鈴木淳也のPay Attention

第48回

日本上陸直前、話題の「Revolut」の最新事情を聞く

皆さんは「Revolut(レボリュート)」をご存じだろうか。設立は2015年で英国を拠点に世界にサービスを急拡大中の注目企業だ。多数の国や通貨がひしめき合う欧州地域で「国外送金(海外送金)」を中心にサービスを開始し、“タッチ決済”にも対応した物理カードと、利用状況の確認やセキュリティ設定も自分で制御できるモバイルアプリの組み合わせでミレニアル世代の人気を掴んだ。

フルサービスを提供する従来の“銀行”とは異なり、特定のサービスに特徴を持ち、手数料の安さや小回りの利いたサービスでニーズの隙間を埋める新しいタイプの銀行を「Challenger Bank(チャレンジャーバンク)」などと呼んでいるが、Revolutもまた注目のチャレンジャーバンクの1つだ。

Revolutの概要については別誌の記事で解説しているので、興味ある方はそちらを参照いただきたい。本稿では国内での正式ローンチが目前となったRevolutの日本での最新状況について、Revolut Technologies JapanのHead of Growthの役職で国内戦略全般を統括する金海寛氏に話をうかがったので、現在進行中のベータサービスを含め、今後の目指す方向性をまとめていく。

話題のRevolutはいつから利用できる?

Revolutの日本市場参入が報道などを通じて明らかにされたのが2018年で、一部の招待ユーザーを対象に「ベータテスト」と呼ばれる限定サービスの提供がされ始めたのが2019年末となる。

Revolutの日本版は、基本的には英国などですでに提供されているサービスのローカライズにあたるものだが、金融サービスでは国や地域ごとに異なるレギュレーションが存在し、そうした関係官庁の要求や指導に応じた対応が必要になる。そのため、いきなり海外で提供されているすべてのサービスを日本へ同時に持ってくることは難しく、必然的に優先順位を考えながら順次対応を進めていくことになる。

このとき、参考となるのがベータユーザーからのフィードバックで、現在行なわれているベータテストはそうした準備期間におけるサービス提供者にとっての貴重な情報源となる。このようにベータテストでまず市場参入し、後に本サービスへと移行していくスタイルは英国外の他の国でも導入されており、日本もまたその過程にあるということだ。今回話をうかがった金氏が同社に参画したのは2020年1月だが、こうしたフィードバックを基に優先順位を決めつつ、製品へと落とし込んでいく作業を関連スタッフとともに進めていくのがその役割となる。

ベータテストは当初ごく一部の関係者を対象にスタートし、後にRevolut日本版のページを通じて登録してきたユーザーの「ウェイティングリスト」の順番に対して招待状を発送する形式で対象範囲を広げている。

ベータテストに招待されたユーザーにはRevolutのロゴの入った物理カードが届けられ、スマートフォンにアプリをインストールすることでサービスの利用が可能になる。現在は数千人規模までベータユーザーは拡大されており、金氏によれば「オフィシャルには2020年の上半期までの提供開始をうたっており、“プロダクトの準備”がこの段階までに終わる」という。

Revolut利用者に送付される物理カード。これは最上位サブスクリプションの「メタル」のカード

気になるのはこの「プロダクトの準備」が何を意味しているかだ。「Revolutでは仮想通貨の対応であったり、18歳以下でも利用可能なジュニアアカウントなども発行していますが、日本で当初提供されるのは『国際送金』『P2P送金』『デビットカード』の“ベーシックな機能”だけになります。『プロダクトの準備』とは、このベーシックな機能の提供において、日本国内のレギュレーションに対応させるため、官庁への報告に求められる形でどのように個人情報を集めていき、さらに対応を進めるために製品にどのように変更を加えていくのか、そういった“差分”を埋める作業が完了した状態を指します。実際、そういったレギュレーションに関するやり取りが一番時間のかかるところで、いわば『ラストワンマイル』にあたる部分です」と金氏は説明する。

この「プロダクトの準備」がイコールで「本リリース」となるかは、まだ分からない状態だという。同時に、「本リリース」のタイミングで「ウェイティングリスト」における“待ち”が解消され、誰でもすぐにサービスできるようになるかも現時点では分からない。

