小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第10回

宮崎に届いたキャッシュレスの波。PayPayと決済の快楽

ついにキャッシュレスの波が到着

以前のコラムで、宮崎の電子決済事情にも少し触れた。暮らし始めた4月ごろは、日常的に買い物する範囲では電子決済できるところなどコンビニしかなかったのだが、7月ぐらいから急速に事情が変わってきた。

これまでオリジナルのEdyを発行していたスーパーが、PayPayに対応したのだ。今回対応した方法は、スマホでバーコードを見せるパターンではなく、レジ前に貼ってあるQRコードを読み取って、こちらで金額を入力し、送金するパターンだ。店員さんと互いに金額を確認し合う必要があるが、レジ側の対応は最低限で済むため、導入しやすいのだろう。Edyはポイントカードと兼用なのだが、PayPay支払いでもポイントがたまるという。

加えて8月には、会社近くのスーパーでも試験的ながらPayPayの決済がスタートした。ここは現金精算機、いわゆるセルフレジが設置されており、何も考えず小銭をぶちまければ自動的に計算機がコインを数えてくれて支払いできる。PayPayが使えるのは、6台あるレジのうち、セルフレジ非対応の2台だけである。ここは現金トレーにお金を出して人が精算するタイプだったため、あまり稼働率が良くなかった。そのカバーとしても、PayPay対応は妥当だったのだろう。

これまで宮崎市内では、コンビニを除けばごく一部の飲食店でしかPayPayに対応していなかったが、それでは1,000円前後の少額決済だ。しかしスーパーで買い物するとなれば、3,000円〜5,000円前後の買い物となる。

PayPayは現在もキャンペーンとして、数10円から数百円のキャッシュバックバックを行なっている。1,000円を上限として、全額キャッシュバックが当たるときもある(9月30日まで)。これまでコンビニでの少額決済では、全額あたったとしても1,000円には至らなかったが、スーパーでの買い物なら1,000円まるまるのキャッシュバックはありうる。実は先日も、全額キャッシュバックされたばかりだ。

4,000円の買い物で1,000円当たるのは大きい

PayPay支払いのメリットは、意外なところでも発揮された。先日元払いで宅急便をコンビニから送ったのだが、PayPayでの支払いが可能で、しかもいくらかのキャッシュバックも受けられることがわかった。

クロネコヤマトは、専用プリペイドカードで支払えば10%割引となるのだが、それ以外の方法でも割引が受けられるのは新鮮だった。プリペイドよりも支払いのハードルが低く、運が良ければ10%以上の割引が受けられる。

課題が残る公共交通機関

最近⾸都圏ではオリンピックに向けてタクシー⾞両の⼊れ替えが進んでおり、タクシー料⾦の⽀払いも数種類の電⼦マネーに対応してきた。ただその中にPayPayがないのは残念である。

一方宮崎は、交通系の電子マネー化はある一定水準から先へ進んでいない印象がある。1カ月ほど前も宮崎駅でタクシーを拾って自宅に戻ったのだが、クレジットカードでの決済にも対応しておらず、現金のみ。宮崎ではかなり大手交通会社のタクシーだったので油断していたが、未だこのような車両もあるので油断ならない。

そもそも地方都市では、公共交通機関を日常的に利用するのはバス通学の私立の小中学生、高校生ぐらいで、大人の利用率は低い。地元交通会社発行の非接触型定期券やプリペイドカードはアプリ化できていないので、皆カードをタッチしている。スマートフォンにSuicaアプリがあれば、それでローカルバスや電車にも問題なく乗れるのだが、宮崎空港への電車を利用する人の大半は未だ切符を購入しており、スマホタッチで乗り降りしている人は一握りだ。

都市圏ではスマホにSuicaアプリがあれば、1日財布を忘れても生きていけるほど使い道が広い。地元交通会社のカードも、チャージしておけばSuicaと同じようにコンビニなどで買い物できるのだが、積極的に利用されている気配はない。わざわざ財布からカードを出すのであれば、クレジットカードでもいいわけで、ポイントがたまるわけでもない交通系カードを利用する意味がない。

現在筆者は、生活圏の大部分がPayPay対応になったので、ほとんど決済はPayPay一択だが、その理由は決済のたびに「いくらあたった」のかという、くじ引き的な楽しみがあるからだ。

何%返ってくるのかという割引額の問題ではなく、決済にある種のルーレット的な射倖性が加わったからだろう。もしPayPayのキャッシュバックが終了したら、そこから先も利用を続けるかどうかは、微妙なところである。

小さい射倖性の積み重ねでサービスに対する忠誠度が上がっていく

そうした視点で考えてみれば、会社近くのスーパーにある現金精算機も、かさばる小銭をいちいち数えることなくいっぺんに処分できるという、「片付けの快楽」があった。各店舗ごとに割引スタンプやポイントカードが乱立して、電子決済してもお財布はパンパンという現状は、決してスマートではない。

こうした決済に付随する娯楽や快楽の演出をどのように演出するのか。条件を複雑化することなくシンプルにそれがやれる2〜3社が、地方でも生き残れることになりそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。