西田宗千佳のイマトミライ

第107回

Windows 11とiPadOS 15、ベータ版から見るOS進化

Windows 11 Insider Preview版の画面

6月末、OSプラットフォーマーから相次いで、新OSのベータ版が公開になった。

一つは、マイクロソフトの「Windows 11」。日本では6月28日夜くらいから提供が始まっている。

Windows 11 Insider Previewがついに公開

もう一つはアップルの「iOS 15」と「iPadOS 15」。日本時間では7月1日深夜頃からの提供開始された

iOS 15/iPad OS 15がパブリックベータでリリース

iPadOS 15 パブリックベータ版の画面

今回はベータ版から見える方向性の違いについて、主にWindows 11とiPadOS 15を比較しつつ、考えてみたい。

どちらも開発途上版であり、実装されていない機能もあるほか、不具合も存在する。なので、一般に広く利用を勧めるものではない。開発者を中心に、新しい機能を確かめたい人が導入する性質のものだ。本記事はまさに、秋の正式公開に向けて「どうなるのか」を判断したい人のために用意しているものだ。

なお、iPadOSはベータ版について、画像などの一般公開は利用許諾上認められていない。今回の記事制作にあたっては、報道向けに特別な許可を得た上で、パブリックベータ版のスクリーンショットを掲載している。

Windows 11のUIは「Fluent」で刷新。タッチ向けの改善も

Windows 11は久々に「数字が変わる大きなアップデート」なのだが、実のところ、動作環境が整ってさえいれば、Windows 10からの移行で大きな戸惑いやトラブルはなかったように思う。

「数字を変えるほどじゃないんじゃないの」という穿った見方もあるだろうが、逆に言えば、「ハードウェアが対応している状況で、OSのアップデートによって致命的なトラブルが起きる」ようなことは、もはやユーザーにとっても許容しうるものではない。リスクはゼロにはなっていないが、過去に比べればスムーズな移行が心がけられている……というのは間違いなさそうだ。

この辺はiPadOSも同様で、今時のOSアップデートの特徴かと思う。むしろ、「動作上深刻な状態が起きそうな場合には、インストールさせない」方向なんではないか、と思う。

とはいえ、UIなどに変化が起きている以上、アプリの動作はアップデート前と全く同じ、とは行かない。場合によっては「その人にとって重要なアプリが動かなくなる」可能性があるわけで、課題はそちらの方だろう。今回、Windows 11にしてもiPadOS 15にしても、若干表示に乱れが出るアプリはあった。

インストールしてみると、なんとなくだが、Windows 11がアップルの方に近寄ってきている印象を感じる。といっても、Windows 11のデザインで採用されている「Fluent Design System」は、アップルのデザイン言語とは違った「透過」「動き」をかなり使ったものなので、似て感じるのは「ウインドウの角が丸くなった」ことから来る部分が大きい、とも感じる。

Windows 11のエクスプローラー。ウインドウの角が丸くなっている点に注目
Windows 11の画面を別のテーマで。ウインドウの透過性や色合いが細かく変化している点に注目
Windows 11の「設定」。こちらは構成を含めたUIが大きく変わった部分だ

Fluent Design Systemが発表されたのは2017年のこと。別にWindows専用のUXフレームワークではない。マイクロソフトはウェブからスマホ用アプリに至るまで、広く活用するものと位置付けている。Office365での利用が中心だが、その後Windows 10のアップデートのたびにじわじわと適用範囲も拡大され、Windows 11では一気に全面的にデザインが刷新された。

Windows 11のUIは、マウスとタッチでは微妙に変化がある。Windows 10まで、タッチは「タッチ専用UI」として大きく変わる印象があり、タッチ専用にしないと指ではちょっと使いづらい部分もあった。ただ、Windows 11では改善が進み、「タッチ操作の時だけ出てくるUI」が増えた。

例えばウインドウを指で動かす場合、マウスでドラッグする時は今まで通りだが、タッチの時には画面のように領域が少し広がる。そのせいか、指での操作がより気楽になった感触は受ける。

タッチでウインドウを動かした時の画面。ウインドウの周りに「タッチで操作しやすく広げる」領域が出ていることに注目。ウインドウ操作を止めると自然に消える

むしろ個人的にうれしかったのは、タブレットを縦に持った時、並べて使っていたアプリが「縦に画面分割した形」に自動的に変わることだ。以前は画面分割が解除され、並べ替えが必要になった。

