小寺信良のくらしDX
第26回
子供とネットの関係に新しい問題を投げかける「オンラインカジノ」
2025年4月29日 09:15
子供とネットの関係では、ガラケー時代からスマホ時代に至るまで、ネット依存や高額ゲーム課金、ネットいじめなど様々な問題が発生している。その対策に関して多くの議論があり、関連法の立法やガイドライン整備、業界団体設立、教育啓蒙事業などが行なわれてきた。
関連法としては青少年インターネット環境整備法があるが、この法ができるまで学校側は、子供のネット利用は家庭の問題であり、新しい問題を学校に持ち込むなという立場であった。しかし文科省がこの立法を受けて学校でも啓蒙するよう依頼したことで、学校教育でもネットリテラシー教育に取り組むよう転換し、現在に至っている。
子供のネット利用の問題対策は、健全なサービスに対する過剰な利用の抑制と、違法有害情報へのアクセス制御の2つの軸で行なわれている。前者はおもにペアレンタルコントロールで、後者はおもにフィルタリングでカバーしている。それに学校教育が加わって、子供たち自身へのリテラシー教育により、成長を促しているというのが現状である。
オンラインカジノ問題とはなにか
ここ数年は、全国を巻き込むような大きな問題は発生していないところだが、時代が進めば問題の質も変わる。
もしかしたら注目しておくべきなのが、オンラインカジノの問題だ。今年2月にも芸人・芸能人・スポーツ選手ら著名人が事情聴取を受け、メディアでも大きく取り上げられたことで、初めてオンラインカジノなるものがあることを知った人も多いだろう。また広告を目にしてはいたが、違法とは知らなかったという人もいるはずだ。また今年4月にも芸人数名が書類送検されており、いよいよ立件に向けて動き出したところだ。
日本の法律では、公営ギャンブルなどの公認されているギャンブル以外は、違法である。したがってオンラインカジノも、無料で遊んでいるうちはただのゲームに過ぎないが、お金をかけて遊べば違法行為になる。
そもそも合法なギャンブルであっても、20歳未満の者が行なえば、少年法によって違法となる。つまり20歳未満のオンラインカジノでの有料利用は、刑法と少年法で二重に違法になるということである。いわゆるリアルの遊技業へ青少年が赴いて遊んでいれば、大人が注意なり補導なりすることができるが、オンラインではわからない。
10代が「利用予備軍」となるオンラインカジノ
警察庁が今年1月に公開した、「オンラインカジノの実態把握のための調査研究の業務委託」と題された報告書がある。これによれば、オンラインカジノ利用率(現在も利用中)および経験率(一度は利用したことがある)の順位は、20代を先頭に30代、40代と続くが、次に10代が入ってくる。年代の総人口が少ないので、数としては多く見えないが、利用割合だけで見れば40代とほぼ変わらない数値となっている。
またオンラインカジノというものを知っているかという認知度で見ると、10代の認知度は20代と同等であり、30代を上回っている。まさに10代が利用予備軍となりかねない状況である。
オンラインカジノを知ったきっかけとしては、テレビが最多となっているが、この調査は2024年7月から2025年1月の間で行なわれているので、ちょうど著名人のオンラインカジノ利用で世間が騒がしくなる直前ということになる。つまり、報道で知ったわけではないということだ。
また10代の特徴としては、YouTube/TikTokで知ったという割合が、他の年代よりも高い。いずれにしても、動画広告によって知った、ということだろう。
オンラインカジノによる有料プレイ経験の有無に関しては、実際にサイトにアクセスしたことがある人を対象にした調査である。
これによれば、10代でもプレイしている、したことがあるという経験率合計は63.4%となっている。逆にプレイしたことがないという「耐性」で見ると、10代では36.6%となっており、20代、30代と比べれば高い数値となっている。これは自分でクレジットカードなどの決済手段を持っていないということが一定の抑止効果となっていると考えられる。
逆に言えば、子供でも使える決済手段で支払いができれば、プレイしてしまう可能性があるということでもある。
実際に入金方法の調査では、全体ではクレジットカードが大半だが、10代の最多はデビット/バンドル/プリペイドカードとなっており、基本は現金を持っていないと利用できない状況であることがわかる。
決済に関する大きな問題としては、10代では入金のための借金経験が、全年代で最多であることだ。つまり10代の違法ギャンブルに対する支払いを、誰かが肩代わりしているということであり、本人の問題ではなく、家族や友人などを巻き込んでいるということがわかる。
10代でクレジットカード決済している者もいるが、18歳以上で就労していれば、クレジットカードは持てる。しかし本人のものではないという可能性も一定数あるのではないか。かつてオンラインゲーム課金が問題になった際には、保護者のクレジットカードを無断で使用していたという事例が多数報告され、大問題となった。
青少年に訪れる、2年間の隙間
10代の青少年は概ね学生であることから、学校教育においてギャンブルに関する指導・教育は可能だと思われる。これまではネットリテラシーという文脈でネットにおける違法有害情報への対応を指導してきたが、ギャンブルに対しての刑法および少年法の扱いという点での指導は、これまであまり聞いたことがない。
学校側としてはやることが増えるが、家庭内で正しい知識に基づいた刑法および少年法の指導は難しいことから、学校以外にはやれるところがないように思える。
家庭では従来通り、青少年インターネット環境整備法に基づいてフィルタリングの実施を行なうことで、違法ギャンブルサイトへのアクセスは防止できる。フィルタリングでは、学齢にかかわらず、あるいは合法違法を問わず、ギャンブルサイトへのアクセスは原則遮断している。
ただ、インターネット環境整備法によるフィルタリング実施義務は18歳までである。一方で少年法によるギャンブルの禁止は20歳未満となっている。つまり19歳と20歳が、空白地帯となる。
そのまま大学生になるなら、大学での指導も考えられる。その一方で、高卒で働く就労青少年が課題となる。18歳以上で定職に就いていれば、クレジットカードが持てる。決済方法がないことによる抑止が働かなくなるわけである。この層に対する指導をどこで、あるいは誰がやるのか。雇用する企業に指導の義務付けが必要になるのか。そこをあまり強くすると、高卒者の就労を忌避するような傾向にもつながりかねない。
もう一つの問題は、多くのオンラインカジノは、Webサイトだけでなくアプリ化しているということである。無料で遊べる分においては合法なので、アプリそのものに違法性を問うのは難しいが、有料プレイが可能であれば違法なので、アプリの配布を禁止することは可能であるように見える。
だがこの問題をややこしくしているのが、以前も本稿でお伝えした「スマホソフトウェア競争促進法」との関係である。
今年12月19日までには施行される予定のこの法律では、AppleのApp StoreとGoogle Play Store以外の第三者も、アプリストア事業に参入できるようになる。AppleやGoogleに高い手数料を払いたくないゲームメーカーが中心となるだろうが、オンラインカジノも一種のゲームアプリである。親和性は高い。
また同法により、アプリ内決済に関しても第三者に開放されることになっている。AppleやGoogleのような大手なら違法サービスに対する送金を止めるといった強行力は期待できるが、新規参入事業者はどうだろうか。パチンコにおける三店方式のように、カジノアプリで稼いだポイントを全く無関係に見える事業者が換金するといった方法に利用される可能性があるばかりか、そうした三店事業者自身が新規参入してくる可能性もある。
国会、政府および警察を含む各省庁も、オンラインカジノ問題に対しては何らかの対策を取ろうとしている。しかし現在の抜け穴だらけの状況を、法律や施策で完全にカバーするのは、時間もかかるに難しい。やはり教育や啓蒙が一番早く、広いカバレッジを持っていると考えられる。