文具知新

「LAMY safari」×「クルトガ」はシャープペンのひとつの到達点かもしれない

2024年に三菱鉛筆がドイツのLamy社(ラミー)を連結子会社化し、その後2025年に両社の連携の象徴として誕生した「LAMY safari JETSTREAM inside」の衝撃は今も記憶に新しいところです。

三菱鉛筆を代表する油性ボールペンである「ジェットストリーム」のインクと、ラミーが誇る不朽の名作筆記具シリーズ「LAMY safari」のボディが融合した1本は、文具界の枠を超えた大きな話題となりました。

LAMY safari JETSTREAM inside(3,630円)

三菱鉛筆×ラミー連携の衝撃再び

我々がまだその余韻に浸っているところに新たに登場したのが、今回ご紹介する「LAMY safari KURUTOGA inside」(4,180円)です。文具好きであれば商品名だけでピンとくるでしょう。言わずと知れた「LAMY safari」をベースとしたボディに、三菱鉛筆の独自機構である「クルトガエンジン」を搭載したシャープペンシルです。

以前、Impress WatchでLAMY safari JETSTREAM inside誕生の舞台裏について開発者の方にお話をうかがった際に「今後の展開も色々考えていますよ〜」という意味のことはおっしゃっていましたが、「そうきたか〜!」というのが私の率直な感想でした。

ボールペンに関しては、マニアの間で自分の好きなボディに好きな替芯を入れる“魔改造”(もちろん自己責任です)が横行していたこともあり、「そうは言ってもある程度予想がつくな」という感じではありました。しかし、シャープペンシルの移植は素人にはほとんど不可能ですから、まったく使用感の想像ができません。

カラーバリエーションは左からブラック、ビスタ、ブルー、イエロー(三菱鉛筆プレスリリースより)

これは実際に書いてみるしかない! ということで、LAMY safari KURUTOGA insideのブラック、ビスタ、ブルー、イエローという4色のカラーバリエーションの中から、透明軸であるビスタを発売とほぼ同時の3月中旬に入手しました。今回は、その使用感などをレポートしていこうと思います。

芯が回って尖り続ける「クルトガエンジン」

と、その前に。そもそも「クルトガ」ってなんだっけ? を簡単におさらいしましょう。クルトガは、内部の歯車で芯を回転させる機構「クルトガエンジン」の搭載により、偏減りを克服したシャープペンシルです。

鉛筆やシャープペンシルは、芯が削れることで書けます。書く時、芯は斜めになった状態で紙と接しますから、削れるに従って断面がだんだん広くなり、筆記線が太くなってしまう、という問題がありました。

クルトガエンジンは、筆記時の芯の上下運動を回転運動に変換する、三菱鉛筆の独自機構です。回転により紙に接する面が1画ごとに少しずつズレるため、芯がまんべんなく削れて尖り続けます。そのおかげで、常に濃くて細い一定の線で書くことができるのです。

クルトガは芯が少しずつ回転して尖り続けることで偏減りを抑止

2008年にクルトガの初代スタンダードモデルが登場すると、ノートに細かくたくさん文字を書きたい中高生ユーザーを中心に大ブレイク。クルトガエンジンは40画で1回転するため「“三菱鉛筆。”って書くと1回転するんだよ(“。”がポイント)」なんて小ネタも話題になりました。

当時からささやかれていた「セルフ・クルトガ」の問題

そんな画期的なクルトガでしたが、当時から一部のユーザーの間で指摘されていたのは「セルフ・クルトガ」なる行為です。先ほどシャープペンシルは芯が偏減りすると書きましたが、その問題を自己解決するために無意識のうちにシャープペンシルを手の中で回転させる、いわゆる「セルフ・クルトガ」がクセになっている人が一定数存在するのです。

実は、かくいう私もその一人でありまして。せっかくクルトガが芯を回してくれているのに、自分でも無意識にクルクルしてしまうので、回転が干渉しあってイマイチ恩恵を受けきれていなかったんですね。

スタンダードモデルだとつい「セルフ・クルトガ」してしまうのです……

三角グリップとクルトガエンジンがベストマッチ!

