鈴木淳也のPay Attention

第190回

Z世代を取り巻くクレカと「あと払い」事情

米ニューヨーク市のウォール街にあるFederal Hall National Memorial。建物は19世紀に税関として建てられたもので、現在は国定記念館として著名な観光スポットになっている

8月22日(米国時間)、米ABC Newsは「Generation Z sees biggest increase in credit card debt, Gen X has highest balance: Report」というニュースを報じた。「Z世代(Generation Z)」には複数の定義があるが、主に1990年代後半から2010年代早期の生まれに当てはまる世代のこと。その1つ上にあたる1980年代から1990年代前半に生まれた世代が「Millennials(ミレニアル世代)」と呼ばれ、さらにその上にあたる1960年代後半から1970年代生まれの世代が「Generation X(X世代)」と呼ばれていたりする。ABCの記事のタイトルを翻訳すると、つまり「レポートによれば、Z世代はクレジットカード残債の増加率がもっとも高く、一方でX世代の残債の額が最も大きい」ということになる。

この情報をさらにかみ砕いていくと、信用が“弱く”クレジットスコアも低いZ世代においてクレジットカードの支払残高の増加が顕著だが、実際の金額ではその親にあたるX世代の額が上回っている。X世代は働き盛りで稼ぐ力が最も高い世代であり、それだけ購買余力があり、実際に(借金の形で)さまざまな商品やサービスを購入していることを意味する。

なぜZ世代の残債が増加したのかといえば、もともと若年層ほど交際や新しいものへの興味など支出に対する意欲が高く、これが金額の押し上げ要因となっている。また昨今米国で顕著な「支出を上回るインフレ率」や「賃金増加率の停滞」からくる経済事情が消費金額の増加や残債の増加に影響を与えており、Z世代のような若年層の消費行動について今回のような傾向を示すことになった。

X世代や、そのさらに上のベビーブーマー(団塊)世代はさらに残債が大きいわけだが、Z世代より上の世代は、住宅ローンなどより金額を必要とする借入金が項目として出現するため、単純な金額比較では上の世代ほど残債が大きくなるようだ。

またクレジットカードで重要となる返済の「延滞率(Credit Card Delinquency Rates)」についてもABCでは触れている。ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)が8月に掲出した資料によれば、コロナ禍では「Extraordinarily Low(極めて低い)」とされていた延滞率が、行動制限が完全撤廃されて活動が戻ってきた2023年第2四半期には急増している。

延滞率が減少したということは、つまりコロナ禍では返済を最優先する行動を採っていたものの、経済再開に合わせて元の水準に戻りつつあることを意味する。残債の返済が最も進んだのが団塊の世代とX世代であり、逆にミレニアル世代とZ世代ではコロナ禍において残債が大幅に増加したとLendingTreeは報告している。

上昇率はそれぞれ26.2%と174%で、おそらくはただでさえ少ない与信枠をギリギリまで使うような利用者が少なからず存在することを意味している。MarketWatchのレポートのように、Z世代のクレジットスコアは過去に前世代が同じ年齢だったころのものと比較しても良好で、消費や借金に対して(現在のZ世代は)より楽観的だという見方を紹介しているケースがあるものの、さまざまな要因がZ世代などの若年層の借入金を大幅に増加させているというのが近年の傾向だ。

30日以上のクレジットカード延滞率(出典:ニューヨーク連邦準備銀行)
90日以上のクレジットカード延滞率(出典:ニューヨーク連邦準備銀行)

クレジットカード利用の行き詰まりとともに注目を集めたBNPL

以上を踏まえたうえで、いまZ世代ら若年層の間でどのような決済事情が起きているのかを見ていきたい。

コロナ禍で若年層の残債が増加したという話があったが、これに呼応する形で急速に成長したのが「BNPL(Buy Now, Pay Later)」というサービスだ。いわゆる「あと払い」で、詳細は以前の「いま決済業界で最もホットな『BNPL』最新事情」というレポートを参照いただければ幸いだが、消費意欲はあるにもかかわらず信用の低さから与信枠が充分に与えられないという若年層に対し、より柔軟かつ「新たな与信枠を与える」選択肢としてのBNPLに注目が集まった。

BNPLで最も一般的なのは「Pay in 4」という仕組みで、これは購入時に総支払額の4分の1を頭金として支払えば、以後は2週間おきに4分の1ずつ返済を行なうことで手数料や利息なしで支払いを完了できるというもの。

日本のアルバイトやサラリーマンの報酬が月払いなのに対し、米国をはじめとする諸外国では2週間単位あるいは週払いとなっていることを反映したもので、その場で欲しいものがあったとして、持ち合わせがなかったとしても8週間あれば給与や金策で必要な支払いを完了できる見込みさえあれば、購入の後押しになる。

もちろん延滞すれば余分に利息を払う必要があるわけで、BNPLを提供しているベンダーはこうした延滞手数料のほか、加盟店に対して通常のクレジットカード決済よりも高い手数料を請求することでビジネスを成立させている。

