鈴木淳也のPay Attention

第274回

なぜFintech企業のRevolutがF1のタイトルスポンサーになったのか

2026年3月29日に開催されたF1日本GP本戦でのピットウォークの様子

日本への正式上陸前から追いかけてきたRevolutだが、新体制からのリブートを経て新たな局面を迎えつつある。

先日は英ロンドンのカナリーワーフに落成した新本社でのミーティングにおいてグローバルでの銀行免許取得の方針を伝えるなど、“ネオバンク”などと呼ばれていたFintechの最先端企業から、既存金融機関と同レベルのサービスと信頼性を提供する段階へとステップアップしつつある。

同等のサービスをグローバルに展開することを目標に掲げるRevolutだが、金融の世界は国やエリアごとの規制が厳しく、またローカライズを含め、すべてのサービスがそのまま受け入れられるわけではないという文化的事情もあり、その展開には時間差が発生することも確かだ。

ここでは、Revolutの日本における現在位置と、最新の取り組みでユニークな機能でもある「共同アカウント(Joint Account)」について紹介したい。

Revolutの共同アカウント

「日常使い」を強化する日本での「共同アカウント」提供

「Revolutはどういうサービスなの?」と金融業界や経済事情にあまり興味ない方に質問されたとき、シンプルに回答するのになかなか難しいのだが、あえて返答するなら「さまざまな便利な機能が用意された金融サービス」というのがいいのかもしれない。

筆者のRevolutの主要な使い方は“使い捨て可能な”バーチャルカードをオンラインやアプリ決済用に登録して支払いに充てるというものだが、人によっては海外旅行などで現地通貨決済を行なったり、現地ATMで手数料無料で引き出すのに使うケースもあったりと、ニーズに応じて必要な機能が活用できるという点でメリットがある。

REVOLUT TECHNOLOGIES JAPAN代表取締役の巻口 クリスティナ 蓉子氏は、「これまでは『海外旅行用カード』としての認識が強かったかもしれないが、今後は日本国内での『日常使い』を強化していく」と述べており、その過程でアピールしているのが、子供向け金融教育サービスの「Revolut Kids & Teens」や、今回のテーマである「共同アカウント」となる。

共同アカウントとは、簡単にいえば18歳以上のユーザー2人が共有できる別の第3のアカウントだ。通常、別のユーザーのアカウントは直接覗くことはできないが、ユーザー2人によって作成された共同アカウントは管理や送金、支払いまですべての情報を互いに確認したり操作することが可能で、加えて共同アカウントで発行されたカードは管理者であるユーザー2名がどちらも利用できる。

使用例でいえば、カップルや夫婦が共同アカウントを持つことで家計で使われるお金の管理が分かりやすいだろう。家賃や生活費の支払いを共通のアカウントで行ない、それを互いが確認できる。

別々に支払いを行なってあとで確認するよりも、Revolutであればアプリを通じてリアルタイムでアカウントの利用状況が分かるので、行き違いや連絡忘れもない。

共同アカウントでは紐付いたユーザー2人が互いにその情報を管理したり、操作できる
共同アカウントの利用例。Revolutでは特定の買い物先が専用のアイコンで表示されるが、これはユーザー自身が申請して新規にアイコンの追加依頼することも可能

1アカウントに対してカードを複数枚発行できるのもRevolutの特徴だが、これを共同アカウントと組み合わせると家計管理に活用できるメリットがある。

例えば用途別にカードを切り替えることで、それぞれのカードの支払い情報を一括管理できる。日用品購入専用カード、外食専用カード、海外旅行専用カードといった具合に区分ければ、それぞれの支出状況がリアルタイムで把握できるため、予算管理や使い過ぎ抑制の面からも便利な機能となる。

Revolutの特徴は1アカウントで複数枚のカードが発行可能なこと。共同アカウントと組み合わせれば、家計の用途別支出状況を2人のユーザーがリアルタイムで把握できるようになる

先行提供されている諸外国での利用事例を挙げれば、共同アカウントを利用するケースは「(結婚には至っていない)まだ微妙な関係」のフェイズにあるカップルというのがあるようだ。

