石野純也のモバイル通信SE

第78回

薄型化競争の号砲 「Galaxy Z Fold7」と薄さの代償

サムスン電子は、米ニューヨークで製品お披露目イベントのGalaxy Unpakedを開催。Galaxy Z Fold7/Flip7などを発表した

サムスン電子は、7月9日(現地時間)に米ニューヨークでフォルダブルスマホの最新モデルとなる「Galaxy Z Fold7」「Galaxy Z Flip7」を発表した。

これら2機種は、日本でオープンマーケットモデルとしてサムスン電子から発売されるほか、ドコモ、KDDI、ソフトバンクも取り扱う。ソフトバンクがGalaxy Zシリーズを手がけるのは、これが初となる。

新機種を発表した社長兼DX部門長代理・MX事業部長のTMロー氏

もはや折りたたみ感がない? 薄さにこだわる「Galaxy Z Fold7」

これまでのGalaxy Zシリーズは、どちらかと言えば、“折りたためること”やそれによる体験を重視しており、端末の厚さやカメラは二の次になっていた。例えば、24年モデルの場合、最上位モデルの「Galaxy S24 Ultra」はメインカメラが2億画素だったのに対し、フォルダブルスマホの「Galaxy Z Fold6」は5,000万画素にとどまっていた。

カメラの画質を左右するのは画素数だけではないものの、センサーサイズやピクセルピッチといった基礎的な仕様では、UltraのつくGalaxy Sシリーズの後塵を拝していたのも事実だ。また、構造上、仕方がない部分はあるが、閉じたときに2枚のディスプレイが重なるため、どうしても厚みが増していた。

これを大きくアップデートし、「Ultra体験」をうたうのがGalaxy Z Fold7、Flip7だ。中でも、Galaxy Z Fold7は、進化の幅が大きい。

特筆すべきは、その厚みだ。Galaxy Z Fold6が閉じたときに12.1mmなのに対し、Galaxy Z Fold7は一気に薄型化を進めて8.9mmまで数値を落としてきた。もちろん、これまでもGalaxy Z Foldは徐々に薄くはなっていたが、3.2mmもの削減は異例と言っていいだろう。サムスン電子によると、初代「Galaxy Fold」からおよそ半分の厚みになったという。

Galaxy Z Fold7(右)とGalaxy Z Flip7(左)
上がGalaxy Z Fold7、下がFold6。1世代しか違いがないが、薄型化が一気に進んでいることが分かる

合わせて、重さもGalaxy Z Fold6から24gもの軽量化を果たしており、215gになった。この数値、実は2月に発売された「Galaxy S25 Ultra」に近い。同機は厚さが8.2mmで重さが218g。さすがに、閉じたときのGalaxy Z Fold7の方がやや厚いものの。ほぼ変わらないレベルにまで持ってこれたと言ってもいい。サムスン電子が「Ultra体験」をうたう理由の1つだ。

折りたたんでも、厚さはGalaxy S25 Ultraとほとんど変わらない

もう1つはカメラ機能で、Galaxy Z Fold7のメインカメラには、Galaxy S25 Ultraと同じ2億画素のセンサーを搭載。画素数が4倍に上がったことで、より精細な写真を撮れるようになったのはもちろん、12メガモードで撮った際に、16の画素を1つにまとめて光を多く取り込むことが可能。写真のクオリティが大きく上がっている。

フォルダブルスマホであることを言い訳にせず、Galaxy S Ultra並みの厚みやカメラに仕上げてきたと言えるだろう。実機に触れてみると、確かに薄くて軽く、このサイズ感ならポケットに入れて持ち運んでも、通常のスマホとは区別がつかない。携帯性という意味では、歴代トップの出来栄えと言っていい。

メインカメラの画素数が2億画素になり、より光を取り込めるようになった

対するGalaxy Z Flip7は、Galaxy Z Fold7ほど、大胆な薄型化は実現してないものの、ヒンジの機構は共通化しており、こちらも先代の14.9mmから13.7mmへとサイズダウンしている。また、外側ディスプレイがカメラの周辺部分まで広がり、閉じたときの視認性がより高まっている。Foldほど大胆な設計変更はされていないが、こちらも順当に進化していると言えるだろう。