先日、ネットプロテクションズにおいてBNPLの最新事情に関するセミナーが開催され、Boku Network Servicesの依田寛史氏による解説が行なわれたので、その資料を紹介しておきたい。

世界のBNPL事情(出典:ネットプロテクションズ)

前述のように、欧米などでは与信枠が低いながらもクレジットカードを使う層がそれなりにおり、BNPLの使い方もまたその延長にある。

ただ、BNPLの利用が加速した理由の1つに、クレジットカードの与信枠がクレジットスコアなどに基づいて厳密に規定されるのに対し、現時点で米国においてはBNPLの与信方法について明確に規定するルールや法案は存在していない。そのため、実際の返済能力を超えて与信枠が与えられているのではという指摘が以前より行なわれている。

特に、BNPLはサービス提供にあたって信用調査機関のようなところを経由しないため、信用情報がベンダー間で共有されていないという問題があった。これは一昨年末の段階で米国でBNPLサービスを展開する主要5社に対して米消費者金融保護局(CFPB)が調査に入り、ルールを策定すべきとの報告を行なっている。つまり、野放図な貸出先としてのBNPLの“口”は実質上塞がれた形となり、純粋にそれ以外の部分でビジネスモデル上の優位性を示す必要が出てきた。

BNPLならではの特徴として、特に「オンラインコマース」との相性がいいことが知られている。クレジットカードは番号入力の手間に加え、情報流出リスクと隣り合わせである一方で、BNPLはアカウントでログインしたり、アプリを経由してショッピングを行なうだけなので、商品の検索から購入までの導線がスムーズに提供できるからだ。また実際の買い物履歴や支払い管理もアプリ上でそのまま行なえるため、この点がスマートフォン利用に慣れたZ世代に向いているという理由もある。

BNPLの特徴やメリット(出典:ネットプロテクションズ)

ここまでが欧米豪、特に米国においてZ世代を中心とした若年層で起きてきたクレジットカードなどの「あと払い」に関する事情だが、日本ではどうだろうか?

シンプルにいえば、日本での「あと払い」事情は諸外国とはまったく異なっており、ある意味で独自の道を歩んでいる。日本ではデビットカードの普及率が低いものの、代わりにクレジットカードがほぼ同等の使い方ができることもあり、各種調査でも20代でも8割近いクレジットカードカード保有率であることが分かっている。与信枠(ショッピング枠)も諸外国と比べて高めになると筆者は考えており、使い勝手の面でも「新たな与信枠がほしい」という理由で諸外国がBNPLに飛びついたような動きは少ないだろう。

一方で、日本にはクレジットカードやデビットカードではないさまざまな決済手段が存在しており、これらを使いたいというニーズが存在する。例えば女性層などを中心に「使いすぎが怖い」という理由で、コンビニでの請求書払いを積極的に利用する人々がいる。オンラインコマースなので本来はクレジットカードなどを使う場面なのだろうが、これを後から届く請求書を使ってコンビニで支払うのだ。請求書到着から1-2週間以内に支払えばいいということで、支払うタイミングをある程度自分で調整できるのも選択の理由のようだ。

他ならぬネットプロテクションズ自身が「NP後払い」という名称で同分野の草分けになったこともあり、後にさまざまなフォロワーが出現した。こうした請求書払いの仕組みもまた「BNPL」で括られることがあり、請求書払いは日本版BNPLといえるだろう。

ただ請求書払いにはいくつかのデメリットがある。利用傾向の話ではあるが、NP後払いの場合は購入単価が数千円程度の場合が多く、あまり高額商品には利用されにくい。またコンビニで支払う請求書払いの性質として、レジでの支払いが完了するタイミングまで代金を回収できない。クレジットカードの場合はその場で決済が走るので問題ないが、こうした回収不能のリスクや再度の請求書送付にかかるコストがかかりやすい。このあたりはネットプロテクションズなどの決済代行業者がコントロールすることでうまく問題を吸収する形となるが、この方式特有の問題といえる。

同様に、商品配送と同時に料金を回収する代引きについてもリスクがあることが知られている。広く利用されている仕組みではあるものの、それぞれに何らかの課題を抱えているのが実情だ。

またアプリを使用するBNPLに比べて、支払い状況が把握しにくいという問題もある。それゆえかは分からないが、日本版BNPLについても、アプリを活用した新しいタイプの「あと払い」サービスが徐々に登場してきている。PayPal傘下になったPaidyやネットプロテクションズのatoneをはじめ、アプリを使った支払い管理の利便性やユーザーインターフェイスを特徴とする第2世代ともいうべきBNPLが主流になりつつあるように見える。

日本国内でリリースされたBNPLサービスの年代順一覧(出典:ネットプロテクションズ)

Z世代が推し上げるクレカ利用

日本でもキャッシュレス決済が話題になる機会が最近になり増えてきたが、電子マネーやコード決済がどれだけ加盟店を増やしても、国内ではなおクレジットカードがキャッシュレス決済の中心にいる。キャッシュレス決済金額全体に占めるクレジットカードの割合は微減が続くものの、2022年時点で84.5%であり、支払い単価が全体に高いという理由からも、決済回数では他の手段が肉薄していても、金額全体では大きく引き離している。

