文具知新
コクヨ「大人のやる気ペン」は本当にやる気が続くのか? 1週間使ってみた
2025年6月27日 08:20
仕事に家事に育児にと、大人の生活はとにかく忙しいものです。やるべきことをこなすだけでも精一杯で、少しでも時間が余ったらダラダラしたい! というのが本音ではないでしょうか。そのような状況で、スキルアップのためとはいえ勉強の時間を確保するのは、なかなかモチベーションが上がりません。
そんな悩める大人のためにコクヨが開発したのが、今回紹介する「大人のやる気ペン」(参考価格:9,900円)です。5月の一般発売に先駆け、1月から3月にかけて行なったMakuakeでの先行販売では、Makuake総合ランキングNo.1(2025年2月1日時点)などの反響があったことからも、注目度と期待の高さが伺えます。
今回、サンプルをお借りすることができましたので、1週間のお試し利用にチャレンジしてみました。果たして本当にやる気は続いたのか? その結果をレポートします。
そもそも「大人のやる気ペン」って?
と、その前に。大人のやる気ペンとは何か、簡単にご説明します。この製品の前身となるのは、2019年に小学生をメインターゲットとして発売されたIoT文具「しゅくだいやる気ペン」です。本体とスマートフォンのアプリが連動し、子供の日々の努力を見える化することで、保護者とのポジティブなコミュニケーションを促進し、自発的な学習の習慣化を助けるツールです。
小学生向けということで、本体は鉛筆に取り付ける補助軸のような形態となっており、鉛筆以外の筆記具での使用は想定されていませんでした。それに対し、発売当初から「大人も使いたいので、ボールペンなど鉛筆以外の筆記具でも使えるようにして欲しい」という要望は根強かったそうです。
しかし大人向けのやる気ペンと考えた場合、単に本体をボールペンなどに適合させるハード面の対応だけでは不十分です。大人と子供では、モチベーションを維持するのに効果的な働きかけも異なります。子供は保護者から褒められることが有効ですが、大人にはもっと自発的な動機づけが必要になります。
そのための仕掛けというソフト面も組み合わせ、「しゅくだいやる気ペン」のマインドを引き継ぎながらも全く新しいツールとして誕生したのが「大人のやる気ペン」なのです。
開発の背景についてはこちらの記事により詳細な内容がありますので、興味のある方は合わせてご参照ください。
使い始めるまでの準備
背景やコンセプトを確認したところで、早速使ってみましょう。初期設定の詳細は割愛しますが、特に難しいことはありません。本体を充電し、専用のアプリをスマートフォンにダウンロード。あとはアプリを立ち上げ、画面の指示に従ってペアリングを進めるだけです。Bluetoothのイヤフォンなどと基本的には同じなので、その操作に慣れている人であれば特に戸惑うことはないでしょう。
あとは、好きな筆記具に取り付け、本体の電源をONにして書くだけです。書いている動作をセンサーが検知し、「やる気パワー」が溜まっていきます。
今回、私は美文字の練習帳に挑戦してみました。過去にペン習字をやっていたものの、最近は練習をサボっていて腕が鈍っていると感じるのが理由です。仕事柄、手書きの文字を人前にさらすことが多いので、字が綺麗であるのに越したことはありませんから。
1日目、慣れないせいか手が痛い
最初に選んだペンは、「サラサクリップ」(ゼブラ)。スタンダードなノック式のボールペンで、本体の装着には特に問題ありません。ただ迷ったのは、ペンのどの辺りにつけるのがいいのかということ。なんとなく、端に寄りすぎると筆記する時にバランスが崩れそうな気がして、親指と人差し指の間に乗せる感じでつけてみます。
書いている間は、スッと作業に集中できるのを感じました。普段であればちょっとやったらすぐにスマホを開いてしまいがちですが、「記録に残るのだからせめてその間はちゃんとやらねば」という意識が働くようです。誰かに見張られているほどの緊張感はありませんが、“縛り”が程よく働いている感じで、早くも大人のやる気ペンの効果を実感します。
書くことでやる気パワーが溜まり、それを表すようにLEDの色が変わります。変わるペースは一定間隔ではないようで、最初は次の色に変わるまでの時間が短く、色の変化が一周した後は長くなっているように感じました。
何か面倒なことに取り組む時、最初の5分ぐらいを乗り越えると後は流れで自然と集中できる、というのはよくあることだと思いますが、その波にスムーズに乗れるように考えられているのかもしれません。
書き終わったら、アプリを立ち上げてペンを振り、やる気パワーを注ぎます。溜めたパワーの分だけリンゴが手に入り、リンゴの数だけ自分のマスコットがスゴロクのマスを進みます。他のユーザーのプロフィールカードや石板のあるマスに到達すると、その内容を見ることができるというシステムになっていて、非常にシンプルです。
久しぶりに集中して書いたせいか、大人のやる気ペンを装着することで筆記具のバランスが崩れたのか、手(主に小指)がとても痛くなってしまいました。明日以降がちょっと心配です。
2日目、マスコットをカスタマイズ
今日のペンは「ユニボール ワン F」(三菱鉛筆)です。こちらも、問題なく装着できました。
初日は手をつけていなかったのですが、「ポット族」という自分のマスコットもちょっとカスタマイズしてみます。やっぱり、見た目を変えると愛着がわきますね。
なんとなくの体感ですが、リンゴはおおよそ10分ほど書けば1個手に入るようです。たまに出てくる「金のリンゴ」は普通の赤いリンゴ3個分の換算となり、スゴロクのマスを3つ進むことができます。
書き終わった後の手は相変わらず痛いです。果たして、続けられるのでしょうか……。
3日目、しっくりくるポジションを発見
少し気分を変えて、今日は万年筆「ライティブ」(パイロット)に取り付けてみました。万年筆はボールペンより軸が太いので大丈夫かな? と思いましたがまったく問題ありませんでした。ただ、ボールペンと比べると安定しないのか、手に当たる位置に装着していると書いているうちにポロッと取れてしまいます。
少し悩んで、手に当たらない位置まで動かしてみました。あまり先端に近づくとバランスが崩れて筆記しにくくなるのでは? と懸念していましたが、意外にも気になりませんでした。見た目が大きいので重さがあるイメージでしたが、実は本体重量は約8gとかなり軽く、筆記バランスへの影響は少ないようです。
また驚いたことに、手に当たらない位置に装着したためか、前日まで感じていた痛みが発生しなくなったのです。自分にとってのベストポジションが見つかり、一気に快適になりました。
4日目、サボりたい気持ちに抗う
今日の筆記具は水性ボールペンの「Vコーン」(パイロット)です。
包み隠さずいえば、ちょっと疲れが溜まっていて、できればサボりたい気分でした。でも「せっかく続けてきたのに、記録が途切れて穴が開くのはイヤだな」という思いの方が勝り、なんとかノルマをこなすことができました。記録をつけることの効果を感じます。
5日目、もう少しやってみよう
この日は「エナージェル キャップ式」(ぺんてる)を選びました。少しずつ手が思い通りに動くようになってきて、継続の効果を実感します。
次に何かがあるぞ? というマスの手前で止まったので、もう少しやろうかな、と初めてノルマ以上の練習をしました。まんまと大人のやる気ペンの策略にのせられているのを感じますが、悪い気はしません。
6日目、電源のつけ忘れはショックが大きい
今日は少し気分を変えて、ドローイングペンの「ピグマ」(サクラクレパス)を使っています。
いつかやるだろうとは思っていたのですが、この日ついに「電源をつけ忘れて書く」をやってしまいました。用事をこなすために一時中断した時に電源を切り、再開のタイミングでつけ忘れてしまったのです。「せっかく頑張って書いていたのに記録が残らないなんて」と思いのほかショックを受けてしまいました。
Bluetoothの完全ワイヤレスイヤフォンなどは、ケースから出した時点で自動的に電源ONという仕組みのものが多いので、大人のやる気ペンもそうだったら防げたかもしれません。
また、人のプロフィールカードを見るのがだんだん楽しみになってきました。カードには「一番の目標」「勉強のコツ」「なぜ勉強するのか」といった内容が記載されています。年齢もバックグラウンドも様々な人が、色んな理由で頑張っているのを見ると、誰にでも「学び」はあるのだなと励まされる気がします。
7日目、くるくる回すクセとの相性は良くない
そういえばシャープペンシルはまだ使っていなかったな、ということで「ドクターグリップ」(パイロット)に取り付けてみました。かなり太軸のシャープペンシルなので無理かもしれない、と思ったのですがギリギリ装着できました。大人のやる気ペンが対応できるペン軸の幅はかなり広いようです。
書いているうちに気づいたのですが、私はシャープペンシルの場合、芯が斜めに削れてくると無意識のうちにくるっと削れていない側にペン軸を回すクセがあり、初めて大人のやる気ペンが装着されていることに違和感を覚えました。
いくら本体が軽いとは言ってもある程度の大きさはあるので、くるくる回すとさすがにバランスの悪さが気になります。同じようにシャープペンシルを手の中で回すクセがある人は留意した方がいいかもしれません。
おまけの8日目、1枚目のスゴロクのゴールへ到達!