Galaxy Z Flipは、外側ディスプレイがさらに広がった

薄さの代償 フォルダブル競争本格化へ

一方で、Galaxy Z Fold7は薄型化の“代償”がないわけではない。1つが、「Galaxy Z Fold3 5G」で対応したSペンが省略されてしまったことだ。もう1つは、開いたときのメインディスプレイに搭載されていたアンダーディスプレイカメラが、通常のカメラに代わってしまったことが挙げられる。

もともとSペンは、Galaxy Noteシリーズで大画面を生かす機能として搭載されており、同シリーズ廃止後は、Ultraの名を持つGalaxy Sシリーズにその機能が受け継がれている。本体に内蔵こそされなかったが、Galaxy Z Foldシリーズも、これに対応。「ペンが使えるフォルダブルスマホ」として、他社との差別化にもなっていた。

Sペン対応は、Galaxy Z Foldシリーズの売りの1つになっていた

ただし、Sペンはディスプレイ側にデジタイザーを内蔵することで精度を高めつつ、筆圧検知にも対応していた。メリットは、ペン側をシンプルにできること。Apple Pencilなどのように筆記のためのBluetooth接続を必要とせず、充電不要で使うことができる。その反面、ディスプレイ側にデジタイザーを内蔵する必要があり、薄型化の支障になっていた。

サムスン電子によると、Sペンの利用率はそこまで高くなかったとのこと。厚みとのトレードオフを踏まえたうえで、Galaxy Z Fold7ではペン入力ではなく、薄さを選んだと言えるだろう。

アンダーディスプレイカメラは、開いたときにカメラが見えないため、雑誌や動画などのコンテンツを全画面表示した際に没入感が高まる仕掛けだ。厳密には、網点のような模様は見えていたが、表示するコンテンツによってはほぼ見えなくなる。これも、Galaxy Z Fold7では、画面内にカメラ穴が開く形になってしまった。

Galaxy Z Fold6までは、アンダーディスプレイカメラで開いたときのインカメラが目立ちにくかった

代わりに画素数が上がり、画像の精細感は高まっているが、Galaxy Z Foldシリーズは閉じたときにもインカメラがある。さらに同シリーズの特徴として、自撮りでは開いた状態で外側のディスプレイを見ながらメインカメラを使える。顔認証や開いたときのビデオ会議アプリなどで利用するケースはあるものの、画質向上よりもカメラが見えないことの方が価値があるようにも感じた。

Galaxy Z Fold7は、パンチホール型に。カメラが露出したことで、解像感は上がっている

Ultraな体験を訴求しつつ、Sペンやアンダーディスプレイカメラを切り捨てざるをえなかった背景には、中国メーカーやグーグルとの苛烈な薄型化競争がありそうだ。日本では発売されていないが、ファーウェイからスピンアウトしたHONOR(オナー)や、OPPO、Vivoなどのメーカーは、フォルダブルの薄さを競っている。

7月1日までの世界最薄は、OPPOの「OPPO Find N5」。閉じた状態でも、厚みは8.93mmしかなく、通常のスマホと比べてもそん色ないことがアピールされていた。6月にはOPPOの姉妹メーカーともいえるvivoからも、閉じたときの厚さが9.33mmの「Vivo X Fold 5」が発表されたばかり。さらに、それを下回る8.8mmの「HONOR Magic V5」が7月2日に発表された。

HONORのHONOR Magic V5は、8.8mmの超薄型フォルダブルスマホ。中国メーカーの間で、薄型化競争が進んでいる

日進月歩以上の速度で薄型化競争が進んでいると言えるだろう。Galaxy Z Fold7は薄型化で後れを取っていたサムスンが、一気に巻き返しを図るための端末だったというわけだ。

また、これらの競合他社は、フォルダブルスマホにも最上位モデルに近いカメラ性能を搭載している。Galaxy Z Fold7に、Galaxy S25 Ultra並みのカメラを採用したのも、他社対抗を強く意識していることがうかがえる。

一気に薄型化を進め、厚い/重いという理由でフォルダブルスマホを買い控えていた層にアピールするサムスン電子だが、省略された機能がどう影響するかが未知数だ。特にSペンは、これまでGalaxy Z Foldシリーズの売りになっていただけに、既存のユーザーが離れてしまうリスクもある。市場規模を広げるため、サムスン電子は大きな賭けに出たと言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya