のお知らせ。記載されたマイナンバーの一部を確認して、自分の情報が正しく登録されているか自分で確認するとともに、かどにある「資格情報のお知らせ」を切り取っておくと、マイナ保険証が使えない場合などに利用できる

国にとってこの5年というのは、いわば「猶予期間」という位置づけだろう。マイナ保険証登録しつつ従来の健康保険証を使っていた人は自然と切り替えになり、さらにこの5年の間に医療DXやスマートフォン搭載、用途拡大などを続けてマイナ保険証への移行を進めていく狙いとみられる。

マイナ保険証への移行パターン。12月2日の新規発行終了以降、従来の健康保険証は、国民健康保険は一般的に25年7月末まで、被用者保険は25年12月1日まで利用可能。転職・転居などで新規発行になる場合はその時点で、マイナ保険証か資格確認書に切り替えになる

マイナ保険証利用者でも、ごく一部のオンライン資格確認非対応の医療機関での受診時や、リーダーの不具合で利用できなかった場合などに、マイナンバーカードと資格情報のお知らせまたはスマートフォンにダウンロードした保険資格の情報で保険診療を受けることができる。今後、スマートフォン搭載になれば、カード自体も持ち歩く必要がなくなるので紛失リスクも減らせて利便性も向上する。

オンライン資格確認はハードウェアで本人確認をしてネットワーク回線を使うという仕組み上、どうしてもエラーの発生は避けられない。そうした場合に、いかにスムーズに保険診療を受けられるかの対策も重要だ。

厚労省では、オンライン資格確認ができなかった場合には、マイナンバーカードに加えてマイナポータルの画面や資格情報のお知らせ、過去の受診歴から把握している資格情報、被保険者資格申立書(+マイナンバーカード)で適切な自己負担(3割など)を求めるように通知を出している。

基本的に本人確認ができれば安全性の低い紙のお知らせでも資格確認の代わりにできるという考え方で、結果的にどの保険者にも加入していない人であっても「災害等の際の取扱いを参考に、保険者等で負担を按分」としており、医療機関側の負担になることはないようになっている。

マイナ保険証で資格確認ができなかった場合のフロー。基本的には保険診療が受けられるようにして、なるべく10割の負担を請求しないように求めている

高齢者が機械の操作に慣れていないという点は、顔認証を使うため暗証番号を覚える必要はなく、何度も使ううちに使い方に慣れる例も多いだろう(スマートフォンが使える高齢者も多い)。付添人などが操作を代わったり、窓口での目視確認による本人確認も可能だ。

セキュリティも最大の懸念点だ。マイナンバーカードとマイナンバーの安全性については前掲の記事の通り。マイナ保険証でもマイナンバーは直接扱われず、保険資格などの情報や診療情報などはマイナンバー単体では引き出すことができない。

もともと各保険者は被保険者のさまざまな情報を保有しており、審査支払機関はレセプト請求を昔から処理してきた。マイナ保険証だから新たに保管された情報でもないので、従来の健康保険証と違いはない。支払基金と国保中央会が共同運営する中間サーバーがオンライン資格確認用に設置されているが、これも健康保険証でも使われていてマイナ保険証だからということでもない。

オンライン資格確認では医療保険者が保管していた従来の情報が中間サーバーを経由して情報提供ネットワークと連携し、他の情報と連携される。住民基本台帳ネットワークの情報と連携することで被保険者の情報を特定する。この連携にマイナンバー自体は使われておらず、情報漏洩に繋がる仕組みではない(支払基金から引用)
マイナンバー制度の仕組み。マイナンバーは機関別符号に変換され、それを使って情報連携する。情報はその都度問い合わせて取得するため、「マイナ保険証に一本化してマイナンバーに情報が集約される」ことはない。マイナンバーカードは、マイナポータルやオンライン資格確認に安全にアクセスするための「鍵」であり、情報自体は保有しない

そもそもマイナンバー制度は「マイナンバーで情報を集約する」仕組みではないので、どこか1カ所からすべての情報が漏れることはなく、「どこかのマイナンバーサーバー(存在しない)から医療情報が漏洩する」というものでもない。

これまで情報管理をしていた保険者などが、これまで通り安全に配慮して対策を行なうことが最大のセキュリティ対策だ。

患者側は、マイナンバーカードを従来通り管理すればいい。銀行キャッシュカードが例に出るが、運転免許証もクレジットカードも健康保険証も、普通は適切な管理を心がけているはずで、同様に管理し、紛失したら届出を忘れないようにしたい。「キャッシュカードを紛失したら暗証番号が破られて現金がATMから引き出された」と同程度の危険性は存在する。タッチすれば通常15,000円まで自由に買い物ができるクレジットカードよりは安全だろう(券面情報を除く)。

他にもマイナ保険証の受付での同意取得に加え、今後はマイナポータルで診療情報の確認や共有の同意も提供されるようになるので、自分の情報を生かした健康管理や同意のためのリテラシー向上も求められる。

マイナンバーカードと電子証明書の有効期限が一致していない点、今後の新カードの発行など、懸念点は残っているが、問題点は順次解消していくことで、より使いやすく安全な仕組みとなっていくだろう。アジャイルといえば聞こえはいいが、デジタル化では一定のトラブルがどうしても発生する。

ハードウェアやネットワークのトラブルのサポート体制を含めて、安定した利用ができるよう改善が続けられれば、マイナ保険証の利用は順次拡大していくだろう。

社会保障の持続可能性が模索される中、医療DXで効率化による医療費の削減や個人の健康管理・増進に加え、遠隔医療など新たな医療サービスの展開も検討される。また新型コロナウイルスの流行で問題となった予防接種管理や給付金・マスクの配布など、デジタル化による早期対応が求められており、これを実現するためにもマイナンバーカードは重要な位置づけとなる。

こうした社会保障の継続と発展を医療DXで実現できるかどうか。そのためにも、マイナ保険証の普及は必須であり、国が正しく政策を実行できるかが今後の課題と言えるだろう。

小山安博