1週間チャレンジと決めていたので予定としては昨日が最終日だったのですが、もう1日やればスゴロクの最後まで行けそうだったため、プラスでもう1日追加しました。これも、大人のやる気ペンの継続効果に上手くのせられた結果といえるでしょう。
使用した筆記具は「ユニボール ゼント シグニチャーモデル」(三菱鉛筆)。やや特殊な形状のペンですが、これも問題なく装着できました。
そして予想通り、1枚目のスゴロクのゴールに到達! マスコットを着せ替えるためのアイテムが手に入りました。ちょっとした達成感がありますね。
私が大人のやる気ペンを使っていた時間は、日によって多少のばらつきがあるものの、おおむね1日40分〜50分ほどでした。体感的には、毎日1時間ほど書くことで約1週間でスゴロクを達成できる設計になっているようです。
社会人が捻出できる時間や、ご褒美を出すことでちょっとした変化を与えるタイミングとしては程よい落とし所ではないでしょうか。全体的に、フィードバックの強さやバランスはよく考えられているという印象を受けました。
グラフとカレンダーで振り返り
最後に、振り返りのための機能を簡単にご紹介します。アプリを開くと、すぐに1週間の「やる気タイム」を表す棒グラフにアクセスできます。グラフの目盛はざっくりしており、ここで「○日は○分」という細かい記録を見ることはできませんが、逆にそれがいいな、と感じます。
ログ系のアプリではよくあることなのですが、あまり細かくデータを見ていると、「できたかできなかったか」よりも些細な数字の違いの方が気になってしまうからです。
「やる気タイムが昨日より2分少なかった……」などと気にしてモチベーションを下げていては本末転倒。社会人ですから、日によって取り組める時間に波が生じるのは当然です。時間の長短は関係なく、とにかく「できた!」で自分を褒めて続けることを優先するために、あえてざっくりしたインターフェースが採用されているように思います。
ちなみに、メニューで「やる気のキロクへ」をタップして開くカレンダーから各日のデータにアクセスすると、分単位の記録をチェックすることができます。詳細なデータが気になる場合は、そちらから確認するといいでしょう。
結論、大人のやる気ペンはモチベーション維持に効果あり!
さて、肝心の字の方はどうなったかというと、さすがに1週間で目に見える変化があるようなことはありませんでした。ただ、自分の感覚としては手の動きがずいぶんスムーズになったと感じますので、主観的な変化はあります。
何か新しい習慣を身につけようとする時、1日の中でも最初の数分だったり、1カ月の最初の数日だったり、とにかく最初がつまずきやすいものです。そこを乗り越えて一定期間継続することができれば、自分には分かる程度のささやかな変化が訪れます。そうなれば、成長自体がモチベーションとなるため、グッと続けやすくなるのです。
ともすれば面倒だな、イヤだな、もうやめちゃおうかな、となる最初のハードルを乗り越えることをサポートしてくれるツールとして、大人のやる気ペンは有効なツールだと思います。
ただ、続けることを考えると、やる気パワーをアプリに移すために毎回「ペンを振るアクション」をしなければいけないのは、ちょっと億劫に感じました。できれば、近づけるだけで吸い取って欲しいものです。このあたりは、子供向けのしゅくだいやる気ペンで採用されていたアクションの踏襲なのでしょうが、オプションでもいいので大人はオフにできるといいなと思いました。また、充電ケースから出した時点で自動的に電源ONになって欲しい、というのも先に述べたとおりです。
と、細かく言えば気になることもなくはありませんが、「書く」ことが避けられない学びのシーンで役に立つツールであることは間違いありません。私は美文字練習でしたが、資格の勉強、手帳や日記、イラストなどの趣味、仕事など、手書きというアナログな行為にデジタルなサポートが入るというアイデアには、まだまだ可能性がありそうです。
参考価格が1万円弱と決して安い製品ではありませんが、気になる方は試してみる価値はあると思います。ユーザーの声を細かくすくい上げながらアプリは随時アップデート予定とのことですので、今後にも大いに期待しましょう。
