年代別の利用動向ではさまざまな調査報告が出されているが、業界共通の認識としては、こうしたキャッシュレス決済を主に利用するのは30-50代の層で、それより上や下、つまり高齢者や若年層での比率が低いとされている。冒頭の米国における年代別の残債傾向に近いものがあるが、高齢者ほどお金を持っているものの、消費意欲そのものは若年層の方が高いため、今後キャッシュレス決済を普及させ、さらに利用を促進するにはこうした層へのプロモーションが欠かせないとの考えだ。欧米豪におけるそのトリガーはBNPLが一部を担っていたが、日本においてはやはり「クレジットカード」がその鍵を握っているのではないかと筆者は考えている。

BNPLはオンラインコマースとの相性がいいのは確かだが、さまざまな場面での決済を考えたときにクレジットカードの汎用性に勝るものはない。オンラインとオフラインを含むさまざまな支払いの場面でクレジットカード番号の入力を要求されるものの、クレジットカードやデビットカードには作成に年齢制限があり、そうしたユーザーを対象にバンドルカードなどのプリペイド方式のカードが人気を博していたりする。一方で、今回のテーマとなっているZ世代はクレジットカードを所持できる18歳以上を指しており、こういった層にどのようにカード会社がアプローチしていくかが課題となる。

ここでZ世代を中心とした若年層に比較的人気のあるサービスとして「メルカード」と「ナッジ」を挙げておきたい。

メルカードはZ世代よりはややコア年齢層が高いと想像するが、基本的にはメルカリを利用するユーザーがその中心であり、他のクレジットカードに比べて若年層や女性層の比率が高い。このメルカードの特徴としてメルペイ執行役員CPOの成澤真由美氏が挙げているのが「無駄を削ぎ落とした機能性重視の設計」「24時間365日いつでも返済が可能な利便性」の2つだ。前者はスマートフォンアプリに特化したユーザーインターフェイスになっており、アプリに慣れた層との親和性が高い。また引き落とし日時が固定されない「いつでも返済可能なシステム」も非常に人気が高く、例えば一般的な給料日である毎月25日より前にほとんどのユーザーで返済が完了しているケースが見られるという。

同じような特徴を持つのが、ナッジだ。

ナッジの商品説明Webサイト

買い物履歴を含む残債管理はすべてアプリ上から参照が可能で、買い物後すぐに通知がやってくる。メルカード同様に即時返済システムのほか、SMSとの連動で3Dセキュア 2.0(EMV 3Dセキュア)のトークン入力にも対応など、クレジットカードとして必要十分な機能を備えており、ナッジ代表取締役の沖田貴史氏によれば「Z世代のユーザー数は半数以上(50%以上)」ということで、このユーザー層の比率が大きな特徴となっている。

いちど利用を開始したユーザーのリテンション率も非常に高く、ヘビーユーザーになる傾向があるという。「なぜ若者にそんなに受けるのか? カードを利用するモチベーションはどこにあるのか?」という疑問を同氏にぶつけたところ、スマートフォンアプリに特化した使い勝手の良さと、ユーザーの意見を積極的に取り入れてサービスを作っていく工夫にあるという。

日本のキャッシュレス決済における普及のドライバーの1つは、「高還元」の部分にある。利息なしでカードが毎月利用でき、しかも利用すれば利用するほどポイントが貯まる。楽天がポイントプログラムで経済圏を大きく躍進したように、またPayPayが還元がある世界を当たり前にしたように、ほぼお約束のものとなっている。実際、前述のメルカードも「メルカリのサービスを使えば使うほどお得」という性格は持ち合わせており、この基本線に沿っている。

だがナッジの場合はこうしたバックグラウンドになるようなサービスやポイント還元もなく、多くの同業他社が欲しがっている若年層に上手くリーチできている。その秘密の1つが「推しを応援する」という仕組みにある。直接的なメリットを受けずとも、カードを使ったぶんの還元が自身ではなく応援するアーティストやスポーツチームに還元され、それに参加することがモチベーションになっている。同社はこうした形で定期的に提携先を増やしており、2022年10月時点で100の提携クラブが存在するということで、こうしたフットワークの軽さもあるのだろう。

一種の「推し活」がカード利用のモチベーションの1つに

また、商品設計やプロモーションも含め、Z世代に近いスタッフやユーザーを積極活用しており、おそらく既存の金融業界にいる経営層からは認識が難しいアーティストやインフルエンサーに接触できている。結果として、他世代と比較して低いといわれるクレジットカード利用の増加につなげているわけで、単純に「お得」だけではない“勘所”をつかむことが、ユーザー層の拡大、ひいては次のメインの消費世代であるZ世代やその次の世代にリーチするためのポイントになるのかもしれない。

ナッジ代表取締役の沖田貴史氏

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)