鈴木淳也のPay Attention
第265回
「クレカの上限金利を10%に」トランプ大統領の狙いと影響
2026年1月15日 08:20
米ドナルド・トランプ大統領が1月9日(現地時間)に発表した、クレジットカードの金利(Interest Rate)を1年間限定で10%の上限に抑え込む(Capping)という大統領令を今年2026年1月20日付けで発効するという発言が大きな話題となっている。
トランプ大統領によれば、前任のジョー・バイデン政権時代に20-30%、あるいはそれ以上の水準にまで悪化した金利を、より“手頃な”水準にしようというもの。
これはTruth Socialの同氏のアカウントに投稿された文章であり、これ以上の詳細は不明なのだが、クレジットカードの金利引き下げは、短期的にはこれまで金利として支払っていた金額をそのまま返済に充てることができるため返済スピードがアップするほか、あるいは可処分所得が一時的に増すことでさらなる消費に充てられるという効果が期待できる。
トランプ政権は現在、FRBのジェローム・パウエル議長と政策金利の引き下げを巡って闘争を繰り広げているが、その狙いは低金利による経済への波及効果にあるとみられる。同様に、クレジットカード金利についても引き下げによる経済効果とともに、特に恩恵を受けやすいと“みられる”中産階級以下の層からの支持を集めることが狙いと考えられる。
今回は、このあたりの事情について分析したい。
米国のクレジットカード金利事情
米国におけるクレジットカード金利について、今回のトランプ大統領の発表を受けて公開された米Wall Street Journalの「What 10% Credit-Card Rate Cap Would Mean for Your Wallet」という記事によれば、現状のクレジットカード金利の全米平均は約23%であり、トランプ大統領が示唆した10%とは2倍以上の開きがある。10%という金利を下回ったことは1994年以来なく、もし大統領令が実効するのであれば実質的に約30年ぶりの出来事になる。
記事中では連邦信用組合(Federal Credit Unions)の18%のクレジットカード金利に触れているが、これはあくまで信用組合の間で適用される非営利組織でのレートであり、その性質から金利が低く抑えられていた。
一方で、現状のクレジットカードはクレジットスコアの低い層を対象に最大で36%の設定が行なわれるなど、30%以上の金利が設定されることも珍しくない。米国では各州で金利上限を抑える法律が施行され、歴史的に金利が低く抑えられる傾向があったが、1978年の「Marquette National Bank of Minneapolis v. First of Omaha Service Corp.」と呼ばれる最高裁判決の過程で「金利を規制する法律を他の州に拠点を置く銀行に対して執行することはできない」ということが認められたため、実質的に金利上限のない州(デラウェア州)に拠点を置くことで既存の商業銀行が高金利での貸し出しが可能になり、 前述のような30%を超える金利でのクレジットカードの提供が行なわれるようになった。
金利の全米平均が23%というのも、この過程で低金利の貸出先(高クレジットスコア)と高金利の貸出先(低クレジットスコア)が二極化した結果といえる。
低クレジットスコアを持つ人への与信が高金利となる前提だが、これは貸し倒れリスクが高いことに由来し、あえて高い利息を得ることで貸し倒れ時の損害を吸収する狙いがある。そのため、ここで重要となるのは貸し倒れ率がどの程度になるのかという指標だ。
その目安としては「延滞率(Delinquency Rate)」が用いられ、算定基準としては「○日以上支払いが遅れている(延滞している)ローンの数」を「ローン全体の数」で割った数字をパーセントで表したものだ。延滞期間は銀行など金融機関によって「60日」や「90日」と異なっているが、全商業銀行の平均値はFREDの情報などで参照できる。
また、通常の延滞(30日)から深刻な延滞(90日以上)へと移行した率もNY Fedの情報で参照可能だ。
これら過去5年分のデータをGoogleのGeminiでグラフ化して出力した結果が次だ。
傾向としては、2021年に歴史的にみても低い延滞率を記録して以降、急激に数字が上昇している。これは2021年にコロナ禍によって一時的に消費者の活動が停滞したことに起因するもので、2022年はそれが回復したことによって延滞率もまた上昇したことを意味する。
そのピークは2024年にやってくるが、現在は横ばいあるいは微減の傾向にある。理由としては、2024年にクレジットカードを発行する銀行側が審査基準を厳しくした結果、延滞率を抑え込む方向に作用したことが大きい。また別の視点では、インフレ懸念がやや和らいだこと、そしてトランプ政権の成立で金利引き下げへの期待が高まったことで、今後の金利負担が減るとの考えから(返済を優先するため)延滞率が抑え込まれているという意見もある。
注意点として、これはあくまで全米平均の数値であり、若年層や低所得層で延滞率が高い傾向にあるのは変わりなく、グラフでは見えない二極化が存在することが挙げられる。
クレカの金利上限を低く抑えるとどういうことが起こる?
