小寺信良のくらしDX
第33回
オンラインカジノの違法が明文化 その影響と効力は?
2025年10月28日 08:20
今年6月に、「ギャンブル等依存症対策基本法」が改正され、オンラインカジノが違法ギャンブルであるということが明文化された。同法は今年9月25日から施行されている。これを機会に、もう一度オンラインカジノへの対応状況を整理してみたい。
これまでオンラインカジノは、刑法の「賭博罪」や「常習賭博罪」、「賭博場開帳等図利罪」に該当するとして取締りの対象にはなっていたが、ギャンブル等依存症対策基本法は「オンラインカジノ」というワードを法文の中に入れ込んだ、最初の法律となる。
他の省庁でも、オンラインカジノは喫緊の課題として所管する法律の改正を検討しているが、ギャンブル等依存症対策基本法は「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」に基づいた法律で、計画は元々3年に1度見直すことになっている。今年はその3年目にあたり、以前から改正の準備がされていたということだろう。オンラインカジノに関する法改正では一番乗りとなった。
この法律で新たに禁止されたのは、以下の行為である。
- オンラインカジノサイトの開設・運営
- オンラインカジノアプリのアプリストアへの掲載
- SNSなどを通じてオンラインカジノを広める行為
- オンラインカジノを紹介するサイトの開設・運営
加えて、国や地方公共団体には、家庭・学校・職場・地域などで、オンラインカジノが禁止されていることに周知や徹底を図る措置を講ずることが義務づけられた。
ただこの法律は、あくまでもギャンブルの枠組みを規定するもので、罰則規定はない。つまり「禁止になりました」とは言うが、処罰としてはこれまで同様に、刑法の「賭博罪」や「常習賭博罪」、「賭博場開帳等図利罪」にどうにか当てはめていくということになる。具体的には、違法の賭博をしたもの、違法賭博を常習的に行なっているもの、賭博場を開いたもの、が検挙対象となる。
微妙なのは、宣伝や紹介サイト開設、あるいは決済を手伝うといった行為だ。これは賭博幇助という格好になる。
政府広報オンラインの記事によれば、「令和5年(2023年)には、オンラインカジノの利用者や決済に関わった者、オンラインカジノを広告・宣伝した者など、107人が検挙されています。」という記述があるが、検挙はされたものの、起訴はされていないのではないか。ネットで該当する報道がないか調べてみたが、見つからなかった。つまり、オンラインカジノの宣伝や決済の幇助は、現時点では起訴に至る要件が満たせないのではないかと思われる。
依存症対策基本法で何ができるのか
9月から施行開始された依存症対策基本法に関しては、テレビニュースではデイリーニュースの一環として多少報道されたものの、ネットに関係する法改正にもかかわらず、ネットニュース系ではほとんど話題になっていない。そもそもこの法律によって、どういったことが変わり、何ができるのか判然としないことから、あまりニュースバリューが感じられないのかもしれない。
少なくともこの法により、国および地方公共団体は、オンラインカジノの禁止化を周知・啓蒙しなければならない。一部の公共団体では、公式サイトに改正内容を掲載しているところもあるが、もちろんそれだけでは十分ではない。
青少年教育にも関わることなので、各地の教育委員会がリーフレットなどを作成して子供たちに配布してもよさそうな話だ。実際に9月16日には、文科省から各関係団体に対して、「オンラインカジノに関する広報啓発資料の活用・周知について」という事務連絡が通達されているようだが、筆者の子供が通う高校からはまだ音沙汰がない。
実際の啓蒙は、2パターンがある。一つは、オンラインカジノ自体で遊ぶことが違法であるということ。これに関しては、今年4月頃から芸能人やスポーツ選手が起訴されたりしているので、ある程度の年齢層には周知された可能性はある。だが子供たちがどれぐらい芸能ニュースを見ているのか、あるいは見て理解できたかは未知数であるため、ここはしっかり学校でも取り組んで欲しいところである。
もう一つは、いわゆる広告宣伝、紹介、誘導に加担することの違法化である。自分ではカジノで遊ばなくても、お金をあげるから宣伝してなどと言われてSNS等で気軽に投稿してしまうといったことは、考えられる。刑事罰がついてこないので抑止力がないと考えるのは大人だけであり、子供たちに対しては、違法化されたことだけで十分抑止力になる。
他の法律はどう関係するか
オンラインカジノへのアクセスを阻止するためには、消費者への教育・啓蒙以外にも複数の手段が考えられる。まずは広告宣伝に対する抑制だ。
こうした広告宣伝、紹介、誘導に関する刑罰は、景品表示法などによってもカバーできる可能性はある。だがこの法律はそもそもが合法的な正規のビジネスの上での表示に関わるもので、そもそも違法行為であるオンラインカジノの広告宣伝は法の射程範囲を超えるという見方が優勢である。現在景品表示法を所管する消費者庁で改正の動きがないのは、そもそもが違法行為であることの広告宣伝は関係ないという立場だからだろう。
とはいえ、違法になったことには違いないことから、広告宣伝が投稿されるプラットフォーム、例えばSNSや動画共有サイトの運営者に、それを見つけた利用者が違法コンテンツであることを通報し、企業コンプライアンスの視点から掲載停止や削除、アカウント停止などの措置を求めることは可能だ。ただ、それを実施するかどうかは運営者次第ということになる。広告・宣伝を掲載したプラットフォームも同様に違法であるとまでは、基本法は規定していない。
他には、違法サービスに対しては決済できないようにするという方法も考えられる。金融庁では、各銀行に対して、オンラインカジノ決済を停止するよう要請している。ただ、間に決済代行業者が入ってしまうと、それが法の穴になってしまっている現状から、法改正の議論が進められている。
さらに、オンラインカジノへアクセスできないよう、ネット上の仕組みでどうにかできないかということが、総務省で話し合われている。オンラインカジノだとは謳っていない、オンラインゲームサイトに偽装して騙す気満々のサイトに対しては、啓蒙だけではカバーできないこともあり、アクセス制限は1つの考え方ではある。
一時期はブロッキングの対象にしたらどうかという話もあったが、すでに回避策が出回ってしまっていることや、通信の秘密を侵害する可能性があるため、プロバイダをはじめとする通信事業者がやりたがらないという現状もあり、現実的には難しいという方向になっている。
フィルタリングは、インターネット環境整備法により、18歳未満の青少年はオンラインカジノへのアクセスは遮断されるが、それ以上の年齢の人に対してはカバーされない。自分から制限したい大人はいないということが課題だ。個人的には、利用率が高いウイルス対策ツールや、ブラウザエンジン、あるいはOSそのものに違法サイトや違法サービスへのアクセスを制限する機能の搭載を検討すべきとも考えている。
すでに改正基本法が施行されて1カ月が経過するところだが、これを機会にオンラインカジノの違法化について、家族で確認しておくというのも悪くないのではないかと思う。