Windows 11の入ったタブレットで画面を回転。ウインドウが並んで分割されたまま「縦横だけが切り替わる」ようになった点に注目

また、この上下分割は、iPadOSが対応していない使い方でもある。縦方向に長い画面を活かすにはこうした使い方が望ましく、この対処は好ましい。

新OSが登場するには理由がある。それはセキュリティだったり新ハードウェア対応だったりと、「現状に合わせて必要となるアップデート」をするためだったりする。Windows 11もiPadOS 15もそこは同じで、比較的新しいハードウェアであることが、OSの価値を生かすために必要なことではある。

このところ、Windowsは「タッチやペンで使う」部分の改善を緩やかなものにとどめていたようにも感じる。だが、Windows 11は、見た目こそタッチなしのPCとの間で大きく変えはしないのだが、「タッチでも同じように快適に操作できる」ことを考えたUIの改善が増えている。

これは望ましい方向性であり、Windowsタブレットにとってはプラスの進化である。

オンデバイスAIで進化するiPadOS 15

iPadOSについては、iOSも含めてだが、ウィジェットとの導入も含め、昨年以降、Androidの機能的な美点を取り入れるような方向性だという印象はある。14と15ではウィジェットの扱いを含め、ホーム画面の扱いがけっこう変わったものの、見た目ほど使い勝手に変化はない。

iOSは「14」からアプリを画面から隠す「Appライブラリ」という機能が搭載され、ホーム画面を整理しやすくなった。Androidと同じやり方、と言ってもいいのだが。iPadOS 14にはなぜかこの機能がなかったのだが、iPadOS 15からはiOS 14に準拠する形でAppライブラリが搭載された。これは「ようやく」という気もする。

iPadOSにもようやく、iOSと同じ「Appライブラリ」が搭載になる

個人的には、ペン入力の「スクリブル」が日本語対応したこと、オンデバイスAIによる「画像内文字認識」に対応したことがうれしい。

スクリブルはiPadOS 14から搭載された機能だが、日本語に対応しておらず、日本ではあまり使い道がなかった。日本語対応したので、検索キーワードやちょっとした書き込みならペンでも大丈夫になった。タイプとペンの両方が使えることは、やっぱりタブレットとして「あるべき姿」だと思う。

ペン入力の「スクリブル」は日本語に対応。これでApple Pencilの使い道も広がる

画像からの文字認識は、かなり自然だ。写真でも画像でもいいのだが、「写真」ライブラリに登録しておくと、自動的にその画像ファイルの中に文字が含まれていた場合、その領域が認識される。文字列を選択するときと同じように指で「選択したい文字が写っている場所」をなぞると、そのまま選択される。

写真の中の文字を認識し、そこからウェブ検索。こうした使い方を「画像の中の文字をなぞって選択する」ことで行なえる

これはちょっと驚きだ。そこからコピペすると内容は「文字列」になるので、文書やメールなどで使うのも簡単になる。検索や翻訳にも使える。文字がたくさんある画像の場合、右下端に認識用アイコンが出るので、それを押すだけでもいい。すると画面中すべての文字が認識・選択された状態になる。

文字がたくさん含まれる画像(プレゼンの画像など)は、一気に全体を認識し、文字をコピーすることもできる

こうした機能はAndroidの場合、「Googleレンズ」として以前から搭載されていた。だから別に認識自体は珍しくない。

Androidでの例。Google Photoに保存した写真を「Googleレンズ」で認識し、画像からテキストのコピーなどが行なえる

ただ、Googleレンズはクラウドで処理されるため、ネットワークがつながっていないと認識作業が行なえない。また、「Googleレンズボタン」や「テキスト認識」ボタンを押して認識するのは、作業自体は楽なのだが、「画像内の文字を選択するとテキストになって認識される」というUIに比べると直感的ではない、というか面白さ・分かりやすさには欠ける。

アップルは「すべてオンデバイス処理で、ネットワークが切れていても認識できる」「操作が直感的である」という2点で、Googleレンズよりも優れている。

ただ、残念ながら現状、アップルの画像内文字認識は日本語に対応していない。ここはGoogleの方が勝っている。まあ、スクリブル同様、日本語対応が遅れるのは日本人として微妙な気分ではある。こちらも来年までに対応してくれれば良しとしておこう。画像認識の場合、URLや数字など、日本語非対応でも役に立つ場面は多いのが救いだ。

こうした「オンデバイスAIへの、OSでの対応」が多いのが、今のアップルの特徴とも言える。ハードウェア自体の差別化要因としてAIを使う部分が増えているためだろう。ここは、自社ハードだけにOSを展開しているわけではない、マイクロソフトとの違いと言える。

逆に言えば、今後のSurfaceで「OSには存在しないがSurfaceのために実装した独自機能」をマイクロソフトが出してくるようなことがあれば面白いな、と思う。実際、PCメーカーは色々と細かい付加価値で差別化するようになっている。それをマイクロソフトがやっても、何も悪いことはないと思うのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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