あくまで現状で決定しているのは「ベーシックな機能が日本でレギュレーションに準拠した形で6月中に利用できるようになる」ということであり、これが「プロダクトの準備ができた状態」なのだという。

Revolutが日本で目指すもの

Revolutの特徴の1つに、ユーザーコミュニティを重視するというものがある。「RevRally」の名称で呼ばれる一種のユーザーを集めてのMeet-upだが、こうしたオフラインイベントを通じてRevolutから少し先のロードマップを提示しつつ、ユーザーからの意見を直接吸い上げて製品開発に活かすという試みだ。

IT系のサービスや製品などでは比較的見られる手法だが、従来ながらの金融サービスから考えれば珍しいもので、こうした仕掛けがRevolutの人気の理由の1つかもしれない。日本でも初の公式RevRallyが5月21日に開催されている。昨今の事情を反映してオンライン上でのイベントとなったが、それでも参加ユーザー数は35名、Revolut側の関係者含めて総勢40名規模になったという。

前述のように、機能の逐次投入を行なうにあたってユーザーからのフィードバックは重要な要素だ。だがRevRallyだけでそうした事項が決定されるわけではなく、他のFintech企業がそうであるように実際の製品の使われ方をデータから分析しつつ、市場のサイズやニーズを勘案し、どうやってRevolut自身の成長につなげていくかを総合的に判断していくことになると金氏は述べている。

実際、現状のRevolutが英国などで提供しているサービスは豊富で、例えば1ドル単位での投資が可能な株式売買機能など、同社CEOのNikolay Storonsky氏がCredit Suisseでトレーダーとして活躍していたことを反映したようなものまである。ユーザーからのフィードバックで「お金がなかなか貯まらない」という意見に対し提供されたのが「Vaults(日本語でいう“貯金箱”)」で、例えば3.5ポンドの買い物に対して切り上げる形で4ドルの支払いを発生させ、その差分の0.5ポンドを貯金にまわすという機能だ。

日本版では100円単位の切り上げとなるが、こうしたちょっとしたアイデアを投入する仕組みは「Revolutならでは」と金氏は説明する。

Revolutで提供される機能の数々
Revolutの機能の1つ「Vaults(貯金箱)」

ただ、当初Revolutが日本国内で提供できるサービスは送金を中心とした、あくまで“ベーシック”な機能に留まる。その中でも特に「海外送金」が中心となるが、国境をまたいだ人の行き来が頻繁な欧州などと比較し、多くの日本人にとって海外送金という行為はあまり身近ではない。

フル機能が揃わない状態でどのようにRevolutを日本国内でアピールしていくのだろうか?

「P2Pでの送金やATM経由での引き出しといった機能は、すでにPayPayさんなどが提供していますし、Revolutにしかないバリューを出す必要があります。やはりグローバルな銀行であり、真の意味でどこの国にいても金融サービスが使えるという点が強みになります。『海外送金は日本ではメジャーじゃない』という意見ですが、過去にFacebookが日本にやってきたことを想起します。当時、日本人はオンラインでは実名登録しないから流行らないという話がありましたが、いまでは何千万というユーザーが実名でサービスを利用しています。“ガラパゴス”などといわれますが、なんだかんだで適合していけるのが日本だと思っています。現状でユーザーのBehavior(行動)がついてきていないというだけで、今後日本政府のいう2030年までに6,000万人というインバウンド旅行者の増加が見込まれるなか、海外留学や日本にきて働く外国人、そして海外のクライアントを抱えるフリーランスであったりと、海外送金を活用する場面は自ずと増えてくると思われます」(金氏)

同氏がインバウンドと合わせて挙げるのが、労働者の動態変化だ。現在日本では経営者が50代や60代に到達して引退に差し掛かっており、M&Aを含めて岐路に立っている。外国人経営者に引き継がれるケースもあり、これが欧米などでは実際に起きており、日本もまたそうした流れには逆らえないのではないかというのが同氏の意見だ。

日本で現在海外送金サービスを利用する層の多くは、こうした外国人労働者だと思われるが(実際にNTTドコモが以前に提供していた海外送金サービスは日本にいる外国人労働者向けのものだった)、こうした変化の中で日本人もまた海外送金に触れる機会が増えるのではないかというわけだ。