そこで、今回のLAMY safari KURUTOGA insideですよ。LAMY safariのアイコンのひとつでもあるのが、人間工学に基づく三角グリップ。人は筆記具を持つ時、親指・人差し指・中指の3本指で保持しますから、軸が三角だとピタッと持ちやすいのです。余談ですが、子供が初めて持つ筆記具である鉛筆が六角軸なのも、3の倍数だからという理由からです。

三角グリップは人間工学に基づくデザイン

三角グリップの中にクルトガエンジンが収まったことで、筆記時に指が自然と正しい位置に固定され、無意識のセルフ・クルトガを抑止する効果があります。

指がピタッとフィットしてセルフ・クルトガを抑止

LAMY safari KURUTOGA insideの入手時に、たまたま大量にイラストの下描きをする仕事があったので、セルフ・クルトガをするクセがある私が早速使ってみたところ、無意識のクルクルは完全になくなりました。しかも、筆記線がずっと一定でイラストの仕上がりも心なしかクッキリ。「こ、これがクルトガの恩恵か~~~!」と、初めて実感できたのでした。

上下のブレを抑えた進化版クルトガエンジン「KSモデル」

さらに特筆すべきは、搭載されているクルトガエンジンが進化版の「KSモデル」であるということです。

クルトガは芯先を紙に当てて離すという筆記時の上下運動を回転運動に変換しているという性質上、書く時にわずかに芯が沈み込むような“ブレ”を感じることがありました。なかには、そのブレが苦手でクルトガがどうも合わない、という人もいたのです。

KSモデルのクルトガエンジンでは、設計の見直しによりこのブレを軽減。LAMY safari KURUTOGA insideに搭載されているのもこちらの進化版で、私が書いた感触ではブレはまったく感じられませんでした。「あの感触が苦手でクルトガには食指が伸びていなかった」という方は、改めてKSモデルを試してみてください。まったくの別物になっていますよ!

そしてやっぱり、見た目がカッコいい!

最後に、この点についても触れないわけにはいかないでしょう。そう、見た目! 超!カッコよくないですか? もちろん、人によって好みがありますので私個人の主観にはなってしまいますが、特にビスタの透明軸にはたまらない魅力を感じています。

高透明の樹脂素材を基調としながら、引き締まった黒、そして金属のシルバーがアクセントとなったインダストリアルな配色。しびれます。

インダストリアルな佇まいがとにかくカッコいい

透明であるがゆえに、書きながらクルトガエンジンが回転していく様子を360度から眺める楽しさもあります。

クルトガエンジンの回転を360度から眺めて楽しめる

そして、予備の芯がまだ入っているかな? も確認できるちょっとした実用性。たまりません。

透明軸なので予備芯の有無を目視で確認できる

現時点で考えうるシャープペンシルのひとつの到達点

まとめると、LAMY safari KURUTOGA insideは偏減りせず細く濃い線を書き続けられる機能性、それを実現しているクルトガエンジンと、クルトガエンジンの良さを最大限に引き出す人間工学に基づく三角グリップ、クルトガのウィークポイントであったブレを抑えた快適な書き心地、10年経っても古びないであろう美しさを誇るボディ、それら全てを兼ね備えたシャープペンシルである、ということです。

何をもって“最高のシャープペンシル”とするかは、人によって重視する価値、目指す方向性があるので一概には言い切れませんが、LAMY safari KURUTOGA insideは現時点で考えうるシャープペンシルの「最高」を凝縮したひとつの到達点であることは間違いないと思います。

価格は4,180円と、文房具としては決して安い製品とは言えません。しかし、私にとっては金額以上の価値を感じる1本となりました。イラスト仕事の相棒として、これからも大切に使い続けたいと思います。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。