ミニレビュー

ズボラな人ご用達? レンジや湯煎いらずでレトルトパックを温める「レトルト亭」

「レトルト亭(ARM-110)」

レトルトカレーなどのレトルト食品を手軽に温められる「レトルト亭」がアピックスインターナショナルから登場しました。弁当箱をひとまわり大きくした程度のコンパクトなボディながら、低温ヒーターを用いて、レトルトパックを手軽に温められる製品です。

クラウドファンディングで3千台以上を先行販売したこの製品、まったく新基軸の製品ながら発売以来大人気で長らく品切れ状態が続いていましたが、ここにきて販売店でも在庫ができてきたようです。実売価格は7,680円。筆者もようやく入手できましたので、その使い勝手をお届けします。

つまみを回すだけでレトルトパックをあたためられる

本体はトースターのような形状をしており、上に投入口が開いています。ここにカレーなどのレトルトパックを入れ、本体手前にあるロータリー式の調理つまみで時間を指定することで、低温ヒーターにより温められるという仕組みです。

製品本体。正面に時間指定を行うタイマーのつまみ、上に投入口があります
幅は約80mm。500mlのペットボトル(左)よりもわずかに広い程度の幅
両側面ともにロゴ以外は何もなくスッキリとしたデザイン
投入口は開け閉めするわけではなく、常時空いたままの構造
ダイヤルはロータリー式。回すにはかなり力が必要で、イマドキの家電製品に慣れていると違和感があります
コンセントに差し込んで使います。消費電力は200Wとかなり控えめ

機能自体は非常にシンプルで、温める以外の機能はありません。ユーザ側で調節できるのは「小盛」「普通」「大盛」という量の指定だけです。ちなみに「小盛」「普通」「大盛」はそれぞれ130~179g(6分半)、180~259g(8分)、260~300g(10分)とされています。これらは正面の調理つまみを回して選択します。

実は使ってみるまで、両側のプレートでレトルトパックを挟んで熱を伝える構造かと思っていたのですが、実際には低温ヒーターを用いていることから、投入口の中で左右どちらかに立て掛けるというのが正確な使い方になります。冬場に足を暖めるための家庭用のパネルヒーターに立て掛けて温めると考えれば、理解しやすいかもしれません。

ちなみに投入口にはシリコンカバーで覆われたレバーがついており、説明書にも「レバーで開閉」と書かれているのですが、それを誤記として修正するシートが封入されていたりと、途中で何らかの設計変更があった節が見られます。レバー自体、動かせる幅は数mm程度で、実質的にガイドの役割しか果たさず、投入口は常時空いたままです。

投入口は常時空いたまま。ホコリが溜まらないよう注意したほうがよさそうです
レバーはシリコン製のキャップで覆われていますが、ほとんど可動せず、投入時のガイドの役割しか果たしません

さまざまなレトルトパックに対応(例外あり)

どのようなレトルトパックに対応するのでしょうか? 最近は電子レンジでの加熱に対応した、アルミを含まないレトルトパックも増えていますが、すべてのレトルト食品が電子レンジで温められるわけではありません。低温ヒーターを用いた本製品ならば、そうした電子レンジ非対応のレトルトパックでも、問題なく温められます。

ただし「ぜんざい」「おしるこ」のレトルトパウチやご飯のパック、さらには冷凍パックのように、メーカーの検証によって適さないとされているパックもあります。本製品は新機軸の製品ということもあり、レトルトパック自体が本製品の利用を前提に作られているわけではないので、例外があるのはやむを得ないでしょう。メーカーに協力してフィードバックしながら使う寛容さがユーザの側にも求められます。

サイズについては、高さが150~170mm、幅が148mmまで。また厚みは20mmまでで、中身が流動的なものは28mmまでとされています。おおむね「普通サイズのレトルトパック」ということになりますが、後述する背が低いタイプは利用に難があったり、また2~3人前で量が多いレトルトパックには投入口に収まらない可能性があります。

まずはレトルトパックを投入します
すっぽりとレトルトパックが納まった状態。これでセット完了
調理つまみを回して加熱開始。加熱中は上のパイロットランプが点灯します

実際に試してみて気をつけなければいけないと思ったのが、電子レンジ対応のレトルトパックで、温める時の向きを指定してあるタイプです。電子レンジに対応したレトルトパックの多くは、表裏どちらかを上にして温めるように指示されていますが、本製品は構造上、それを無視して縦向きにセットせざるを得ません(取説には「蒸気口を上に」という指示があります)。

今回実験した限りでは破裂したり中身が吹き出したりといった問題は起こりませんでしたが、食品メーカーが指定するのとは違う温め方であることに変わりはなく、パックによっては問題が起こる可能性があります。これまで試したことがないタイプのレトルトパックを温める時は、念のために目を離さないほうがよさそうです。