普段の生活費は折半しているものの、婚姻には至っていないため銀行口座を開設するまでではないのでRevolutを使うというわけだ。カップルではなくても、例えば諸外国ではルームシェアがごく当たり前だったりするため、“友人関係でもない者同士”が生活費の折半のために一時的に2人のアカウントを紐付けて共同アカウントにするというケースも想定されるだろう。

そういった意味で、共同アカウントは手軽に一連の機能を2人で利用できる仕組みといえる。

どのように「共同アカウント」を活用しているのか

日本では1月にスタートした「共同アカウント」だが、これに呼応する形で「【Revolut利用者限定】鈴鹿でのVIP観戦体験などが当たる」というキャンペーンが展開された。

これは3月27~29日にわたって鈴鹿サーキットで開催されたF1日本グランプリで特別なVIP体験が得られるペアチケットを審査のうえ抽選で提供するというもの。

参加条件は18歳以上の2名で「共同アカウントの開設」となっており、鈴鹿サーキットでのVIP体験やRevolutの紹介を自身のSNS等で紹介することで、いかにRevolutに触れ、共同アカウントをどのように活用したかをレポートしていくことになるというわけだ。

VIP体験では通常であれば専用パスが必要なパドックエリアやピットウォークに参加でき、チーム関係者らと交流が持てるというもの。今回のキャンペーンでは2組のモニターが選ばれたが、どちらもF1の大ファンで、現地での体験とともに身近でのRevolut活用事例をアピールしてくれた。

先ほど活用方法は人さまざまと述べたが、こうした事例に実際に触れる機会というのは非常に興味深く、これが今回の取材の起点となっている。

キャンペーンで提供される特別体験の一部。チームのピット内の様子を体験できる

1組目は山田夏輝・宏華氏の新婚夫婦で、特に夏輝氏は昔から父の影響でTVで毎回F1を見ているほどのファンだという。同氏は日本上陸前後の最初期からRevolutを利用しており、同社がF1でAudiのタイトルスポンサーとなっていたことも知っており、キャンペーン自体もRevolutのアプリ通知で知ったという。

Revolutに触れたそもそものきっかけは当時大学生でデビットカードくらいしか作れず、当時から趣味でお金を貯めて海外渡航していたこともあり、外貨手数料が安いといった理由で活用していたようだ。

Audiのタイトルスポンサーとなったときも、普段使いのRevolutがそのような存在になって「やはりすごい(会社)」との印象を持ったようだ。

共同アカウントを作成するまでは宏華氏の方は特に触れていなかったものの、夏輝氏の経緯からRevolut自体は“怪しい会社”ではないと思っていたようだ。

ただ、スマートフォンを使った決済といえばPayPayくらいで、Revolutは海外に行かない限りは特に使う機会もないかなと考えていた模様。実際に共同アカウントを使ってみると、使用状況に透明性のある2人共通の財布を持つだけでなく、管理や支払いにおける余計な会話がなくなって時間的メリット(タイパ)が得られるというのは、いまの若い世代の感想と思える。

特徴的な使い方としては、2人が飼っている愛犬「まるお」に関する普段の支出を専用カードで管理し、ここでかかった経費を普段使いの家計とは別管理してアプリ内で記録に残すことで、「いつ、なぜ病院に行ったのか」という一種の「愛犬ログ」としてRevolutを活用していることが挙げられる。

加えて、ゴールデンウィーク中は新婚旅行で渡米の予定で、夫婦共通の趣味であるF1も合わせて現地体験してくるようだ。

Revolutの特別体験に参加した山田夏輝・宏華氏の夫婦

2組目は渡辺あすか・美里氏の夫婦。1歳の子供がおり、自作のファンボードを片手にサーキットでの出待ちが恒例の熱烈なF1ファンで、今回の体験では家族3人で自作ボードを手に参加していた。