トランプ大統領が示唆するクレジットカードの金利上限を10%に抑える施策により、全米平均で半分以下、場合によっては3分の1以下まで金利が抑え込まれ、利息の支払い負担は大幅に減少する。
冒頭に挙げたように借り手には大きく2つのメリットがあり、利息負担の減少により借入金の返済スピードが加速すること、もう1つは可処分所得そのものが増えるため購買力が上がる効果がある。前者は利息負担で苦しむ主に中産階級以下の人々の支持率向上につながり、後者の場合は社会全体への経済波及効果が上がるというメリットが考えられる。
問題はデメリットの方だ。
前述のように低クレジットスコアの人々に高金利が設定されるのは、貸し倒れリスクが高いことによる。そのため、直近で起こり得る現象としては低所得層や若年層を中心とした信用スコアの低い層に対してカードの発行を止める、あるいは与信枠を大幅に引き下げることで実質的にクレジットカードの利用が難しくなるという現象だ。いわゆる“貸し渋り”による信用収縮であり、これはかつてクレジットカードの与信枠引き締めにより若年層を中心にBNPL(Buy Now, Pay Later/後払い)など、従来の信用枠に囚われない決済手段の利用へと流れた経緯の再現となる。
ただ、こうした状況を鑑みて米消費者金融保護局(CFPB)が規制に乗り出すなど、新たなデフォルト危機の拡大の歯止めへと向かった経緯もあり、必ずしも「クレジットカードからBNPLへ」という流れが起きるわけではないと思われる。むしろ、BNPLではない法律の埒外にある闇金的なサービスを助長する可能性さえある。
そして、貸し渋り以上に影響が考慮されるのが付帯サービスの廃止や縮小、銀行のクレジットカードによる収益源減少で他の収益手段を模索する動きだ。
もともとクレジットカード利用による各種の付帯特典やポイント還元は、そこで得られる収入を当てにしたものだが、上限金利の抑え込みにより収益源が絶たれるのであれば、これらも削減または廃止せざるを得ない。同様に、クレジットカードのシステムを維持するためにカード年会費の値上げや決済における各種事務手数料の追加徴収などに向かう可能性が高く、クレジットカード自体の魅力が減少してしまい、結果としてカード決済の取扱高が減り、米国の経済消費やGDPの減少へと繋がるリスクがある。
日本でもクレジットカードの決済手数料(主にインターチェンジフィー)を低く抑えよ、という議論が存在するが、似たようなリスクが存在することは理解しておくべきだと考える。
米ニューヨーク市で1月12日(現地時間)にNRF '26のRetail's Big Showで開催されていた「Perspectives on the U.S. economy and consumer」という報道関係者向けのセッションにおいて、専門家らが同件について見解を述べている。
NRF(全米小売業協会)チーフエコノミストのMark Mathews氏を司会に、Oxford Economics米国チーフエコノミストのMichael Pearce氏とBank of America InstituteシニアエコノミストのDavid Tinsley氏らが対談形式で記者らの質問に答える形で進められた討論会だが、Tinseley氏は米国において家賃上限を定めて一定以上の値上げを許容しない「Rent Control」の仕組みにトランプ大統領の施策を例え、「価格を無理に抑えることで供給が劇的に減少する」という、借り手側の立場に立った施策が逆に借り手を苦しめるという現象に近いと述べていた。また10%の金利上限が設定された場合、米国の顧客の約2割がクレジットカードの新規発行を拒否される可能性があるというデータも提示されている。
もう1つ、この討論で触れられた興味深い話題が「公式統計には(直接)表れない実態」だ。例えば、消費者のローン金額は過去最高値に達している一方で、債務返済比率は前述のように比較的健全な水準で推移している。
これは、高所得層が全体のデータを引き上げている結果であり、給料日前に預金残高がほぼゼロになるという割合が4分の1ほど存在するという低所得層の実態を反映していないという指摘だ。また、仕事そのものは存在しているものの新規の仕事は見つけにくいという雇用統計上の数字には表れにくい失業率の存在にも触れており(米国ではパートタイマーが複数の仕事を掛け持ちする行為はごく当たり前)、これが将来的な延滞率上昇のリスク要因として燻っている点にも触れている。
実現の可能性と現時点での影響
トランプ大統領の発表を受け、クレジットカードを発行するCapital OneやAmerican Expressなど、主に銀行関連の株価は1月11日月曜日の株式市場オープンを受けて大幅に下落している(米国では主に銀行がクレジットカードを発行している)。
クレジットカードの信用収縮が起こればBNPLへと顧客が流れるのではないかという分析があったが、Affirmといった同業種の株価も同様に下落している。「Pay in 4」のような利息がかからない支払い手段ならばともかく、一般にBNPLで中長期で返済プランを組んだ場合の金利はクレジットカードよりも高く、また貸し倒れリスクの高い顧客がBNPLへと集中することでビジネス構造そのものが変化して「総取り」のような現象が起きにくいため、リスクそのものはクレジットカードと一蓮托生という認識が市場ではなされているようだ。
そして、いま議論されているのはトランプ大統領による「大統領令(Executive Order)の“実現性”」についてだ。前述のように、クレジットカードの金利設定は最高裁判決などの過去の結果を踏まえて成立してきたものだ。そのため、大統領令であっても金利上限の設定には立法が不可欠であり、与党である共和党内での議論や米連邦議会での抵抗など、立法そのものに対するハードルがあるという指摘もある。
また実際の大統領令の効果について、1年間限定の施策がどの程度の効果をもたらし、デメリットを上回るのかという議論もあり、トランプ大統領自身が詳細を語っていない以上、判断しかねるというものだ。もともとクレジットカード金利の上限設定については過去にも議会への関連法案が提出されてきたという背景もあり、それが実際に効力を及ぼさなかったことは、それだけ議論の余地があるテーマであることが分かる。
人気取りのためのポピュリズム政策であるかという点も合わせ、大統領が世界最大の経済規模を持つ国の金融事情に積極介入する事態にどう影響を及ぼすのか、試金石的な意味でも興味深い話題だと考える。