また内容量が少なすぎて、自立しないレトルトパックも要注意です。なぜなら中でペタンと倒れてしまい、取り出す時に奥まで指を突っ込んで火傷をする危険性があるからです。高さがないレトルトパックも、同じ問題をはらんでいます。取り出す時は指ではなく箸でつまむなど、安全性には注意すべきでしょう。

具材のあるシチューなどの加熱にも対応しますが…
背が低いレトルトパックだと指先で取り出せずに難儀することも
おかゆ、雑炊などにも対応します
おかず類は、厚みが均等、かつ具材に偏りがなければ問題なく使えるようです
冷凍されたレトルトパックは一度の加熱だけでは完全解凍できず、ムラも発生しがちなため、利用は難しそうです。冷凍チャーハンなどは外装フィルムが縮む場合も

とはいえ、電子レンジに対応しない一般的なレトルトパックはもちろん、お粥のようなレトルト食品や、一品モノのおかずに至るまで、幅広く対応するのは魅力です。

なにより湯煎のように、事前にお湯を沸かし、そのあと片付ける必要もありません。またタイマーが自動的に切れてくれるのも便利なポイントです。

過剰な発熱もなし。湯煎に比べて安全性は高い

数分~10分近く加熱するということで、本体の安全性、特に発熱まわりは気になるところ。そこでサーモカメラを使って本体の温度を測定してみました。

目盛りを「普通」に設定した場合、加熱時間は5分強ですが、内側のプレートは70℃前後まで上昇し、レトルトパックもおおむね同程度まで熱せられます。ちなみにレトルトパックをお湯で温める、いわゆる「湯煎」は、70~80℃を想定されているので、妥当な温度ということになります。

本体の外側は温度上昇もほとんど見られず安全ですが、この内側のプレートはレトルトパックの出し入れ時に触れかねないため、前述のように内容量が少なく、挿入口の奥深くに沈みこんでしまうレトルトパックは、プレートに触れないように注意が必要です。

加熱を始めて数分後のサーモグラフ(右)。ABS樹脂のボディはほとんど熱くなっていません
加熱完了。レトルトパックは70℃まで熱くなっています。これは湯煎をする場合のお湯の温度とほぼ同じです
内側はレトルトパックと同じくらいの温度になっています。ここには触れないよう注意したほうがよさそうです

加熱しすぎた場合はどうでしょうか。試しに容量を無視して目盛りを最大にして温めてみましたが、そもそもが低音で熱する仕組みということもあり、過剰に加熱されることもありませんでした。本製品は急激な温度上昇に備えたヒューズも搭載していますが、そうでなくとも十分に安全だと考えられます。

もちろん熱を持った内側を指で触れるのはNGですが、危険度の高さで言えば湯煎をしているお湯のほうが明らかに上でしょう。調理しながら放置していても吹きこぼれのような危険がないのは、湯煎と比べた場合の利点の一つと言えそうです。

唯一、実際に使っていて気になるのは、温めが完了した時に鳴る「チーン」という甲高い音です。これはタイマーが電子式ではなく、昔ながらのジージーと音を立てながらカウントダウンしていくタイプであるためで、壁が薄い部屋で夜間などに使うのは少々厳しいという印象を受けました。一人暮らしに向いた製品であることを考えると、次世代のモデルでは改善してほしいところです。

使い方のコツを継続的に広めていけるか

以上のように、まったく新機軸の製品ということで、ちょくちょく目につく点はあるのですが、実際に試してみるとメリットは大です。消費電力は200Wと低く、ポータブル電源でも利用できてしまうため、災害時に重宝する可能性もあります。

消費電力は200Wと低め。これならばポータブル電源でも駆動可能です
本製品が身近にあると、明らかにレトルトパックの消費量が増えるのが、違った意味で困りものです

レトルト亭が一発屋で終わるか、それとも確固としたジャンルを確立できるかは、ひとえにどれだけのノウハウが蓄積できるかにかかっていると思います。時代に合ったオリジナル家電として広く受け入れられる可能性もあれば、メーカーが、使い方のコツを継続的に収集し、広めていくのに消極的であれば、短命に終わりかねない気もします。

そんな本製品は本人が使うだけでなく、プレゼントに適した製品であることも見逃せません。実売価格は1万円を切るなど手軽で、かつ操作方法がシンプルなため、機械モノに弱い人にも向いています。今後供給が潤沢になってくれば、そうした意味での注目度も増すのではないでしょうか。一ジャンルを確立できるかも含めて、今後に注目したいところです。

山口真弘