ピット裏での体験では、想像とは違った厳かな雰囲気に驚いたという。山田夫婦とは逆に、こちらはAudiのタイトルスポンサーになったことで初めてRevolutの存在を知ったという。今回のキャンペーンもたまたまそのタイミングで応募があることを知って申し込んだということで、「F1をきっかけにRevolutを知った」という好例となる。

夫婦によれば、もともと「金融系のスポンサーは基本怪しい」という認識だったようだが、認知する過程で実際にサービスを使ってみて、その過程でサービスを理解していったようだ。

感想としては使いやすく分かりやすいのが第一印象で、特に決済通知がすぐに行なわれる点が気に入ったようだ。共同アカウントの使い方としては、月の生活費を最初に入れておき、そこからお互いがカードで使っていくという流れになる。また通知によりどこで買い物したのかがすぐに分かるほか、共同アカウントを介して買い物状況が見えるので、例えば重複買いのようなミスも防げる。

あすか氏は子供の洋服などを海外のECサイトで購入しているが、ここではバーチャルカードを活用して安全性を高めているようだ。またApple PayやGoogle Payに登録してタッチ決済ができるので、このあたりの手軽さも便利だという。1歳なのでまだ早いが、将来的にRevolut Kidsを通じて子供の金融リテラシーを高めていくことも考えているという。

渡辺あすか・美里氏の夫婦。出待ちが恒例の熱烈なF1ファンだという
1歳の子供も自作ファンボードで一緒に特別VIP体験

RevolutがF1チームのタイトルスポンサーとなる意味 そして銀行戦略

Revolutは3月に「Audi Revolut F1 Team 公式デザインカード」 を発表している。Audi Revolut F1チームのマシン「R26」の製造に使用されているのと同じ種類のチタンでコーティングされた特別なメタルカードで、2025年7月に発表され、2026年シーズンからスタートした同社のタイトルスポンサードを象徴する存在ともいえる。

Audi Revolut F1 Team 公式デザインカード

この意義と効果は、すでに先ほどの2組の夫婦のインタビューでも触れている通り、F1を通じてRevolutをさらに認知してもらい、そのファンを増やすことにある。加えて、F1のタイトルスポンサーというのはそれ自体がステータスになり得るもので、冒頭でも紹介した「本格的なグローバル規模での銀行事業参入」においても重要な要素となる。

金融サービスで求められる要素の1つは「信頼性」であり、“Fintech企業を標榜する怪しい企業ではない”という点を強くアピールすることで、同社が単に柔軟性と身軽さに優れた新興のサービス企業ではないことを示すには充分なものだ。

現状のステータスについて日本代表の巻口氏に聞いたところ、すでに銀行免許を取得している英国をはじめ、コロンビア、インド、メキシコ、米国といった他地域で進めている戦略に沿う形で日本でも事業機会を模索しているという。

現状で日本国内のRevolutは第二種資金移動業者であり、上限100万円の滞留規制を受けている。もし100万円超のスムーズな送金や預金金利サービスを提供しようとしたとき、銀行免許は不可欠となる。

今の時点では「Revolutフィナンシャルホールディングス株式会社」の社名で金融持株会社を登記した状態だが、銀行免許の取得が最終目的になるのかも含め、グローバル戦略の中で方策を検討している段階だという。

いずれにせよ、実際に銀行免許取得となれば年単位での準備が必要となるため、この成果がどう結びつくのかを確認するのはもうしばらく先となるだろう。

また巻口氏は、近い将来の目標として旅行保険など「日常生活の安心」に繋がるサービスをアプリ内でワンストップ提供していく計画だとも述べている。

1つのアプリを窓口に、金融と周辺サービスを利用できるようになるというのが、生活に根付くことを目標とするRevolutの当面の目標だ。今回のF1へのスポンサードによる新規ユーザー獲得から、それらのユーザーに周辺サービスを広げ、ファンによるコミュニティを拡大していく。そのことが、Revolutにおけるグローバルでの日本の地位を向上させ、さらなるサービス向上という形で還元されることに期待したい。

パドッククラブでインタビューに応じる代表の巻口 クリスティナ 蓉子氏

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)