「こうした時代にはお金のデジタル化や銀行業務の自動化が行なわれていることが重要で、かつ国境を跨いでお金の移動がシームレスになっている必要があります。想像していただければいいと思いますが、例えばインドネシアの天才プログラマーに仕事を依頼したいと考えたとき、口座1つ開くだけで何週間もかかっていては困りものです。こうしたニーズの変化に対応できていなければなりません」(金氏)

ライバルは意識せず

やはりRevolutの強みは、Revolutアカウント同士であればリアルタイム、銀行口座への送金でも翌日または翌々日に低い手数料で届くという海外送金だ。

「例えば米国でローンを組んでおり、海外送金で定期的に支払いを行ないたいときに、日本にいながら支払いが完了できます」と金氏はいう。

Revolutでは「スタンダード」「プレミアム」「メタル」の3ランクの会員制度があり、上位ランクほど両替手数料が免除されたり、ATMの引き出し手数料無料限度額が引き上げられていたりと、ヘビーユーザーほどメリットを享受できる仕組みになっている。もともと創業者がこのビジネスを始めたきっかけが「毎回取引ごとに根拠が不明で高額な為替手数料を取られること」であり、これを有料サブスクリプション形式のサービスにすることで手数料を明瞭会計にすることが狙いのためだ。

そのため、コアユーザーは当初限定されることになるかもしれないが、金氏のいうように日本でも近い将来に海外送金のニーズが高まれば、そのメリットを享受できる層は自ずと広がるだろう。

Revolutにおける3つの会員ランク

「個人的に面白いと思っているのがバーチャルカードの仕組みです。リアルタイムでのカード発行が可能で、毎回番号の変更なので、『Amazonにはこの番号』『楽天にはこの番号』のように振り分けられます。即時の無効化も可能なので、カードをなくした場合もカード会社に連絡する必要はなく、必要に応じて無効化と再発行が一瞬で行なえます。やっていることはKyashさんなんかと同じかもしれませんが、必要に応じて細かくセキュリティを強化していけます」(金氏)

バーチャルカードを使ったセキュリティ機能はスマートフォンアプリを通じてリアルタイム制御できる

このように注目企業として英国や欧州を中心にすでに一定の人気を獲得しているRevolutだが、日本でのプロモーションや競合はどうなのだろうか。

「欧州を発祥にしたグローバルがベースの会社ですので、そこに家族がいる、あるいは留学している人などにはすでに認知してもらっていますので、こうしたユーザーを少しずつ増やしたり、実際に使っているユーザーからの口コミで増やすのが中心になります。PayPayのようにキャンペーンを大々的に打っての資金力勝負は目指していません。Revolutのこれまでの成長は、個々のデマンドを1つ1つ愚直に解決した結果だと思いますので、ユーザー紹介プログラムを経ての“トップアップ”の提供などの“ニンジンを垂らす”仕組みなどはありますが、あくまで機能面での拡充を目指します。もちろん、英国でやっていたような普通口座(Saving Account)での預金利率上昇キャンペーンなども考えられますが、日本ではキャッシュバックによる還元が中心であったりと、あくまで日本の商習慣に合わせた展開が必要になります」(金氏)

ライバルという意味では、欧州発のスタートアップであるドイツのN26や英国のMonzoといった“チャレンジャーバンク”があるが、スマートフォンアプリを組み合わせたオンラインバンキングという類似性でもよく比較される。前述のようにバーチャルカードと物理カードを組み合わせた決済サービスとしては日本ではKyashがおり、送金サービスとしては最大手のPayPalはすでに190カ国でビジネスを展開している。海外送金では、同じく英国発祥のTransferWiseがあり、意外に競合が激しいのが現状だ。だが金氏によれば「他社が何をしているかは知っておくべきだが、あまり気にしていない」という。

「競合の出してくるプレスリリースを見て他社のサービスを研究するよりも、実際にユーザーと向き合った方がインサイトが得られるし、満足度向上につながると考えています。とにかく製品を使ってもらってフィードバックを得て、それを改良に結びつけていくしかないわけで、『Revolutをまずは使ってください』というのがユーザーの方々へのメッセージです」(金氏)

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)